トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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なんか年内に更新するとか抜かしておいて半年放置した奴がいたらしい。

社会人って厳しいっすね(ここ半年の平均残業時間100時間オーバー)

とりあえずようやく落ち着いてきたので帰ってきましたよっと。今後ものびのびとお待ちください()


58話 その道は誰が為

肉体が真っ先に感じたのは重力だった。

 

瞼を貫く陽光よりも、肌を撫でる柔らかさよりも、鼻腔を刺す芳香よりも。何よりも早くその違和感が全身を駆け抜ける。

 

身体が重い。とにかく重い。全身に鉄製の甲冑でも纏っているかのようだ。

 

「ぅ……ぐ」

 

果てしない倦怠感から抜け出すべく、昂貴は横たわる身体を起き上げた。

 

「い゛ッ……!?」

 

途端に走る激痛は目覚ましには少々苛烈すぎるものだった。右腕は厚手のギプスが填められており、胴体に至っては殆どがコルセットによって固定されている。右腕は少なからず剥離以上の骨折、肋骨も何本か逝っていると考えていいだろう。

 

さながら交通事故にでも遭ったかのような重傷だが、状況を考えればむしろ軽症で済んだ方だろう。相変わらず悪運だけは強いらしい。

 

それよりも、だ。あれからどうなったか把握するのが先決か。

 

「なあ、タイ―――、」

 

言いかけ、ようやく倦怠感の正体を悟る。

 

これは怪我の影響じゃない。ただ元に戻っただけだ。ただの地球人……年相応の高校生の身体に。

 

昂貴の中から、共に戦ってきた光の巨人の気配が消えている。

 

「どうなってんだ……」

 

回りきらない思考を無理矢理引き絞る。

 

焦りから浮上する、死んだという可能性はすぐに理性が否定する。だとするなら昂貴の怪我がこの程度で済んでいることがおかしい。火傷以外に目立った外傷が見当たらないのは、ウルトラマンの治癒力が働いた結果に他ならないからだ。

 

なら、どうして。

 

「あんの頑固野郎……!」

 

一頻り考えて、最も早く思い当たった可能性に帰結する。

 

タイタスが自らの意思で昂貴から離れた……つまりはそういうことなのだろう。

 

「あ……」

 

こうしてはいられない。突き動かされるままにベッドから降りた昂貴は、直後に開いた扉の向こうに立っていた彼方と目が合う。

 

そう時間は空いていないはずなのに。久方ぶりに顔を合わせた感覚すらある彼方は……酷く、やつれて見えた。

 

「……ごめんね」

 

しばしの硬直を見せた彼方は、やがて小さく口にした。

 

「ごめん、ねぇ……。彼方ちゃん、何もできなくて……」

 

その意味を理解するのに時間は掛からなかった。

 

彼女はもう知っている。

 

あのバカ真面目のことだ。ケジメをつけたつもりなんだろう。きっと自分のことも、昂貴のことも、余計なことを何もかも打ち明けた上でそれらを己の非として伝えたに決まっている。

 

「……お前のせいじゃねぇよ」

 

義務感を手放し、再び腰を下ろした昂貴は彼方を慰めることを選んだ。辛うじて持ち上がった腕で柔らかな髪を薙ぐ。

 

アテもなく追いかけて、よしんばタイタスを見つけたところでどうしようもない。そもそももう追いかける理由もなかった。

 

なんでタイタスがこうすることを選んだのか。そんなのはタイタス自身が昂貴の日常、人生に与える影響を危惧したからだ。これ以上自分の存在が昂貴の生活を変えてしまうことをタイタスは良しとしなかった。

 

だから、アイツは別れも告げずにいなくなったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だ~から言ったろうが。対して強くもねぇクセにパカパカ開けやがって」

 

仄暗い照明だけが灯る、閑散としたバーカウンター。数本のボトルに囲まれる形で突っ伏した宇宙人に、店主は苛立ちも隠さずに吐き捨てた。

 

「……酒は楽しむモンだ。んなヤケになって飲んでも美味くねぇだろ」

 

不機嫌な声に返す言葉は紡がなかった。そんな気分ではなかった。

 

「……ったく」

 

眼下の酔っ払いの相手が無駄だと判断したのか、小言を止めた店主は空になったボトルをかたし始める。

 

『マスターよぉ。そのままソイツでぶん殴ってやったらどうだぁ?』

 

「こんなんでも一応お偉いさんなんだよ。足が付くのは御免だね」

 

飛来する野次にも活気が無かった。ぼちぼちと人影は在る店内だが、日頃のそれと比べればずっと閑散としている。この場所で静寂を感じるのも久しかった。

 

