トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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気付けば前作ゼロライブの完結から2年経っていたようで……早いなぁ……


35話 輪舞曲(ロンド)を掻き鳴らせ 後編

 

晴天の霹靂、なんて言葉で目の前の出来事を例えてみる。少々大袈裟ではあるが、突然訪れた思いがけない事件という点では的を射ているだろう。

 

その少女は嵐のようだった。自由気ままに風を吹かせ、周囲を巻き込んで進んでゆく。荒々しい立ち振る舞いだ。

 

嵐というのは本来雲を齎し、雨を降らせる筈のものなのに……少女の姿は、痛いくらいに眩しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

隠すことのない徒労感を吐息に乗せ、しずくはいつになく重い腰をベンチに預ける。

 

疲れた。いつの間にか行動を共にしていたあのオグリスなる宇宙人の少女との交流に根こそぎ持っていかれた体力が恋しい。

 

バイタリティは勿論のこと、何よりあのテンションと勢い。合わせるだけではただ一方的に消耗してゆくだけだった。初めは少しだけ弾んでいた心も今となっては地の底だ。

 

「大丈夫? しず子。何か飲み物でも買ってくる?」

 

「ううん。大丈夫。心配してくれてありがとう」

 

隣に腰掛けたかすみと互いに労いの目線を注ぎ合う。気心の知れた相手との時間には少なからずの癒しを感じた。

 

「しず子、意外と体力ないよね。兼部してるくらいだしかすみんよりはスタミナあると思ってたけど」

 

「体力ってよりは……気力? オグリスさん、普段周りにいないタイプだからちょっと疲れちゃって……」

 

「あぁ~、確かに。少なくとも同好会にはいないよねああいうタイプ……まあいっぱいいても困るけどさあんな人」

 

件のオグリスは今も愛達とアトラクションに興じているだろう。何せ今日で全アトラクションを制覇すると豪語していたくらいだ。またあの特徴的な高笑いを上げて遊んでいる姿が目に浮かぶ。

 

「……しず子はさ、宇宙人さんのこと、どう思ってる?」

 

そんな折だった。不意にかすみがそう零したのは。

 

「……どうしたの? 急に」

 

「ほら、あの人は自分のこと、宇宙人だって言ってたじゃん? 本当かどうかはわかんないけど、もし本当なら、かすみんの思ってた宇宙人のイメージと全然違うな~って。……正直、宇宙人さんは怖いものだって思ってたから」

 

言葉を並べるかすみの脳裏に浮かぶのは、先日のイベントで璃奈を攫った宇宙人の姿だろう。結果として助かりはしたものの、あの瞬間皆の命が脅かされていたのは事実だし、同好会に決して浅くはない爪痕を残していったのも確かだ。かすみがそう思うのも仕方ない。

 

「だから、しず子はどう思ってるのかな~……って」

 

そもそも世間一般として、ある巨人族を除き、宇宙人に対する印象は良くないものだ。度々災害を齎す怪獣と一括りにして語り、排斥を掲げる者って決して少なくはない。だからここでしずくがそう答えようともかすみが何か難色を示すようなことはないだろう。

 

「……そうだね。私は……」

 

けれど、それはかすみの思う˝桜坂しずく˝ではないから。元よりそんな回答を掲げるつもりはないが、それでも出来る限り、しずくの思う()()に答えを近づける。

 

「……どうだろ、私にも分かんないや」

 

「えぇ~……答えになってないよしず子~」

 

「だって、実際そうなんだから仕方ないじゃん」

 

不満気に口を尖らせるかすみに対し、しずくは穏やかに目を細めながら続ける。

 

「でも今はそれでいいと思うんだ。まだ私達は宇宙人について知らないことだらけだから。よくも知らない内に決めつけるのはやりたくないんだ。ほら、かすみさんだって極端な部分だけ指さされて地球人は野蛮だ~とか言われたら嫌でしょ?」

 

「それはまあ……そうかも」

 

「ほら、ウルトラマンみたいな人達もいる訳だし。案外、宇宙人全体で見たら良い人の方が多いかもしれないよ? だからちゃんと宇宙人のことわかるまでは決めつけたくないなって、そう思ってる」

 

主張に嘘はない。表面的な印象だけで宇宙人を決めつけたくない。そう思っているのは事実だから。だからそれにそれらしい捕捉を付けて並べる。頭が尤もらしい理由付けをするよりも早く口が動いていた。

