トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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また更新期間が空きましたモウシワケゴザイマセン……卒論って手強いんですね……。

いつだかに予告しました通りしずく回returnsです。


46話 キミの声は届かない 前編

 

その日の教室には苛立ちが蔓延していた。

 

カチカチ、トントンと一定の間隔で刻まれるシャーペンや机が生み出す負の協奏が次第に肥大化してゆくが、その元凶たる生物教師は気に掛ける様子もなく熱弁を振るい続けている。

 

昼休みを目前に控えた四時限目というのは、学生達にとって重要な時間だ。

 

昼食を確保すべくいち早く購買の競争に参戦したい者。友人との交流に勤しみたい者。単純に授業という時間が苦痛な者。個々に差異こそあれ、昼休みの時間を一秒でも長く確保したいというのは殆どの学生の共通認識であろう。

 

それだというのにこの教師、一向に教壇から退こうとしない。既にチャイムが鳴って二分ほど経過しただろうか。尚も進化論について語る勢いは留まることを知らず、苛立ちと不満感を悪戯に肥大化させる一方だった。最早真面目に話を聞いている生徒はどれだけ残っていることやら。

 

「……」

 

隣の席に目をやる。生徒の模範、優等生の象徴たる中川菜々でさえも、この瞬間だけは解放の時を待つように凄まじい貧乏揺すりを披露していた。

 

時計の針が三分の経過を告げる。いよいよ最高潮に到達しつつあった怨嗟の念が爆発しかけた刹那、終ぞその時は訪れたのだった。

 

「ん……もうこんな時間か。ちょっと話過ぎたな。号令はいいからもう終わりでいいぞ」

 

教師の口から告げられる解放の宣言。瞬間に弾けるように教室を飛び出していったクラスメイトの数は全体の半分を占めていたという。

 

「行きますよ瀬良さん!」

 

「うおぉぉっ!?」

 

当然菜々も例外ではない。生徒会長である手前駆け出すことこそしなかったが、それでも日頃の品行方正な振る舞いなど見る影もない勢いで加速する早歩きが雄牙を掻っ攫って教室を後にする。

 

普段の菜々ならば、例え授業が長引こうと不服を示すことは無いだろう。だが今日この日に限っては彼女を暴走させるまでの理由があった。

 

「すみません! 遅くなりました!」

 

昼食すら摂ることなく雪崩れ込んだのは部室棟、即ち同好会の部室だ。

 

菜々に続いて中に踏み入れば既に自分達を除く全員の顔ぶれがあった。その大半が強張ったような面持ちを見せており、少なからず日頃は感じないような緊迫感が確かに存在していた。

 

「授業が長引いてしまって……」

 

「いいよいいよ~。気にするなやせつ菜ちゃん。それより、これで全員揃ったねぇ」

 

「だね! ……そんじゃあ皆、覚悟はいい?」

 

愛の問い掛けに応じるように首肯する面々。各自の手には同様のサイトを表示したスマートフォンが握られていた。目を引くのは「Love Live!」の文字。

 

そう、ラブライブ予備予選。今日はその結果が発表される日なのだ。

 

「うぅ~……なんで授業のある日、それも授業中に発表なんですかぁ……」

 

「ええ、本当に。おかげで授業も集中できなかったわ」

 

「お前等に関しちゃいつも通りじゃねぇの」

 

サイトの更新時刻は正午丁度だ。既に結果が掲示されてから一時間近く経過している。手を伸ばせば届く位置に結果がありながらお預けにされるのはあまり気分のいいものではないだろう。

 

それでもこうして菜々、及びせつ菜の到着まで皆が待ち続けたのは偏に共に結果を見たいという気持ちなのだろう。

 

「では……行きましょう。せーのっ!」

 

せつ菜が音頭を切り、皆が一斉に自らのスマートフォンをタップする。

 

束の間の静寂が舞い降りる。この息の詰まるような空気感はさながら受験の合格発表の場にいるようだ。差し詰め雄牙達は我が子の様子を見守る保護者と言ったところか。

 

なんてことを考えながら雄牙も少なからずの緊張を誤魔化していると、視界の端で飛び跳ねた影が一つ。

 

「あっ……ありましたぁっ!」

 

「わ、私もです……! 夢じゃないですよね……!?」

 

歓喜に満ち溢れた声を上げたのは―――中須かすみ。続いて雄牙の隣でせつ菜が快哉を叫んだ。

 

両者ともまだ現実味の無さそうにぱちくりと瞳を瞬かせているが、やがてその喜びが爆発したのか。隠し切れない高揚を湛えたまま抱擁を交わした。

 

「やりました……かすみん、やりましたよ()()せんぱぁいっ!」

 

