トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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気付いたらもう一週間経ってんじゃん。こわ


28話 戦士が集う時

 

人気のない、放課後の廊下の隅。

虹ヶ咲学園国際交流学科の地下棟にある機材室前……そこに続く階段の踊り場が自分だけの舞台だった。

 

「この世界は全て舞台だ。男も女も、皆役者に過ぎない」

 

上履きがワックスに塗り固められた舞台を滑る音がする。

やがて全ての演目を終え、狭い踊り場に数多の照明や観客を夢想した少女―――桜坂しずくは深く息を付くと共にそれらへと頭を垂れた。閉幕の合図だ。

 

「……ふぅ」

 

イメージトレーニングから認識を現実の層位へと引き戻したしずくは改めて息を付く。まず実感したのは暑さだった。夏が近づいているだけあってムンムンとした熱気が蟠っている。

 

だが今はそれすらも心地よかった。この熱さは自らが役に入り込んだ証でもあるから。

 

「……あ、もうこんな時間……!」

 

僅かに滲んだ汗を拭いながら確認した時刻にちょっとした焦燥が走る。

今日は久しぶりにスクールアイドル同好会の練習へ顔を出せる日だというのに……少し没頭しすぎたか。このままでは遅刻だ。

 

「……誰も見てないよね?」

 

直ぐにでも向かいたいところだが、この若干汗ばんだ制服で廊下を進むのは少々気恥ずかしい。

 

だがこの場所は幸いにも人の通りが殆どない場所。乙女として如何なるものかとは思うが、目撃冴えされなければ問題はない。同好会にはここで着替えてから向かおう。そんな思考の元、胸のリボンから順に制服を解いてゆく。

 

その判断を―――深く後悔することになるとも知らず。

 

「わかってるよ。多分ここにあるから回収してすぐ行くって」

 

「ふぇっ…!?」

 

話声がする。それも男子生徒のものだ。

それだけならよかった。それだけならよかったのだが、徐々に大きくなってゆく足音は階段を下るものであり、他でもないこの場所へと向かっている証拠だった。

 

「あーもううるせぇな。忘れ物の一つや二つ誰だってするだろうがよ。大体お前も大概抜けてんだろ」

 

1人でぶつぶつと何を言っているのかという疑問はあるが、それどころではない。

 

自分は今着替えの最中、それもあろうことか階段の踊り場でだ。もし目撃されれば貞操どころかまず乙女としてアウトになること必死だろう。

 

とにかく急いで着替えるなるなり隠れるなりでやり過ごさなければ―――、

 

「はいはい肝に銘じておくよっ……と。……え?」

 

が、どうやら神様とやらは随分と意地悪なようで。動こうとした時には既に、その男子生徒はしずくのいる踊場へと降り立っていた。

 

そして必然的にその視線は、下着の一張羅というあられもない姿をした自らへと向けられ―――、

 

「ッッ――――――!!!!」

 

声にならない悲鳴の後、何かを引っ叩いた高音が校舎の隅に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前、何がどうしてそんな面白いことになってんだ」

 

「……事実って小説より奇なりなんですよね」

 

「はぁ?」

 

部員全員が寄せてくる好奇の視線が痛い。

その理由はヒリヒリと赤く腫れた頬が物語っていた。そりゃあくっきりと顔に手形を刻んだ人間がいれば注目もされるだろう。雄牙だってそうする。

 

「誰かに虐められてるの? 何かあるんだったら私……!」

 

「いやいや違うって。なんというかその……事故みたいなモン。取り敢えず歩夢が心配してるようなことは起こってないから安心して」

 

『事故……うんまあ、事故みたいなモンだよな(笑)』

 

(何笑ってんだこの野郎)

 

あらぬ誤解と余計な心配を生むのは不本意だ。早急にこの話題からは脱却したい。

そんな意図も込めてせつ菜に視線をやる。練習前に一度皆で話したいことがあると言っていたのは彼女だった。

 

「あー、まだそういう訳にもいかなくてですね。実は今日から同好会の練習に復帰する方がいるんですが、そちらがまだ……」

 

「え、しず子戻ってくるんですか?」

 

「ええ。演劇部の方の活動が落ち着いたという話でしたので。私としてもこの話は全員揃ってからしたいので、しずくさんを待っているのですが……」

 

そう言えば以前他の部活と兼部している生徒がいるという話をかすみと共にしていたか。

せつ菜が同好会に復帰する際には顔を出していたらしいが、その場にいなかった雄牙はまだ面識がない。よって今日が完全に初対面だ。

 

