トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~ 作:がじゃまる
倒壊した瓦礫の群れる灰色の中、不自然に形を保った建物。
一飛びでその屋上まで跳躍したオグリスは、ポップコーン片手に戦況を俯瞰する男―――トレギアの背後を取った。
「また随分な客を招いたものだな。もう私には飽きたか?」
「……オグリスか。自分から離れていった癖によく言うよ。それともなんだ? また自分の席が欲しくなったのかい?」
「ご生憎自分の席は自分で用意する主義でな。心配には及ばんよ。……まあ、お前の隣など誰も座りたがんが」
言いつつ、コンクリートを蹴飛ばしたオグリスはより高い位置にある貯水槽へと腰掛ける。見下ろす構図だ。
「……お前、この星を滅ぼす気か?」
「そうでもあるし、そうじゃないとも言える。今回に関してはほんの実験のつもりだったがね」
「はっ……その結果大事な実験場を滅ぼすとはな。間抜けもここまでくると笑う気にもなれん」
「そうでもあると言っただろう。……私としてはねオグリス。別にこの星の存亡はさした問題ではないんだ。結果として行きつく場所が同じであるなら過程は問わない」
容器ごと頭上へ放り投げられたポップコーンが風に乗り、バラバラな方向へ運ばれてゆく。弾けなかった種のみが元の場所へと降り注ぎ、コンクリートと共に硬い音を奏でた。
「ふぅん……ではあの陰湿なおしゃべりはお前の趣味か。中々に稚拙で矮小だ。そんなだからお前一人では邪神の依り代になり得ない……器がいるんだろ?」
「おや……そこまで気付いていたか。模造品だからと少し見くびってたよ」
意味返しのつもりか、わざとらしくオグリスを挑発したトレギアは首の角度を歪めた。
「それで? 私の目的を看破したところで君はどうする。正義を掲げて私を阻むかい?」
「さあな。それは私の気分次第だ」
「ははっ……。わざわざ出向いて来ている時点でそうだろうに、素直じゃない」
転がり、やがては勢いを失った種の内一つをトレギアは躊躇いなく踏み潰す。
「……あの怪獣はね、オグリス。ある意味では君の写し鏡なんだよ。光の国のウルトラマンとは相反した存在である、君の」
「他人にあり方を測られるのは気分が悪いな。……何が言いたい」
「アレもまた可能性の一つであるということさ」
また風が吹く。
両者の間で行き交う思惑を運ぶにはあまりにも弱々しい風。
行き着く先は三人の巨人と、一匹の獣に委ねられていた。
『そんな馬鹿な……アイツは……!』
『起源獣神だと……!?』
頭部は低い位置にある。構図でいえば見下ろす形だ。
それが本当に正しい形なのかわからなくなる。それほどまでに、生物としての格の違いがあった。
結晶体のような漆黒の毛並みを靡かせる体躯から溢れ出るエネルギーを一言で表現するのならば……命。
暴力的なまでの生命エネルギーの塊が、今目の前にいる。
『そこのお二人さんよぉ……。俺にもご教授頂けねぇか。その起源獣神様ってやつをよ』
気丈に振る舞うフーマにさえ戦慄があった。感覚派の彼はより強く実感してしまっているのだろう。
生き物として備わった本能が、アレに関わるなと全力で叫んでいる。
『……生命の誕生には二つの起源がある。一つは奇跡にも近い確率で重なり合った偶然から発生する場合。もう一方は……創造主による作為的な創生』
一切の感情を押し殺した声音でタイタスが添える。
『奴はその後者を担う存在だ。起源獣神……星に生命を産み落とし、生態系を生み出す……獣にして神なる存在だ』
―――――
吐き切ると同時に怪獣―――グルシャルボロスが大地を蹴飛ばす。
『なッ……アァ!?』
『ぐあぁっ……!?』
瞬間、奴が移動しただけで発生したソニックブームはタイガとフーマの身体を容易く吹き飛ばして見せる。
『ぐっ……!』
恐ろしい勢いを秘めた突進が自身へ向かってくるのを悟り、タイタスは咄嗟に両腕を交差し防御の姿勢に入る。
『ッッッ―――――!』
再度の咆哮が内臓を揺らした。生と反した領域に持っていかれそうな圧の中で昂貴とタイタスは全力で二の足に力を込める。
ヤバい。ヤバイ。ヤバイヤバいヤバイヤバイ。
感覚でわかる。少しでも生き残る術以外を思考すれば死ぬ。立ち向かっていい相手じゃない。
『があぁぁッ……』
衝撃の塊が前方の半身を飲み込み、堪え切れずに真後ろへ転がるタイタス。裂けるような痛みが余すところなく駆け巡るが、これは生きている証拠だ。
ともかく、体勢を立て直して次の攻撃に備えなければ。訴えるままに起き上げた身体が認識した世界で昂貴は驚愕することとなる。
「は……?」
奴は静止していた。直前までタイタスの身体があった場所の、ほんの手前で。
「これで攻撃じゃねぇってか……」
当たってもいないのにこの威力だというのか?