 

「まあ、それがいつになるかなんてわからないんだけどね。でもそれもなんかロマンがあっていいと思わない? ほら、それこそ物語の中のお話みたいでさ」

 

そんな中にふと思い起こされる、嫌な先輩の言葉があって。

 

すると心はほんの少し()を出してしまう。かすみは仲の良い友達だから。少しくらいなら問題ないだろうという慢心もあったのかもしれない。

 

「しず子、なんか目キラキラしてる」

 

「え?」

 

「意外とそういうところあるよね、しず子。さっきエアホッケーしてた時とかもそうだったけど、急に子供っぽくなるって言うか……」

 

でもそれは所詮しずくの都合のいい思い込みで。

かすみが作る丸い目は、脳裏に焼き付いた、いつかの記憶と重なった。

 

「……ごめん。やっぱり、変、だよね……。おかしいよね……」

 

「え? な、なんで謝るの? そんなおかしいだなんてこと―――」

 

「ああ、確かにおかしな奴だな」

 

何か言いかけたかすみの声に割り入る形で現れたのは件の宇宙人の少女だった。

 

「ちょっとなんですかいきなり……てか、向こうで遊んでたんじゃないんですか?」

 

「疲れた、とのことでな。一旦休憩中だ。で、その間何をして時間を潰そうかと考えていたら、何やら面白そうな話が聞こえてきたから交ざりに来た次第だ」

 

地球人である自分達にとってオグリスの体力は無尽蔵に等しい。流石の愛達も堪えるものがあったらしい。

 

……いや、それよりも、だ。

 

「それより! なんですか今の言い方! まるでしず子のこと馬鹿にしてるみたいに!」

 

「馬鹿にしてはいないさ。ただおかしな奴だと言っただけだ」

 

不服を示すかすみを適当にあしらうと、オグリスは傾けた顔をしずくへと向ける。おかしな奴。それは十中八九しずくに対する指示語だろう。まだほんの数時間の付き合いだが彼女が遠慮のない性格なのはわかっている。だから次に向けられる言葉も予測がついた。

 

「お前、何故そうまで自らを隠すんだ?」

 

「っ……」

 

筈だった。痛みすら伴って跳ねたこの胸は虚を突かれた証拠だ。

 

「ソイツに対してだけじゃない。私にも、他の連中に対しても、お前は常に自分を隠して接している。いや、何かを演じている、というべきか。だからおかしな奴だと言った」

 

違う。彼女には見えているんだ。理想で塗り固められたこの仮面が。

雄牙に悪態をついた時とは違う。本当にただ˝桜坂しずく˝として振舞っていただけなのに、オグリスはこの仮面に手を掛けて見せたのだ。

 

「え、演じてるって……」

 

「何人の前でも役を演じ通す、というのはある意味面白くはあるがな。だが、お前のそれはお前の望むものではない……諦めにも近い妥協だ。そんなつまらん真似を私の前でするな」

 

どこまで。どこまで見えているんだ彼女には。

表面上の平静こそ保てているが、加速する鼓動は内心の焦りを隠すことなく物語っている。

 

「まあ、理由があるなら聞いてやる。興味はあるからな」

 

にやりと口角を吊り上げたオグリスの笑みはそんなしずくの情動を知ってのことなのか。

 

いや、恐らく彼女にとってそんなものはどうでもいいのだろう。動機はもっと単純だと瞳が語っている。ただ目の前のものが彼女の興味をそそるか否か。それだけの話だ。

 

「……その様子だと、やはり何かありそうだな。話してみろ。そしてお前自身を私に見せろ」

 

そこに邪な感情はない。文字通り無邪気に、彼女は気の向くままに、彼女にとっての面白いを探求しているだけ。出会ったその瞬間からそうだったじゃないか。

 

けど、それが故に厄介極まりない。

 

「しず子……?」

 

「かすみさん違うの、これは―――、」

 

「御託はいいからさっさと話せ。あまり陰湿な真似をされるとトレギアの奴を思い出して腹が立つ」

 

彼女を駆り立てる好奇心が満たされるまでオグリスが止まろうとすることはないだろう。

 

だからこそ逃げ場のないこの状況はしずくにとって不都合極まりない。切り立った崖を背後に追い詰められたようなものだ。

 

「……」

 