「遅れてしまってすみません!」

 

そうなると思っていた。今この瞬間までは。

いやまあ、今日が初対面であることに変わりはないのだ。だがしかし今この瞬間の邂逅が初対面という訳では全くなかった。

 

何故ならそう、勢いよく戸を開けて駆け込んできたこの少女は―――、

 

「少しトラブルがあって……実は覗き、に……」

 

弁明をする彼女と目が合う。そして同時に硬直する。

長く伸ばした黒髪に、それらを纏める大きめのリボン。その容姿も相まって清楚な美少女という印象を受ける。

 

先程の出来事さえなければ、だが。

 

「「ああぁぁ―――ッ!!」」

 

驚嘆の叫びが重なる。なんで、どうして。そんな困惑が渦巻くのは雄牙だけではないようだった。

 

「…? お2人とも、お知り合いなのですか?」

 

「知り合いも何も―――」

 

「この人ですよ! 私の着替えを覗いてきたの!」

 

誰が言うより早く、雄牙を指さしたしずくが爆弾に他ならない発言を炸裂させる。

それと同時に周りの視線が帯びてゆく幻滅の冷たさは困惑と誤解の波紋だ。早急な弁明の必要性を物語っていた。

 

「瀬良お前……どうせやるなら見つからねぇようにだな」

 

「そっちかよ! てかやってませんから覗きなんて!」

 

「でも私の着替えを見たのは事実じゃないですか!」

 

「お前が1人でその格好してたんだろうが! 階段駆け下りてったら制服脱ぎ散らかしてる痴女がいるとか誰が想像出来んだよ!」

 

「ち、痴女!? 仮にも女の子に向かって―――」

 

「えーっと、盛り上がってるところ悪いのだけど……一旦話を整理しない?」

 

瞬く間にヒートアップしてゆく雄牙としずくを見かねた果林によって制止がかかる。

しずくはかすみに、雄牙は侑と歩夢に取り押さえられて一時休戦。同好会メンバーという裁判官を以って審議が執行されるのだった。

 

***

 

「え~、判決を言い渡します。主文、桜坂被告を彼方ちゃんの抱き枕30分の刑に処す」

 

「そんなぁ!?」

 

数刻の後に下った判決により雄牙の勝訴が確定する。ガッツポーズを取るように両腕を掲げる自らの傍らで崩れ落ちるしずくの姿が見えた。

 

「いやぁ~、流石にこれはしずくちゃんが悪いって」

 

「いくら人がいない場所とは言え廊下で着替えるのはね……」

 

「うぅ……」

 

好き勝手喚き散らした生意気な後輩が項垂れる様も気分がいいが、とにかく覗き魔という不名誉極まりない烙印を押されることは防げた。その事実にただ快哉を叫ぶ。

 

「でも瀬良くんも瀬良くんよ。いくらなんでも女の子にあんな言葉使っちゃダメ。お互い、後でちゃんと謝っておきなさい」

 

「「……はい」」

 

「果林ちゃん、お母さんみたいだね~」

 

「地元で小さな子の相手することが多かったから、慣れてるだけよ。……それよりせつ菜、これで全員揃った訳だけど話の方はしなくていいの?」

 

だがまあ最終的には雄牙も絞られる結果に終わりこの騒動は幕を閉じる。必然的に話題は何か含みのある様子を見せていたせつ菜の方へと移った。

 

「ああはい。正直この空気の中で話すのもアレだとは思いますが……」

 

キュキュ、と。ホワイトボードにペンを走らせた音の後。せつ菜が書いた文字列を愛が復唱する。

 

「ラブライブ?」

 

「はい。スクールアイドルの全国大会……それがラブライブです。今年もその開催が発表されました」

 

ラブライブ。スクールアイドルについて調べた際にその名前も目にしたのを覚えている。

端的に言えば高校球児でいう甲子園のようなものであり、初開催から現在に至るまでその規模を膨らませ続けているというスクールアイドルの象徴とも言えるイベントだ。

 

曰くスクールアイドルならば誰もが出場を夢見る大会であるらしいが……、

 

「どしたんせっつー、そんな暗い顔して」

 

「ああいえ、その、なんというか……」

 

「そのラブライブ目指して練習してた時に一回崩壊してんだよ、この同好会」

 

言い淀んだせつ菜に変わって昂貴が口にし、元から同好会に所属していた面々は苦い顔を見せる。

その時点で大半の者が察しただろう。彼女がこの話題を持ち出した理由を。

 

