トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~ 作:がじゃまる
『ッッッ――――――!』
巨大な影が街を進撃する。
頭部に幾本かの角が生えた亀。特徴を端的に言い表すならばそれが相応しい怪獣は咆哮を吐き散らしながら周辺の建物をなぎ倒してゆく。
―――――
「雄牙達は?」
「もう避難させました。危険区域内の退避誘導も殆ど完了してます」
「オッケー……海斗、聞いての通りこっちは問題ないわ」
『了解。攻撃を開始する』
無線を介して交わされた声の後、炸裂音と共に待機していたホークイージスから砲弾が射出される。
人間社会への侵攻を開始した巨獣への反撃。尊厳と安全を掛けた戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
「……あれ、パゴスですよね」
「ええ……ちょっと面倒くさそうね。海斗、ネオニュートロンミサイルは積んで来てる?」
『一応な。地底怪獣に有用な武器は一式積んで来てるが……広く浅い。ネオニュートロンミサイルに関しては一発限りだぞ』
「文字通り一発勝負って訳ね……」
事前待機が幸いし迅速な対応が取れたのは幸いだったが、その分一点への対策は薄いか。
だがそれを言い訳には出来ない。一発しかないのなら、その一発に全てを注ぐだけだ。
『知っているとは思うがパゴスは体内に放射性物質を保有している。下手に攻撃をしてそれらを散布されれば甚大な被害が出る。攻撃のタイミングは慎重に見極めてくれ。涼香と遥也は地上で援護!』
「「『了解!」」』
長の号令を皮切りに作戦が展開される。内容は至ってシンプル。牽制攻撃で隙を作り、対パゴス用装備であるネオニュートロンミサイルをぶち込むだけだ。
だが裏を返せばそれしか対抗策がない。放射性物質を捕食し体内に溜め込むパゴスの性質上、迂闊に撃破すれば周辺が汚染されることとなる。それだけは絶対に避けなければいけないから。
「やるよ、遥也」
「オォス!」
携帯の小型銃を構え射撃。本来対怪獣用には設計のされていない代物だが、パゴスの気に障る程度の威力さえあれば十分だ。
自分達が牽制、そして注意を引く間に、本命のホークイージスが放つ。
『ッッッ――――――!』
「よしっ……!」
爆発音に続いてパゴスの悲鳴が上がる。
頭部を直撃した光粒子弾の与えた衝撃は濛々と上がる煙が物語っていた。
「畳みかけるわよ!」
地上からも絶え間なく攻撃を続け、その瞬間を待った。
パゴスタートルという別名の通り、奴の背面は亀の甲羅のような硬い表皮で覆われている。四足歩行という生態も相まり、通常兵器で致命傷を与えるのは基本的には不可能だ。
ただ1つ、例外を除いて。
「海斗先輩今です!」
『了解!』
パゴスは興奮すると二足歩行で立ち上がる性質がある。
恐らくは自分の身体を大きく見せ威嚇するという本能からの行動だろうが、こちらとしては有難い限りだ。何故ならパゴス唯一の弱点である腹部は、立ち上がることで露出するのだから。
『ネオニュートロンミサイル……発射!』
今回も過去の事例に漏れず、後脚で立ち上がったパゴスは己が腹部を曝け出す。
そしてその弱点へ向けてトドメの一発が放たれんとした―――その時だった。
『ッッッ――――――!』
「えっ……!?」
突如として大地が隆起し、直後に吹き上がった土煙の中から飛び出した巨体にパゴスが吹っ飛ばされる。
「別の怪獣…?」
勝ち誇るように咆哮を轟かせた新たな個体に事態は急変する。
それだけでも十分なトラブルだというのに現実は更なる試練を寄越してくる。また別な方角で上がった唸り声に視線を流せば、こちらもまた地表に空いた大穴から這い出る巨獣の姿があった。
「3体目まで……!?」
「…マズイわね。このままパゴスと戦闘になったら……」
状況が好転することの無いまま危機感だけが膨らんでゆく。
サイレンの鳴り響く街の中、それを掻き消すように重なった3体の怒号が轟いた。
後方で上がる騒音から少しでも離れるべくひたすらに走る。
璃奈に付き添う形で参加したスクールアイドル同好会の練習。その最中に出現した怪獣から避難している形になるが、ペースも何もあったものではない長距離走に疲れが見え始めた頃。
「っ…、っ……」
「璃奈ちゃん、大丈夫?」
