トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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はい、お久しぶりです

サボってる間にA・ZU・NA LAGOONとか超英雄祭とかAqoursEXTRAとかデッカー最終章とか色々行ったり見てたりしてましたが基本的には一次の方に取り組んでおりました。来月には普通に復帰する予定です


40話 瞳に星の輝きを 後編

 

白や桃色で構成された虹ヶ咲学園の一室。消毒液の独特な芳香が鼻腔を刺激する空間を不法占拠する二名の男子生徒は、重苦しい表情を固定したまま向き合った。

 

「……すまねぇ。油断した訳じゃねぇが……してやられた以上は俺の失敗だ。その尻拭いをお前等に押し付ける形になったのも悪く思ってる」

 

『ま、面倒事ってのは確かだが……聞く限りじゃ理由は俺だ。お前のせいじゃねぇ』

 

突然襲撃してきた宇宙人に果林が攫われた。連絡を受け学校の保健室に急行した耀に語られたのはそんな報告だった。

 

最初こそ戸惑ったが、深刻味を帯びた昂貴の顔や、気を失った状態でベッドに横たわっている彼方とエマを見れば現実に起きてしまった事件であるとすぐに飲み込めた。

 

『……フーマ。カインという名に心当たりは?』

 

『ねェ。殺し屋なんざに恨みを買われるような真似はしてねぇよ……あるとするなら依頼者の方だ』

 

『……と、言うと?』

 

『……旦那には関係ねぇ奴等だ。ともかく、標的が俺だってんなら流石に巻き込まれた嬢ちゃんに忍びねぇ。ぱっぱとぶっ飛ばしてくる。行けるか、耀』

 

「うん。絶対に助けないと」

 

どういう意図で果林を攫ったのかは不明だが、悠長に身構えるには用いた手段があまりにも過激だ。奴がどんな行動に出るかわからない以上、対応が遅れる程に彼女へ加わる危害の可能性も増大する。

 

それに狙いは自分達だという……そう考えると急がない選択肢はなかった。

 

『そんで、その誘拐犯は今どこだ』

 

「……ここだ」

 

フーマの問いに答える形で昂貴が掲げたのはタブレットのような薄型デバイスだった。見たところ地球上の代物には見えない。恐らくは奴が残していったものだろう。

 

耀が画面に触れると液晶が点灯すると同時に地図が投影される。見た限りこの辺りの地形を映し出しており、その中の一点に赤いマークが存在していた。

 

「日の出埠頭……倉庫群の辺りだな。確かに隠れるには打ってつけだ。場所はわかるか?」

 

「モノレールの駅前のところですよね? たまに璃奈ちゃんと秋葉原とか行く時に見るので覚えてます」

 

「そうか……改めてすまねぇ。頼んだぞ」

 

「……はい」

 

周囲からの印象に反し、この人は一度結んだ情への憂慮は深い。今回の件にも相当の責任を感じている筈だ。そんな彼が動けないのなら、尚のこと耀が動かない訳にはいかなかった。

 

「行こう、フーマ」

 

『おうよ。どこのどいつだか知らねぇがふざけた真似しやがって……ご指名料含めてキッチリ礼は返したらぁ』

 

開かれた扉が閉じるよりも早く。

突風すらも凌駕するような速度で駆けた輝が学園の外へと飛び出し、日常を脅かす敵の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

覚醒した意識が最初に認識したのは肌に伝わる硬い感触だった。ザラザラとした冷たさに閉じられていた瞼を開けば、閉塞感のある暗い倉庫の中で佇む異形の姿が映り込む。

 

遅れて暗転の直前にあった出来事を思い出す。そうだ。エマ達とのトレーニング中にこの異星人が襲撃してきた……気絶していたという事実とこの状況を鑑みるに、恐らくは誘拐されたと判断していいだろう。

 

『よぉ……お目覚めか嬢ちゃん』

 