「泣くの早すぎだって。まだ予備予選だぞ。……けどま、おめでと」

 

「おめでとうございますかすみさん!」

 

「うえぇぇ……! せつ菜先輩もおめでとうございますぅぅ……!」

 

まるで優勝したかのように泣きじゃくるかすみを見ていると錯覚しそうになる。繰り返すがまだ予備予選だ。彼女達はやっとスタートラインに立ったに過ぎない。

 

それでも突破したという事実自体は喜ばしいものだ。素直に祝辞を送った自らの口元も緩んでいた。

 

「アタシもあったぁ! ぃよっしゃー!」

 

「あっ……私もあったよ! 果林ちゃんは?」

 

「あったわよ。お揃いね、エマ。彼方は……その様子じゃ心配無さそうね」

 

「ふっふ……彼方ちゃんの本気を見せる時が来たんだぜ……」

 

他の面々に戻した頃には続々と吉報が上がっていた。誰よりも喜びを爆発させる者。当然と言わんばかりに胸を張る者。静かに闘志を燃え滾らせる者。やはり一言に予選突破と言ってもその反応は十人十色だ。

 

ただし、必ずしも喜ばしい結果ばかりではない。

 

ラブライブも勝負事の世界なのだ。勝者が存在するのなら、当然、敗者だって存在する。

 

「……ダメだった」

 

短く零された璃奈の声が、高まるばかりだった室内の熱に穴を空ける。さあぁ、と。誰かの背筋を駆け上る冷たさの音が聞こえるようだった。

 

「璃奈ちゃん……」

 

表情に変わりはない。されど確かに落胆の色を伺わせる璃奈に誰もが掛ける言葉を探した。耀や愛でさえ最適な解を導き出せない、重い沈黙が鎮座する。

 

しかし、以外にもそれはあっさりと過ぎ去ることとなる。

 

「水を差しちゃって、ごめんなさい。気にしてない……訳じゃないけど、大丈夫。むしろ、燃えてる」

 

自ら口火を切り直した璃奈は、取り出したマーカーペンでスケッチブックに「顔」を書き始める。それが彼女なりの意思表示であることは全員の知るところだ。

 

「何となく、受け入れられないんじゃないかなとは思ってた。今回のは私が私のパフォーマンスに自信を持てなかった結果だから、ちゃんと受け入れる。……次はもっと自身を持って、沢山の人と気持ちが繋がるように頑張る。璃奈ちゃんボード˝ふぁいっ˝!」

 

語末がくぐもって聞こえたのは、決して顔を覆うボードのせいではないのだろう。それも全員が悟った。だから言葉を返す代わりに、耀と愛が彼女に身を寄せる。

 

「……りなりーの分まで、頑張るね」

 

「……うん」

 

ステージ上で彼女が身に着ける仮面が大衆にどう映ったのかは知る由もない。その裏に隠された彼女の真意もまた同様だろう。どうであれあの舞台で通じなかったのは事実。璃奈の抱く悔しさも、次なる機会への渇望はきっと大きい。

 

「……こりゃあ、半端なパフォーマンスは出来ないねぇ」

 

そんな彼女の熱がじんわりと周囲に伝播してゆく。

 

成功と、挫折を経て。確かに高まりつつある士気があった。

 

 

 

「……なんで」

 

ただ、一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熱が足りない。

 

この心を躍らせ、この身体を躍動させる。果てのない渇きを満たす……そんな熱が。

 

「はっ……、はぁっ……!」

 

放課後。国際交流学科の地下棟、その機材室前。自分だけの舞台に籠る蒸し風呂のような温度の中に在っても、胸の内の冷たさを誤魔化すことは叶わなかった。

 

瀧のように流れ落ちる汗が渇きを加速させる。集中出来ていないのか、将又別の要因か。どうであれ、今しがたの自主練にいつものような没頭が生まれなかったのは事実だ。

 

何も見えない。照明も、客席も。あれだけ明瞭に輝いていたはずの自分だけの世界が、何も。

 

「なんで……!」

 

代わりに脳裏が映し出すのは落選の二文字。

 

別に甘く見ていた訳ではなかった。当日だって、今の自分に出せる最高のパフォーマンスをしたつもりだ。

 

それでも落ちた。以前の同好会から共に歩んできたメンバーはおろか、自分より遅れてスクールアイドルを始めた面々ですらも勝ち進んでいるというのに。自分は負けた。

 

桜坂しずくの表現はラブライブ……その予備予選にすら通用しなかったのだ。

 

「桜坂」

 

現実を直視したくなくて、また空想の世界へ戻ろうとした折。かつかつと下ってくる足音が運び込んだ声にしずくは眉を寄せた。

 

