トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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まだまだ個人回は続くぜ

今回は耀君視点のお話です


38話 瞳に星の輝きを 前編

 

「彼方ちゃん、ふっか~つ!」

 

柔らかな芳香が賑やかさを運び込む。

セグメゲルの一件で床に伏していた彼方が無事退院し、この時の同好会に満ちるのはようやく戻った本来の光景への祝福だ。

 

……それだというのに。

 

「……なんかそういう雰囲気じゃないね。ひょっとして彼方ちゃん、お邪魔だったかい?」

 

「いや……こっちの問題だから気にすんな」

 

空気を乱す上級生二人に、耀は神妙に寄せた眉を向ける。

雄牙に昂貴。先日同好会の皆で遊びに行った際に起きた一連の事件を経て以降、この二人はずっとこんな調子だった。

 

昂貴は崩壊したシェルターの後処理、雄牙は指輪の影響か連日の体調不良と、両者共に疲労や心労が伺える。とても高校生とは思えないような酷い顔が並んでいた。

 

(……特別、変わった様子は見れないけど)

 

本人に悟られぬよう気配を消しつつしずくに目線を寄せる。しずくにタイガの正体であるとバレてしまった、というのがあの日雄牙にされた話だった。恐らくはそれも雄牙の調子を狂わせている一端なのだろう。

 

以降時折しずくを観察しているが、何か態度や仕草に変化があったかと問われればそうではない。むしろ不思議なくらいにいつも通りだ。

 

同じく雄牙がタイガであると知っているというせつ菜はまだわかりやすいのだ。雄牙本人との接し方だったり、有事の対応などで見て取れる。でもしずくにはそれがなく、元々彼との交流が少ないというのも相まって全くその変化が伺えない。

 

これも演劇に携わる者の成せる技なのだろうか。

 

『そもそも正体バレすぎなんだよアイツは。十年も隠し通したこの俺をちったぁ見習えってんだ』

 

(まあ、先輩のは理由が理由だから……)

 

トレギアにオグリスと、雄牙の正体が露見する場所には必ずどちらかがいた。運が悪いというか、まあ一概に彼を責められないのは事実だ。

 

だが少々知られ過ぎなのもまた事実。耀達のことは明かしていないとの話だったが、この分ではバレるのも時間の問題だろう。

 

「え~……少し話しにくい空気感ではありますが……」

 

ホワイトボード前に立ったせつ菜に注目が寄る。そうだ。部員全員が集まれるタイミングで話したいことがある、なんて言って朝から皆を招集したのはせつ菜だったか。

 

前置き含め白の中に線を走らせる姿に何となくデジャヴを覚えつつ、やがて書き終えられた文字に耀は目を細めた。

 

「私達同好会の、お披露目ライブをやりたいと考えています」

 

耀以外にも、勿論せつ菜も含めて、数名の表情に苦いものが浮かぶ。微妙な反応を示すという点では全員に共通していた。

 

それもその筈。お披露目ライブとは、かつての同好会が崩壊した理由なのだから。

 

「……一応、理由を聞いてもいいかな? ラブライブも近いのにどうしてこのタイミングで……」

 

「このタイミングだからこそです。今同好会にいらっしゃるメンバーの中には、まだ人前でライブを行ったことがないという人が殆どです。なので一度、せめてもの経験でステージというものを知っておくべき……私はそう考えました」

 

エマの問いにせつ菜は理路整然と答えた。筋は通っている。初めてライブを行うステージが全国大会でもあるラブライブ……というのはハードルが高いだろう。

 

「確かにそうだよね。愛さん達まだライブしたことないし……」

 

「いきなりおっきい舞台に立ったせいでガチガチに緊張して大失敗したら、それこそ立ち直れないかもね~」

 

「想像するだけで震えちゃう。璃奈ちゃんボード˝ぶるぶる˝」

 

皆も少なからずは思っていたことのようで、賛同までとはいかずとも、共感を示す声は多かった。

 

しかし別な問題もある。ラブライブの予備予選まではもう一か月も残されていない。それまでに別のライブの準備もするとなると少々どころじゃない苦労があるだろう。

 

「一応聞いていいかしら、せつ菜。流石に予備予選までの時間に別の曲も用意するのが厳しいことはわかってるわよね」

 

「ええ。ですのでもしお披露目ライブを行うのなら、披露する楽曲は予備予選で歌うものと同じ曲になると思います」

 

「ってことは、ラブライブで披露する曲は未発表の曲に限る……みたいな制限はないのね?」

 

「過去にはそういう規定があったようですが、今は特に設けていないそうです。勿論、予選で披露した曲を本選でも……というのは認められないそうですが」

 

