トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

43 / 59
急に純度100%の優木せつ菜をぶっこんできたにじよんのせいで危うく逝きかけましたがAqoursEXTRAのおかげで一命を取り留めました

やっぱり声出しのAqoursちゃんは最高なんだようそろなぁ


42話 夢の魔法が消えた夜 後編

 

スクールアイドルが好きな者からすれば、自分の立場は垂涎ものであるのではないかと思うことがある。

 

彼女達と同じ学校で過ごし、彼女達と同じ部室で過ごし、少なからずこの立場で無ければ見られない景色を数多に享受している。

 

今だってそう。多くのファンがステージを前にして初めて体験するであろう彼女達のパフォーマンスをいち早く鑑賞し、見ようによっては独り占めしているとも言えるのだから。

 

「……どうでしょうか」

 

エレキギターを主体としたビートが止み、最後のポージングを決めたせつ菜が肩を揺らしながら問うてくる。

 

自分のパフォーマンスを確認して欲しいと依頼してきたメンバーは彼女で最後だったか。こうして見比べてみると、改めてせつ菜のパフォーマンスは同好会の中でも頭一つ抜けていると実感する。

 

設備で遥かに劣るこのトレーニングスタジオにおいても、まるで実際のライブ会場にいるかのように錯覚させるまでの表現力。

 

活動歴が長いというのもあるのだろうが、やはりそれを成せるのは彼女の圧倒的な情熱があるからこそなのだろう。

 

そんなせつ菜のパフォーマンスにド素人である雄牙が力になれるのか甚だ疑問ではあるのだが……、

 

「此間も気になったとこなんだけど、やっぱりサビ終わりの蹴り上げのところに遠慮がある気がする。一応曲の締めなんだしもっと気持ちよく振り抜いてもいいんじゃないか。単純に見栄えもよくなるし」

 

「……実は迷ってるところではあるんですよね。確かにダンスという点で見るのならそうした方がいいのですが、あまり強く蹴り上げてしまうと歌の方が制限されてしまうので」

 

「あー、なるほどなぁ……」

 

せつ菜のパフォーマンスの特徴は小さな身体に似つかない激しい振り付けもそうだが、何よりも象徴的なのはその圧倒的な声量だ。

 

ここ一番という場面で彼女は自分の気持ちを全身全霊に乗せた歌声を響かせてくる。それこそがスクールアイドル優木せつ菜の根幹であり、数多の心を惹きつける所以だろう。

 

その点で見るのなら、確かに全体を締める終盤でその声量が制限されるというのは彼女の持ち味を殺すことと同義であるとも言える。

 

「蹴り上げるんじゃなくて、横に振り抜く感じはダメなのか?」

 

「横に……こう、ですかね」

 

「そう。あんまり高さは付けられないし、軸もブレるかもだけど多少声は出しやすくなると思う」

 

「そうですね……もう少し検討してみます」

 

若干の応答を経て、せつ菜は自身の振り付けの再確認を開始する。

彼女は本当にストイックだ。ステージに立つ姿だけでなく、日常や練習の立ち振る舞いからもスクールアイドルや大好きに対する熱意が伝わってくる。

 

「悪いな。あれこれ口出す割には具体的な解決案は出せなくて」

 

「いえいえ! そんなことはありませんよ! ステージに立つ以上、客観的に自分のパフォーマンスを評価してくれる人がいるのは大切なことですから!」

 

要望があるのなら応えるが、実際に力になれているのかと問われれば自信は持てないのが事実だ。だからこう言って貰えるだけで幾分か安らぐものがある。

 

「それに、瀬良さんはちゃんと私達のやりたいことや伝えたいことを理解してくれますから……だからこそ、皆さんもあなたに意見を求めてるのだと思いますよ」

 

「……そんな大したもんじゃないよ」

 

「あれ? もしかして照れてますか?」

 

「うっさい。余計な口叩いてないで練習しろよ、時間も無いんだし」

 

「はーい」

 

同好会(ここ)での日々は、久しく遠ざけていた感覚を呼び戻す。

 

何の義務も、憂いも、気兼ねもなく、ただ純粋に目の前の今へと心を下ろす、朗らかな時間。

 

重ねてはいけないと知りつつも、渇いた記憶が側近の熱に面影を求めてしまう。

 

「あの……せつ菜先輩」

 