もし奴がその気であったのなら……それだけで終わり兼ねなかった。
絶望的なまでの力の差に愕然とする。
『だがどうして……』
『ッッッ―――――!』
今ある生の実感。及ばない理解。現存する悉くが目まぐるしく巡る最中、グラシャルボロスは三度の叫びを上げる。身に宿す漆黒をそのまま吐き出したかのような猛々しい怒りだった。
「あれは……」
昂貴が奴の眼下にある怪獣の亡骸に気が付くのとほぼ同時にグラシャルボロスは上体を持ち上げる。
そして、
『ッッッ――――――!』
びしゃり。
散華した紅がグラシャルボロスを染める。
隕石が如し勢いで振り下された鉄槌は容易くメモールを押し潰し、その肉片と血潮を四方に飛び散らせた。
『ッッ……! ッッッ――――――!』
『ぐうぅッ……!』
何度も、執拗に、過剰に。
ただの一撃で対象は原型を失う。それでもなお、やり場のない憎悪をぶつけるようにグラシャルボロスは大地を砕き続けている。その度に発生する衝撃波が身体を裂いた。
『まさか、彼の星は……』
壮絶な感情を目の当たりにしたタイタスの思案が共有される。
「ドルズに滅ぼされたって訳か……。んで、恨みから連中を追っかけ回してる」
『ああ。奴等はそれを利用し、別の惑星に呼び寄せてはその滅亡に加担させてきた……筋書きはこんなところだろうな』
これだけの力を持つ怪獣だ。グラシャルボロス自身にその気がなくとも、ただ星に降り立ち、暴れるだけで壊滅的な被害が発生する。そうなった文明を陥落させるのはさぞ容易いことだろう。
「……ソイツはエサかよ」
最早血潮の痕跡を残すだけとなった亡骸を見下ろし、恨めし気に零す。グラシャルボロスの星を滅ぼす際にもこのメモールが用いられたのだろう。
以降ドルズ星人はメモールを蒔絵に奴を釣り続け、その怒りを利用し続けてきた。効率的で邪悪な行いに吐き気がする。
『ッ……! 来るぞ!』
ドルズと、確実に一枚噛んでいるであろう白黒の悪魔に煮やした業が頭を満たし、タイタスの警告に反応が遅れる。
阻むもの全てをブチ砕く突貫。本能で防御の不能を悟った身体が自ずと回避行動を選択する。鋭利な衝撃が刃物の如く全身を掠めて過ぎ去った。
「ちぃッ……俺等も敵かよ」
『恐らくは迎撃作戦の一件だろうな。……地球への進行を阻んだ我々も敵ということか』
「あれは正当防衛だろうがよ……」
『理解してもらえるはずもあるまい』
内心で舌打ちを打ちつつ思考を切り替える。過去を呪っても何も変わらない。
今はただ……この状況を切り抜けることを考えろ。
『ヌゥンッ!』
真っ先に考えたのは、奴が地球へ誘き寄せられたのと同様、自分達をエサに地球の外へと導く方法。単純だが一番手っ取り早い。
『ッッッ――――!』
目論見が失策だったと告げたのは、グラシャルボロスの背面から射出された無数の結晶体だった。
『ッ……! ˝プラニウムバスター˝!』
ミサイルを思わせる軌道で飛来するそれらを迎撃すべく光球を撃ち出すが、結果は群れの一本を相殺するだけに終わる。これ以上の撃墜など間に合うはずもない。
『ぐああぁぁッ……!』
一本一本が音速を超える速度で宙を駆け、プラニウムバスターと同等の威力を持つ。俊敏さに劣るタイタスに搔い潜る術などなく、次々と着弾した爆発が巨人を地へと叩き落した。
『˝スプリームブラスターッ˝!』
『˝鋭星光波手裏剣ッ˝!』
タイタスと同質の姿をした他のウルトラマンもまた、奴にとっては敵だ。
熱量を高めた口元から放出されたのは迎撃作戦の際に見せたエネルギー砲。溢れんばかりに命を注がれた光の束は、二人の反撃など容易く押し返してしまう。
『があぁぁッ……!』
『ッ……、タイガッ!』
そして直撃。
一瞬にして実像を保てなくなったタイガの肉体が光の粒子と化し、虚空に霧散した。
『ちぃぃッ……、おい旦那! このままじゃ持たねぇぞ!』
辛うじて回避には成功したフーマだったが、立て続けに襲来する結晶体の波に追われ戦線に復帰することが叶わない。
必然的に、タイタスとの一対一の状況が生まれる。
『ッッッ―――――!』
『ヌッ、アアァァッ……!』
瞬く間もなく間合いが詰まり、過剰に肥大化した前腕が大槌の如くタイタスを押し潰さんと振り下ろされる。躱せないと悟り受け止めるが重い。とにかく重い。巨大な惑星そのものと押し相撲をしているようだ。
『グッ……ァァアア……!』
稲妻染みた痛みが両腕の先から胸元にかけてまでを襲う。ただでさえ傷の癒えてい身体が悲鳴を上げている。
骨にヒビが入った。これ以上は腕が砕けかねない。だが抗うのをやめれば次の瞬間に砕けているのは身体だ。
