遠い昔、世界がまだ互いに支え合っていた頃、
人は愛を求め、描き、造り出そうとした。
その愛の名は『アルテマクリスタル』
この物語は人が愛に狂い、世界が別った後の話。
二つの世界を再び結び、愛を取り戻したお話。
ユッケ
昔々確かに人々の歴史の中にあった闇が支配する世界。
ウッソウとした森の中、
電気もない、星だけが大地を照らすその中で焚き火をしているパーティーがいた。
〔パチッ、パチパチッ〕
「はぁ~っ・・・。」
目の前の焚き火を見て、一人の青年がため息をついている。
そんな青年の心に反応するようにそばにいた大きな黄色ダチョウのような鳥が首を上げて、青年の方に顔を近づける。
「クェッ?」
「おい、チョコ、やめろって・・・。」
青年のため息に気付いたその大きな鳥は優しく口ばしで青年の頬を撫でて、慰めているようだった。そんな相棒の気持ちも露知らず、青年は自己の恥ずかしさをただ隠すように手で優しく口ばしをどける。
「クゥ~~?」
チョコと言われたその大きな鳥は青年を見て首を傾げる。
「・・・悪いな、心配させたみたいで・・・。」
青年は雑に扱ってしまった後ろめたさを挽回するように優しく声をかけながらチョコの顔を撫でた。
「ふわ~~っ・・・何よ、ユッケ眠れないの?」
青年の近くで横になっていた女性が上体を起こして、目を擦りながら青年に声をかける。
「あっ・・・ごめん、ミナ。」
ユッケと呼ばれた青年は頭をかきながら声をかけられたミナという名の女性にそう謝った。ミナは栗色の長い癖毛をポニーテールでまとめており、見るからにハツラツとした性格が伺えた。服装は白い布の簡素な服を着て、茶色の少し汚れたマントを羽織って、寒さを凌いでいるようだった。傍らには短剣を置き、戦い慣れた雰囲気もあった。
「ユッケ殿、休めるときに休むのも修行ですよ。」
ユッケと焚き火を挟んだ反対側に大男が寝ており、背を向けたままそうユッケに声をかける。
ユッケに声をかけた大男は夜の闇の中でも2mはあろうかと言う巨体がハッキリ分かり、筋骨隆々で、服装はタンクトップに似たような布製のものでズボンもジーンズに近いが茶色い布製のものを履いて、今はマントでお腹周りを隠すように被せている。ユッケもミナという女性も長袖でマントを羽織っている限り、暖かい気候ではないようだが、この男にはさほど問題ないようだった。
〔ザッ、ガサガザッ〕
そうしていると、暗い森の中、頭上の木が音を立てた。
焚き火の周りにいる面々はその音にも身も動かさず、ユッケとチョコだけがその木を見上げる。
「あれっ・・・みんな、まだ起きてたの?」
見上げた木から明るい女性の声が聞こえたかと思うと声の主が空から声と共に降ってきた。
なんとも軽やかで5m以上も上から降ってきたにも関わらず、落ち葉が地上に落ちたかのような見事な着地だった。その姿はまさに美女。髪はショートで額にバンダナらしきものを巻いており、耳がやけに長く尖っているのが特徴的だった。背中には弓と矢筒を背負っていて、狩人なのだと言うことが見て取れる。服装はミナと同じような服で簡素にまとめられてはいたが、布製の胸当て・皮製の手袋・膝や肘当てなど戦闘向きな風貌がある。
「ははっ・・・ごめん、ティア。ちょっと眠れなくてね、みんな起こしちゃったみたいで。」
ユッケは軽やかな着地を決めた女性をティアと呼び、そう謝った。
「まぁ、ユッケはしょうがないわよね。慣れない土地なんでしょ?不安だもんね。」
ティアはユッケに優しい声でそう語りかけ、首だけ上げて寝ていたチョコの背中に腰を下ろした。
「ははっ、慣れてたのかさえ、分からないからね。」
ユッケは苦笑いでティアにそう答えて、三角座りしていた膝にアゴを乗せる。
そんな情けないユッケの姿にイラつきながら、ミナが口を開く。
「悩んだって、しょうがないじゃないのよ。命あっただけ喜びなさい。」
少しきつい口調でミナがユッケに言葉を投げつける。
「・・・その節は、どうも。」
体勢を崩さないまま、ユッケは不貞腐れた様にそう答えた。
「もうそろそろ名前ぐらい思い出さないの?」
ミナも呆れた顔でユッケに投げやりな言い方で続けて尋ねた。
「・・・2・3日で思い出せるなら記憶喪失じゃないと思うんだよね。」
不貞腐れた態度でユッケが素っ気なくそう答える。その時だった。
〔ポカッ〕
「あ痛て・・・なにすんだよ!」
不貞腐れた態度に業を煮やしたミナがいつの間にユッケに近づき、ユッケの頭を叩く様に殴った。
驚いたユッケはたまらず大声でミナにつっかかる。
〔ギャァッ、ギャァッ〕
〔グワッ〕
暗闇の森の中で鳥とも獣とも分からない声が響き渡る。
「人が心配してやってるのに、舐めた態度取ってるからよ!」
ミナが頭上から声をたたき付けるようにユッケにそう言い放つ。
「ちょっとちょっと、二人とも落ち着きないよ。」
たまらずティアが二人の間に入り、ニラみ合う二人を制止した。