「つまり、ラブライブに出場するのかを全員で話し合いたい、ってことですか?」

 

「はい……大切な話ですので」

 

耀の句を継ぐ形でせつ菜が続ける。

 

「あの時と違うのはわかってます。今の私達はグループではなくソロ……あの時のように、方向性の違いから衝突するという心配はないでしょう。ですが……」

 

語末を濁した彼女の言わんとしたことは察さずともわかった。

ラブライブは大会、つまりは勝敗が付く競技に当たる。その結果で誰かが傷付くことを彼女は恐れているのだろう。

 

「……私は、見てみたいかな」

 

各々もそれを察し言葉を探す中、そう零したのはスクールアイドルではない侑だった。

 

「…ごめんね? ホントに私の個人的な願望でしかないんだけど、それでも私はラブライブのステージで歌う皆を見たい。だってスクールアイドルの祭典でしょ? そんなの絶対ときめくじゃん!」

 

何か論理的な方法を列挙するでもなく、侑が語ったのはただの願望。

 

「勿論競い合う以上誰かを傷付けてしまうことはあるかもしれないけど……それを怖がってたら、何も始まらないと思う。まあ、私が言っても無責任かもしれないけどさ」

 

でもそれは純然たる、スクールアイドルが大好きだからこその願いだ。そんな感情に突き動かされるように彼女は弁を振るう。

 

「でも、皆に後悔はして欲しくないんだ。だから今自分はどうしたいか……皆、それを考えて、ちゃんと決めよう」

 

言い切った侑に続いたのは沈黙だった。

 

でもそれは束の間のこと。次の瞬間には堰を切ったように皆の声が溢れ出した。

 

「後悔……そうね。折角始めたんだもの。やるなら頂点を目指してこそよね」

 

「私も出たい! 私達3年生にはこれが最初で最後の年……今しかできないことだもん!」

 

「彼方ちゃんも右に同じく~。やる気でおめめもぱっちりだぜ~!」

 

「私も出たいです! 形は変わってしまっても、私達があの場所を目指していた事実は変わりませんから」

 

「かすみんの可愛さを皆にアピールするチャンスですからね! 出場しない訳ないじゃないですか!」

 

「私もやる。皆と一緒なら、楽しそう。璃奈ちゃんボード˝やったるでー!˝」

 

「色んな人と楽しいことが出来るんでしょ? そんなの絶対アガるじゃーん!」

 

出場を躊躇うものは誰一人としていなかった。皆がそれぞれの想いを胸に秘めて、来るべき舞台への抱負を語る。

 

残るは最もあの場所に近く、またあの場所への情熱を抱く彼女だけだ。

 

「……ええ、私もです。私だってスクールアイドルになったからには、あの場所で思いっきり私の大好きを歌いたい……出場するに決まってるじゃないですか!」

 

向けられた視線に応えるように、せつ菜もまたその大好きを以って強く宣言した。

傷付けることを、傷付くことを恐れていた彼女はもういない。他でもない皆が彼女を変えた証拠だ。

 

「じゃあ、ここからは皆ライバルだね~」

 

「でも仲間だよ。困ったことがあったら、今度皆、ちゃんと頼ってね」

 

「仲間でライバル、ライバルで仲間……ね。ふふ、いいじゃない」

 

明確な目標を前に皆の士気が上がってゆくのを感じる。

ラブライブ予選開催まで、あと2ヶ月。各々のスクールアイドルの経験に差こそあれど、その時間だけは変わらない。それは皆わかっているだろうから。

 

「それでは今後の方針も決まったところで……今日も練習、張り切っていきましょう!」

 

「「「おーッ!!」」」

 

せつ菜の音頭が上がる。

スクールアイドルの祭典。その頂を目指す競争の火蓋が、切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瀬良」

 

呼び留められたのはその直後だった。

振り返り、昂貴と目線が重なる。その一瞬の間に彼の意図を読み取った雄牙は、もう1人の男子生徒部員である耀と共に部室の中に残留した。

 

この3人が顔を突き合わせて話す用など一つしかあるまい。

 

『緊急を要する事態ではあるが……新顔もいる。先ずは改めての自己紹介が先決だな』

 

星海耀もまたウルトラマンと一体化する者の1人である。先日の騒動の中判明した事実だ。

同じ部活動に所属していたことは連携を取る上でも幸いであったが、自分達はまだ交流が薄い。タイタスがこの場を設けたのは、伝聞すべき情報があるのと同時にある程度互いについて知る機会を作るためでもあったのだろう。