向こうも果林の存在を認識したのか、ボイスロイドのような音声で語り掛けてくる。徐々にこの暗闇に馴染んでゆく視界が捉えた奴の姿は、やはり仰々しいまでの異物臭を醸していた。

 

襲撃の際にあった昂貴との会話の中では……確か、カインとか名乗っていたか。

 

『んな顔すんなって。別に取って食いやしねぇよ……まあ、気分次第じゃそのままぶっ殺すかもだが』

 

ケタケタと恐ろしいことを言ってのけるカインにどっと脂汗が噴き出してくる。コイツはヤバイ。宇宙人に疎い果林ですらハッキリとわかるほどの狂気を奴からは感じる。

 

逃げる……という選択はきっと得策ではない。

 

平面に回された両腕にある縛り付けられるような感覚は拘束されている証拠。こんな状態で逃走を試みたところでロクに走ることは叶わないだろうし、そもそも万全な状態だったとて身体能力で大きな差を付けられている。どちらにしろすぐに捕まってゲームオーバーだ。今は大人しくしているべきだろう。

 

(……璃奈ちゃんも、こんな感覚だったのかしらね)

 

以前璃奈が宇宙人に攫われたことを思い出す。あの時は三人のウルトラマンによってすぐに救出されはしたものの、それでも彼女の小さな身体を押し潰していた恐怖は相当なものであったはずだ。自分も同じ状況に置かれてみて初めてわかった。

 

助けは見込めるのだろうか。いやそもそもコイツの目的はなんだ。どうして果林を攫った。

 

人間のセオリーで見るのならば国に対する身代金目的や脅迫目的の誘拐が真っ先に浮かぶが、仮に何かそういう目的があるとしても一介の高校生などに目はつけないだろう。

 

一応果林はモデルを務めており、尚且つスクールアイドルの活動もしている関係から一般的な高校生よりはずっと知名度も高いとは思うが……それでもやはり、もっと相応しい人物はいるはず。

 

となると、この蛮行は攫ってくるのが果林である必要があった、ということになる。

 

(わからないわね……)

 

果林自身あまり勉学が得意でない自覚はあるが、それを差し引いてもやはりこの状況が繋がらない。

 

何故自分である必要があった。記憶をフル動員し、存在し得る可能性を片っ端から引っ張り出す―――倉庫の戸が開かれたのは、それと同時だった。

 

『……来たな』

 

「……て、耀君……!?」

 

外の世界から差し込んでくる光の眩さに、暗順応の中にあった瞳は網膜を保護すべく反射的に閉じようとする。しかしその明るさを背負う少年の姿を認識してしまっては見開く他に無かった。

 

「なんでここに……来たらダメ!」

 

『お前は黙ってな……よぉ、一応は初めましてか。律義に来るたぁ感心だ』

 

「……その人を開放しろ」

 

『そう急かすなよ。テメェが大人しくくたばってくれればそれで終わる』

 

羅列された言葉に背筋が凍る。飛び出したそれが誰に向けられたものであるかなど考えずともわかった。

 

理由までもはわからない。けれどコイツは耀を、殺そうとしている。

 

「ちょっと待って! なんで耀君を……!」

 

『キャンキャンうるせぇな……黙ってろってのが聞こえなかったのかよ』

 

果林の声を遮るように甲高い銃声が鳴る。視認は出来なかったが、頭のすぐ真横から上がる硝煙がカインの行動を示していた。

 

次は当てる。そんな狂気がじわじわと拡散している。

 

「果林さん……!」

 

『っと、動くなよ小僧……下手な真似したらこのクソガキの身体がボカンだ。内臓なりなんなりぶちまけて、さぞきったねぇ花火が上がるだろうよ』

 

悍ましさすらあるカインの忠告に上体を前へ傾けた耀が動きを止める。改めて自身を拘束する手錠を確認すれば、何やら物々しい装置が確認出来た。爆弾か何かなのか、ともかく果林は人質、つまりはそう言うことらしい。

 

そして短く笑ったカインは次にその銃口を耀へと向け―――、

 

