トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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ウルトラマンカードゲームが楽しすぎて何も手につかない。
サボってる間に夏から冬になっちゃった。


53話 罪と罰

 

 

……。

 

「ぅ……」

 

背面に掛かる自重と痛みが、暗闇に漂う自我を引き揚げた。開いた眼に朧げな光が差し込む。

 

同時に知覚したのが鉛のように底へと沈む気怠さだった。呼吸も身動ぎも全てが重い。生命活動の意地ですら億劫な気分になる。

 

「ヴィラン・ギルド様からのありがてぇ情報だ。……近辺で連中の母艦が観測された。お前の言った通りだな」

 

『……やっぱりか』

 

「ったく、おかげでこっちはてんてこ舞いっだっつーの」

 

混濁する意識に滑り込んでくる会話。徐々に引き戻る五感に順ずる形で開けた視界が映し出すのは見知らぬ天井だった。

 

「ん……。おい、いったん終いだ」

 

昂貴の目覚めに気付いたのか。傍らに佇んでいた者の声音が変わる。苛立ち混じりの粗暴な響きだった。

 

「一応ごっそさん。次こそ別のモン用意しとけよな。いい加減飽きたわ」

 

ここはどこだ。この声は誰のものだ。そもそもどうして自分はこの場所にいる。

 

扉が閉まるらしき音。徐々に遠のいてゆく足音。周囲の一つ一つに駆り立てられる疑念と焦燥が胡乱を覆してゆく。

 

「づッ……ァ……ッ!」

 

一先ずは状況の把握が先決と判断した思考は、泥のように張り付いた倦怠感を引き剝がさんと、強引に肉体を起こす。伴う激痛が全身―――主に肩から脇腹にかけての上半身を疾駆した。

 

『気が付いたか、昂貴』

 

「タイタス……」

 

寝覚めの一喝には少々苛烈過ぎる刺激。だがしかしこの上ないほどに目覚めは完璧だ。肩の上で霊体を作る相方の姿も明瞭に視認出来る。

 

「ここ、地球でいいんだよな? 落ちてきた……のか?」

 

『ああ。あのまま宇宙空間に放り出されなかったのは不幸中の幸いだった。不甲斐ない話だがな』

 

遅れて暗転の直前に在った光景が蘇ってくる。岩肌を粉砕して迫りくる赤熱の群れ。一瞬の出来事だったが本当に死に目が見えた。助かったのは悪運以外の何物でもないだろう。

 

「……アンタが助けてくれたのか?」

 

状況から判断し、昂貴は空間の片隅に居たメトロン星人へと意識を投げかけた。

 

畳に木目調の家具、天井から下がる暖色の白熱灯と、二世代ほど前の時代を思わせるこの部屋は彼の住まいか何かなのだろうか。

 

『お礼なら、さっきの彼に言ってあげてよ』

 

斜陽が差し込むように、微かに揺れる電球の灯りが薄く笑ったメトロンを紅く照らしている。

 

相変わらず表情と言うものが存在するのかの判別はつかないが、酷い憔悴の中にあるのだけは昂貴でも理解出来た。

 

『……喉、渇いてない? よかったらこれ、飲んでよ。皆もう飽きちゃったみたいで結構余ってるんだよね』

 

出方を探るような互いの沈黙に耐えかねたのか。ぎこちなく明るい声を発したメトロンはおもむろに取り出した一本の缶を差し出してくる。

 

ラベルに印刷された文字は眼兎龍茶。ご丁寧に日本語で書かれてはいるが名前からして彼の母星の代物だろう。

 

得体は知れないが、何時間眠っていたかもわからない身体は水分を欲していた。ここは素直に受け取っておこう。

 

栓を開け、中身を喉奥へと流し込む。

 

(……押し付けられる流れなら桜坂辺りに飲ますか)

 

比喩し難い。今現在口の中を滑る風味はこれまでの人生に類似の無いものだ。

 

強いて言うのなら、別段不味いという訳ではないが進んで飲む気にもなれない。そんな味。

 

「……とりあえず、状況聞いてもいいか?」

 

一応は飲み干し、空き缶をちゃぶ台へと立てた昂貴は自ら切り出した。

 

『うん。そうだね……そうだよね』

 

曖昧な呂律を回しながらメトロン星人は対面へと座した。

 

『……ごめん。私は悪手を打ったかもしれない』

 

