トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~ 作:がじゃまる
応援上映楽しかったです
殺風景な病室には彩がないと常々思っていた。特段それをどうこうしようという気になることはなかったが、今日ばかりは野暮な心が働いた。
桃色に山吹色。あくまでも派手すぎない色彩を白の中に加える。
「あら、珍しいわね。お花なんて」
「まあなんか、たまにはと思って」
「そんなのに使うお金があるなら自分に使えばいいのに」
「たまにはっつってんだろ。息子の善意くらい素直に受け取りやがれ」
「あら生意気な。昔はあんなに素直で可愛かったのに……」
「いつの話だよ」
供えられた花瓶にそれらしく花々を飾りつつ母親と軽口を叩き合う。隔週で訪れる、入院中の母親への見舞い。とは言いつつ日用品を届けに来ている側面が大きいが。
それでも昂貴にとっては唯一の肉親と過ごせる数少ない時間だ。
そう、唯一の。
「何か後ろめたいことでもあるんじゃないの? 何かあるとお花買って有耶無耶にしようとしてくるの、お父さんと一緒だよ」
膨張を続けていた風船を針で付かれ、破裂する。肩を震わせるのだけは根性で堪えた。
しかし流石の母親を誤魔化せるほど芸達者ではない。
「……どうしたの。普段なら冗談でもやめろ~とか言ってくるのに」
「……ん、ああ、わり。外の可愛い子見てて話聞いてなかった」
「エロガキが……。そんな調子じゃ彼方ちゃんに逃げられちゃうわよ」
「逃げるも何も付き合ってねぇっての」
「アンタ等まだくっ付いてなかったの? 男なんだからグイグイ行っちゃいなさいよ。せっかくまた彼方ちゃんと同じ学校通えてるんだから」
「うるせぇうるせぇ。子供のデリケートなとこに踏み込んでくんじゃねぇよ。てか何回目だこの話」
一応は取り繕うことに成功し、会話はまたいつもの調子に戻る。
これはこれで心地は悪いのだが、今日はやはり、それ以上の棘が胸に刺さっていた。
「そろそろ行くぞ。バイトあるから……また来る」
「はいはーい。いつもありがとうね」
一言一句の度に胸が痛む気がして、逃げるように病室を後にした。閉じた扉に凭れ掛かり、途端に噴き出してきた脂汗を拭う。
伝えないことを選んだ訳じゃない。伝えるべき者、特に母には真相を知る資格がある。
それでも言えなかった。伝える勇気が昂貴にはなかった。
「……世界の終わりみたいなひっでぇ面ですね」
憂慮に欠いた声が掛かるのを察し、昂貴は真下へ向けていた顔を上げる。その先で待ち構えていた仏頂面の名前を呼んだ。
「……瀬良か。なんでここに」
「涼香さん達の見舞いに。遥也さんが行ってやれって」
少し乱れた髪を整えながら雄牙が答える。心なしか不機嫌に見えた。
聞き覚えのある名はホークイージスのパイロットを務めていた隊員だ。自分達同様熱戦の放射に飲み込まれたと記憶していたが、無事だったようで安堵する。
「南雲先輩は?」
「俺は母親の見舞い。ここで入院してっから」
「……防衛隊直下の病院に? 怪獣災害絡みなんですか?」
「まあ……そんなとこだ」
曖昧な回答。必然的に会話は止まる。
雄牙は勘がいい上に頭も回る。先の一件は彼も知ることだろうし、恐らくだが疑念は抱かれている。
「最近、顔出しませんね、同好会」
「……まあ、ちょっと忙しくてな」
「……そうですか」
同好会と距離を置いていることも彼はわかっている。
ただ同時に過度に踏み込むことはしない。それはきっと彼自身の領域を守るために示す条件なのだろう。
今は、それに甘えさせてもらおう。
「予選の日、覚えてますよね」
「……来週の土曜だろ」
「わかってるなら良かったです。……それじゃ、定期ライブあるんで」
短く言い残すと、軽い会釈と共に雄牙はその場を後にした。駆け足だった。不機嫌だった理由はそれかと一人で納得する。