特に顕著なのは璃奈だった。元々インドア派である彼女がこの距離をこれだけのペースで走ればこうなるのも当然か。
だがまだ安全な場所まで来れたとは言えない。現時点でも危険が存在している状況だというのに。
『ッッッ――――――!』
怪獣は人間の都合などお構いなしだ。続けて2体目、3体目と出現する巨大な影は小さな命に降りかかる危機を更に増大させる。
「テレスドンに…、アーストロンまで……!?」
「オイオイオイ……どうなってんだ一体……!」
同好会の面々含め、逃げ惑う人々に更なる混乱が湧き上がる中で比較的落ち着いた様子を見せる者が2人。
瀬良雄牙に南雲昂貴。女子だらけのこの部活における数少ない男子生徒だ。
「え……?」
不可解な出来事を目にしたのはその直後だった。
より大勢の群衆が同好会メンバーを飲み込んだ時、何かを決したように互いに頷きあった2人はあろうことか集団の方向とは真逆、怪獣達が暴れ狂う地点へ駆け出してゆく。
「皆さん! 逸れないように気を付けてください!」
「っ…! 2人とも!」
だがそんなことを気にしていられたのも一瞬のこと。
小柄な自分達は人波が生み出す流れには抗えず、璃奈と共に揉みくちゃにされながら愛達と引き離されるように運ばれてしまう。
「ウルトラマンだ!」
その声が聞こえたのはそれと同時だったか。
人々の足と共に逃げ惑う流れが止まり、その全ての視線が一点へと向く。
耀もまた同様に見上げた先で―――並び立つ2人のウルトラマンが君臨した。
―――――
―――――
3体の怪獣による乱戦は一時的に停滞する。
直後に奴等の敵意は、遅れて出現した二筋の光―――ウルトラマン達へと向けられた。
「3体か……瀬良、一番面倒なのはどいつだ」
「パゴスですけど……コイツに関してはE.G.I.S.に任せるべきだと思います。俺達は残りの2体を!」
『承知した……行くぞ!』
大地を蹴り飛ばしたタイタスが猛烈な勢いで突っ込み、広げた両腕で繰り出したラリアットがテレスドンとアーストロンを薙ぎ払う。
ホークイージスのパイロットもこちらの意図を読み取ったのか、一瞬のアイコンタクトの後にパゴスへと降下する。一先ず第一段階はクリアだ。
『シュアァ!』
跳躍し、右足を蹴り下ろす。
タイガが相手取ったのはアーストロンだった。フォルムはスタンダードな二足歩行型の怪獣だが、大きな特徴として頭部から伸びる巨大な角がある。
最も警戒すべきはやはりそこだろうが、あの角は強力な武器であると同時に最大の弱点だ。
「タイガ!」
『オーケー、任せとけ!』
飛び蹴りによって後退したアーストロンへ更なる追撃。奴の頭角を叩く決定的な隙を作るべくラッシュを掛けた。
だがそこはやはり地底怪獣。地圧にすら耐える強固な皮膚の前に打撃攻撃の効果は薄いか。
『オオォォッ!』
『……相変わらずとんでもないパワーだな』
タイタスの相手取るテレスドンも同じく地底怪獣。その防御力はアーストロンと大きな開きはないだろうというのに、彼は持ち前のパワーだけで圧倒して見せている。
こればかりは相性の問題なのだろうが、それでもやはり焦りはあった。戦う以上そんなことは言い訳に出来ないというのに。
『どうする……タイタスレットを使うか?』
「いや……やめとこう」
彼と同等のパワーを得る手段はあるが、何せエネルギーの消耗が激しいことは前例で証明済みだ。
もしまた倒しきる前にガス欠を起こせば余計な手間を生むことになる。この状況でわかり切っているリスクを踏むことは極力避けたかった。
『…そうだ、怪獣の指輪はどうだ』
そうなれば必然的に、まだ試していない手段というのが候補に挙がってくる。手のひらで転がされた指輪は先日ギャラクトロンから回収した代物だ。
タイタス曰くこれもブレスレット同様にウルトラマンの力を宿しているらしく、頃合いを見て試してみようという話になったのだが……、
「…大丈夫なのか? また変な反動とか……」
『それを確かめるためにも試してみるんだろ。タイタス!』
頭角ごと上体を振り下ろしてきたアーストロンを抑え込みつつタイガが告げる。
『怪獣の指輪を試す! いいか?』
『承知した。何か違和感があればすぐに伝えてくれ』
『よし……やるぞ雄牙!』
監督者の了承も下り、いよいよ使わざるを得ない状況となる。