妙な気分から脱するべく振った頭に届いた声が一つ。

 

「かすみさん……? どうかしましたか?」

 

「練習中にすみません……ちょっと、お願いしたいことがあって」

 

先日に別れたきりであったかすみがスタジオのドアから顔を覗かせていた。しおらしさすら感じる様にはまだ違和感が残留していた。

 

普段ならもっと無遠慮に踏み込んできそうな少女だ。やはりまだ引き摺っている部分があるのかもしれない。

 

「構いませんよ。出来る範囲にはなりますが、精一杯力になります!」

 

幾分か柔らかさを増した表情で応じるせつ菜の反面、雄牙の胸にはざわつくものがあり。

 

直後にそれは、結果として現れることとなった。

 

 

***

 

 

「私のステップを、ですか……」

 

「はい。ダンスの基礎ならやっぱり、せつ菜先輩が一番だと思ったので」

 

戸惑い気味に零されたせつ菜の反芻にかすみは首肯する。

 

練習中であった彼女にかすみが切り出したのは、パフォーマンスの基礎となるステップを教えて欲しいという要求だ。

 

このステップの刻み方一つでパフォーマンスの印象というのは大きく変わる。だから、これまでせつ菜とは正反対とも言えるスタイルを確立していたかすみの希求の意味を、彼女はわかっている筈だろう。

 

「まあ、少し教える分には構いませんが……その……」

 

せつ菜は語末で何か言いたげに口元を開閉し、やがて噤む。

 

自分でも卑怯な手を使っている自覚はある。

 

以前同好会が分裂した一件について、せつ菜が未だに負い目を覚えていることはわかっていた。最も彼女に反発したかすみに対してはより深い罪悪感となっていることも。それが故に、今回の件で最もかすみを気に掛けてくれていたのも何となく察している。

 

だから、かすみの言動の意図がわかっていても強く出てくることは無い。それを理解した上でこうしている。

 

ある種のトラウマを利用するような行為の代償は甘くない。針で刺すような痛みが胸の内に生じるが、仕方のないことなんだと己に言い聞かせた。

 

「……一応、理由聞いてもいいか?」

 

夜を乗り越え、立派にパフォーマンスする姿を見せられればこの痛みも消えてなくなる筈。そんな都合のいい妄想は、挟まったもう一人の先輩の声によって阻まれた。

 

「理由も何も、自分にないものを持ってる人から学ぶのは当たり前だと思いますけど」

 

「や、まあそこに関しては概ね同意だけど……」

 

割って入った雄牙は、どうしてかせつ菜よりも深刻味を帯びた色を含ませて続ける。それどころか怒っているようにも見えた。

 

「流石にわかってない訳ないとは思うけどさ、お前と優木じゃパフォーマンスのスタイルがまるっきり違う。下手に優木を真似てあれこれ取り入れたところで噛み合うとは思えないし、それこそパフォーマンスとして崩壊しかねないだろ」

 

「……つまりなんですか」

 

「予備予選でのライブに取り入れようと思ってるなら、やめとけって話だ」

 

図星を刺され、思わず目線を外す。

 

少し気が逸ったか。やはりせつ菜が一人でいるタイミングで声を掛けるべきだったと失策を呪う。

 

けど既に匙が投げられた以上退くことは出来ない。

 

「別に、どうしようと私の自由じゃないですか。私はせつ菜先輩のパフォーマンスに参考になる部分があると思ったから―――、」

 

「そうか? ただ闇雲にあれこれと手ぇ出してるようにしか見えないけど」

 

かすみの言い訳を遮ってまで押し通してきた声は重い圧と語気を纏っていた。

まるでかすみの意志など耳を傾けるまでもないとでも言いたげな態度。途端に煮え立つような反感が生まれ、即座に表へと顔を出しては食って掛かる。

 

「だったら何なんですか? それでパフォーマンスが良くなるなら越したことはないですよね?」

 

「お前、自分がやろうとしてることの難しさわかって言ってんの? この短期間で正反対のパフォーマンスを一つに落とし込むなんて優木とか朝香先輩でも出来ねぇし、スタイルそのものを変えるってんなら猶更だ。寝言抜かすにしても自分の実力理解してから言えよ」

 

「っ……!」

 

「ちょっ……瀬良さん……!」

 

ぴしりと、抑え込んでいた何かに亀裂が走った。滾る憤怒の溶岩が噴火までの秒読みを開始したのがわかる。

 

