トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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ギャラクシーカップ、初の予選最下位を叩き出し鬱モードへ―――、


57話 悔いと選択

楽しい一日になるはずだった。

 

ライブをやって、みんなでお疲れ様会をして、家に帰ったら妹を愛でて、おいしいご飯を作って食べる。なんてことない、素晴らしい一日が待ってるはずだった。

 

それがどうして、こうなってしまったのだろう。

 

 

 

 

 

 

「……見舞いに行ってた奴が見舞われる側になってどうするのよ」

 

ガラス越しに区切られた部屋の中で、沢山の機器に囲まれながら眠る同級生の姿に、果林は悪態を付くしかなかった。

 

昂貴が病院に運び込まれたとの報せを受けたのが大体二時間前。彼方も一緒と聞き、一先ずは同じ三年生であるエマと共に駆け付けたはいいが……待ち受けていたのは想像以上の惨状だった。

 

ドラマの中でしか見たことの無いような機器が患者を囲う集中治療室。

 

医療には明るくないが、ここに運び込まれるほどの状態がどれだけ酷いのかくらいは想像がつく。

 

さて、まだ何も知らない下級生達にどう説明したものか……、

 

「……彼方ちゃん、大丈夫?」

 

傍らでエマが語り掛けるのを感じ、果林は思考を切り替える。ある意味では昂貴より酷い状態であるのがもう一人いた。

 

彼方と合流した時は本当に驚愕した。ほんの数時間前までステージの上で舞い踊っていた華やかさなどどこにもない憔悴し切った姿。

 

勿論昂貴の状態を案じてのものなのだろうが、それと同等以上の何かが彼女の中に巣食っている。そんな気がした。

 

「彼方」

 

「……ぁ。ごめん……どうしたの?」

 

彼方らしくもない、数拍遅れての返答。完全に心ここに在らずといった様子だ。

 

ただ昂貴の状態を案じてのそれ、だけでないことは目に見えて明らかだった。

 

「エマが、大丈夫かって」

 

「え……あぁ、うん。ちょっと色々あって疲れちゃったけど、大丈夫だよぉ」

 

無理のある応答にエマが影を深くする。声音こそ取り繕っているが、それ以外が何も隠せていなかった。

 

いや、問題なのは隠そうとしている行為それ自体か。

 

「その……聞いても、いいかな? 何があったか」

 

エマは他人の感情、とりわけ不安や悩みといったものには人一倍敏感だ。果林でさえ察せてしまう機微を彼女が無視出来るはずもない。

 

それは偏にエマの優しさから来る思いやりなのだろうが、今回ばかりは必ずしもそれが最善であるとは限らないのかもしれない。

 

「私が何か力になれるなら―――、」

 

「……エマちゃんが嫌なだけじゃないかな」

 

「え……?」

 

鉄のように、底冷えする無機質な音がエマの訴えを遮った。

 

「ぅあっ…………ごめん」

 

一瞬、それが彼方のものであると認識出来なかったが、直後に困惑した表情で向けられた謝罪が決定付ける。呆気にとられ、暫くは言葉が出なかった。

 

「……触れて欲しくないなら、今は触れないわ」

 

考え、果林は自ら沈黙を破る選択をした。

 

……流石に驚いた。まさか彼方からあんな発言が飛び出すとは。

 

精神的なストレスで攻撃的になっているのか、将又別の要因か。理由は不明だが、今の彼方に余裕がないのだけはハッキリしている。

 

「今日はもう戻るわね。量の門限過ぎちゃってるから、早く謝りに行かないと」

 

こんな時、どう接してあげるのが正解なのかはわからない。きっと模範解答もない。だから果林なりに考えて、こうすることを選んだ。今の彼方に必要なのは時間だろうから。

 

「辛くなったら、いつでも頼って」

 

ただ一言の本心を置いてゆき、果林はエマを連れて病室を後にする。

 

夜の病院と言われれば、真っ先にホラー作品で描かれるような暗くて不気味な世界が思い浮かぶ。しかし今両の眼が映す世界では隅々までもが電灯によって明るく照らされ、その中を忙しなく人々が動き回っていた。

 

東京が霧に覆われた時とはまた違う、怪獣が現れた後の世界。きっと一つとして同じ光景はないし、そこに在る人々の想いだって違う。その度に色んな人が何かを失って、傷付いて、それでも前に向かおうと藻掻いている。

 

今はきっと、彼方の番なのだろう。

 

「気にしなくていいわよエマ。彼方は今、色々ありすぎて疲れちゃってるだけでしょうから」

 

「……うん。それは、わかってるんだけど……」

 

表情を曇らせる親友に、くすりと口角を上げる。次の発言は容易に予想できた。

 

「迷惑、だったかなぁ……」

 

「そんな訳ないでしょ。皆、エマには支えられてるもの。彼方だってそう……すぐにエマの言葉が必要な時が来るわ」

 

本当にお人好しというか優しすぎるというか。想像と一言一句違わない嘆きに笑い出しそうになる。

 

「今は待ちましょう。大丈夫よ。だって彼方だもの」

 

「……うん。そうだね」

 

不安になる気持ちを押し殺し、前向きに進んだ。これは彼方の番であると同時に自分達の番でもある。

 

(……アンタもなんでしょ、昂貴)

 

エマに悟られぬよう、小さく振り返り、果林は細めた目線を立ち去ったばかりの病室に注ぐ。

 

勉強が苦手である自覚はあるが、この状況で気付けないほど馬鹿じゃない。既に自分は前例を知ってしまっているから。

 