「もっと頭殴ったら戻るんじゃないの?レオン、思いっきり殴ってやりなさいよ!」
ミナは反対側で寝ている大男をレオンと呼び、そう叫ぶ。
「・・・・・・。」
レオンと言われた大男は背中を向けたまま答えない。
「大体、変な服着て、倒れてるあんたを誰が助けてやったと思ってんのよ。」
ミナが腕を組み、大きく胸を張って、ユッケを見下ろしながらさらに強く言葉を放つ。
「・・・変な服って言われたって、俺にはこれが変な服なのかさえ、わからないんだよ。」
ユッケは思わずミナから目を逸らして、またアゴを膝にのせて不貞腐れモードに入った。
言われて見ると、ユッケと他の人物と服装を見比べてみても、着てる服から履いてる靴まで現代とファンタジーぐらいの隔たりがあった。ただ、ユッケ自身の記憶がなく、その事さえもい理解できずに今に至っている。
ミナいわく、ユッケは気付いたら、森の中に倒れていて、ユッケの周りをチョコが「クェッ、クェッ」と、鳴きながらアタフタしており、チョコの名前以外は自分がどんな人物だったかさえ思い出せない状況だったそうだ。そこにチョコの声に引き寄せられて来たのがミナ達だったという。その時、ユッケが名前も思い出せないのは不便だからと名前を付けたのが、他でもないミナだった。
『ユッケ=忘れん坊』
ティアはその名に腹を抱えて笑い、レオンは苦笑いを浮かべていた。
当の本人は意味も分からないのでとりあえず受け入れている感じに収まる。
「まぁ、ユッケも不安なのは分かるけど、休まないと明日も早いしさ。」
ティアがユッケの肩にポンッと手を置き、声をかけた。
「・・・ありがとうティア。眠れそうになったら寝るから。」
ユッケはそんな優しいティアに精一杯の笑顔を作って答える。
「体を疲れさせれば、幾分眠れましょう。素振りでもしてはどうですか?」
レオンがいつのまにか起き上がり、アグラをかいた状態でユッケに優しく声をかけた。先ほど背中を向けていたので分からなかったが、焚き火に照らされて浮かび上がったレオンは赤い短髪の髪に彫りの深い顔で無精髭を生やした『ザ・修行』を地で行くような青年というよりもおじさんだった。のんびりした声と振る舞いで、のんきな感じが伺えるが、その身体の節々に戦闘慣れした強さをニジませる。己の肉体だけで戦ってきた自信がレオンをさらに大きく見せていた。
「レオン、あんた起きてんじゃないの!」
それを見て、ミナが指を差してレオンに向かって怒鳴りつける。
「いやいや、私は今、目が覚めた次第で。」
レオンは両手を胸の前で開いて手を振るようにゆっくり揺らし、トボけながらミナの言葉をそうかわす。
「・・・素振りか・・・。」
二人のやり取りを尻目にユッケは横に寝かせてあった一振りの剣に手を伸ばした。倒れていた時は丸腰だったのでティアに護身用としてもらったものだった。剣の扱いに関してはまだまだだが、そこそこ振れるので護身用としては十分だった。この世界は様々な生き物がおり、人を襲うのも珍しくない獰猛な化け物も多いので、自分の身は自分で守らなければならない。そう考えるとユッケはとても幸運だったとも言える。ミナに悪態をつくものの、心ではユッケは本当に感謝していた。
「素振りするにしても、明日はもうフレビアに入りたいから程々にね。」
ティアはニコニコしながら、ユッケにそう言った。
「音がうるさいからやるなら離れてやりなさいよ!」
ティアとは違い、腕を組んで、ユッケから目を逸らしながら、ミナがきつい言葉をユッケに放つ。
「・・・了解。」
ユッケはそう答えると、剣を手にとって腰を上げ、焚き火から10mぐらい離れた場所に移動してみせた。それにチョコもついていこうとしたがミナに体を抑えられて制止させられる。
〔ブンッ、ブンッ〕
暗い森の中でユッケの振るう剣が空を切る。焚き火はみえているものの、いつ化け物が襲ってくるのか分からない中で音を立てると言うのは思っている以上に神経を張り詰めさせた。それを含めて、素振りはユッケの体力を順調に削っていった。
(たしかにこれなら十分疲れそうだ)
手に額に汗をかきながらユッケは剣を振り続ける。
暗闇の森の中は奇妙な獣の声と素振りをする音が木霊してた。
「起きろ、この馬鹿!」
〔ドガッ〕
「痛い!」
大きな声が耳に突き刺さり、左肩に衝撃を感じて思わず声を上げるユッケ。いつの間にか疲れて寝ていたのだろうが、どうやら寝過ごしてしまったらしい。ミナの優しい?蹴りが寝ていたユッケの肩に入る。
「クェ~~~・・・」
チョコが心配そうにユッケを覗き込んでいる。
「チョコッ、そんなやつほっといて、さっさと行くわよ!」
「グェッ?!」
ミナはそういうとチョコに飛び乗り、チョコをそう促した。それに苦笑いを浮かべながらティアとレオンが付き従う。
「ううううう・・・。」
ユッケは未だ左肩を抑えながらウズクマっていた。
次回、「巡礼」
今、ミナ達の旅の目的が明かされる!(千葉繁さん風)