「ぁぐっ……!」

 

ぱあん、と。一直線に伸びた銃弾が耀の肩を射貫く。直後に上がった血潮が命中を告げる。

 

『カハハ! いい表情(カオ)してくれんじゃねぇーか!』

 

続けて膝、腿、左手と、無機質な鉛玉が後輩の身体を抉ってゆく。銃声の度に歪む苦悶の色が体感したこともないような焦燥と混乱を呼び込んだ。

 

出血性ショックだとか、臓器出血だとか、不穏な単語がぐるぐると頭を巡る。

 

『これだから辞めらんねぇよなこの仕事はよォ! 抵抗出来ねぇ奴をじわりじっくりと嬲り殺す……コイツに勝る享楽はねェ!』

 

「……いい趣味してる」

 

『はっ、何とでも言いやがれ。お友達を拉致られた時点でテメェの負け。恨むんならテメェの中にいる奴と、あのガキを恨むこったな』

 

「うあぅっ……!」

 

「耀君ッ……!」

 

銃弾の種類を変えたのか、次に射出された光弾は耀の眼前で炸裂をしてはその身体を後方へと吹き飛ばしてしまう。

 

ゴロゴロと転がった後輩が、やがて拘束されたままの果林と衝突して止まる。身体中から垂れる血の跡に震え上がるような悪寒が走った。

 

『っと、わざとソイツのとこまで転がったところご生憎だが、拘束具を外そうだなんて考えるなよ? 簡単に壊れるような代物じゃねぇ。外されるよか早く俺が起爆させる。その瞬間テメェごとそのガキもボカンだ。まあ、心中したいってんなら止めはしねぇけどな』

 

「まさか……心中なんてする訳ないでしょ」

 

でも、それでもまだ耀は不敵に笑って。

 

「璃奈ちゃんのステージも、果林さんのパフォーマンスも……他の皆のだってそう。見たい景色が沢山あるんだ。こんなところで終わる気も、終わらせる気もない」

 

『わかんねぇ奴だな。テメェはもう詰んでんだよ。そのガキを守って死ぬか、ガキと一緒に死ぬか、その二択しかねぇ。今更出来ることなんざありゃしねぇよ』

 

「どうだろうね。人質を取らないと僕にすら勝てないくらいだ……何か見落としてるんじゃない?」

 

『あぁ……?』

 

青筋が走る、という表現が正しいのかはわからないが、機械の身体であってもハッキリと判別できるような憤怒がカインに浮かぶ。

 

狙っての挑発であることはすぐにわかった。けれどその意図がわからない。この絶体絶命とも言える状況で奴を刺激して、一体何をしようというのか。

 

「果林さん」

 

何もかもに追いつかない思考に、今度は柔らかな声音で触れてくる。視線を重ねれば確かな意思を宿した瞳があった。

 

「巻き込んでしまってすみません。今更こんなことを言うのは烏滸がましいかもしれないけど……出来れば、この後のことは僕と果林さんだけの内緒にしてくれると嬉しいです」

 

そんな瞳が、今変わる。

包み込むような穏やかさを湛えていた橙色が、荒々しい蒼へと染まる。例えるならば猛獣。剣呑な闘志を瞬かせる狼の姿だ。

 

「フーマッ!」

 

瞬間に駆け抜けた突風。剃刀のような鋭さを以って頬を撫でたそれは目視すら許さない速度で耀の身体を運び、飛び蹴りを繰り出す形となってカインと衝突する。

 

カインも不意を突かれたのか。咄嗟に両腕を交差して防御の姿勢を取るものの、勢いまでは殺し切れずに後方へ弾け飛んだ。

 

『おいおい血迷ったか? そのガキが惜しく―――』

 

『ゴチャゴチャうっせぇんだよこのポンコツサイボーグがよ!』

 

問答の隙すら与えずに叩きこまれた追撃の掌底が沈み込む。負荷を受けた装甲が奏でた硬質な打撃音が薄暗い倉庫に反響した。

 