 

『私はウルトラマンタイタス。戦士団の命を受け、U-40より派遣されてきた者だ。宜しく頼む。さあタイガ、君も』

 

『え、あ、ああ。うん……俺はM78星雲光の国の―――、』

 

『ウルトラマンタイガ、だろ。コイツを貰った時に話は聞いてる』

 

タイガの言葉を遮った蒼いウルトラマンーーーフーマは半透明な右腕を掲げてそこに備わった漆黒の手甲を示してくる。そのアイテム、タイガスパークはタイガの父親であるウルトラマンタロウが息子の創作を依頼する際に手渡していたものだとタイタスが言っていたのを覚えている。

 

『やっぱりお前も父さんに……』

 

『ああ。なんでも装着車同士で共鳴する力があるから、とか言ってたな。随分と必死に探し回ってたみたいだぜ、お前の親父さん』

 

『……そうか。私がタロウにタイガスパークを授かった際、10年前にも同様のものを授けた戦士がいたと聞いていたが……君のことだったか』

 

『まあな。俺はO-50のウルトラマンフーマ。宜しく頼むぜお役人方』

 

『O-50出身……成程な。となるとやはり、この星に滞在しているのはオーブの光による指令か何かか?』

 

『まあ…………そんなトコだ。ご生憎様芳しいとは言えねぇがな』

 

O-50出身のウルトラマンにはオーブの光と呼ばれる裁定者によって力を授けられ、その任を全うするという共通点があるとタイタスは語る。フーマもまた例に漏れずその1人なのだろう。

 

『…自己紹介なんざこんなもんでいいだろ。ぱっぱと本題の方に移ろうや旦那』

 

『……そうだな。君達を呼び留めたのは他でもない。少し伝えなければならないことがあってな。タイガ、特に君にとっては重要なことだ』

 

『な、なにがあったんだよ……』

 

ウルトラマンの任を背負った者達として共有すべき何かがある。つまりはそういうことだろうが、話を切り出したタイタスが纏う空気感は想像よりも深刻なものだった。

 

『以前、君に関する処遇を問う旨を光の国に伝えたと言ったのを覚えているな』

 

『あ、ああ……その割にはいつまで経っても連れ戻されないと思ってたけど……それが?』

 

『実は……それに対する返答が返ってこないままなんだ』

 

最近忘れがちにはなっていたが、タイガは本来この星での滞在が許可されていない存在だ。いずれは母星である光の国によって連れ戻されるはずであったが……その処遇が未だに下されていない状態だとタイタスは言う。

 

『……正確には光の国、U-40、ひいてはギャラクシーレスキューフォースやアンドロ警備隊に至るまで、我々と連携する全ての組織との交信が取れない状況にある、と言った方が正しいな』

 

『はぁ……? 本当かよそれ……』

 

『事実そうなっているのだから受け入れる他あるまい。だがあれほどの規模の戦力を持つ組織に揃って何かあったとは考え難い……となると、異常があるのはこの星と考えるのが妥当だろうな』

 

『誰かに交信が妨害されてるってことか?』

 

『私はそう考えている。恐らく宇宙警備隊や戦士団もこの事態には気付いているだろうし、遅かれ早かれ調査隊が派遣されてくるだろう。だがそれまでこの星は誰からの援助も受けられない孤立した状態であるが故、我々のみで戦わなければならない状況が続くだろう。……そこで、君達とも共有すべき情報は共有すべきだと考えた』

 

「共有すべき情報……?」

 

改めてタイタスが向き直る。自然と伸ばす背筋に力が入った。

雄牙のみならずそれはこの場にいる全員に伝播し、緊迫した空気と一拍の静けさが流れる。タイタスがそれを破ったのは直後のことだった。

 

 

 

『私に命じられた任務のこと、この星の現状。そして、その双方に関わる10年前の戦いにおける英雄……ウルトラマンゼロの戦いについてだ』

 

 




アニガサキの方と違い今作ではラブライブに出場する方向に舵を切らせて頂きます。やっぱ本家で見れない展開をやるのが二次創作の強みだと思うので

その一方でタイタスから明かされたのは地球にいるタイガ達が孤立した事実。なんかデッカーの状況と似てますね(意図してはないです)
それに伴い出てきたのはあの名前……次回は現状の振り返りかつ、前作ゼロライブのおさらい回となりそうですね……

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