「あれ、そうなんだ。てっきり新曲じゃなきゃダメなんだと思ってた」

 

「……˝怪獣頻出期˝に入ってから出場自体を見送るグループも多くなったらしいからな。大会そのものを維持する、って理由で昔に比べるとその辺の規定は緩くなってるんだと」

 

「はい。私達のような正式な部活動ではない同好会がエントリー出来るのもそのおかげです」

 

雄牙の句を継ぐ形でせつ菜が語る。

 

多くの怪獣災害が発生するようになった今の時代を世間では˝怪獣頻出時代˝と呼んでいる。

 

その影響は大きく、特にウルトラマンゼロが姿を見せなくなり、人類を守る存在がいなくなった最初の数年は酷かったらしい。社会活動自体にも影響を来し、大半のエンタメ行事は自粛を余儀なくされていたと聞く。

 

ラブライブというスクールアイドルの祭典も例外ではなく、開催を中止せざるを得なかった年もあったとせつ菜は説明した。

 

当然それに伴ってスクールアイドルブームの勢いも失われていった……雄牙の言った通り、今の規定を緩めた体制には出来るだけ多くの参加者を募ってラブライブそのものを存続させる意図もあったのだろう。

 

「少し、話が逸れてしまいましたね。空気を重くしてしまい申し訳ありません」

 

「そんなことないよ。私そんなこと全然知らなかったから……教えてくれてありがとう」

 

「そう言って頂けると幸いです。……本題の方に戻りましょうか。お披露目ライブをどうするか―――、」

 

「いや、今の話聞いてやらないとかいう選択肢あるん!?」

 

言いかけたせつ菜へ食い気味に愛が詰め寄る。大半のメンバーが彼女と同じ反応を示していた。

 

「やろうよお披露目ライブ! ちょっとでも多く愛さん達がライブして、ちょっとでも多くスクールアイドルのこと知ってもらえたら、それだけラブライブも盛り上がるってことじゃん! 滅茶苦茶楽しいじゃんそんなの!」

 

「予備予選とは言え、ラブライブの舞台で下手なパフォーマンスは見せられませんもんね! 練習の場所としてもぴったりです!」

 

「あぁ~! だったらかすみんにいいアイディアがありますよ!」

 

思い出したように声を上げたかすみが部室の隅から何かを持ち出し、勢いよく机へと乗せる。

 

それは段ボールの箱だった。何の変哲もない段ボールの箱。側面部には顔や髪と思しきものが描かれ、下面部からもデフォルメされたような身体が生えているという点を除いては。

 

「かすみちゃん、それは?」

 

「かすみんBOXです! 本当はかすみんへのファンレターを募集するポストとして秘密裏に用意してたんですけど……そういうことなら協力しちゃいますよ! お披露目ライブの感想とか意見とか色々寄せてもらいましょう!」

 

「応援してくれる人の声が直接届くってこと? とっても素敵だよ~」

 

「いいアイデア。学校の中に限られちゃうけど、それでもモチベーションの後押しが見込める。かすみちゃん、ぐっじょぶ」

 

「でしょでしょー? もっと褒めてくれてもいいんだよりな子~」

 

特に決定を告げる声が上がった訳ではないが、いつの間にかお披露目ライブを決行する流れに空気が定まりつつある。これには提案した筈のせつ菜も気後れするように目を丸くしていた。

 

「それじゃあお披露目ライブもバッチリ成功させて、ラブライブへの勢いも付けて行っちゃいましょー!」

 

気付けば完全に乗っ取られ、かすみの号令に続いて複数名が腕を突き上げる。目指す場所はバラバラとは言え、スクールアイドルに対する想いという点では心は一つであるように見えた。

 

「……応援してくれる人、ね」

 

ただ、一人を除いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、璃奈ちゃんはどんな曲を歌うか決めてるの?」

 

そして放課後。

朝にこそ集まりはしたが今日は同好会も休みの日。自主練を行う者以外は帰路についていた。耀と璃奈もその内の一人、いや二人だ。

 

「この前のイベントで披露するつもりだった曲をアレンジした。皆に協力してもらったから、最初のライブはあの曲でいきたかった……拘り過ぎて殆ど別物になっちゃったけど」

 

「それだけ気合入ってるってことでしょ。きっと皆にも伝わるよ」

 

曲自体は当日まで秘密にしたいのか耀にすら練習姿を見せてはくれないが、振り付けや体幹トレーニングを反復する様子からも十分にそのやる気は伺える。実際にライブとして披露される日が楽しみだ。

 

「それで、行きたいところってどこなの?」

 