こうなれば仕方ない。多少のリスクは覚悟しつつ、雄牙はタイガスパークのレバーを引いた。
《ギャラクトロンリング!》
《エンゲージ!》
左中指に装着された指輪をリード。同時に手甲のクリスタルに白い光が満ちる。
『セェヤッ!』
突き出した右腕から射出されたビームがアーストロンへと着弾。幾何学的な文様を浮かび上がらせた後、一拍遅れて爆発が起こる。
怪獣の力を無事行使出来ただけでなく、殴打ではビクともしなかったアーストロンの表皮に明確な傷を作った。
『ッッッ――――――!』
『よし…効いてるぞ!』
特にこれと言った脱力感も感じない。どうやらロッソレット同様に単発の使用に限る分エネルギーの消費は少ないのか、とにかくこれならば十分に戦える。
勢いのままに追加の一発をお見舞いした。隙なく、確実に。着々と奴を追い詰めているという感覚があった。
『目を伏せろ! ウルトラマン!』
そしてそのタイミングを見計らってか、ホークイージスから寄越された援護。
声と共に上空で瞬いたのは閃光弾か。急激な光の変化に弱いという特性を持つ地底怪獣達は一様にその動きを鈍らせ、決定的な隙を作った。
『テエェェヤッ!』
それを見逃す自分達ではない。切り上げるように振り抜いた手刀がアーストロンの頭上を通過する。
何かが砕ける音の後に宙を舞ったのはへし折られた奴の角だった。放物線を描いて吹き飛んで行くそれを横目に眺めながら、タイガは右腕にエネルギーを集約させる。
『˝ストリウムブラスター˝ッ!!』
弱点を破壊され、一気に弱体化したアーストロンへ向けて放たれた虹色の光線。
それは奴の肉体を喉元から焼き切り、次の瞬間には爆発の中に全てを誘った。
『やはりこの星の防衛組織は頼もしい。本来なら、我々の助力など必要のない存在なのかもしれないな』
『あぁ……本来なら、な』
同じタイミングでテレスドンを撃破したタイタスが爆発を背に飛翔する翼へと目線を向ける。丁度特効であるネオニュートロンミサイルを撃ち込まれたパゴスが全身を崩壊させた瞬間だった。
地球怪獣に対しては無類の強さを誇り、単一での対処ならばまず討伐出来ないことはない組織だ。タイタスの言葉に間違いがないのは素人目でもわかる。
だが―――、
『一種のみならず、複数の怪獣が同時に出現した……地中で何か起きているのか……?』
排除された脅威に人々の歓声が沸き上がる中、湛えられる英雄達の間には不穏な空気が流れていた。
「…いつもごめん。家まで送ってもらって」
「気にしないで。まだ危ないかもしれないし、璃奈ちゃんに何かあったら僕も嫌だもん」
「うん……ありがとう。またね」
「うん。また」
遮閉された自動ドアの奥へ消えてゆく璃奈を見送った後、踵を返した耀は高層マンションの玄関口であるロビーを後にする。
寮生である自分は本来璃奈と帰路は異なるのだが、怪獣が出現した日はこうやって家まで送っている。中学生の時から変わらない習慣だった。
「今日は大変だったなぁ……あの後ちゃんと合流出来てよかったよ」
節々に感じる疲労感を身体を伸ばして誤魔化す。
「……最近、新しいことばっかりだね。高校生活に、スクールアイドルとか」
人気のない閑散とした道に耀の声だけが霧散する。もし目撃者がいれば見れば笑いながら独り言を続ける痛い子とでも思われるのだろうか。
けど、自分の中には確かに一つ、返す声があるから。
『それと、あのウルトラマン共……な』
少しだけ不機嫌そうな含みで紡がれた声が
「気になるの?」
『そりゃお前……俺達の状況考えれば気にならない訳ないだろうがよ』
「それもそっか」
周りに人がいないからか、それとも一つのアクシデントを乗り越えたからか。声に出すこのやり取りには普段よりも安らぎを感じた。
「……また何か起ころうとしてるのかな」
『さぁな。どうであれ俺は知らねぇし、関係ねぇ。ほっといてもアイツ等が何とかしてくれんだろ。……お前も変に首突っ込もうとか考えるんじゃねぇぞ』
「……うん。そうだよね…………
ただ˝彼˝にとっては違うようで、押し窄められるように声を小さくする。
紅に染まる街へ己の存在を主張するように、重なった弧狼の影が遠く、伸びていた。
地底怪獣3連撃な回でした。これまでに戦ってきた奴等が規格外過ぎるだけで基本的にこの地球に表れる怪獣のレベルはこんなものです
そして最後に出てきた名前は……