眼前の光景に理解も、視認も追い付かない。少なからず地球人程度なら難なく殺戮出来るであろう異星人を圧倒する耀の姿に果林はただただ混乱を覚える。

 

『なんでその傷でそこまで動ける……?』

 

『あんなトッロい銃弾、当たる前に全部叩き落してたに決まってんだろうが。傷はテメェを騙すために自分でつけたんだが……ここまで見事に嵌ってくれるたぁ上出来だ』

 

『んっ……だとォ……?』

 

そもそも今目の前にいるのは本当に自分の知っている可愛い後輩なのだろうか。

 

瞳の色が蒼に染まったと思った直後から、耀はその表情も、動きも、口調も、まるで別人かのように粗暴で荒々しいものへと変貌してしまっている。

 

『……ああそうかい。今は()()()なんだな。いくら正義の味方のウルトラマン様つっても、自分が死ぬくらいだったらガキ一人程度犠牲にするってか。カハハ、いいねぇそのクズっぷり。惚れ惚れする』

 

『殺し屋のくせにお喋りな野郎だ……ペチャクチャする前に自分の状況振り返ってみたらどうだ?』

 

どうであれ事態は好転した……かに思われたが、尚も勝ち誇って見せるカインの口調に果林自身の状況を思い出す。

 

今果林を拘束する器具には爆弾が搭載されている。もしカインがその気になれば、いつだって起爆して果林を―――、

 

「え……?」

 

冷や汗が伝うのと、直前まであった筈のソレが消失している違和感を覚えるのは同時だった。

 

『だったらお望み通りにしてやるよ。せいぜいお友達とそのガキに恨まれるこったな!』

 

ただ唯一その事実に気が付いていないカインが高らかに言い放つのと、

 

『―――ぐおォッ……?』

 

いつの間にか奴の左腕へと添えられていた拘束具が爆炎を吹き上げるのもまた同時だった。

 

『たーっく、だから忠告してやったのによォ。人の話はちゃんと聞くモンだぜ?』

 

『ぎッ……テメェいつの間に……!』

 

『いつの間にも何も、ただテメェの目の前で外してそのまま持ち主に返してやっただけだろうがよ。まさか俺に喧嘩売ってくるような奴が見えてませんでした~、だなんて抜かさねぇよな?』

 

果林すらも気付かぬ内に自由になっていた両腕に視線を落としながら、嘲りを秘めた耀の言葉に唖然とする。

 

時間にして十秒にも満たなかった筈の出来事。その間に彼は一連の動作を誰にも悟られることなく完遂したというのか。

 

『さーて、これでテメェの脅迫は何の意味も無くなっちまった訳だが……まだ続けるのかよ』

 

『調子に乗ってんじゃねェ!』

 

激昂したカインが右腕に備わった機関銃から弾丸を乱射する。八つ当たりする子供のように、周囲のものを手当たり次第に傷付ける暴力の嵐が直前までの静けさを打ち壊す。

 

耀も、果林すらも対象とした殺意が撒き散らされていた。

 

『ったく、何でそんだけ沸点低い奴が殺し屋やれてんだか……』

 

が、耀は迫りくる銃弾の嵐を前にしても冷や汗一つ浮かべることは無く。

 

『飛ばすぜ嬢ちゃん……しっかり捕まってな!』

 

「えっ……きゃあぁぁぁっ!?」

 

そのまま果林を抱き上げたかと思えば、台風すらも生温く感じるような風圧が全身を襲う。飛びそうになる意識を必死に手繰り寄せた先で待っていたのは暖かな太陽の光だった。どうやらこの一瞬で外まで移動してきたらしい。

 

『ガアアァァァッッ!!』

 

途端、直前まで自分達がいた倉庫が弾け飛ぶ。爆発の類ではない。建物を凌駕する体躯を持つ何かが内側から迫り出したのだ。

 

