トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~ 作:がじゃまる
『出現したのは古代怪獣ゴメス……この前出現した奴と同種だけど、今回のは40メートル級の成長し切った個体だね。中生代から生息し続けてる原生哺乳類で―――』
「蘊蓄は後でいいだろ。避難状況は?」
風を切る音が満たす機内の中に、通信に乗ったノイズ混じりの声が届く。
『大体終わってる……けど、避難する人達につられたみたいで今は有明の避難所に向かってるみたい。早く食い止めないと相当な被害が出るかも』
機材から発される声は一つではない。複数の声が重なることによって生まれる緊迫感は、自然と加わる者全員の帯を固く締め直させる。
「騒ぎながら逃げるなって再三言ってるってのに……遥也、現場はどうだ?」
『ゴメスがかなり接近してますが避難自体は殆ど完了してます。ただ避難してきた子達から年配の方が動けずにいるとの報告を受けたので、俺はその人を探してきます!』
「わかった。要救助者の安全を確保し次第報告をしてくれ……隊長、どうしますか」
『遥也の報告が来るまでは牽制射撃に留めるが、安否の確認が取れ次第本格的な攻撃を許可する。ただし周辺は埋立地が故に地盤が緩い。ミサイル等の武器の使用は出来る限り控えてくれ』
「了解しました。間もなく現着します」
ビル群の上空を過ぎ去り、
目標に定められたのは、四方を海に囲われた街を闊歩する―――黒い巨獣だった。
「ウル……トラマン……?」
困惑と共に嫌な汗が噴き出してくる。
ウルトラマン。雄牙の中にいるという謎の声の主は、確かに自らをそう称したのだ。
『おうそうだ。繰り返すが俺はタイガ……M78星雲、光の国から来たウルトラマンだ』
再度並べられた名称にそれが聞き間違いでないことを悟る。
ウルトラマン。10年前、まだ怪獣等の巨大生物に対抗する術を持たなかった頃の人類を守護した巨人の名称だ。
それが何故今になって再び、と言うかどうして自分に。雑多な疑念が湧き上がり混乱する雄牙を他所に、タイガと名乗ったそのウルトラマンは高揚とした様子で続けた。
『何か悲鳴が聞こえるから来てみれば、お前が瓦礫に潰される寸前だったからな。だから身体を借りてあの爺さんと一緒に助けてやったって訳だ』
語る言葉が何処まで真実なのかはわからないが、判断材料に乏しい今はそれを飲み込むしかない。
ともあれコイツが本当にウルトラマンだというのなら、やるべきことは一つだ。
『つまり俺はお前の命の恩人って訳だな……何か言うこと、あるんじゃないか?』
「出てけ」
『そうそう、出てけーって…………はぁッ!?』
驚嘆の声が上がる。耳を介さずに頭の中だけで音が響く感覚は妙な気分を抱かせるが、この際気に留めている余裕はなかった。
自分の中に、あのウルトラマンがいる。その事実が到底受け入れられない。
『おまっ……仮にも命の恩人にその態度はないだろ!』
「それとこれとは話が別だ。いいから出てけ」
『いやいやいやいや、そもそもお前なー……って、こんなことしてる場合じゃなかったな』
言い争いの口火が切って落とされた最中、途端に冷静になったタイガに釣られる形で我に返る。
想い起したのは今は出現した怪獣から逃げているという現状。恐る恐る視線を上げれば、そこには未だ雄牙を捉えたままのゴメスの双眸があった。
「ああクソッ……お前のせいで余計に刺激してるじゃねーか!」
『勝手に大声出して騒いでたのはお前だろ……ああもうこの際それはいい。とにかく行くぞ』
「は? 行くってどこに?」
『まだわからないのか? 俺はウルトラマンだぞ』