「……」
また独りの時間が流れる。
残された昂貴は再び扉へと体重を預ける。
「来週……それまでになんとかなっか?」
天井を仰ぎつつ自虐的に笑う。
依然脅威は消えていない。ドルズ星人の標的が広がる可能性を考え、なるべく同好会との接触は避けていたが、それもそろそろ限界だ。
『……すまない』
「お前のせいじゃねぇよ。俺が決めたことだ。……それに」
前のめりになる形で姿勢を起こし、無理やりにでも先へ進んだ。
「……流石にこの件は、俺がケリつけねーとだろ」
ポケットに突っ込んだ携帯がメトロンからの着信を示したのは、この直後だった。
―――――♪:眠れる森へ行きたいな
「おやすみ~♪」
歌唱の終演。ステージ上に用意された簡易的なベッドに横たわった少女へ向けて拍手が起こる。パチパチと小気味の良いリズムだ。さながら子守唄のように全身を包んでくれる。
そんな客席の光景を瞼越しに空想しながら、彼方は心地良い眠りへと落ち―――、
「わあぁ、彼方ちゃん起きて~!」
「こーら、まだライブ中よ」
―――ようとしてギリギリ踏み留まる。
そうだ。今は同好会の定期ライブの最中。あまりにも夢見心地でそのまま入眠してしまうところだった。
「これは失敬失敬……。みんなぁ、今日は来てくれてありがとぉ~」
身体を起き上げ、ネグリジェのような衣装に身を包んだ彼方は客席へと手を振る。
学園内の講堂。予備予選で立ったステージに比べれば、殆どが虹ヶ咲の生徒である客席は少々閑散としている。それでも自分達のライブを見に来てくれた人達がいるという事実だけで十分なくらいだ。
「……いないかぁ」
十分なはずなのに。
客席を見回す彼方は、無意識に幼馴染の姿を探していた。
「……いないわね、アイツ」
客席にも、周囲のメンバーにも聞こえない程度の小声で果林が耳打ちしてくる。見透かされていたらしい。
「お母さんのお見舞いあるって言ってたし……。仕方ないよ」
「ふーん……。昂貴ならそれでもすっ飛んで来そうだけど。現にほら、雄牙は戻ってきてるし」
「わ、めっちゃ息切らしてる。おもしろ」
「すっ飛んで来たんでしょうね。……雄牙が間に合うならアイツも来れたんじゃないかしら」
「まあ、他の用事があったのかもしれないし……」
言いつつ、考えは果林と同じだった。
これまで……まだ東雲でスクールアイドルをしていた時からそうだ。昂貴はどんな予定があろうと彼方のライブには必ず足を運んでいたし、虹ヶ咲に来てからも同好会の活動がある日は出来るだけ予定を開けるようにしていた。
それがここ一週間は顔すら出していない。彼方自身は家が隣ということもあって顔を合わせる機会こそあるが、それでも共にいる時間はずっと減っている。
当たり前だったものが遠くなってゆく気がして、少し不安だった。
「彼方がいいならいいけど……。その分たぁーっぷりファンサして、アイツの事悔しがらせてあげましょ」
「……うん。そうだね」
そうだ。彼方がどうであれ客席の皆には不安な姿は見せられない。
今日この場所へ来てくれた人達へ精いっぱいの感謝を。そんな想いを抱え、改めて会場を見回す。
「……え?」
目に留まった赤い靴の少女に思考が白に還ったのは、この直後だった。
「アオイちゃん!」
少なからずの疲労を抱えた身体を必死に前へと動かす。
走って、走って、その姿が幻視ではなかったと確かめるため、彼方はライブ中よりも張り上げた声で彼女の名前を叫んだ。
「……かな、た……」
足を止め、振り返った少女。特徴的な蒼い髪と、胡乱な眼が揺れた。
間違いない。でもどうして。確信と疑問が鬩ぎ合う心は、雑多で面倒な感情がぐるぐると渦巻く。
それでもやはり、先走るのは喜びばかり。
「アオイちゃん、なんだよね……? 彼方ちゃん、実は夢の中にいるとかじゃないよね……?」