正体は複数の単眼が並ぶ顔を持ったサイボーグ、つまりはカインだった。体躯と共に更に膨れ上がった殺意が向けられ、特大の光弾がすぐ目の前で炸裂する。

 

『だぁぁ……しつけぇな。殺し屋なら引き際くらい見極めろってんだ』

 

頭を掻いて苛立ちを誤魔化した耀の右手に出現する漆黒の手甲。日光を反射して照り映えるそれは、記憶の中の巨人達のものと重なる。

 

『逃げな嬢ちゃん。怪我はしてねぇんなら走るくらいは出来んだろ。あんま近くにいられちゃ無事は保証出来ねぇぞ』

 

「ま……待って!」

 

きっと彼はあの暴れ狂う殺人鬼に立ち向かいに行く。察した心は無意識のままに呼び留める声を発していた。

 

「あなた……本当に耀君なの?」

 

今自分はどんな表情をしているのだろうか。

怯えたものか、鬼気迫ったものか。何であるにしろ、日頃の朝香果林からはかけ離れたものであることは確かだ。

 

『はぁ……ぜってーこうなるからやめとけつったのに……。お前が選んだ道だ。だったらお前で決着つけろ』

 

そんな果林に、耀は心底面倒くさそうに息を吐く。果林に向けた声じゃない。耀自身、いや、自分の中に在るもう一人の自分に語り掛けるような響き。

 

「……詳しい話は、事が済んだらちゃんとします。だから……お願いします。今は僕を信じてください」

 

蒼が溶け、再度瞳を満たす橙の煌き。色彩こそ見知ったそれに戻るが、宿る意志だけは何も変わらない。

 

だから……否が応でも理性はその意味を理解してしまう。

 

「一つ……聞かせてくれるかしら」

 

悠長にお話なんてしている余裕はないのはわかっている。でも確かめずにはいられなかった。

 

「君は、どうしてそこに立ってるの?」

 

回りくどい聞き方だとは自分でも思う。もう被る皮も残されていないだろうに、こんな時でも心は朝香果林を演じてしまう。彼の前ではそうしなければいけない気がしたから。

 

「……多分、僕がそうしたいんだと思います」

 

周囲を爆炎と熱気が満たす中、耀は静かに答えを綴る。

 

「璃奈ちゃんも、果林さんも皆、皆自分にしか出来ないことをそれぞれの形で頑張ってるんです。そんな皆に、僕なりに出来ることって、僕しか出来ないなんなんだろうなって、ずっと考えてます」

 

備わったレバーを引かれた手甲が水晶体を中心に眩い光を発する。準じて現れた銀色のキーホルダーを掴み取った彼の口角が柔らかに上がった。

 

「……答えなんてまだ何にも見つかってないんですけどね。……でも、だからこそ僕に出来ることは出来るだけやりたいんです。応援することも、守ることも……僕だって、()()()()()()()から」

 

やがて水色に質を移した光が天へと掲げられる。

 

瞬間に立ち昇った疾風の柱に誘われた身体が浮遊感を纏う。その眩さに閉じてしまった瞼を再度開けた時には、可愛い後輩の顔は勇ましい勇者へと風貌を変えて存在していた。

 

『セェヤッ!』

 

果林を手のひらに乗せたまま飛翔した蒼い巨人は、倉庫街から少し離れた埠頭へと着地する。

下ろされると共に見上げた先で視線が重なった。ゆっくりと巨人が首肯する。

 

「負けてられない……そうね」

 

実感なんて未だに湧かない。眼前の事実を受け止め切るだけの心の準備も全くだ。

 

でも今は、この胸に宿った熱の温度……きっと、それだけで十分なんだ。

 

「君がそうするまでの理由になれてるかなんてわからないけど、君のそんな姿をみせられたら、私も情けない姿は見せられないわね」

 

璃奈、エマ、彼方、同好会の皆……いや、身近にいる自分なりに自分の道を進もうとしている皆と触れ合う中で覚えた、痛いような温かさ。その正体も今ならわかる。

 