起源獣神の影響は表社会の話だとばかり捉えていたが、実際は違った。動乱は地球に巣食う異星人達にまで広がり、今やあのヴィラン・ギルドですら地球からの退却を視野に入れている始末だ。

 

着実に、この十年間で培われつつあったものが崩れていく。

 

「……私は、何がしたかったのかな」

 

「テんメェ……やっぱ狸寝入りしてやがったか」

 

伏せたまま、ようやく発した声は酒に焼けていた。

 

「……十年前、あの戦いで君達の力になれなかった時からずっと考えてた。君達が守ったものを、今度は私が繋いでいかなきゃって。それが私の責任なんだって。……そのためのGEDOだった。そのためのE.G.I.S.だった。なのに私は……誰かに犠牲を強いてばかりだ」

 

守りたいもののために奮闘しているつもりだった。

 

でもどうだろうか。いざ振り返った道の上にいる自分は、いつだって己が過ちの清算を続けている。清算の最中でまた別の過ちを犯し、今度はその尻拭いに奔走する。この繰り返しだ。

 

彼が去った、あの日からずっと。

 

「……お前なりに苦労してきたのは知ってるよ」

 

幾分か柔らかくなった声音と一緒に、液体の注がれる音がした。

 

そして、

 

『つめたぁッ!?』

 

突如として後頭部に降りかかった冷たさ。あれだけ重かった身体は反射的に起き上がり、グラスを逆さに構えた店主と目が合った。遅れて水をぶっかけられたのだと理解する。

 

「だけどな、()()()

 

滴る水滴がカウンターや床を侵食していくのを気にも留めず、店主は真名を口にする。久方ぶりに耳にした名前だった。

 

「お前が勝手に背負い込んでやるなよ」

 

次に耳朶を射抜いた一言は、この十年間の全てを覆しかねないものだった。

 

なんで、今になってそんなことを言うんだ。

 

「……でも、こうなったのは私のせいじゃないか」

 

「そういう話をしてんじゃねェんだよ」

 

意図の見えない無遠慮な物言いに、怒りと似た感情が反論にもならない抵抗をする。それを彼は真正面から切り捨てた。

 

「誰に押し付けられたモンだろうがな、結局それを抱えて足搔くのを選んだのは他でもないテメェだ。逃げずに突き進んだのは、紛れもないアイツ自身の決断なんだよ」

 

「……何が言いたいんだい」

 

「それを犠牲だの可愛そうだのとお前が決めつけんなって話だ」

 

突き放すような返答と共に差し出されたのは一本の葉巻だった。

 

体質上、地球の品では利かない彼に自分がプレゼントしたメトロン星の煙草。あの日以降、口にしていない日を見たことがない。

 

「……私これ吸ったら暴れだすけど」

 

「たまにゃいいんじゃねぇの? ちったぁその窮屈な生き方も矯正出来んだろ」

 

「いや洒落にならないから……」

 

言いつつ、煙草を摘まんだ右手は彼から火種を受け取っていた。盃の代わりに交わした煙を口に含む。

 

「ッぅ……!」

 

酒で火照った身体が一瞬にして別の熱に多い尽くされる。跳ね上がった鼓動が視界を微かに紅く染めてゆく。

 

「……ヤバいねこれ。まともに吸えるの君だけでしょ」

 

「おかげさまでな」

 

自らも煙を吐き出しつつ、彼は淀みなく笑った。相変わらずの悪人面がいつになく柔らかく見えた。

 

「どんだけ苦しくてもよ、その道じゃないと得られなかったモンってのはあんだわ。案外そういうのが人ってのを形作ってたりすんだ。どんな些細なことでもよ」

 

幻惑も幻覚もない明瞭な意思は、彼の経験から来るものであると自分は知っている。

 

今でも瞼の裏に焼き付いて離れない景色がある。目の前の彼は随分と変わった。もうあの景色の中で走り続けている彼ではない。

 

地球人とは時間の感覚が違う自分にとってはつい先日のような日々も、既に過ぎ去ったものであると実感させられた。

 

「だから……ソイツまでそんな言葉で括ってやんなよ。寂しいだろ」

 

混じりの無い響きが霧散する。

 

あくまでも感情の話だ。彼の主張が正しいなんて保証はどこにもない。

 

だから今従うべきなのは、他でもない自分自身の心。

 

「……この流れでそれ言うと君ヤニカスになっちゃうよ」

 

「否定はしねぇ。最近気付いたら咥えてるからな」

 

「そこはしようよ……。そんなので皆に誇れる?」

 

「誇れるよ。アイツ等と一緒に作った立派な俺だ」

 

「……そっか」

 

彼の語らういつかを想起しながら胸に手を当てる。

 

懐かしい気分だった。

 

何かをすべき、じゃない。こうしたい、こうありたいと溢れ出る情動。少女の輝きに心打たれ、踏み出すと決めたあの時と同じだ。

 