再びの生命の危機が迫る中、タイガは自慢気に言葉を連ねる。
『とんでもない礼知らずに宿っちまったのは不本意ではあるけどな、今俺とお前は一つになっている。一心同体ってやつだな。だから一緒に戦うんだ』
どう考えても心の方は一つになってないだろと内心でツッコみつつ、突然右腕に沸いた熱に視線を落とした。
知らぬ間に宿っていたのは黒い手甲だった。縦に走る金色のラインや嵌め込まれた水晶体には一種の重厚感を覚える。
『お前、名前は?』
「……瀬良雄牙」
『よし、よく聞け雄牙。それは˝タイガスパーク˝。そのアイテムを起動したままこのキーホルダーを掴めば俺に変身できる』
タイガの説明に連動するようにもう一方の手の中にも熱が生まれる。
開き確認してみれば言葉の通り、何かの顔と思しきレリーフが刻まれた銀色のキーホルダーが握られていた。
『さあ叫べ俺の名を! ˝光の勇者˝、タイ―――』
「そんなん知るかッ!」
『いや何してんだお前ぇぇぇぇッ!?』
揚々と事を運ばんとしていたタイガの声は、雄牙がキーホルダーを放り投げたことで絶叫へと変わる。
宙を舞う銀色は放物線を描き、やがてはゴメスの上げた土煙の中に消えた。あれでは当分見つからないだろう。
『お前馬鹿か!? それとも地球人が馬鹿なのか!? アレがないと変身して戦えないだろうが!』
「誰も変身して戦うだなんて言ってねぇだろうが! こっちの都合も聞かずに話だけ進めやがって……まずこっちはお前が俺の中にいることも容認してねぇんだよ」
『ああもうなんでこんな奴と一体化しちまったんだ俺はぁ……いいか? このままにしておけばこの怪獣は避難所を襲う。人が大勢死ぬんだぞ!』
「だったらお前一人で戦えばいいだろ。……それに、もうウルトラマンの出る幕なんかねぇんだよ」
『は? 何言って……』
一体化しているが故なのか、タイガの疑念が伝わってくる。だから答えを示すように上空を見上げた。
同時に現れたのは一翼の影だった。轟音を鳴らし滑空するそれは急降下と共に数発の弾幕を射出し、ゴメスを後退させる。
『戦闘機……? この地球に、防衛隊があるのか?』
「雄牙ッー!」
驚いたように声を震わせるタイガを他所に、雄牙の意識は自らの名前を呼んだ声の方に向けられる。
声の主と思しきは一人の青年。それが見知った者であると認識すると、雄牙もまた名前を口にすることで返した。
「
「よかった、無事だったか雄牙。歩夢ちゃん達に話聞いてすっ飛んできたぞ……それで、そのお爺さんは?」
「あそこ。建物の崩落に巻き込まれて気絶はしてるけど、問題はないと思う」
「崩落って……この建物か!? よく生きてたな雄牙……」
「まあ……運が良くてさ。それよりこの人安全な場所に連れていかないと」
「ああ、そうだな。……こちら瀬良です。要救助者を発見、気絶こそしてますが目立った外傷はありません。今から離脱します」
遥也と呼んだ青年が手持ちの通信機へ報告を済ませた直後、ゴメスに応戦していた戦闘機の放つ弾幕がその火力を増す。
どうやら今までのは逃げ遅れた人々を考慮した威嚇射撃だったらしい。大方の避難が完了した今、縛るものは何もない。容赦のない銃弾の嵐がゴメスの命を削ってゆく。
『お、おい……まさか倒しちまうのか……?』
「行こう雄牙。ここにいると巻き込まれるぞ」
戦況に困惑するタイガを他所に雄牙も避難を再開する。
˝E.G.I.S.˝
そう刻まれたロゴは奮戦する戦闘機の尾翼のみ鳴らず、老人を担ぎ移動する遥也の隊服にもあしらわれていた。
「雄牙―!」