「……なんで、あなたなんですか」

 

「お前がいつまで経っても部室に来ねーから探しに駆り出されたんだよ」

 

「そうですか。それはご迷惑をおかけしました。私は大丈夫なのでもう戻って貰って大丈夫ですよ」

 

「今にも脱水で倒れそうな顔してる奴のどこが大丈夫なんだよっ……と」

 

なんで、こんな時に限ってこの人が来るんだ。

 

反抗の意も込めて一つ上の踊り場に立った瀬良雄牙をねめつけるものの、彼は気に掛ける様子もない。代わりに返ってくるのは投げ渡されたペットボトルだった。

 

青いラベルが巻かれたスポーツドリンク。CM等でよく見かける有名な一品だ。発汗で失われた成分を補うのに適している、なんて売り文句を覚えている。

 

まだ冷たく、ボトル表面に結露した水滴が付着している辺り直前まで冷蔵されていたものだ。ここへ来る途中自販機で購入したのだろうか。変に気遣わしいのが余計に腹立たしかった。

 

「……お返しします」

 

「いいから飲めっての。ぶっ倒れでもされたら俺が顰蹙買うんだよ」

 

「それはいいですね。上手くいけばあなたを同好会から追い出せそうです」

 

「口だけは減らないのな……ま、他の皆に心配掛けたきゃ好きにすれば?」

 

この人の施しは受けない。そんな意地を張って抵抗するものの、容易く説き伏せられてキャップを捻ることになる。

 

呷ったボトルから注ぎ込まれる甘ったるい冷たさが咽頭を通過し、火照った全身に染み渡る。いくら意固地になったって身体は正直だ。失った水分を求めるままに鳴らし続けた喉は、間もなく中身を全て飲み干してしまう。

 

同時に煮えるばかりだった頭からも少しずつ熱が抜けてゆく。

 

「……すみません。ちょっと冷静じゃなかったです。飲み物、ありがとうございました」

 

「いいよ別に。俺が勝手にやったことだし。……練習熱心なのはいいけど、これからの時期は気をつけろよな。ここ、無駄に日が差すせいで熱籠りやすいから」

 

「覚えておきます」

 

「ん。……ほら、さっさと部室行くぞ」

 

それ以上特に雄牙からの嫌味もなく、踵を返した彼が階段を登る足音がカツカツと響く。しかし続く音を奏でる気にはなれなかった。

 

代わりに漏れ出るのは真逆の意を持つ声音。

 

「えっと……今日は、その……休もうかと、思いまして。……瀬良さんから皆さんに伝えて貰ってもいいですか?」

 

ハッキリしない口調の申し出に足を止めた雄牙が再度しずくと向き直る。驚くでも心配するでもない。ただ熱のない眼でしずくを見下ろしている。

 

そして数拍の沈黙の後、一言。

 

「……予選落っこちて拗ねてんの?」

 

齎したのは胸を穿つ電流だった。一瞬の衝撃から生じた痺れがじわじわと広がってゆく。

 

「……なんで、わかるんですか」

 

「あんな世界の終わりみたいなひっどい面してたら誰でも気付くっての」

 

隠しているつもりだったのに。擦れるような声と共に吐露した空想はさらりと打ち壊された。

 

「……ま、休みたいなら止めないけど。一応適当には誤魔化しておくけど結果は保証しないからな」

 

「……」

 

「……不貞腐られてもな。どうしろと」

 

気だるげに傾けられた双眸はしずくの被った仮面を容易く暴き、内に秘めた素顔を暴いてくる。

 

「……少しは、察してくださいよ」

 

「めんどくさ……隠したいのか気付いて欲しいのかハッキリしたら?」

 

次第に制御が利かなくなる。ひび割れた仮面は少しずつその破片を零し、桜坂しずくとしての感情を露呈させてゆく。もう暑さなんてものはどこかに消えていた。

 

「あんまり気が利かないと嫌われますよ?」

 

「相手に委ねてる時点でお前も同じでしょ。受動的なクセして被害者面しないで欲しいモンだね」

 

「言って貰えるまで伝わらないのも考え物だと思いません?」

 

「自分から伝えるのがコミュニケーションの基本なんじゃないの? 愚痴んならやることやってからにしろよ」

 

矛が盾を突く。加速するのは瓦解だ。

 

これ以上はいけないとわかっているのに、いつもならもっと上手く振舞えているのに、この人の前ではそれが出来ない。主張を強める自尊心と反抗心と比例するように食い下がる語気も醜さも増長するばかりだった。

 

「……当事者じゃないと無遠慮に色々と言えて楽ですね。羨ましいです」

 