だから、今一度自分に問うてみる。今自分がやりたいことは、この先に望む景色は何だ。

 

今自分に出来る、精一杯の足搔きはなんだ。

 

「……昂貴くんも、いつかはそう言えるようになるかな」

 

「さぁな。それはアイツ次第だろ」

 

犯した罪は決して許されない。贖罪も糾弾も るべき時が来たら必ず受けよう。

 

でもその前に……彼等の未来も作ってやらないで、自分は何を願えるんだ。

 

「……ごめん。今日の分、つけといて貰っていいかな」

 

返答も待たずに飛び出した。今なにも何事よりも貫き通したいものが、その先にあったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……たまにゃ奢ってやるよ。そのシケた面がマシになってりゃだけどな」

 

どこか懐かしい感覚に浸りつつ煙を吹かす。記憶の中で薫る潮風に口元を緩ませた。

 

思えば随分とあの場所には帰っていない。たまには懐かしい顔を拝みに行くのも悪くは無いだろう。

 

だがその前に―――野暮用が出来てしまった。

 

「さぁて、と……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒壊した建物。ひび割れた道路。原形を留めていない、少なくとも建造物であった何か。若干の焦げ臭さを残す街の惨状を見るのは初めてではなかった。

 

怪獣の出現が当たり前となったこの世界においては最早当たり前の光景。気にする者の方が少なくなっているくらいだ。

 

でも、今は違う。

 

「……タイタス」

 

湾岸を越え、立ち入り禁止の境界線が張られた街並みの、更にその向こう側。

 

品川を中心に直径数千メートルに渡るクレーターの中央に鎮座する緑色の球体を望み、昂貴は相棒だった巨人の名を呟いた。

 

昂貴との一体化を解除した後、タイタスはすぐに単独でグラシャルボロスの迎撃へ向かったそうだ。

 

交戦と同時に奴へと掴みかかり、自身を中心としたエネルギーフィールドを展開。自分諸共グラシャルボロスを結界内に封じ込めるのには成功したらしいが……既にこの状態になってから三日が経つ。

 

時折響く巨大な振動は球体内部で両者の力が衝突し合っている証拠だ。そしてそれは日に日に大きくなっている。

 

限界が近い。その箱を開かずとも、悟ってしまう心には揺れがあった。

 

「馬鹿野郎が……」

 

三角巾に吊るされた右腕に触れる。

 

一時は集中治療室に運び込まれるほどだったという怪我がこの程度で済んでいるのは、タイタスが自身のエネルギーを昂貴の治療に回したからなのだろう。

 

その結果がこれだ。ジリ貧になって、今にも倒れかけている。地球を守る光の巨人がなんて有様だ。

 

「……我慢比べでもしてるつもりかよ」

 

どうして未練がましくこんな場所に来ているのだろう。

 

もう昂貴にウルトラマンとしての責務はない。これからの人生、もう怪獣や宇宙人の絡む厄介な事件に首を突っ込む必要はないんだ。

 

その方がいいに決まっている。この数か月だけでもどれだけ自分の時間を投げ打ってきた。どれだけ死に目に遭った。どれだけ大切な人を傷付けてきた。もうその必要がなくなるのなら素晴らしいことじゃないか。

 

なのに、どうして。

 

「……クッソ」

 

どうして、こんなに胸が痛むんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い子み~つけた」

 

その先に踏み入ることも、かと言って立ち去ることも出来ずに時間を浪費してどのくらい経っただろうか。

 

無自覚に疲労を重ねていた昂貴の意識は、唐突に真後ろへと向いた。

 

「……朝香?」

 

「……そんな怪我で出歩いちゃ駄目じゃない」

 

気付けば真隣に陣取っていた同級生は揶揄うようにギプスを突いてくる。深い蒼が揺れる度に、場違いな芳香が鼻腔を撫でた。

 

「ま、思ったよりは元気そうでよかったけど」

 

また世界が揺れた。それでも彼女は在り方を変えない。

 

背にするのは日常を逸した光景。

 

抗うように……いや、気にすら留めぬように、朝香果林は日常を醸して、悪戯っぽく微笑んだ。

 

「暇してるなら、付き合いなさいよ昂貴。デートしましょ」

 

 




お待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません(frrn)

別に更新期間が開けば事態が好転するとかそんな訳はなく、弊社の業務並みに現状は大惨事であります。

昂貴と別れ単騎特攻を選んだタイタス。互いに消えない傷を負った昂貴と彼方。

果たしてセクシー姐さんと誇張抜きで五年ぶりに名前を出したあの人は彼等に何を齎すのか……



Aqours finaleまでにはもう一話くらい上げたいめぐねぇ……
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