避難所に辿り着いた雄牙を出迎えたのは見慣れた顔だった。飛びついてきた侑の温もりに若干の気恥ずかしさを覚えつつ、一先ずは自らと彼女達の無事を安堵する。
「侑ちゃん、雄牙くん怪我してるんだから安静にさせないとダメだよ」
「これくらいなら問題ないっての。……まあ、ありがとな歩夢」
つい先刻まで死が歩み寄る場所にいたせいか、彼女達との会話は普段に増して気分が和んだ。
あとは少し離れた場所から向けられる生暖かい視線が無くなれば完全に心も休まるのだが。
「遥也さん……気持ち悪い目でこっち見るのやめて」
「いやー、従弟がモテてて俺も嬉しいなーって」
「そんなんじゃないって……それより、あの爺さんどうだった?」
「ああ、脳震盪起こしてるだけで命に別状はないってさ。雄牙のお手柄だな」
一転して気持ちの良い笑顔を作った遥也の報告にまた胸を撫で下ろす。これで寝覚めの悪い気分にはならずに済みそうだ。
「いつまで道草食ってんだ遥也ァ! 早く本部戻るぞ!」
「あ……ハイ! 今行きます! ……それじゃあな、雄牙。歩夢ちゃん達も」
まだ仕事が残っているらしい遥也を軽く手を振って見送った。こうも怪獣の出現が頻出しているとそれだけ疲れるだろうに。それでも溌剌な振る舞いを崩さない姿勢は素直に尊敬出来る。
「…凄いよな、あの人」
「雄牙も凄いって。怪獣が近くにいるのにあんなに落ち着いた行動、普通出来ないよ」
「……ごめんね? 本当は私達もあのお爺さんを助けなきゃいけなかったのに」
「それはもういいって。行かせたのは俺だから、お前が気にする必要ないだろ」
「おぉー、雄牙カッコいいー」
わざとらしく侑が揶揄ってくる。それがどうにも照れ臭くて視線を逸らした。
『―――牙』
「いいから帰ろうぜ? 怪獣の方は片付いたみたいだし、警報も解除されてるからもう大丈夫だろ」
微妙に火照る顔の熱を振り払うように提案する。理由はあまり考えたくないが、今は冷たい空気に当たりたい気分だった。
『―――雄牙』
現にもう警備員や消防団が退場を促し始めている。あまり悠長にしていると出口も混雑するだろうし、早めに撤退することに越したことは―――、
『雄牙ッ!!』
何度も頭に響く呼び声に雄牙は顔を顰めた。
せっかく忘れようとしていたのになんだコイツは。反感の意を込めて頭を掻きつつ一応返してやる。
「なんだ、まだいたのかお前」
『まだってなんだまだって……いやそれよりも説明しろ雄牙、なんだあの戦闘機は!』
「キャンキャンうるせーな犬かよ」
『お前俺に対してだけ態度悪すぎるだろ!? なんでそんなに不貞腐れてんだよ』
「……別に不貞腐れて―――」
「雄牙……?」
「どうしたの? 急に独り言なんか……」
割って入った声にハッとする。見れば侑と歩夢が不安気に顔を覗き込んで来ていた。
しまった、ここでコイツと話すと訝しまれるだけだ。場所を変える必要があるか。
「……悪い、スマホ落としたみたいだから探してくる。二人は先帰っててくれ」
「え、ちょ……!」
「雄牙!?」
「……もうこの星はウルトラマンなんか必要としてないんだよ」
場所は先程ゴメスの襲撃を受けた地点に戻る。既に外は帳が降り切り暗闇が広がっていた。
タイガに向けられた質問に対し、雄牙は短く、シンプルに、要点のみを詰め込んで答えた。
「お前もさっき見ただろ? 人間はもう怪獣に対抗できる……それどころか一方的に倒せるくらい強くなったんだ。10年前とは違う」
一部分を大きく抉られた道路に目線をやった。あそこはほんの数十分前までゴメスの亡骸が転がっていた場所だ。
だがそれも既に処理された。自衛し、倒すだけじゃない。後処理だってもう人類は完璧にこなせる。だから―――、