口火は謝罪から切られた。古びた家具の匂いに、事績と後悔の念が添えられる。

 

「……失敗したのか?」

 

『……いや、そっちは一時的にだけどなんとかなった。今は木星の衛星上で休眠状態に入ってる』

 

「だったらなんで……」

 

メトロンが肩で息をする。苦悶の上に苦悶を重ね、やがて絞り出す。

 

『……本当はもっと、もっと早く伝えるべきだったんだ』

 

そこに協力を持ち掛けてきた防衛隊日本支部局長の姿は無かった。法廷で裁かれる罪人にも近しい悲壮感が彼を包み込んで離そうとしない。

 

『すまない。……私は、この事実を伝えることで君達の協力を失うことを恐れた』

 

再びの弁解を挟んで紡がれたものは、

 

『……君の父親に人殺しの罪を着せたのは、私だ』

 

「……は?」

 

前置きも無しに受け止めるには、大きすぎる威力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球人の手で地球人を守れる組織を作ろうと決意したのは、自分なりの贖罪のつもりだった。

 

それがあの戦いで力になれなかった者として、この星に災いを持ち込んだ者の一人として果たせる、せめてもの責任だと思ったから。

 

苦労は振り返るのも億劫になるほどに重ねた。怪しげな宇宙人が信頼を勝ち取り、資金を集め、足回りを固めた。

 

そうしてようやくGlobal Earth Defense Organization―――GEDOの発足に漕ぎ付けた、間もない頃の話だった。

 

 

「……改造の跡が発見されたそうです。地球の技術ではありえない……間違いなく、異星人によるものだと」

 

『……そっか』

 

知らせを受けた時から嫌な予感はしていた。警察機関によって処理され、犯人も捕まったはずの事件の調査が新設の防衛組織に回ってきたその時から。

 

そうして辿り着いてしまった真相が、果てしなく重く、圧し掛かる。

 

『上手いこと公表の責務をたらい回しにされたね。確かにこういうのはウチの領分ではあるけど……』

 

後手の対応になるのは後にも常の事だったが、この時に限っては対応が遅れすぎたと今でも思う。

 

狂乱状態に陥った成人男性が無差別に通行人を襲う事件の発生。それは既に、自分達の内で処理出来る段階を大いに通り越していた。

 

事件当初は酒に酔っていたと思われる被害者だったが、遺体に違和感を覚えた検察がGEDOに検死を依頼。

 

その結果判明した事実は、既に世間を賑わせた後だった報道とは大きく異なる。

 

異星人……後に惑星ドルズの星人によるものだと明らかになった、原住民の肉体改造。被害者は酒に酔っていたのではなく、何者かの悪意によって暴れさせられていたのだ。

 

『……とりあえず、犯人にされちゃった人が誤認逮捕だったっていうのは伝えないとね。それからその人に話を聞いてーーー、』

 

「いや、その必要はない」

 

それでも出来ることを、最低限に事態を収めようと苦心する最中、非常にも現実が襲い掛かった。閣議を終えて局へと戻った当時の長官は、勤めて取り繕った厳格さで自分へと告げる。

 

「公表される報道は覆らない。被害者は酒に酔っていたとし、通行人との乱闘の末頭を打って死亡したものとして処理すると決定した」

 

『はぁ……?』

 

情報を処理出来ず、思考が白に染まる。

 

異星人である自分を受け入れ、共にこの組織の結成に尽力してくれた仲間。そんな彼の口から下された選択が、到底受け入れられなかった。

 

「死因は改造によるショック死だが、絶命したのは当該する通行人による反撃を受けた直後だ。苦しいが、目撃者への言い訳も利く」

 

『違う。そうじゃない。自分で何を言ってるのかわかってるのか……? 事実を隠蔽するだけじゃない。無実の一般人に殺人の濡れ衣を着せるんだぞ!?』

 

「そんなことは俺もわかってる! ……だが、今のこの国にこれを受け入れるだけの余裕はない。市民が何人も誘拐され、挙句化け物に改造されて帰ってきたなんて発表してみろ……間違いなく大パニックになる。お前だってわかるだろ」

 

『っ……』

 

当時のこの星は今ほど宇宙人の存在が浸透してはいなかった。怪獣のような日常と隔絶した脅威ではなく、身の回りの社会に潜む影という認識がまだ薄かったのだ。

 