『˝アストロビームッ˝!』
咄嗟の機転。額のスターマークから発射した光線がガラ空きの首元へと命中する。
流石の奴も急所への攻撃は応えるか。圧し掛かる負荷が弱まるのを感じ、タイタスは起死回生の力で黒の巨体を押し返した。
《タイガレット》
《フーマレット》
《コネクトオン!》
決めるなら、チャンスは今しかない。
重ねられるだけの力を重ねて。
『˝ストリウム˝―――』
込められるだけのエネルギーを込めて。
『˝タイフーン˝―――』
ありったけの全てで、ぶっ放せ。
『˝デュアルバスタァァァァッ˝!!!!』
殴り飛ばした光球が七色の風を纏って炸裂する。爆裂と爆炎が吹き上がり、金切り声をも置き去りにして奴を弾き飛ばす。
酷使した右腕が脱力し、ぷらりと垂れた。暫くは使い物にならないだろう。
「……クソッ」
頼む。祈るように注視した粉塵の向こうでまだ、巨影は蠢いていた。
『まだ、足りないか……!』
残存するエネルギーの殆どをつぎ込んで放った一撃でも、まだ届かない。
ダメージは与えているんだ。口元から垂れ落ちる鮮血は何よりの証……だが奴を戦闘不能に追い込むまでには至らない。
『ッッッ―――――!』
『ぐッ……!』
ただでさえ万全ではない状態での激しすぎる消耗に膝をついた身体には、もうグラシャルボロスの突進に対処出来るだけの余力は残されていなかった。
着実に迫る破滅の突撃を前に、頭が真っ白になる。刹那に瞬いたのは走馬灯なのだろうか。
(……。く、そっ……)
全てが塗り潰されたはずのキャンバスに描かれたのは、最後に見た幼馴染の顔。
あんな顔をさせるためにこの道を選んだのか?
日常を犠牲にして、父親に冤罪を被らせ続け、母親が知るべき真実を覆い隠して、大切な人からの笑顔も奪って……それでも進み続けた道の先で。
自分は一体……何を守れたのだろうか。
『旦那ァッ――――!!』
ただ一人残されたフーマの声も既に遠かった。
途方もない無力感の中、力の賢者を構成する意識は、暗闇へと沈んでいった。
『……ここらが潮時か』
立て続けにウルトラマンが敗北した戦場で、フーマは自ら降りる道を選ぶ。蒼い肉体は風と共に掻き消え、吹き抜けた先へ小さな少年の身体を運ぶ。
「待ってよフーマ……! 今僕等が逃げたら誰が―――、」
『旦那が力負けする相手なんざ手に負えねぇよ。下手に特攻して共倒れになるよか、ぱっぱと体制整えて次に備えた方がいい……違うか?』
「それは……」
有無を言わさぬ圧に押し黙らされ、耀は歯軋りと共に無力感を噛み締めた。
落ち着け。フーマの言う通りだ。最優先なのは怪獣を倒すことじゃない。
一先ずは校舎に戻って皆を避難させよう。焦りながらも回した思考で指針を弾く。
「う……わぁッ……!?」
踏み出そうとした足は立て続けに襲い掛かる地鳴りに阻まれた。アスファルトに走った亀裂に踵を取られた耀が真後ろへ転倒する。
「なに、これ……」
仰向けになった身体を暫く起き上げることは出来なかった。背筋から伝う、一定の間隔で脈打つ大地はまるで心臓の鼓動を思わせる命の奏でを刻んでいたから。
心地良いようで、それでいて強い拒絶感を覚える。寝心地の悪い揺り籠に揺られているかのような感覚。
その中心に在る存在が何者であるのか。遅れて状況を認識した耀は咄嗟に背中を引き剥がした。
「生み落としてる……?」
胎動する世界を作るのはグラシャルボロスに他ならない。
前腕を地面へと突き立て、小刻みに震わせる全身から注がれるのは奴の抱える命のエネルギーだ。
地球の持つ命とは全く異質な荒々しさは在来の形を壊し、次第に大地は塗り替えられてゆく。適応出来ないものを蹂躙し駆逐する、破滅の行進だ。
一体何が起きているのか。ここまで来てそれを理解出来ないほど自分達は馬鹿ではないし、動揺を留めておけるほど利口ではなかった。
『まさか……星を乗っ取る気か?』
空席の王座に居座った獣の勝鬨が、今ある世界全てに響き渡った。
つー訳でゼロライブの時のウニラ(黒歴史)以来になるのでしょうか。ひっさびさの完全オリジナル怪獣です。
その名も起源獣神 グラシャルボロス。
作中でも言及はされましたが星に命を産み落とす神のような獣……例を上げればポケモンのミュウやアルセウスが近いでしょうか(後者は世界を生み出してるので厳密にはちょっと違いますが)
その一方で自身の星をドルズ星人に滅ぼされ、復讐に駆られる悲しい存在でもあります。
突発的に出てきた怪獣にしてはやたらと設定が濃い……()
地味に今作では無敗を誇っていたタイタスとフーマすらも容易く退けられた今、生態系の塗り替えが始まった地球の運命や如何に……。