トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~ 作:がじゃまる
1話 運命と邂逅
『ぅ……』
閉ざされていた視界に光が差す。久方ぶりに眼が映す景色はほの暗い星々の灯りだったが、それでも長らく暗闇の中にあった自分にはこの上ない輝きだった。
一体幾年の月日が流れたのか。この身体では最早確かめる術もない。ただただ実像を失い、光の粒子となった身体を宇宙空間に漂わせる。どうやら思念体を動かせる程度のエネルギーは回復しているらしい。
だがそれもおかしな話だ。体感的にではあるがそれなりの年月が流れているのにも関わらず、飛び抜けた回復力を有する種族である自分の状態がたったこれだけしか癒えていないとは到底信じ難い。
原因があるとするならあの瞬間……一撃でこの肉体を消滅させた黒雷が何らかの作用を及ぼしていると考えるべきか。
ともかくこのままでは埒が明かない。早急に何か肉体を回復する術を探さねば……、
『あれは……』
全方位を囲む代り映えのしない光景の中、ただ一つの星に強く意識を引かれる。
一目でわかった。緑が茂り、蒼を湛えた惑星。それは自分達の一族にとって特別な意味を持つ星だ。
『……』
気付けばその星へ向かわんとしていた。
第二の故郷。そこへ降り立った同胞達は皆そう口にする。けれど今はそんなことに興味はなかった。
同胞達は同時に、その場所での戦いを経て名を上げている。父は勿論、兄弟子だってそうだった。そして次元は違えど、あの星もまた˝地球˝であることに変わりはない。
だったら自分だって、きっと……、
『俺は俺なんだ……それを証明してやる』
燻る想いを糧とするように速度が上がる。
闇に霧散した呟きの中には、焦燥に似た渇望が含まれていた。
「二人共、どこから周ってく?」
「侑ちゃん、気を付けないと転んじゃうよ」
終業式から数日後。開放感からか高揚気味の侑の背中を、母親のような小言を口にする歩夢が追う。
普段から当たり前のように足を運んでいる商業施設だというのに、窮屈な時間からの解放感はこんな場所すらもテーマパークのように感じさせるらしい。
「結構近くに出たって話だったから不安だったけど、何事もなかったみたいでよかったね」
「いや何事はあったんだろうが……まあ、ここは特に被害もなかったみたいだな。˝E.G.I.S.˝様様だ」
「今回もすぐに事態を収めちゃったって、ニュースでやってたよね」
自らも侑を追いつつ歩夢と交わすのは昨今となっては当たり障りのない普通の会話。
周囲を行き交う人々からも同様の会話が聞き伺えた。これも今となっては慣れたものだ。
「…てか、やっぱ二人で来ればよかったろ」
「え~、三人の方が楽しいじゃん」
「うん。お前が周りを見ていないのはよくわかった」
ただ一つ慣れぬものがあるとするのなら、この居心地の悪さだろうか。
野郎一人に対し、女子二人。しかも見て回るのは女性物のアパレルやアクセサリーの店が多いため男子である雄牙には少々肩身が狭い。
この後も店員に警戒の眼差しを向けられると思うと気乗りしないのは確かだった。
「あ、悪い。ちょっとそこの本屋寄ってもいいか?」
少しでもそんな気分を紛らわそうと視線を泳がせていると、その端に入り込んだ店の一角に意識が映る。
「ああ、いつものやつ? 新刊出てたんだね」
「終業式の日に買いに来るつもりだったけど、ご察しの通りだったからな。思い出せてよかった」
手に取ったのは、一介の男子高校生が購入するには少々物々しくも思える表紙の飾られた雑誌。
表題は巨大生物読本。この安っぽい名前の雑誌、一応は新刊のコーナーに置かれてはいるものの、他の雑誌と比べると明らかに部数が少ないことからあまり人気がないのは見て伺える。
(……期待はしてねぇけど)
ただそれでも雄牙にとっては毎月これを読むのがある種のルーティンでもある。
無事レジを通り二人の元に戻ると、内の片割れが苦々しい顔で購入したばかりの雑誌を睨みつけていた。
「私もそれ読めば成績上がるのかな……」
「はぁ……?」
突飛な侑のぼやきに首を傾げる。
その意図を導こうと持ち得る情報を探った脳が弾き出した答えは、直前まで行われていた学生時代の恒例イベントだった。
「……そんなに悪かったのか期末テスト」
「中間と比べたらそこそこ点数落としちゃったんだよね。結構勉強したつもりだったんだけどな~」
「今回は全体的に難しめだったよね。私もちょっと点数落ちちゃったよ」
「もうそろそろ受験勉強も始まるからな。気合い入れとけってことだろ」
「そっかぁ……受験かぁ……」
雄牙の口にした単語に、侑の瞳が少しだけ揺れるのがわかった。
そうして少し考えるような素振りを見せた後に、一言。
「…二人はさ、夢とかあるの?」