落ち着けと横目にせつ菜の表情を伺うが、逆効果に終わった。口には出さないものの、概ね考えていることは雄牙と同じという顔だ。それが最後の引き金となって。

 

「あーもうわかりましたよッ! だったら先輩達には頼らないのでいいです!」

 

可愛さどころか醜さすらある怒声が小さな身体から吐き出される。

もう自分でも何がしたいのかわからなくなって。ぐちゃぐちゃになった感情のまま、かすみはその場から駆け出していた。

 

 

***

 

 

思い切り叩き付けられたドアの鳴らす残響も落ち着いた頃。

 

「……流石に、今の言い方は私も腹が立ちましたよ」

 

「……ごめん」

 

直前まであった藹々とした空気感は、一人の少女の来訪によって変わってしまった。

 

いや、他人のせいにするな。この状況を生み出したのは紛れもなく雄牙。それは抑揚を殺したせつ菜の声音も証明している。

 

「謝るなら私じゃなくかすみさんにどうぞ……すみませんが、片付けだけお願い出来ますか?」

 

「……わかった」

 

かすみを追うつもりなのか、手早く荷物を纏めたせつ菜はすぐに戸口の向こうへと駆けていく。

残されたのは雄牙ただ一人。静寂は嫌いではなかったが、今この時ばかりは息苦しかった。

 

『……お前、かすみに対してはやけに厳しいよな』

 

「だってムカつくし……」

 

『まあ、確かに俺もあんまり得意なタイプじゃないけどさ。……でもなんと言うか、今のお前の苛立ちは、()()じゃないだろ。俺にはもっと、こう……少なからず、そんな単純な言葉で言い表せるようなものには思えなかったぞ』

 

「……」

 

こう、曖昧な情動が曖昧なまま伝わってしまう時が一番面倒くさい。他でもない自分自身が()()であると知ってしまうから。

 

明確に言語化していないのならそれでいいのに。知覚すれば向き合わざるを得なくなる。ぼんやりと、そのままに置いておけば綺麗なままで終わるじゃないか。

 

『多分、せつ菜はなんで雄牙がああしたかわかってる。だから強くは責めなかったんだろうさ。……けど、今のは間違いなくお前が悪い』

 

世界は留まることを許そうとしない。せつ菜も、タイガも。進むことを雄牙に強要してくる。目の前にあるのは仁徳で舗装された一本道だけだ。

 

『……お前が不器用なのは、知ってるけどさ。それでも傷付けてしまったなら、わかってる奴に任せっきりにするのはダメだ。ちゃんとお前なりに噛み砕いて、形にするのが果たすべき責任だと思うぞ』

 

どうせなら、思いっきり責められた方が楽だったというのに。二人していやに優しいのが本当に居心地が悪い。

 

背中を押しているつもりなのだろうか。だとしたら余計なお世話だ。楽だとか綺麗だとかそれ以前に、この感情は曖昧なまま留めて置きたいというのに。それが雄牙の意志だというのに。

 

「責任、ね……」

 

吐き出しかけた想いをどこかへ流すように、短く零した声が淡く、溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かすみさん」

 

遠くへと行ってしまいそうな背中を追い駆けた。

 

スタジオから外部への通路が基本一本道であるというのが幸いしたか。建物の外へと飛び出してすぐの場所にその姿はあった。

 

酷く傷ついて見える彼女へ寄り添うように、せつ菜は蹲る隣へ腰を下ろす。

 

「……何か用ですか」

 

「きちんと、お話すべきだと思いまして。かすみさんについて」

 

手が震えるが、決して声には出さぬよう努める。想起されるのは片時だって忘れたこともない、全てを壊してしまった日の景色。

 

同じことを繰り返すだけかもしれない。また衝突して終わってしまうかもしれない。

 

でも誰かを傷付けたくないのなら、それ以上に傷付けることを恐れちゃダメなんだ。かつて自分を救ってくれた人達に、そう教わったんだから。

 

「あの言い分については瀬良さんが悪いですし、かすみさんが怒るのも仕方のないことだと思います。……けど、あの人は自分の好きに対して不器用過ぎるだけなんです。だから……」

 

「……そんなこと伝えるために追い駆けてきたんですか」

 

「まさか……ただ聞きそびれたことを聞きに来ただけですよ」

 

