アグニスはメラーニやアサッシュに任務に向かうことを告げるが、
バハムートが去った後、早々にアグニスは自分の果たすべき使命のための準備をしていた。
その傍らで、メラーニがその準備を手伝っている。
メラーニは今までいつでもいかなる時でもアポニスの副隊長として、アグニスの傍にいた。
しかし、今回の任務だけは違った。
アグニスはアポニスの精鋭部隊と、今、軍に残っている命知らずの猛者達を集めて決死隊を組織し、敢えてメラーニを外した。そして、メラーニには別の任務として後方支援とミッドガルドとの橋渡し役をするように指示したのだ。
「・・・・・・。」
納得のいかなかったメラーニはアグニスに自分も連れて行くように猛抗議したが今回ばかりはその思いは届かなかった。そのため、傍で作戦準備の手伝いをしているが、アグニスとはそれ以来まともに言葉を交わせずにいた。
「・・・メラーニ・・・今後の事は頼んだよ・・・。」
傍らで準備を進めているメラーニに対して、同じように準備をしながらアグニスが声をかける。
〔バンッ!〕
「ッ?!」
アグニスの言葉に反応するかのようにメラーニが持っていたモノを床に叩きつけて大きな音を出した。アグニスと少し離れた所にいた兵士達が驚いてメラーニを見る。
「・・・・・・なぜですか?・・・なぜ、そんな事を言うんですか?」
メラーニはアグニスの方を見ずに肩を震わせていた。
「・・・・・・。」
アグニスは無言でメラーニの背中を見るしか出来なかった。
「・・・今回の作戦に関しては、大佐自身が行かなくとも完遂する事は出来るはずですっ。」
尚も背中を向けたままメラーニが訴える。
「・・・・・・この作戦だけは他人に任せる事は出来ない。」
アグニスが一言メラーニに答える。
「・・・・・・別の準備がありますので、これで失礼します・・・。」
メラーニは最後まで背中を向けたまま、そう言い残してその場から姿を消した。
「・・・・・・。」
アグニスはその背中を無言で見送る。
アグニスとメラーニはアポニス発足当時から隊長副隊長とコンビを組んできていた。
数多の死線も互いに背中を守りながら切り抜けてきた。アポニスは最強と言われるが、犠牲がなかったわけではない。今までも数多くの兵士達がその命を戦場に捧げて来た。その屍の上にアグニスは立っていることを自覚している。だからこそ、誰よりも死を理解しているし、感じる事が出来る。それはメラーニも同じだろう。
メラーニを残すのは自分にもしもの事があった時のためというのもあるが、自分にとって、メラーニの存在が大きな物となったことが何よりも大きかった。
ハディに対しての責任もアグニスは大きく感じており、ゴコーレやフォッカに対して、もっと早めに潰せていたのではないかとオメガの事を知ってから常に自問自答していた。その罪をメラーニまでが背負う必要がないと言うのがアグニスの答えだった。
「・・・アグニス大佐、そろそろ輸送機の準備が整います。」
一人の兵士がアグニスの元に近付き、敬礼しながらそう報告した。
「・・・あぁ、報告ありがとう・・・すぐ向かうよ。」
アグニスは兵士にニコリと笑みを向けて答えた。
「・・・・・・大佐・・・ご武運を。」
光のない瞳でアグニスを見詰めるメラーニが敬礼しながら弱弱しくそう告げる。
「・・・行って来る・・・。」
アグニスはメラーニを一目見て、そう言いながらこれから乗り込む輸送機の方へと歩き出した。
二人の交わした言葉はそれが最後だった。
アグニスは輸送機に乗り込み席に座り、窓の外を眺めた。
そこにはアサッシュとずっと敬礼しているメラーニの姿があった。
メラーニの顔は遠くて分からなかったが、アグニスは届くかも分からない小さな窓からメラーニに敬礼を返す。
〔キイイイイイイイイィィィィーーーーーーーーーーーンッ〕
輸送機がけたたましくエンジン音を響かせる。
いよいよアグニス達が、ハディの向かうオメガクリスタルの元へと出発する時だ。
アグニス達は輸送機でモイスタイニア島の飛行場に行き、そこから場所を正確に特定して、ハディの計画を阻止しようと考えていた。
もちろん、ハディと直接対決して倒そうとするわけではない。
ハディに勝てないことは重々承知している。
だからこそ、できる限りハディの先回りしてオメガクリスタルを先に確保し、クリスタルを破壊して、ハディの計画をそのものを阻止しようとしていたのだ。
今、ハディはまだ向かっている途中のようで、その様子を艦隊や衛星に調査させている。アグニス達が間に合うかは微妙な段階だが、焦って行動してしまうとオメガクリスタルを発見する事が出来ないので、今は泳がせている状態だった。
「・・・っ?!」
考えを巡らせているとアグニスの目に兵士に制止されながらメラーニがこちらに向かって何かを叫んでいる光景が目に留まった。
「大佐ッ!絶対に帰ってきてください!!私はいつまでも待っていますッ!アグニスッ!!」
メラーニは輸送機のエンジンで自分の声が掻き消される中、届くわけもない思いを言霊にのせて必死に叫んだ。
「メラーニ少佐ッ!落ち着いて下さいッ!!」
「危険ですよ、少佐ッ!」
二人の兵士が必死にメラーニを羽交い絞めにして輸送機に近付こうとするメラーニを止めている。
「・・・・・・。」
アサッシュはその光景を傍で黙ってみているしかなかった。
アサッシュは若い頃から生真面目に任務をこなし、上との付き合いもその時その場に合わせながらここまで来た。
そのおかげと周りの部下にも恵まれた事により、トップまで上り詰める事が出来た。
しかし、自分の地位を利用して、何かをしようとは一度も思ったことはない。
何よりも兵士達が動きやすいように上と交渉して、いざと言う時に責任を取るのが自分の仕事だと今までもそう思って、椅子に座っている。
だが、自分が如何に力がないかをアグニスやメラーニの現状を見て、痛感させられ、打ちのめされていた。
自分が責任を取るどころか、結果的に信頼する部下にその責任を押し付けるような形になってしまったからだ。
ハディの口車に乗ったゴコーレやフォッカを野放しにしていたのはアサッシュ自身の責任が大きい。その尻拭いは自分ではなく、結局部下のアグニスがすることになってしまった。
フォッカ少将はミッドガルドで行方不明となってはいるが、ゴコーレ中将に関しては、今、これ以上詰める事が出来ずに手をこまねいていた。
メラーニが大切な人に向かって必死に叫ぶ光景を見て、アサッシュはいよいよ自分の取るべき責任の取り方を影ながら選択しようとしていた。
(アグニスよ・・・本当に無事に帰ってきてくれ・・・その時は・・・。)
アサッシュはそう強い想いを乗せて、再び死地へと向かう兵士達に綺麗な敬礼をした。
アグニスとメラーニの別れの中、
バハムートはいよいよ自分のやるべきことと対峙する。
次回、「バハムートの決意と賭け」
青年よ、決意を胸に秘めた者の強さを見よ!(千葉しげるさん風)