「か、な……」
少なくともこの時は本当に夢の中にいる気分だったんだ。
遠い場所、手の届かない場所に行ってしまったと思っていた友人がこうして目の前にいる。またこの子の笑う顔が見れる。叶えられなかった約束も果たせる。輝かしい期待が胸の内から溢れ出るようだった。
すぐにそれが―――どれだけ夢であれば良かったと願うとも知らず。
「……たな、な……かなた……」
「アオイ、ちゃん……?」
「かな、かなたっ……かなた。かなたかなたかなたかなたかなたかなたっ。かなたかなたぁ」
その目は彼方を見ていなかった。
光もなく、焦点も合わず。何もない虚無を映したまま。アオイーーーの形をした何かはまるで亡者のように、緩慢な動きで彼方を求めてくる。
「なに……え? アオイちゃん? どうしたの……?」
「かなたっ、かなたぁっ……」
欲しい言葉が返ってこない。問答にすらなってない。
ただただ譫言として彼方の名を呼び続けるそれは最早記憶の中の友人ではなかった。
「かなたぁぁぁっ!」
「やっ……やめっ……!」
情報を処理しきれずに硬直した身体はすぐさまアオイに捕まり、馬乗りになる形で拘束される。とてもその体躯に秘められているとは思えない猛烈な力で抑え込まれ、身動きすら取れなくなる。
「ひっ……?」
アオイの顔が視界を占拠し、同時に形容しがたい悪寒が伝った。
「なに、それ……アオイちゃん!? ほんとにどうしちゃったの!?」
皮膚を裂き、体表へと突き出ていたのは魚類を思わせる鱗。
顔面だけじゃない。腕、脚、胸元……全身から発芽する翡翠色は徐々にその浸食を広げていく。
直視にも耐えないほどに痛々しい波紋は、終ぞ正気も生気も失ったアオイの顔を歪ませた。
「かなぁッ……あ、ァああぁアアあァァァッ……!」
「……アオイちゃん!? だ、だいじょ……」
彼方を組み伏せる姿勢から一変。転げ回って藻掻き苦しむ彼女に直前までの恐怖は消えてなくなる。
だがしかしそれでどうこう出来るという訳でもなく、ただただ獣のような悲鳴を上げる友人の名前を呼びかけることしか叶わなかった。
「はぁ……もう起爆か。彼等も気が早い」
折、音もなく歩み寄っていた影の気配に気が付く。
左右を白黒に解った男は周囲の目も、彼方の存在も、アオイの悲鳴も意に介す様子もなく、ただ静かに手を翳す。
「すまないね。さぞ心地の良い暗闇にいただろうに。やはり、君にこの世界は眩しすぎたようだ」
ふわりと浮かび上がり、アオイの身体から取り出されたのは禍々しい意匠の施された指輪。
「だが最後にいいものを見せてもらったよ。死してなお手の届かない輝きに焦がれてしまう虚無……実に美しかった」
瘴気すら的って見える一品を愛おしそうに握り締めた男の眼科で、アオイはアオイとしての形を失ってゆく。
「実験に付き合ってくれた礼もある。せめて見届けようじゃないか。君のその、途方もなく偽りに塗れた……旅の終わりを」
アオイを中心とした爆発が巻き起こり、吹き飛ばされた彼方の身体が地面を転がる。
「あははははははっ!!」
悪魔のような高笑いの跡。
『ッッッ――――――!!!』
白煙を切り裂き轟いたのは、巨像を揺らす怪獣の咆哮だった。
さり気オリキャラの親が喋ったのはゼロライブから数えても初めてなのでは……。まあ今後あまり絡むことは無さそうですが()
かつて変態仮面によって退場してしまったアオイちゃんですが、何とドルズ星人に利用される形で再登場……。一応補足しておきますが彼女は既に死んでおり、今回動かされていたのはあくまでもトレギアによって提供された死体に過ぎません。
そしてそんな遺体すらも弄ばれるまま変貌してしまった怪獣は……まあ、アイツです。
ドルズ星人もトレギアも明るい作風のタロウ由来のキャラなのにどうしてこんなことになるんだ……()