トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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あけましておめでとうございます。そしてお久しぶりです。昨年は悲惨な投稿ペースを披露してしまい大変申し訳ございませんでした。

正直今年も十分に時間が確保できるかと問われれば微妙なところですが去年よりはマシだと信じて頑張ろうと思います。

それでは本年もよろしくお願い致します。


47話 キミの声は届かない 後編

 

 

「―――――で、そのまま帰しちゃったんですかぁ?」

 

放課後の部室に怒気を孕んだかすみの声音が木霊する。

 

正直戻ってくる気は無かった。歩夢か侑に連絡を入れて雄牙もサボりを決め込んでしまえばよかったのだ。

 

そうでなければこんな、皆の前で後輩に詰め寄られるなどという居心地の悪い事態に遭遇することは無かったのに。

 

「雄牙先輩」

 

「なに」

 

「ふんっ!」

 

殴られた。グーだった。ぽこーん、という擬音が相応しいパンチが雄牙の腹を強襲する。炸裂の直前に腹筋に力を込めたせいか痛がっているのは殴った本人だった。

 

「いっつもいっつも……なんなんですか? 嫌味言うために生まれてきたんですか!? そんなんだから嫌われるんですよ先輩はぁ! てか普通女の子泣かせてそのまま戻ってきます!? 前から思ってましたけど先輩だいぶ終わってますよ!? 人として!」

 

散々な言われようではあるが、かすみ視点では事実その通りであるため何も反論出来ない。周囲の沈黙も同調を示しているようで余計に居心地が悪かった。

 

「しず子絶対悩んでるじゃないですか……苦しんでるじゃないですか! なんで、何もしてあげないんですか!」

 

三白眼を剥くかすみには怒り以外の感情も含まれて見えた。

 

自らの在り方に悩んでいたのはかすみもしずくと同じだ。故にその苦しみも彼女は知っている。同学年で特に仲の良い友人、という点を差し引いても何か力になりたいと考えるのはかすみの性なのか。

 

でも違う。自分なりに状況を変えようと足搔いたかすみに対し、しずくは何もしていない。踏み出すことすらしないまま悲観を続けているだけだ。そんな奴に同情は出来ないし、したくもない。

 

「……言うべきだと思ったことはちゃんと言ったよ。その上でああしたのは桜坂だろ」

 

「余計なことまで言ったからでしょうがこんのお馬鹿ぁ! ただでさえ説明不足なんだから言葉は選ばないとそりゃあ誤解されるでしょうが! いやまあ今回のはかすみんの時とは違うかもだけど……ああもうとにかく!」

 

今度は鞄でぶん殴ってきた上で、雄牙の首根っこに手を伸ばしたかすみはそのままフードを鷲掴みにしてずんずんと歩み出す。

 

「すみませんかすみん今日はもう失礼しますね……ほら雄牙先輩、しず子探しに行きますよ!」

 

そうして有無を唱えることすら許されず。

 

好奇の視線を注がれたまま、引き摺られる雄牙は早くも部室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お台場は行楽地であると同時に有名なロケ地でもある。世間的に名高いドラマや、せつ菜曰く特撮に至るまで様々な作品の舞台となっている場所だ。捉えようによっては、このお台場という街が大きな壇上であり、行き交う人々は皆役者であるとも言える。

 

故に、故に思う。

 

そんな輝かしい舞台でスポットライトも当たらず、誰に見られることもなく独り歩く自分と言う役者は……、一体、何のために存在しているのだろうと。

 

「……ぁ」

 

校舎を飛び出して数刻。真っ直ぐ帰る気にもなれず、当てもなく差し掛かった橋の上でしずくは声を漏らす。

 

そうだ。今日は両親の帰りが遅いからと夕食を済ませてくるように言われていたのだった。だから練習終わりに誰かに声を掛けようと思っていたのに。

 

ラブライブの予選を突破して、その喜びを友達と共有しながら団欒の中にある……そう思っていたのに。

 

「あぁ、もうッ……!」

 

溜息よりも先に苛立ちが来た。日頃丁寧に手入れしているはずの髪の毛を乱雑に掻き毟る姿はとても人に見せられたものではない。

 

上手くいかない。

 

思い描いていた高校生活という舞台はこんなはずじゃなかったのに。ここでなら変われるって、そう思ったはずなのに。

 

何も変わらない。結局自分は醜いままで、周りばかりが眩しくって仕方なくて。目を逸らしてしまう。

 

だから逃げたんだ。仮面を被るだけじゃなく、表舞台からも。

 