「……さっきも言った通りだ。もうお前の出る幕はねぇよ」
『冗談だろ……』
結論を述べた雄牙に対し、タイガはただ声を震わせた。
『それじゃあ、俺がこの星まで来た意味は……』
人類が怪獣に抵抗できない状態を望んでいるような発言には少々引っ掛かるが、それでも突き放すには何か、さながら度が過ぎた悪戯で泣かせてしまったような、後ろ髪を引かれるような感覚がする。
どうしてウルトラマンに対し気を回さなくてはいけないのだろうか。呆れの溜息をつきつつ、雄牙は譲歩するように言う。
「別に落ち込むことはないだろ。……まあどこまで役に立てるかは知らないけどな。わかったら早く俺の身体から出て―――」
『出来ないんだ』
「はぁ……?」
『俺の身体は今、著しく消耗した状態にある。単体で実体化する力は勿論、一体化を解除できる余力もない……だから今、お前から離れることは出来ないんだ』
何を身勝手な。そんな言葉が喉まで出かけ、ギリギリで飲み込んだ。
何の目的があって、何を望んでいるかなど知る由もない。けれどあの時タイガが一体化していなければ雄牙が死んでいたのは事実であり、彼に雄牙を救う意志があったのもまた事実だ。
そんな彼をここで身勝手だと糾弾するのは、少々、自分勝手が過ぎるのではないだろうか。
『勝手に一体化したことも、お前の意志を尊重せずに戦わせようとしたことも、今はその、申し訳なく思っている。けど俺もギリギリの状態だったんだ。……許せとは言わないが、理解して欲しい』
冷静になった頭で考えてみる。
そもそもタイガは10年前の˝彼˝とは違う。ただ同じウルトラマンの名を冠しているだけだ。
その彼に一方的な感情を押し付けるのは雄牙の我儘だ。
『……取り敢えず、さっき放り投げたキーホルダーだけは回収してもらえないか? アレがないともし身体が回復しても変身できないし、お前の身体からも出ていけないんだ』
「……わかったよ」
拒絶感のあまりロクに話も聞かずキーホルダーを投げ捨てたのも、今となっては幼稚だったと実感する。
だからせめて、それくらいの責任は果たすべきだ。
「探し物はこれかい?」
不意に手が差し伸ばされる。
見れば雄牙より一回り程年上と思しき男性であり、その手の中には見覚えのある銀色が握られていた。
「あ、はい…! ありがとうございます」
「礼には及ばないさ。それでは、私はここで」
男性からそれを受け取り視認する。確かに雄牙が投げ捨てたキーホルダーそのものだった。
ああはあしらわれたが改めて礼を言おうと振り返るが、同時に疑問を覚える。
「え……?」
直前まであった男性の姿はもうない。走って行ったのかと考えるが、足音もしなかったことからその不気味さは増す。
いや、それよりも、だ。
「なんであの人、俺が探してるのがこれってわかったんだ……?」
「…これはこれは……また面白くなりそうだ」
夜が生み出す陰に紛れ、紳士の仮面を被った男は笑う。
ビルの間に間を吹き抜けた風が、新たなる災いを予感させていた。
まだ変身はお預けということで……まあ流石にこのカードは˝奴˝で切りたいので()
色々と情報が開示されましたが、今回はE.G.I.S.なる組織について解説します
タイガの代わりにゴメスを討伐したのがこの組織
元ネタは勿論「ウルトラマンタイガ」本編にてヒロユキ達が所属していた組織ですが、民間警備組織に過ぎなかったあちらとは違いこちらではガッツリ防衛組織であり、技術力や実力も相当な域にあります
雄牙の従兄である遥也という人物もこの組織に属していますね
「もうこの地球にウルトラマンは必要ない」と言わしめるほどの状況の中、果たしてタイガに出番はあるのか…………