加え、絶対的な守護者であるウルトラマンが去った直後の人々には不安が根付いていた。そんな最中にこの事実を公表して起こり得ることなど簡単に想像出来た。

 

出来たからこそ、その決定が苦しかった。

 

『それを、なんとかするのがこの組織じゃないのか』

 

「これは国の決定だ。この国の政府が、事実の公表による混乱を懸念したんだ。こんな小さな組織にはどうしようもない」

 

『そんな……国が国民を犠牲にしたっていうのか? そんなのーーー、』

 

「……耐えてくれ。これからのこの星には、まだお前が必要だ」

 

絞り出すような盟友の懇願。

 

自分だって宇宙人。この星にとっての遺物だ。下手に異を唱えればどんな処分が下るかわからない。もしここで自分に処置が下れば、この組織も無事ではいられない。それは自らの理想についてきてくれた仲間達の努力を水泡に帰すことだ。

 

「……責任は俺がとる。時が来れば誹りは受けるつもりだ」

 

決定を覆すことは叶わなかった。

 

当時のことはハッキリとは覚えていない。市民を守るための組織が、守るべき市民に犠牲を強いた。やり直せない事実が生む虚無感と絶望感が悶々と蟠り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この時スケープゴートにされたのが……君のお父さんだ』

 

独白の後、思いと表現するのも億劫なほどの沈黙が鎮座した。

 

何か、言うべきなのだろう。

 

多くのものを失い、嵐のような悪意を受け、苦しみ続けたあの日々が、全ては冤罪による謂れのない誹りだった。

 

何か言うべきなんだ。言わなくてはいけない。自分にはその権利も義務もある。

 

ただ、あまりにも。

 

十年近い時を経て告げられたその事実は、すぐに受け止めるには大きすぎた。

 

熱を帯びていた傷口が、すぅっと、冷めてゆく。

 

『……自分が何をしたのかわかっているのか?』

 

第一声はタイタスだった。彼にしては酷く、感情に塗れた声音が震えている。

 

『そのせいで一つの家族が謂れのない罪を被り、悪意に晒され、幸せを奪われたのだぞ……わかっているのか!?』

 

昂貴ですら初めて見るほどに荒げた一喝が反響した。

 

タイタスは怒っていた。今肉体を持ってこの場にいたのなら、迷いなくメトロンをぶん殴っていたと確信させるほどに震える拳があった。

 

『わかってるさ。わかってたさ。……けど、ウルトラマンが去ったばかりの地球にあれを受け止めるだけの余裕は無かった。決定を覆すだけの力も理由も、私は、持ち合わせていなかった……』

 

『だが……!』

 

「タイタス。いいよ。……ありがとうな」

 

直視するにはあまりにも悲しすぎる感情が渦巻くのが五感全てに伝った。不思議と冷えてゆく頭が現状を俯瞰しようと働く。

 

「なんで、今になって話した」

 

せめて何か言おうと口に出した問い。

 

『……元々、打ち明けるつもりではいたんだ。ドルズ星人の侵略は間隔を置いて行われる。だから強い組織を作って、その時が来たらちゃんと君に打ち明けた上で守り切れるように。……でも、君はウルトラマンに選ばれてしまった』

 

決して昂貴と視線を重ねぬよう、俯いたままのメトロンが答える。運命を呪うような、耐え難い悲哀が彼を包んでいた。

 

『卑怯だよね。私はまた、守るべきはずの君の人生とこの星の平和を秤に掛けたんだ。……真実を伝えることで、ウルトラマンの協力が得られなくなることを、恐れた。本当はどちらも、私達で守らないといけないのに』

 

語らないことを選ぶのだって出来たはずだ。真相を闇に葬ったまま昂貴を利用することだって出来た。それを是としなかったから彼は打ち明けることを選んだ。

 

過去の事故。ウルトラマンの飛来。ドルズの再侵略。防衛長官としての責務。

 

色々な不幸が重なっての結果なんだ。こればかりは間の悪さを恨む他ない。

 

『許せとは言わない。……けど、せめて謝らせてくれ』

 

だから。

 

深く頭を下げたメトロンを責め立てる言葉など、とてもじゃないが出て来ない。それはウルトラマンとして守る立場を知ってしまった昂貴の本心。

 

では昂貴個人としての心は、何年も積もりに積もって行き場を失くしたこの感情はどこに向ける。

 

数えきれないほど苦しみを抱えた。数えきれないほど苦労を重ねた。無限にも感じられたあの日からの日々は正しい形で清算されるべきじゃないのか。

 