「他人の思ってることなんて完全にわかる訳ないよ。特に、お前みたいな奴のはさ」

 

煮え切らない態度を前に、雄牙もまた苛立つように目を細める。

乱雑に頭を掻いた彼はしずく同様に棘を足し加えた態度で句を継ぐ。

 

「結局何がしたいの。いつもいつも気付いて欲しいんだか欲しくないんだかもわかんない曖昧な態度取っておいて主張もハッキリしないし。伝わる訳ないじゃん」

 

紡がれる一つ一つに乗る言霊が刃物のように突き刺さってくる。荒くなる呼吸は芯を撃ち抜かれた紛れもない証拠だった。

 

「そんなんだから予備予選で落っこちるんだよ」

 

「っ……、……あなただって」

 

そしてトドメに放たれた一撃を受け止める余裕は、今のしずくにはなくて。

 

最後の関が壊される雷鳴が胸に轟き、封じ込めていた全ては溢れ出した。

 

「あなたこそハッキリしてくださいよ! 沢山の人に囲まれてるのに寂しそうで、なのに皆から距離を取ろうとして……それすら出来てなくて! 特別なのに……物語の主役みたいな力があるのに! なんでいつもそんななんですか……」

 

スクールアイドルとしての自分も、演者としての自分も。矜持だと言い聞かせていた何もかもを否定されたような感覚になって、捲し立てる語彙が強くなる。

 

ぐちゃぐちゃになった悲痛な心だけが独り走りし、当たり散らす子供のように喚く。演者として紡ぐ台詞に文脈を乗せ、偶像として奏でる歌に想いを乗せる声も、この時ばかりは何の意味も宿してはいなかった。

 

それはただただ、己を直視したくなくて駄々を捏ねる道化の姿。情けなくて、無様で、笑い者もいいところ……でも仕方ないじゃないか。

 

「私が欲しかったもの全部持ってるのに……なんで……!」

 

だってこれが紛れもない―――本当の桜坂しずく自身なのだから。

 

「……お前にはわかんないよ」

 

目線を外した雄牙の囁きは嗚咽と重なり、届くことは無かった。潤む視界では最早表情すら確認することは叶わないけれど、きっと自分と同じ。酷い顔をしているのだろう。

 

ああ、そうだ。この人は私なんだ。桜坂しずくと同じなんだ。

 

儘ならない世界に鬱屈として。

 

思うようにいかない現実に辟易として。

 

それでも誤魔化すように燻り続けるしかない自分が嫌いで。

 

だから、そんな自分自身の写し鏡のようなこの人の全てが……こんなに腹立たしいんだ。

 

「……やっぱり、私あなたのこと嫌いです……大っ嫌いです」

 

垂れた雫が床を叩き、弾ける。共に押し出した嫌悪に飲まれるまま、やがて駆け出した身体は自らの舞台から遠く、離れていった。

 

 

 

 

 

「……ちっ」

 

階段を駆け上がる足音も聞こえなくなった頃。振り返ることすらせず虚空を望み続けていた雄牙はようやくその硬直を解く。項に回した掌はパーカーのフードを掴み、青筋が浮かぶくらいに強く握っていた。

 

「……知る必要もないんだよ」

 

桜坂しずくの本質を雄牙は知らない。印象だって下手に賢しくて生意気な後輩が精々だ。それ自体は嫌いではないし、時折顔を覗かせる幼げな一面を微笑ましく思うこともある。

 

けどしずくは踏み入り過ぎた。強すぎる探求心がそうさせるのか、雄牙自身自覚し切っていない深層の部分にまで触れる第六感は、正直危うい。

 

そして何より、彼女は似ているんだ。

 

「……みっともないよな」

 

世界で一番憎くて大嫌いな、どうしようもないくらいに弱くて情けない、己自身に。

 

『……今は、何も言わねぇよ』

 

「……ごめん」

 

嫌悪ばかりが加速してゆく。

 

蒸し返すような湿気と暑さが漂っている。着々と近づく梅雨の季節が齎すのは、きっと潤いだけじゃない。そんな気がした。

 




と、いう訳で同好会初のラブライブへの挑戦はしずくと璃奈の予備予選敗退という結果に。CSM璃奈ちゃんボード発売のタイミングでごめんよりなりー。

そんで余計なこと言いすぎランキング第一位瀬良雄牙くんがまたやらかしてくれました。前回に続き学ばないのでしょうかコイツは。しかし今回は今回でまた別な理由があるようで……。

雄牙としずくは()()()()。互いの嫌悪の理由が明かされましたが分かり合える日は来るのでしょうか。

もうそろそろ事案おじさんがアップを始める頃でしょうが座して見守りましょう。なるべく早く更新したい(願望)
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