「アニメショップ。スクールアイドルのグッズもあるところ。衣装とかももう少し拘りたいから、参考にしようと思って」

 

学校から少し離れた海浜公園へと続く道。商業施設の立ち並ぶビル街の一角に璃奈は用があるらしい。

 

先日同好会の皆と遊んだ施設の近くではあるが、耀自身はあまり足を運んだことのない場所だ。そもそもこの場所にアニメショップがあること自体知らなかった。

 

「ここ。前にせつ菜さんに教えてもらった」

 

「へぇ~。学校の近くにもあったんだね」

 

やがて辿り着いた看板は耀も見知ったものだった。たまに璃奈と一緒に行っている秋葉原や池袋でもよく目にする有名なショップ。お台場にも店舗を構えていたのは初耳だったが。

 

「璃奈ちゃんはどんな衣装をイメージしてるの?」

 

「内緒。当日までのお楽しみ」

 

いつもに増してガードが堅い。どうやら耀が思っている以上に璃奈も気合いを入れているらしい。

 

ならばもう何も聞くまい。今はただ璃奈が存分にライブへ集中できるよう全力を尽くすだけだ。

 

「……ん? あれって……」

 

「果林さん……?」

 

固めた決心に従って暫く璃奈に付き添っていた折、店内の一角に見知った顔を見かけ足を止める。

 

「あら、奇遇ね二人共。こんなところで珍しいじゃない」

 

「いや、それはこっちもというか……」

 

「意外。果林さん、こういう場所にもくるんだ」

 

ここはアニメショップだ。スクールアイドルコーナーも併設しているとはいえ、そんな場所で果林と鉢合わせるのは予想外も予想外だ。大人びた印象の強い彼女とはかけ離れた場所なのだから。

 

「今日の現場に向かってる途中に目について、ちょっと寄り道しちゃったのよ。丁度スクールアイドルについて知りたいこともあったし」

 

どこかのグループが印刷されたキーホルダーを手に取って果林はくすりと笑う。彼女は有名な雑誌の読者モデルを務める、ある種の芸能人でもある。口ぶりからして今日も仕事があるのだろう。

 

「……って、もうこんな時間。そろそろ行かないと。邪魔してごめんなさいね。また明日ね」

 

そう判断した通り、軽い会釈を済ませた果林はコーナーから離れてゆく。遅れそうなのか勇み足ではあるものの、やはりその挙動は様になって思えた。

 

が、そんな彼女が入り口付近で急に静止する。そして暫くスマホと周囲を見回した後、今しがた別れたばかりの耀達に向き直ると―――、

 

「この建物の場所……知らないかしら?」

 

 

***

 

 

「やだこの子可愛い~!」

 

「果林が仕事場に男の子連れてくるなんて……もしかして彼氏?」

 

「い、いや……僕はただの部活の後輩で……」

 

何がどうしてこうなったのだろうか。

 

果林の今日の仕事場だという建物に辿り着いてから一時間程経過しただろうか。その高級感溢れる装いに委縮する耀を次に襲ったのは、年上のお姉様方からの猛烈な愛撫だった。

 

「普通それだけじゃ連れてこないって。やっぱりなにかあるんじゃないの?」

 

「え、や……その……!」

 

今自分に群がっているお姉様方は果林の仕事仲間であるらしいが、流石読者モデルに選ばれるだけあって果林に負けず劣らずの容姿が並んでおり、何かいい匂いもする。

 

加えてプロポーションだ。豊満な何かが絶えず押し付けられるこの状況は高校に進学するまで璃奈以外ロクに女子との関りが無かった耀には刺激が強すぎる。

 

「これが格差……璃奈ちゃんボード˝絶望˝」

 

その璃奈も同じく玩具にされており、深い影を落としながら弄ばれていた。どうにかして助けに行きたいのだが、先程からされるがままでそれどころではなかった。

 

「はいはいそこまでよ。あんまり私の可愛い後輩で遊ばないであげて」

 

結局は撮影を終えた果林が戻ってくるまで解放されることはなかった。生まれたての小鹿のように震える璃奈が背中に張り付いてくると同時に、耀にも途方もない疲労感が溢れ出てくる。

 

「あはは、ごめんね二人共。ホントは道に迷った果林をここまで連れてきてくれたんでしょ? わかってたけど可愛くてついつい……」

 

「初めての場所だったからどうせ迷ってるんだろうな~とは思ってたけど、まさか部活の後輩に道案内してもらうなんてね」

 

「果林、大人ぶってるけど結構抜けてるとこ抜けてるもんね。方向音痴だったり、勉強できなかったり、整理整頓苦手だったり」

 