(全く……似た者同士なんだから)

 

大人しそうに見えて実は感情が豊かで、気だるげに見えて実は努力家で、周りをよく見ているのにお互いのことには不器用な、時々呆れるくらいにお互いが好き過ぎる二人。そんな二人が果林も大好きだから。

 

だから―――、

 

(……待ってるわよ)

 

きっと乗り越えられる。そう信じて。

 

まだ行方もわからない彼方へと、果林は想いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はは。駄目だなぁ、彼方ちゃん」

 

罪悪感に押し潰されそうになる。エマは彼方のことを想って言ってくれたはずなのに。

 

でもそれはアオイに語らいかけた時の自分と同じで。

 

あの優しさを受け入れたら、自分の行いを許すことになってしまう。それだけは出来なかった。したくなかった。

 

「ぅっ、あぁっ……」

 

自然と滲み出てきた涙は拭っても拭っても止まってはくれなかった。

 

彼女を喪ったと知った時も同じように泣いていた気がする。思い描いた未来は、彼方の都合のいい妄想に過ぎなかったというのに。

 

昂貴だってそうだ。

 

崩れ落ちる建物の瓦礫から助けてくれたあの日からずっと、昂貴は戦っていたんだ。守ってくれていたんだ。

 

こんなボロボロになるまで、そんなことも知らずにのうのうと守られ続けていた自分を、ずっと。

 

「ごめん、ねぇ……」

 

今更謝って何になるんだろうか。喪ったものは帰ってこないし傷も治らない。それでも呟かずにはいられなかった。この期に及んで許しでも求めているのだろうか。

 

せめて、せめて一言罵って貰えれば諦めがつくのに―――、

 

『少しいいだろうか、お嬢さん』

 

自分の嗚咽しか届かなかった耳朶……いや、脳内に頭の中に直接触れた声。

 

『顔を上げてくれ。……君に、話しておかなければいけないことがある』

 

遂に都合のいい幻聴でも聞こえ始めたかと嫌気が差すが、第二、第三と語り掛けてくる響きが現実のものであると告げていた。

 

「……ウルトラマン?」

 

ゆっくりと持ち上げた目線が捉える小人の姿。大きさこそ記憶のそれと大きく異なるが、胸に宿る輝きはこの国の住民皆が知る光の巨人の姿だった。

 

『まずは……そうだな。せめて一言、謝らせてくれ。申し訳ないことをした』

 

遅れて、そのウルトラマンが昂貴の変身していた筋骨隆々の巨人であると理解する。けれどもそれ以上の理解が及ばない中、彼は深々と頭を下げた。

 

『私はウルトラマンタイタス。U-40という別宇宙の星から派遣されてきた者だ。昂貴には……訳あって身体を借りていた』

 

半透明の身体で治療室へと相貌を向けた彼の背中は、大きさに反してとても小さく見えた。

 

『君を守りたいという彼の強い気持ちと決意に心を打たれ、共に戦うことを決めた。……だが、そのせいで私は取り返しのつかない過ちを犯してしまった』

 

皮肉だな、と。自嘲気味に零した真意はわからない。けれど彼も彼方と同様、途方もないほどの罪悪感を背にしている。

 

『ウルトラマンとしての使命を背負わせてしまったばかりに、私は彼を必要のない危険に晒し、多くの時間を奪ってしまった。現に今も昂貴は生死の狭間を彷徨っている』

 

「でも、それは私を守ろうとしたせいで……」

 

『……トレギアに何か吹き込まれたようだな。その言葉は気にしなくていい。奴は多分の感情を弄び、歪める卑劣な存在だ。わかっていながら君の友人を唆し、殺し、剰え亡骸を弄んだのも全て奴だ。決して君のせいじゃない』

 

激励を飛ばすにしてはあまりにも悲しい目をしていた。彼もまた罰を求めるように、全ての責を己へと向けようとしている。そんな気がした。

 

『むしろ、君達が悪しき者達に狙われる理由を作ってしまったのは、私だ。……私が介在せずとも訪れていた試練はあった。だがそれを悪化させてしまったのは紛れもなく私の存在だ』

 

半透明な彼の身体が、より一層薄れていくのがわかった。

 

『……これ以上、君達の人生を狂わせることは出来ない』

 

次第に遠くなってゆく声が嫌でも理解させてくる。彼の決断、その意味を。

 

「まって……どこに……」

 

『友として、最後の務めを果たす。この程度で償えるとは思っていないが……君達の未来は、必ず私が守る。約束しよう』

 

「だめ……だめだよっ……!」

 

このウルトラマンのことを何も知らない彼方でもわかる。彼は今自分の命を投げ打とうとしている。

 

止めなきゃいけない。わかっているのに、この手はまたも前へと伸びてはくれなかった。

 

『……落ち着いてからでいい。昂貴が目覚めたら、話をしてやってくれ。昂貴には君が必要なんだ』

 

彼が完全に消え去った後に動いた腕がただただ虚空を掴む。

 

微かに漂った熱と残響が、訪れた終わりを静かに実感させた。

 




重傷オブ重傷の昂貴。
流れ弾をもらうエママ。
何かを察した果林パイセン。
昂貴から離れる選択をしたタイタスと全てを知った彼方。

各々の想いが交錯し、夜は更けてゆきます。

一応年内にもう一回更新するつもりです。早けりゃ明日には上げられるかな……?
(※ 大晦日追記 無理でしたすんません)

それでは次回で。
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