答えは単純だった。自分の原動力にはいつだってこの熱があったから。

 

「だから君も……負けちゃダメよ」

 

静かに零した想いは彼の瞳のように淡く瞬き、確かな形を成して渡っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……負けませんよ、こんなところじゃ」

 

受け取った光の熱を直に感じるように胸に押し当てながら、耀は猛る侵略者と向き直った。

 

『……テメェ、˝星間連盟˝の差し金だろ。十年行方を眩ませてた俺が生きてたのを知ってさぞ焦ったんだろうなァ。そんで抹殺依頼を出したはいいが、テメェみたいな残念な馬鹿しか釣れなかった……筋書きは大方こんなモンか』

 

『舐めるのも大概にしろよ青二才が……俺は依頼とあればどんな奴だってぶっ殺してきた! テメェなんざ訳ねぇんだよ!』

 

『あぁ……はいはい。そういうのいいから。ちゃっちゃとケリ付けんぞ』

 

『だから舐めん―――』

 

ひゅるり、と。言い切るよりも早く駆けた風がカインの胴を切り裂いていた。深々と刻まれた斬痕から盛大な火花が吹き上がっている。

 

『は……?』

 

『もし生き残れたんなら星間連盟のアホ共に伝えな。もしまたコイツ等に手ぇ出すってんなら……次にぶっ殺されんのはテメェ等だってな』

 

フーマは口調こそ荒々しいものの、特別沸点が低いとかそういう訳ではない。けれど今この瞬間に彼から伝わる声音には、明確な怒気が含まれていた。

 

それが故に繰り出される攻撃も苛烈を極めている。この域に達していない者が見れば、ただ蒼色の軌跡が宙に描かれているようにしか見えないだろう。

 

カインもまたその一人。フーマが挙動を成す度に増えてゆく裂傷は翻弄されている証拠に他ならなかった。

 

『調子に乗んなッ……˝サクリファス・カインファンクション˝ッ!』

 

『˝列蹴撃(ストライクスマッシュ)˝』

 

軌道の予測には成功したのか、右腕の突撃銃から発したエネルギーを纏っては拳を突き出してくるが、フーマは二蹴で対応。

 

一発目で攻撃を捌き、二発目をカウンターとしてカインの胴に叩き込む。広がった衝撃波が機械仕掛けの身体を派手にぶっ飛ばす。

 

『クッソ……こうなりゃ!』

 

『はぁ……なんで変身すらしてねぇ旦那にすら通用しなかった術が俺に通じると思うかね』

 

次にカインが取った手段は昂貴達を襲撃した際にも用いたという透明化機能だった。宇宙技術の粋、余程上質な代物なのか、奴の姿は完全に消えていると言っていいだろう。

 

だが悲しきかな。技術に技量が追い付いていない。

 

『˝超振動探知(ウルトラソナー)˝』

 

五感を聴覚と触覚に集中させたフーマが四方に音波を散らす。所謂音響定位というやつだ。

 

姿は消せても実体までもが無くなった訳じゃない。証拠に音のレーダーは後方に迫る奴の姿を完璧に捉え―――、

 

『ゼエェェヤッ!!』

 

『があぁッ……!?』

 

スケートのアクセル技の要領で回転を見せたフーマの手刀がまたもカインを直撃。ここで早くも機械の身体が限界を迎えたのか、明らかな不調を示す音声が至る部位から鳴り響き始める。

 

『クソッ……クソがァッ……!』

 

『テメェなんざに割いてる時間が勿体ねぇんでな……そろそろ決めさせて貰うぜ。耀ッ!』

 

「うん!」

 

 

《カモン!》

 

 

果林から受け取った光。

ブレスレットと成って腕に宿った情熱へとタイガスパークを重ねた。

 

 

《ビクトリーレット!》

 

 

《コネクトオン!》

 

 

想い想われ、競い合うことで培われてゆく力が―――金色の輝きを以って顕現した。

 

 

『˝鋭星光波手裏剣(えいせいこうはしゅりけん)˝ッッ!!!』

 