「……その辺にしておいてもらえるかしら」

 

流れ弾を喰らい、耳まで真っ赤に染め上げた果林が縋るように同僚達を制止した。流石は同僚と言うべきか、こんなタジタジな彼女は初めて見る。

 

「ごめんなさいね。道案内させた挙句、この子達の相手までさせちゃって。お詫びに何か甘いものでも御馳走するわ。帰りましょ」

 

最終的に白旗を上げ、逃げ出すように耀達を連れてこの場を後にしようとする。そんな果林を彼女達も小さくを手振って見送った。

 

「じゃあね果林。璃奈ちゃん達もまたおいで。スクールアイドル、頑張ってね」

 

去り際に届いたエールに果林の口元が確かに緩んだのを、耀は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めてごめんなさいね。変なことに付き合わせちゃって。疲れたでしょ?」

 

「まあ……疲れたのは事実ですけど。でも普段なら絶対に入れないような場所だったので新鮮でした」

 

「ふふ、そう言って貰えると嬉しいわ」

 

アンティークだとかヴィンテージだとか言うのだったか。高級感溢れる装飾が施された喫茶店の中で、耀は運ばれてきたケーキを口に運んだ。イチゴの酸味とクリームの甘みが絶妙なバランスを保って喉と鼻腔を吹き抜けてゆく。魅惑的な味だ。

 

この如何にもお高そうな甘味は果林からの御馳走だった。一度は遠慮したのだが、迷惑を掛けたからと言って無理矢理押し切られてしまった。曰く大した値段ではないらしいが十分な贅沢だ。

 

「それと今日見た私の情けないところなんだけど……出来れば、同好会の皆には内緒にしてくれると嬉しいわ」

 

成程、口止め料の意味もあるらしい。ちゃっかりしている。

 

「果林さん、いつもあんな場所で仕事してるの?」

 

「いいえ。普段は決まったスタジオで撮影してるのだけど、今日は特別。別の雑誌とのコラボ企画だったらしくてね。それで向こうのスタジオでの撮影だったの」

 

「それが理由で迷ったと」

 

「人が気にしてるところに遠慮がないわね耀君。まあ事実なのだけど……」

 

「地図アプリなら目的地までの道筋は出るし、ナビゲートしてもらえる機能もある。使えばいいのに」

 

「使っても迷うのよねぇ……本当不思議だわ」

 

「……こっちのセリフ」

 

首を傾げる果林は如何にも己の感覚に自信があり気と言った様子で、絵に描いたような方向音痴の典型例だった。恐らく地図は見ていても要所要所での確認が不十分なのだろう。

 

「まあでも、方向音痴も悪いことばかりじゃないわね。道に迷ったおかげで、こうしてキミ達とお茶出来てる訳だしね」

 

紅茶のカップを傾けた果林は店の雰囲気も相まって絵になると感じる。最も直前のやり取りと今の言葉で暴落した印象がそれを阻害するのだが。

 

「……そう言えば、モデル仲間の人達にもスクールアイドルやってること知って貰えてるんですね」

 

「ええ。私は一言も教えてないのに、何処からか嗅ぎ付けてきたみたい……おかげであれこれ聞かれて大変だわ」

 

「迷惑なの?」

 

「まさか。むしろ応援して貰えて嬉しいくらいよ。その気持ちには応えたい」

 

零れた言葉に嘘がないのはわかる。けれど含みがあるのもまた確かだった。

 

「……だからこそ、わからなくなるの」

 

反語の後、果林は真っ直ぐに正面を見つめた。パンケーキを頬張ったままの璃奈が硬直する。リスやハムスターのようでとても可愛らしいが今は目の前の先輩を注視した。

 

「……璃奈ちゃんは、どんなスクールアイドルになりたいの?」

 

やがて紡がれた問いは既に答えが出ているものだった。だからこそ口の中のパンケーキを飲み込んだ璃奈は間を空けずに返す。

 

「私は、皆と繋がれるスクールアイドルになりたい。言葉とか表情で上手く伝えられない想い……応援して貰えて嬉しいっていう気持ちを目一杯に伝えられる。そんなスクールアイドルに」

 

「……素敵な目標ね」

 

感情を表現するのが苦手な璃奈にとってスクールアイドルはある種の救いでもあったのかもしれない。だから彼女が明確な目標を持ってその活動に取り組めているのは素晴らしいことだ。

 

でもそんなことは果林も知っている筈だ。中止になってしまったとは言え、彼女もまた璃奈の気持ちに応えてライブの手伝いをしてくれた一人なのだから。

 

だから今の問いは、きっと果林自身に対するもの。

 

「果林さんは決まってないの?」

 