今だってそう。湾岸を染める斜陽に焼かれた心は自らに相応しい場所へと向かう。橋の下、影という舞台袖に。

 

「……嫌い」

 

膝を抱えた身体から放り出された声が地面を叩き、己へと還る。

 

望んだ道を進むほど、何もかもに自分自身が否定されていって。

 

こんな思いをするのなら、いっそ―――、

 

「この世は一つの舞台だ。全ての男も女も役者に過ぎない」

 

幕上げを告げる開演ブザーの如く、割り込んだ声音はしずくを眼前の世界へと引き込んでゆく。

 

「それぞれ舞台に登場しては、消えてゆく。人はその時々に色々な役を演じるのだ」

 

紡がれる台詞一つ一つが奥底へと染み入ってくる。それが突然現れた男の演技による情動なのかは知らない。

 

ただ一つ、しずくはこのセリフを知っている。

 

「シェイクスピア……」

 

呟いたしずくに、足を止めた男は浅く笑いかける。軽薄なのに底知れない。まるで仮面を被っているかのような、得体の知れない異物としての存在感がある。

 

白と黒、相反する色で二分された衣服が風に舞い、悉くを染め上げるはずの夕陽を反射する。何物にも塗り潰されない自己を主張している。そんな風に。

 

「……役とは自ら掴み取るものか、将又誰かに与えられるものなのか」

 

「え……?」

 

「君は、どう思う」

 

この男のことは何も知らない。会ったことも話したこともない。それだけは知っている。

 

状況を俯瞰するのなら、今は怪しげな男に声を掛けられている、という形になる。普通に考えれば不審者だ。マトモに取り合う理由はない。

 

けど、こんな状況で常識的な判断が出来るような性分ではないことは、しずく自身が一番わかっている。

 

数秒の思案の後、

 

「……時と、場合によるのではないでしょうか」

 

形を得ないまま吐き出したしずくに対し、男は笑みを固定したまま首を傾けた。ごきり、と。不穏に関節が音を鳴らすのが聞こえた。

 

きっとこの問答に意味はない。しずくが仮面に隠した真意を探る合間に、この男はこちらの全てを見透かすのだろうから。

 

だから、ここから始まるのは全て表面上の通過儀礼。

 

「……私の答えは後者だよ。役に宿る意味も物語も、結局は客観的に見た事象に価値を与えているに過ぎないからね。当人がどれだけ情熱や理由を注ぎ込もうとも、空虚だ」

 

語尻に伴って双眸が見開かれる。星の無い夜空のような、底を伺わせない暗闇があった。

 

後に訪れた静寂の時間はどれほどのものだったのか。確かめる術はない。いつの間にか傾きを増していた陽の光が齎した影だけが男を覆い、流れを示している。

 

「それでもなお君が意味を求めると言うのなら……私が与えよう」

 

そんな流転の中、不意に持ち上げられた右腕が陽光を纏い、真上へ向けて開いた手のひらでは指輪が一つ、踊っていた。

 

装飾が著しく大きく、歪んだ。混沌を凝縮したかのような一品。即興劇(エチュード)の小道具にしては聊か不釣り合いか。

 

最も、この男にとっての˝役˝が持つ意味はしずくのそれとは違うのだろうが。

 

「……」

 

薄々であった予感が確信へと塗り替わる。

 

この頃かすみが口にするようになった「白黒の男には気をつけろ」という注意喚起。きっとそれはこの男に起因するものなのだろう。

 

当人が理由までを語ることは無かったが、雄牙との関係の変化を見れば大凡の想像はつく。恐らくはせつ菜だってそう。

 

誰かが思い悩んでいた時、決まって怪獣が現れて、決まってウルトラマンがそれを倒して……そして、決まってそのウルトラマンと親しくなっていた。

 

この男がどんな思惑を以って彼女達に魔の手を伸ばしたのかは知らない。けど、結果だけが事実としてそこに居座っているから。だから。

 

「……承認、ということでいいのかな」

 

もし、この手を取れば。

 

このどうしようもないくらいに荒れ切った自分にも、誰かが手を指し伸ばしてくれるのだろうか。

 

 

 

 

 

「――――それが本当にお前の望みか?」

 

 

 

 

 

さざ波の音を切り裂いた剣呑な声。本能的に背筋に伝った悪寒はいつかの邂逅を呼び起こす。

 

予期せず舞い降りた危険分子から逃れるように防波堤に密集していたカモメが飛び去ってゆく。白の群れの向こうでは眼前のそれよりも遥かに濃い˝黒˝が存在を主張していた。

 

「オグリス、さん……?」

 