切り出した話題は沈黙で返された。肯定か拒否かなど図る術はせつ菜にない。けどどうであれ、踏み出した以上は進むしかないんだ。

 

「教えてくれませんか。かすみさんが私のパフォーマンスを取り入れようとした、本当の理由を」

 

決して逸らされぬよう、真っ直ぐに見据えた目線をかすみに固定する。

一度は逃げようと焦点が泳ぐものの、すぐに不可能であると悟ったのか。やがて観念したようにかすみは語り出す。

 

「……パフォーマンスのスタイルをから変えてみようかなって思ったんです。今の私のスタイルじゃ、通用しないってわかったので」

 

「だから私に?」

 

「……はい。身近な人で一番人気があるのはせつ菜先輩なので。なにか参考に出来ないかなって」

 

薄々勘付いてはいたが、こうハッキリと言語化されたものを本人から伝えられるとやはり戸惑いはあるものだ。

 

それも、せつ菜と衝突するまでに己のスタイルに確固とした意地を持っていた筈のかすみから、ともなると。

 

「……厳しいことを言うと、正直、安直過ぎると思います。パフォーマンスは人それぞれに向き不向きがあるので。慢心する訳ではありませんが、私の真似をしたところでかすみさんも同じようにいくとは思えません」

 

「じゃあ私に向いてるパフォーマンスってなんなんですか」

 

「私の見る限りでは、今までのスタイルがそうかと」

 

「でも通用しなかったじゃないですか! それじゃダメだったんですよ……それじゃラブライブで勝てないんですッ!」

 

以前の自分の写し鏡のように、荒んだ声が返される。

 

本当に、今のかすみは何もかもを見失ってしまっている。何がこの短期間でここまで彼女を追い詰めてしまったのかはわからないが、それだけは確かだ。

 

これまでかすみが見せてきた、かすみの理想の本質は、そこには存在しない筈なのに。

 

「本当にそれでいいんですか……? それが本当にかすみさんの望むことなんですか?」

 

「……せつ菜先輩は自分が応援してくれるファンの人がいるからそう言えるんです。私みたいになったら、先輩だって絶対……」

 

「……かすみさんにだっているじゃないですか」

 

きっと、今伝えるべきことでは無いのだろう。でも我慢がならなかった。

 

こんな簡単に捨ててしまえるのなら、()があんなに怒った理由はどこに消えてしまうんだ。

 

「すぐ近くにいるじゃないですか! かすみさんが気付いていないだけで……あんなにもスクールアイドルとしての中須かすみを好きでいてくれる人が! それを―――、」

 

 

 

「レディがそう、声を荒げるものではありませんよ?」

 

 

 

風のように流れ込んでくる声。

思わず口走りかけた吐露を遮ったそれが幸運であったかどうかは定かではない。

 

けど少なからず、その声の主は不吉を齎す存在であると、せつ菜の脳は全力で危険を叫んだ。

 

「あなたは……!」

 

距離を詰めてくる白と黒の悪魔に思わず後ずさる。

 

見紛う筈もなかった。トレギア……いつだかの会話で雄牙がそう呼んでいた男の姿が、前触れもなくそこに現れていた。

 

「やあ、先日ぶりだね。私のことは覚えていてくれたかい?」

 

また自分を嘲りに来たのかと身構えるものの、すぐにその対象が他者にあると理解する。

 

瞬間に全てが繋がる音がした。もしかすみの迷走の裏に、この男が関わっていたとするのなら……、

 

「本来、私自身が直接答えを指し示してしまうのは好きではないのだけれどね……私がより深い混迷に誘ってしまったのなら忍びない。だからここは一つ、私が可能性を示してあげよう」

 

「かすみさん! 逃げッ―――、」

 

言い切るよりも早く。

 

マリオネットを引くように虚空を揺蕩った腕の動きに乗り、かすみのポケットから浮上した指輪が妖しく光り―――膨れ上がった。

 




絶対ライブの後に投稿するような話じゃない件

相変わらずの戦犯ムーブかましてますが本作の主人公は彼です()

けどそれはせつ菜やタイガ曰く、雄牙なりの「好き」があるからこそという話。面倒くささ全開ながらも雄牙が示す好きの正体とは……

そんでまあ変態仮面に関してはお約束ってことで
一旦後編で区切りましたが次回以降も続きますよっと
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。