「……」

 

いいや違う。逆に考えろ。

 

今この場に、この状況において最も不必要なものは、なんだ。

 

「……アンタ等の選択は、間違ってはなかったんだろうよ」

 

下ろしていた腰を上げ、弾き出した回答をそのまま出力する。

 

『え……?』

 

『昂貴? 何を言って……』

 

道理に合わない発言を耳にし、両名は困惑を宿した瞳を昂貴に向けた。

 

「高々一家族と国の平和なんて天秤にかけるまでもねぇだろ。同じ立場だったら、俺だってそうする。……許せるかどうかは別としてもな」

 

極論を掲げてしまえば、星や国の安寧などそれ自体はどうでもよかった。けれどこの星この国は今の昂貴にとっての全てが住まう場所だ。

 

だったら今すべきなのは贖罪でも糾弾でもない。

 

なんて、この場にいる全員に言い聞かせる。

 

「その話の続きは全部終わってからでいいよ。そん時に言いたいことは全部ぶちまけてやる。だから……今はやるべきことをやろうぜ」

 

下手くそな笑みを描いた。勇ましくもなんともない、ただの妥協の象徴。

 

そんな昂貴を見上げる二人の表情は、とても、沈痛だった。

 

『……君は、それでいいの?』

 

「いいも何もだよ。過去より、今だろ」

 

これでいい。

 

ただ抱えるだけでいい。

 

それだけで守れるものがあるなら……それが正しいことなんだ。

 

『……そっか』

 

何か言いたげにメトロンが口籠るが、形にすることはせずに飲み込んだ。

 

『……ごめんよ』

 

代わりに一言謝罪を述べた彼は、懐から取り出した記憶媒体を差し出す。

 

「……˝ドキュメント・フォビドゥン˝。防衛隊がこれまで秘匿してきた事件の記録だ。本来は持ち出しどころか閲覧すら禁じられているデータだけど、君には知る権利がある」

 

これが彼なりのケジメの一つであるならと、一応は受け取ったそれを仕舞い込む。

 

目を通す気には、なれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、取引成立ということで……」

 

荒廃した異星人の集い……であった場所で、二つの悪意が相まみえる。

 

肥大化した脳髄が剝き出しになったかのような頭部を持つ星人の目前で、男は白と黒を翻すと共に虚空へ指揮を執った。

 

何処からか奏でられる甘美な歌。

 

男にとっての甘美な音色。言い換えれば呻き声だ。

 

「やあ、久しぶり……ってほどでも無いね。変わらずいい顔をしている。惚れ惚れするよ」

 

ぼとりと、重い音を立てて落下した何か。

 

それは文字通り空間に開いた口から吐き出され、地面を叩く。

 

内の一つ。足元にまで転がってきたソレと視線を重ねた男は、物言わぬ瞳へと笑いかけた。

 

「君はまだ若い。何もない暗闇の中では少々退屈だったろう。たまには、友達と遊んでくるといいさ」

 

語らう最中にも亡骸は残さず持ち去られてゆく。それらを見送った後、混沌の脈打つ胸に手を添えた男は天を仰いだ。

 

「さぁて……どうなるかな」

 

遥か空の星。その一点を見据えた双眸には、無邪気で残酷な思惑が瞬いてた。

 




急展開オブ急展開。間が空き過ぎてなんのこっちゃという方もいるでしょう。いやほんとすんません……。

まだ国家としての対宇宙防衛が確立されていなかった頃、事態の収拾をつけるべくスケープゴートに選ばれていた者の一人が昂貴の父でした。
ええ、お察しの通り同様の事件がこの世界では複数起きてるのですが、それはまた別の機会に……。

そして明かされた黒幕の名前はドルズ星人。
こちらはウルトラマンタロウに登場した宇宙人ですが、コイツ等は劇中にて地球人の少女を誘拐、その数十年後に侵略用の怪獣兵器として送り込むという非人道的行為に及んだヤベー奴等です。

そんなのがゼロライブから今作までの間に来訪しており、タロウ時空同様に地球人の誘拐と改造を敢行、数年の時を経て侵略を開始した形になります。

いけない方向に突き進みつつある昂貴くん。余計なことしかしない変態仮面も介入して事態はより深刻な盤面へと進む……カモ。

実は次の話も書き終わってるので近いうちに!
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