「よう。また会ったな、しずく」

 

橋の欄干からこちらを見下ろす形で鎮座していた少女は、しずくと目線を重ねると同時にその場から飛び降りた。身長の何十倍もある位置からの着地を物ともしないのは流石宇宙人と言うべきか。

 

オグリス。一月ほど前に知り合った宇宙人であり、怪獣へと変身する、いわばウルトラマンとは対極にある存在。

 

「そんな嫌そうな顔するなよ。これでも、私はお前のこと気に入ってるんだぞ?」

 

「……一方通行な好意って虚しいですよね」

 

「そうかぁ? 私は一向に構わんけどな」

 

嫌味も何のそので気持ちのいいくらいに笑うオグリス。やはりコイツも苦手だ。接し辛ささえある。

 

「……だがまあ、お前のことは相も変わらず普通に嫌いだぞ? トレギア」

 

そんな彼女が一転。トレギア―――そう呼んだ男に向き直った表情には明らかな嫌悪が滲み出ていた。

 

関係は知らない。繋がりがあったのも初耳だ。ウルトラマンとの対立構図を鑑みれば不思議ではないが。

 

だが少なからずいい間柄ではないのは見て取れる。

 

「やれやれ……お転婆もここまで過ぎると困りものだね。私の邪魔はしないよう再三伝えたはずだが」

 

「ああそうだな。だが私からもこう言った。……私のお気に入りに手を出すなとな。私の楽しみを害するのであればその限りじゃない」

 

オグリスの態度は粗暴そのものだ。間違いなく口約束を後付けで破っているのだろう。

 

初めて、男の表情が崩れる。歪んだ口元に滲むのは不快感だった。

 

「お、いい顔になったな。……ここでヤるか?」

 

応じるように深紅に双眸を染め上げたオグリスが構える。右手に携えた扇状の物体は武器か何かなのだろうか。

 

何度目かもわからない沈黙。緊張感だけはそれまでの比ではない。少しでも動けば皮膚が裂けてしまいそうな痺れが肌に走った。

 

「……いや、やめておこう」

 

「けっ、腰抜けが。他者を使わんと何も出来ないのかお前は」

 

「何とでも言うといいさ。前にも言ったが私の身体はまだ本調子ではないのでね。今君と殺し合うのは不都合だ。……それに」

 

僅かながらに弛緩した空気の中、トレギアが真横へ視線を流すと共にその輪郭を翳ませてゆく」

 

「デウス・エクス・マキナ……糸繰の神様のご登場だ。醜いヴィランは消えるのが定めだろう」

 

やがて声だけとなった反響が消え去るよりも早く。

 

 

「しず子ぉ~~~~~ッッッ!!!!」

 

 

鬼気迫った甲高い叫びが迫ってくるのを感じた。

 

「かすみさん……ッ!?」

 

短くも綺麗に手入れされた髪をボサボサに乱しながら駆け込んできたのは、自分にとって最も親しいと言える友人だった。

 

遠方からしずくの状況を目視していたのか、傍らに現着するや否やしずくを抱き留め、眼前の脅威から庇うように自らの身体を盾としている。

 

そして―――、

 

「おぉ、雄牙もか。丁度よか………っと」

 

少し遅れて、先刻までトレギアのいた位置から突っ込んできた少年の蹴りをオグリスは片手で受け止め、その勢いのまま真横に放る。

 

ばしゃん。岸から数メートルほど離れた水面に派手な水飛沫が上がった。

 

「ちょっ……雄牙先輩!?」

 

「乗ってくれる分には嬉しいが今日はそういう気分じゃないんでな。ヤるのはまた今度だ雄牙」

 

「だったらっ、放り投げるんじゃ、ねぇ……!」

 

「仕掛けてきたのはお前だろ。……まあそれはいい。ここで顔を合わせたのも何かの縁だ。ちょっと付き合ってもらおうか」

 

息を荒げて川から這い上がってきた雄牙を軽くあしらい、オグリスはしずくも含めた三人と向き直る。

 

「……今度は何させる気ですか。あの変態おじさんも一緒なら関わりませんよ」

 

「案ずるな。あんな変態最初から眼中にもない。何故ならこれは私達だけの聖域なのだからな」

 

「聖域……?」

 

怪訝な視線も注がれる中、鷹揚に胸を張った彼女は次の瞬間に言い放った。

 

「女子会だ!」

 




いつも通り事案おじさんニヤニヤタイムかと思いきやオグリスの乱入。最後の発言も相まって話はあらぬ方向へと……。

数話跨いだしずく回。もうちょっとだけ続きます。
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