「……どうした急に」
「いやほら、二人共、私なんかより全然成績いいじゃん? そんなに勉強頑張れるのって、何か目指してる夢があるからなのかなぁって」
不意な問いに歩夢と顔を見合わせる。恐らく鏡映しに自分も似たような表情をしていることだろう。
なんの意図があっかは知らないが、取敢えずは無難に答えておく。
「……ねぇよ、そんなモン。考えたこともない」
「……私も。でもそろそろ考えないといけないんだよね」
「だよねぇ……」
何気なく始まったテスト談義だったが、時期的なこともあり話題は暗い方向へと進む。
流石にこれはよくないと感じ取ったのか、数拍の沈黙の後に侑は仕切り直す形で口にした。
「ここで悩んでても仕方ないよね。とりあえず今日は思いっきり遊ぼう」
「……そうだね!」
そう言って早速何かを見つけたのか、歩夢の手を取って侑が駆け出してゆく。
案の定確認できたアパレルショップの看板に若干顔を顰めつつ、一先ずはその背中に続くのだった。
「あのシャツどうしようかなぁ~」
「まだ悩んでる……なら明日も見に来る?」
「いいの? ありがとう歩夢。雄牙はどうする?」
「俺は……いいや」
女子二人に振り回されるだけの時間も過ぎさり、早くも紅は空を染めていた。
明日は何を見ようかと会話に花を咲かせる彼女達の後部座席に腰を下ろし、揺れるバスの中から東京の街並みを眺める。小綺麗に舗装された道路の傍らには、確かな
「いつまで続くんだろうな、こんな調子」
侑達とはまた別の話声が耳に触れ、自然とそちらに意識が移る。
見ればサラリーマンか何かだろうか。スーツを着込んだ仕事帰りだと思われる男性二人が険しい顔を向け合っているのが伺えた。
「どうしたよ急に」
「……この前総務部に可愛い子がいるって話したろ? 実はこの前やっと一緒に飯でもって誘えたんだけど……よりによって当日にあんなモンが出たせいで流れちまって……」
「うわ……キツイなそれ」
「だろ? ……こんなんじゃおちおち遊びにもいけねぇよ。ただでさえ仕事でストレス溜まってるのによ」
表情通りその話題も明るいものではなかった。けれど決して珍しい光景ではない。
自分達の世代ではこれが当たり前として定着しているが、それ以前の時代を知る人々にはやはり窮屈なものなのだと改めて実感する。
これも10年前……ある巨人の飛来を境に変わってしまった日常が齎した影響だ。
「俺達がどうこうできる問題じゃないし、ここで愚痴っても仕方ないんだけどな……それでもやっぱキツイもんはキツイわ」
「……甘ったれんな」
最もそんな不満は些末なものでしかない。生まれた反感を発散するように、決して聞き取られないような声でそう呟いた。
そんなことで音を上げられるのは幸福なことだということを彼等は知らない。そして知る必要もない。だから己の感情の内にだけ留めておく。
「……げ」
その後も笑談や愚痴が進むバスの車内を彩るが、一人の乗客が鳴らした携帯電話の音がそれを打ち壊す。
一瞬充満した非難の空気は即座に警戒、そして辟易へと代わる。それを裏付けるように、次々と他の乗客の携帯も同様の˝警告音˝を鳴らす。
「……降りるぞ」
運転手のアナウンスと共に停車したバスから二人を連れて手早く降りる。災害時に最も安全である移動手段が徒歩であるのは現時点においても共通だった。
「また~? この前出てきたばっかりじゃん」
「こっちの都合が通じる訳ないだろ……歩夢、今回はどの辺だ?」
「あ、うん。えっと……」
ただし、今回ばかりはそれが正しいと言い切れる状況にはないようで。
「……雄牙くん、これって……」
通知画面を開いたまま移動する歩夢に詳細を問うと、彼女は返答の代わりに自身の形態を手渡してくる。
こんな時にシステムエラーか何かが起こったのか。そんな疑心は直ぐに打ち砕かれることとなる。
「……真下?」
自分達の位置情報と重なる、
つまりそれは、今自分達のいる場所こそが最も危険であるということであり―――、
「ッ……!」
耳朶に触れたのはコンクリートに覆われた道路に亀裂が走る音。
直後に大地はせり上がり、˝咆哮˝が周囲を満たした。
『ッッッ――――――!!』
舞い上がる粉塵、降り注ぐ石片の奥で揺らめく巨大な影。
それがこの世界において˝怪獣˝と呼ばれる災害の権化であることは、見る者全てが理解することだった。
―――――
バスから降りたばかりの乗客が悲鳴を上げたことで捕捉されたか、ゴメスがこちらへと歩を進めてくる。
馬鹿が、と心中で悪態をついた。怪獣は声に反応する。下手に騒げば好奇心や警戒心で寄ってくるというのに。
「こっちだ」
ゴメスを刺激しない程度の声量で二人を呼びかけ、人波から外れた脇道へと移動する。
本通りである車道では先程の乗客含め、居合わせた人々が川のような流れを作って逃げ惑っていた。あれならばゴメスもあちら側に向かうだろう。