 

フーマの肉体やタイガスパークを介して形を得た光はV字型の鏃となって疾走する。

 

射られた弓矢の如く直進した軌跡が勢いそのままにカインを縦に両断。敢え無く真っ二つとなった暗殺者は、最期に上がった爆炎の中に姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうか……果林もその光を……』

 

『せつ菜一人じゃなかったとなると……やっぱり何か要因がありそうだな』

 

件の襲撃から一週間と少し経っただろうか。先輩達に一連の事情を説明出来た頃には、既にスクールアイドル同好会のお披露目ライブ当日となっていた。

 

雄牙の快調に時間が掛かり、昂貴がトレギアの蛮行の後処理に追われていたこともあるが……それ以上に耀が璃奈の練習に時間を割き過ぎてしまった。戦う責を背負った者の行動としてはあまり褒められたものではないだろう。

 

でも後悔はない。耀が出来る最大限で璃奈の力になれたのなら、それが本望なのだから。

 

「すみません。成り行きとは言え、軽率にフーマのことを明かしてしまって」

 

「気にすんな。任せたのは俺だ、お前は悪くねぇ」

 

「……まあ、大事に至らなかったと思えばな」

 

「流石、定期的にウルトラマンバレする奴が言うと説得力が違うな」

 

「悪かったですね」

 

襲われたエマと彼方も特に怪我を負っていたということもなく、事情も昂貴がそれとなくぼかしたことで詮索されることもなかった。イレギュラーは幕を閉じてまたこれまで通りの日常が再開されつつある。

 

ただ一つ、変わったことと言えば……、

 

「あら、男子三人で集まって何のお話?」

 

ガヤガヤとした喧騒を背負った果林が談合の中へ入り込んでくる。纏う衣類は普段目にする制服ではなく、彼女をスクールアイドルとして舞台へ上げるための衣装だ。

 

「……朝香、お前確かトップバッターじゃなかったか? いいのかよこんなとこで道草食ってて」

 

「だから呼びに来たんでしょう? 私の初ステージ、しっかり見て虜になって貰わなきゃ困るもの」

 

「大層な自信なことで。精々とちらねぇよう気を付けるこったな」

 

「今更そんなミスしないわよ。ほらほら、わかったら早く来なさい。皆も待ってるわよ。()()()()

 

「あ?」

 

呼び名に違和感を覚えたのか、昂貴と雄牙が揃って目を丸くするものの、果林は悪戯っぽく笑ってはそれらを流し残る一人へと目線を流す。

 

「それと……耀君もね」

 

「……はい」

 

変わったことは互いに共有する秘密が一つずつ増えた。ただそれだけの話。

 

やるべきことは何も変わらない。自分は自分なりに出来ることを探して全力で走り抜けるだけだ。

 

だから今は―――、

 

「見てなさい。これがスクールアイドル朝香果林の……パフォーマンスよ」

 

きっと素晴らしいものになる輝きを、この瞳に焼き付けるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――♪: Starlight

 

優美に、妖艶に、情熱的に。ステージに灯ったネオンの光が彼女を照らす。

 

指標が定まった訳じゃない。目指す場所だってまだ不明瞭のままだ。でも、そんな模索も含めて楽しんでいるとそのパフォーマンスは物語っていた。

 

競い合い、高め合う。彼女の心を熱くする日々こそがステージに立つ己を作ってゆくのだと。

 

スクールアイドルとして舞う朝香果林の輝きが、確かにそう宣言した瞬間だった。

 




凄く長い話になってしまった……。ともあれ果林パイセン回はこれにて終わりです

以前にもどこかで言った覚えがありますが、今作のフーマ及びタイタスはタイガ本編の彼等と比べ数段高い実力を想定して書いています。あの程度の宇宙人なら訳ないということですね

正体バレなりなんなり色々起こったお披露目ライブも終了……次回は遂にラブライブ予備予選へと移ります(まあまた個人回なんですけど)
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