別に親しくもない人間にどう思われようが苦ではない。だから恐らく今後の人生において深く関わることはないであろうオグリスがしずくにどんな印象を抱こうとも問題はないのだ。

 

でもかすみは違う。彼女は学園生活や同好会の活動を共にする仲間であり、友達だ。そんなかすみに何か変な印象を抱かれるようなことがあればと思う度に、先程の目がかつての記憶を重なる度に、掻き鳴るブレーキの音が大きくなる。

 

「コイツの前だと言い辛いか?」

 

「っ……」

 

そしてそんな心境さえもオグリスは見抜いてきて。

 

「フフ……ならこうしてみようか」

 

彼女が指を鳴らす。弾けるような高音だった。

 

瞬間、瞳から光の失われたかすみの身体がぐらりと崩れ―――、

 

「かすみさん!?」

 

「さて、これで憂いは無くなったな?」

 

倒れ込んだかすみを受け止め、オグリスはまたも無邪気に笑う。狂気すら感じる無邪気さだった。

 

彼女にその気があるかは定かではない。でも状況は実質的に人質を取られているようなものだ。これ以上回答を遅らせればかすみに何をされるかわかったものではないという危機感があった。

 

「……わかりました。でも、正直期待してる程のものじゃないと思いますよ。気に食わなかったからってかすみさんに何かするのはやめてくださいね」

 

降参だ。吐き出した溜め息で白旗を示す。

 

こうなっては仕方ない。背に腹は代えられないとも言う。ここで折れるべきはしずくだ。

 

それに憂いが無くなったというのも事実だ。この不遜な宇宙人にどう思われようがしずくの日常に影響はない……だから、これで終わる物語だ。

 

「私は―――、」

 

「おい」

 

その筈だったのに。

どうして現実というのは、物語のように予定調和に進まないのだろうか。

 

「お前……何やってんだ」

 

刃物の如く鋭い声音に、一瞬誰であるのかと錯乱する。主は大凡予想は付いていたが、それでも認識するのに時間が掛かった。

 

「おお怖い。正義の味方は随分とご立腹だな」

 

「……余計な真似すんなって言った筈だろ」

 

「余計かどうかは私が決めるともいった筈だ。お前こそ横入りは遠慮してもらいたいな」

 

恐らく、スクールアイドル同好会で最も彼と仲が悪いのはしずくだろう。今日までに互いについた悪態の数々は記憶に焼き付いている。

 

でも、今目の前にある雄牙の纏う空気感は……そのどれとも合致しないものだった。

 

「いいから答えろ。この馬鹿に何した」

 

「そうかっかするなよ。コイツとの対話に邪魔だったから少し眠ってもらっただけだ。別に変なことはしていない」

 

「対話……?」

 

「ああ。互いが互いを探る駆け引き……だが、無粋な横槍で興も冷めたな」

 

含んでいた熱を一息で吐き出すと、オグリスは押し付けるようにして眠ったままのかすみの身体を雄牙へと預ける。

 

「おい……!」

 

「ソイツのことなら心配するな。大した暗示ではないからすぐにでも目は覚ます」

 

ひらひらと手を振る少女の姿が光と電子音の波の中に消えてゆく。どうやらまたアトラクションに興じるつもりらしい。またも気ままな嵐に巻き込まれた者達だけがその場に残存する。

 

「……何か知ってるんですよね」

 

その爪痕は大きくて。

広がってゆく亀裂を修復する術も、留める術すら知らないまま、しずくは込み上がる感情のままに雄牙へと喰らい付いた。

 

「何なんですかあの人は……あなたは、一体、何を隠してるんですか……?」

 

何かある。この二人には、到底見過ごしてはいけないような何かが。しずくの勘が最大級の警戒を以って吠えている。

 

「……お前には関係ない」

 

「こんなことされて関係ない訳ないじゃないですか……かすみさんが―――、」

 

「お前がすぐに答えてれば済む話だっただろ」

 

「っ……、見てたんですか……? 知ってて、こうなるまで見過ごしてたんですか?」

 

返答はない。沈黙は肯定だった。途端に沸々と熱いものが煮立っていくのを感じる。

 

「……止めるタイミングを見誤ったのは謝るよ」

 

本気で怒っているというのに、見下ろされる視線は冷ややかだった。

短い謝罪を置き土産に雄牙も踵を返すと、オグリスの後を追うようにして消えてゆく。

 