囮にするようで申し訳なくはあるが、隣にいる彼女達の安全には代えられない。身勝手ではあるが何事もないことを祈りつつ、ゴメスから距離を取るために走った。
「ぅ……!」
それから少し経った頃だろうか。
既に住民が避難を終え閑散としたマンション前の道で俯せになった男性を見つけたのは。
「大丈夫ですか?」
先んじて歩夢が傍へと駆け寄り、遅れて侑と共にその人の身体を起き上げる。見ればそれなりに年を食っている老人であり、恐らく避難の最中に身体のどこかを痛めてしまったものと思われた。
「仕方ないか……。俺が連れていくから、侑達は先に行け」
「でも……!」
「いいから行け。暫くは俺一人でも大丈夫だから、先に行って消防団か、いればE.G.I.S.の人呼んで来てくれ」
「う、うん……」
「待ってて雄牙、すぐ呼んでくるから!」
災害時に素人が怪我人を連れて移動するのはリスクがある。取り敢えずは適当な方便で二人をこの場から離れさせ、自らも老人の肩を担ぎ避難を再開した。
「ありがとねぇ……」
「いいですよ。ウチにも近い年齢の爺さんいるんで、見過ごせなかっただけです」
「そうかい………いいお孫さんだ」
「……どうですかね」
満足には動けないようだが、問題なく会話はできる程度の痛みではあるらしい。それを確認しつつ地図に表示された避難場所を目指した。
さほど遠くはない。何事も無ければ辿り着けるだろうが……徐々に耳に届く声量が大きくなってゆく悲鳴が不吉な予感を連想させた。
「オイオイ……」
そして悪い予感とは最悪なタイミングで当たるというのが常であり。
避難所へと続く一本道である大通りに出た瞬間、視界に映ったのはゴメスを引き攣れて逃げ惑う人々の姿だった。
無我夢中で逃げるうちに進路がこちらに切り替わってしまったのか。わざわざあの地点の最寄りから少し遠い避難所を目指したというのに全てパーだ。
「ちょっと速度上げますよ。痛いかもですけど我慢してください」
追い付かれぬよう踏み出す足に力を籠めるが老人とは言え人間だ。人一人を支えて速く走れるほど雄牙の身体は強くない。
必然的に人々との距離は縮まり、追い付かれ、やがて追い抜かれる。気付いた頃には殿となり、ゴメスの視線は自分達に向けられていた。
『ッッ――――――!』
「あっ……ぐッ……!」
人間よりも数段太い腕が横薙ぎに振るわれ、雄牙の頭上にあった建物の一部を崩落させる。
降り注ぐ瓦礫は辛うじて回避するが、転倒した拍子に手を離してしまったのか、顔を上げると数メートル離れた地点に老人の姿が確認できた。
『ッッッ――――――!!』
咄嗟に起き上がり手を伸ばそうとするがゴメスがそれを許さない。第二撃は一部のみならず、建物そのものを倒壊させる。
気付いた時には既に遅し。次の瞬間に見上げた視線を埋め尽くしたのは巨大な破片だった。
「やべッ―――」
まず間に合わない。数秒後に訪れることが確約された死を直前に、ぐるぐると様々な景色が頭の中を駆け巡った。これが走馬灯と言うやつらしい。
最期に映ったのは、離ればなれになった
『―――なにボサッとしてんだ!』
まだ死ぬな。頭に響いた声に重なり、誰かに背中を押されたように。
雄牙の意志に反して動き出した身体は信じられない速度で倒れ伏した老人を担ぎ上げ、そのままひとっ飛びで十数メートル先の地点にまで移動して見せた。
「は……?」
老人を横たわらせた後、身体に自由が戻る。転倒の衝撃で気絶こそしているが目立った外傷は見られない……などと安堵している場合ではなかった。
地面へ衝突した瓦礫が粉々に砕けていく音を背後に感じながら、未だ自らの身体に残る違和感の正体を探る。
まるで何者かに操作されたかのように動いた肉体が発揮したのは、明らかに人間の身体能力を超えた移動速度と跳躍力。
これはまるで、10年前この星に飛来した˝巨人˝のような―――、
『いやー、間一髪だったな!』
思考に介入してくる声の出所を探り周辺を見回すが、雄牙以外の人間は意識のない老人しか見当たらない。
『ん、あれ? 聞こえてるか俺の声』
「頭の中……?」
『お、察しがいいな。そうだ。今俺はお前の中にいる』
推察の一つとして零した声に、その存在は言葉を返してくる。会話が成立した事実に驚愕としつつ、出来る限りの平静を保って問い返した。
「中にいるって……何なんだよお前……!」
『いい質問だ……聞いて驚けよ地球人』
この時の雄牙はまだ知らない。
『俺はタイガ―――――ウルトラマンタイガだ』
怪獣にウルトラマン、そしてE.G.I.S.なる気になる単語を交えつつ、雄牙の抱えているものをチラ見せしての1話となりました
出現したゴメスに雄牙と接触したタイガも交え、次回は激闘の予感が……?