「まあ……そうとも言えるかしらね」

 

同じくそれを理解したらしい璃奈の問い掛けへの回答は煮え切らないものだった。

 

「漠然とどんなステージにしたいかっていうイメージはあるのだけれど、私自身が何を表現したいのか、どんなスクールアイドルになりたいのかは……正直、まだわからないわ」

 

一体今日だけで何度果林への印象が変わっただろうか。

 

クールで、ドライで。いつも一歩引いた場所から物事を眺めている彼女だが、その芯には他の皆に負けないくらいの熱いものが流れている。こうやって自分自身について悩んでいるのも、この人が応援してくれる人を得たスクールアイドルであるからだ。

 

「果林さんは」

 

それが故だろうか。

タイプは正反対である筈の果林の姿勢に、耀はここにはいない愛の姿を幻視した。

 

「果林さんは、どうしてスクールアイドル同好会に入ったんですか」

 

かつて愛に向けたものと同じ疑問を投げ掛ける。深い意味はない。ただ、あの人と同じものを感じたから。

 

「楽しそうだったから」

 

次の返答に澱みはなかった。純然たる果林の本心だ。

 

「同好会の話をするエマや彼方がとっても輝いて見えて、何より楽しそうだったから、私もやってみたいと思った。だからせつ菜探しにも協力したし、同好会にも入った。……ただそれだけよ」

 

ちょっとだけ顔を赤らめた果林に、耀はどこか安堵を覚えるような感覚があった。

 

やっぱりそうだ。この人は愛に似ている。性格も立ち振る舞いも何もかもが違うけれど、楽しいことがしたいという根本的な部分は一緒だ。

 

そして何より……一緒にいて、心が温かい。

 

「柄じゃないわね、こんなこと言うのは。幼稚な理由でガッカリした?」

 

「いえ……そんなことないです。とっても素敵な理由じゃないですか」

 

「楽しいって気持ちは大事だと思う。私もそうだから。確かにスクールアイドルは手段でもあるけど、それ以上に楽しいからやってる。そうじゃなかったら続いてない」

 

璃奈や果林だけじゃない。同好会の皆……いや、全てのスクールアイドルにとってもそうなのだろう。

 

目的や理由は多々あれど、根源にあるのはただ一つの単純な輝き。楽しいから、楽しそうだから。始まりはいつだって、その心である筈だ。

 

「……果林さんは今、スクールアイドルをやってて楽しいですか」

 

「勿論よ。楽しくない訳ないじゃない」

 

「だったら今は、それでいいと思います。果林さんがスクールアイドルを楽しんでる気持ち……それはきっと、応援してくれる人にも伝わりますから」

 

確証を持って言える。他でもない、今隣にいる大切な人がそうなのだから。

 

果林がこの先、どんなスクールアイドルを目指していくのかはわからない。でもきっと彼女なら素敵な輝きを見つけられる。そんな気がした。

 

「……素敵なボーイフレンドね、璃奈ちゃん。ちょっと羨ましいわ」

 

瞳に穏やかな熱を差した果林の表情は、幾分か朗らかなものになっていた。少しでも力になれたのなら何よりだ。

 

「ありがとうね耀君。ちょっとスッキリしたわ」

 

残された紅茶を飲み干すと、果林は席を立った。丁度耀達も配膳の品を完食した頃だった。

 

「色々お世話になっちゃったわね。お礼は、ライブのパフォーマンスで返すわ」

 

「楽しみにしてます」

 

「私も。璃奈ちゃんボード˝わくわく˝」

 

同好会に所属したのは璃奈がいたからだ。でもそれは決して他のメンバーに興味がない訳じゃない。

 

ここで出会った人達は本当に魅力的だ。皆が目指す理想……その輝きは耀だって、見届けたいのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれが、フーマか」

 

談笑しつつ退店していった少女達を眺める男がコーヒーを呷った。流れ込む苦味が思考をクリアにしてゆくのがわかる。

 

「まさかウルトラマンがあんなガキに憑依してるたぁな……どうりで見つからねぇ訳だ。手間かけさせやがって」

 

計画に支障はない。女だろうが子供だろうが、依頼とあらば何人もこの手で屠ってきたのだから。今更掛ける情などない。

 

仕事は必ず成し遂げる。それが殺し屋―――ガピヤ星人˝カイン˝なのだから。

 




という訳で果林さん回です

ラブライブ周りの設定はアニガサキの方で明言された「同好会では出場できない」という制約をどう突破するかを考えた末の形です。だって書きたいじゃん、ラブライブ

そして最後。なーんかまた不穏な影が見え隠れしてますねぇ……
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