「……悪いけど中須は任せる」

 

「ちょっと待ってくださいよ……ねえ、瀬良さん!」

 

怒号に近しい糾弾で射貫こうとも、彼が踏み止まることはない。最終的に残されたのは何も知らない哀れな道化だけだ。

 

「何なんですか……本当に……!」

 

自然と作っていた握り拳は、震えていた。

 

 

***

 

 

『……なあ、雄牙』

 

(……なに)

 

『しずくも言ってたが……どうして、あの時点でオグリスを止めに行かなかったんだ?』

 

再びどこかへと向かったオグリスを追跡する折、タイガの零した問いにようやく足を止める。

 

(大したことじゃないよ。……ただ、アイツの答えが気になっただけ)

 

『答えって……しずくのか?」

 

(……そう。アイツがなんで自分を隠してるのか……って)

 

仮にもウルトラマンとなって戦うことを選んだ者として、この選択が咎められるべきものなのかもしれない。あの状況で瀬良雄牙としての好奇心を優先してしまったのは事実なのだから。

 

(もっと早く止めるべきだったよな……ごめん)

 

『結果として何もなかったんだ。だったら俺からは何も言うことはないさ』

 

(……ごめん)

 

全てが軽率だった。特にしずくとの間に走った亀裂は致命的なものだ。

 

ウルトラマンとしても、同好会の一員としても、何一つ上手くこなせていない。苛立ちと焦燥ばかりが蓄積していった。

 

『あんまり思い詰めんなよ。それより、今は目の前のアイツだ。……もし奴の言うトレギアが俺の知るトレギアなら……思っていたより事態は深刻だ』

 

(そういや聞きそびれてたけど……何なんだよ、そのトレギアって)

 

『……そうだな。まだ本当に奴と決まった訳じゃないが……話しておくに越したことはないか』

 

一拍の後、タイガは語る。

 

『奴は、トレギアは―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の闇市はいつもに増して陰鬱な、気分の悪い湿気が漂っていた。

 

情報を寄越した宇宙人の導きを受け、進んだのは流れ者の巣窟の、奥の奥。とある犯罪シンジゲートの仕切る取引場に、男の姿はあった。

 

『……貴様が件の闇商人か』

 

『……申し訳ありませんが、取引目的でないお客様はご退場を―――、』

 

「構わないさ。私の客人だ」

 

話ではこの場の元締めであるというマーキンド星人を静止し、男は昂貴と向き直る。相も変わらず、アオイを屠ったあの日と同じ装い、同じ薄ら笑いを張り付けていた。

 

「まさかここまで早く接触してくるとはね……少々予想外だったことは認めよう。それで、何の用だいU-40」

 

『それは貴様が一番わかっているのではないか?』

 

今この肉体を動かすのは昂貴の意志ではない。表に出たタイタスの人格だ。主導権の譲渡を好ましく思っていない彼でさえ、この瞬間ばかりは交代を申し出てきた。それ程の相手だということだ。

 

『始めから気付くべきだった……我々ウルトラマンの周囲にいる人物を狙う手法、連携組織との通信を遮断する手口。そして何より、貴様の飼い慣らすその邪神』

 

尻尾を掴まれた形になるというのに、男の態度が揺るぐことはない。

それどころかタイタスが一言一句を紡ぐ度に笑みを更に深くしてゆく。こうして対峙しているだけでも情緒を掻き乱されるような感覚があった。

 

『ゼロやニュージェネレーションズによって討たれたと認識していたのが全ての間違いだった。貴様は何らかの手段で生存し、光の国の者が降り立つ瞬間を狙い暗躍を続けていた……大方、筋書きはこんなところか』

 

けれども今更止まれはしない。既に賽が投げられたのなら、その腕を振り抜く他に道はないのだ。

 

戒められしこの、名前と共に。

 

『そうだろう―――ウルトラマントレギア』

 

 




という訳で、何と例の男の正体はあのウルトラマントレギアさんでした(周知の事実)

前作を読んでいない方へ向けて軽く説明すると、この作品時空におけるトレギアは前作ゼロライブの終盤に登場し、ゼロやニュージェネレーションヒーローズによって打ち倒されています。ですがどうしてか存命しており……

オグリスもオグリスで大暴れな今回の話は三話で収まらなかったのでもうちょっと続きます(致命的な計画ミス)

それでは次回で~
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