バハムートは自分のやるべき事と向き合っていた。
「・・・・・・。」
バハムートは無言で空を猛スピードで飛んでいく。
アグニス達と話して、ハディ達のいる方向に向かって、出来る限りのスピードで向かっていた。
バハムートの飛行速度でも流石に7000km以上離れていると何時間も掛かる。
それでも、バハムートは少しでも早くハディ達の計画を阻止するために急いだ。
そして、数時間飛行していると・・・。
「どこに急がれるんですかねぇ?」
聞き覚えのあるふざけた声がバハムートの頭に直接語りかけるように響いた。
(・・・やっとお出ましか・・・。)
バハムートはその言葉に反応して、急ブレーキをかけて周囲を見回した。
「・・・・・・。」
バハムートが周囲を見回すと、自分の進行方向の少し先にパンデモニウムが黙ってこちらを見ているのが目に入った。
「・・・私もお探しですか?」
そう言いながら、ディアボロスがバハムートの下の雲の中から仰向けの状態で腕組みをしながらゆっくりと姿を現した。
「・・・・・・。」
ディアボロスのふざけた登場にもバハムートは意にも介さない。
「・・・ホント、貴方はリアクションが下手ですねぇ・・・。」
ディアボロスは少しイラつきながら言葉を吐き捨てて、パンデモニウムの方に近付いていった。
「・・・お前はオメガが目覚めるまで姿を現さないと思っていたが・・・。」
パンデモニウムが重い口を開く。
「・・・気が変わった。」
バハムートが一言で返す。
「・・・気が変わった?気が触れたの間違いでは?」
おどけたポーズでディアボロスがバハムートを挑発する。
「・・・・・・。」
バハムートは挑発を一蹴するように無言を貫いた。
「・・・・・・お前が一番感じているはずだが?」
パンデモニウムも相変わらずマイペースの口調でバハムートに尋ねる。
「・・・君、ここでエネルギーを使い切って大丈夫なの?」
核心を突くかのような言葉をディアボロスが口にする。
「・・・アルテマクリスタルからのエネルギーの供給が著しく落ちた事は知っている。闇の民の仕業なのも分かっている・・・だからどうしたと言うのだ?」
鋭い眼光でディアボロスを睨みバハムートが口撃する。
ミッドガルドの守護獣達は、それぞれがクリスタルのエネルギーにより存在していた。火の守護獣なら火のクリスタルから、水の守護獣なら水のクリスタルから。バハムートはどこのクリスタルにも属せず、直接アルテマクリスタルから膨大なエネルギーを供給されていたので、ハディの手中に落ちた事で、その供給されていたエネルギーを制限される形となったのだ。その影響はミッドガルドの全てに対しても同じだが、それぞれのクリスタルの活動には支障がないように今は調節されていた。アルテマクリスタルから供給を受ける事でその絶対的な力を維持しているバハムートだったが、ここに来て、その事自体が自身の仇になったのは言うまでもない。逆に一端それぞれのクリスタルに供給されたエネルギーでマカナっていたそれぞれの守護獣たちにはさほど影響はないのは皮肉な事だった。
「・・・そこまで分かっていて、君は僕達に勝てるとでも?」
ディアボロスが大きく胸を張ってバハムートを小バカにする。
「・・・まったく問題ない。」
バハムートが冷静に返答した。
「・・・どういうことだ?我々にはバハムートのエネルギーが制限されているとは逆に最大限の供給がされている・・・なぜ、あいつはこうも強気なのだ?」
バハムートの堂々とした振る舞いに困惑を隠せないパンデモニウムが小声でディアボロスに話す。
「・・・・・・本当に気が触れたのかもしれないね・・・俺達と戦って、その後にオメガと戦えるはずもない・・・第一、俺達に勝てるわけがない・・・。」
バハムートの態度にイライラしていたディアボロスがその感情をいよいよ表に出してきた。
「・・・どうした?楽しく話がしたいなら私は一向に構わんぞ。」
ここに来て、初めてバハムートが口角を少し上げたように感じた。
「ッ?!」
その様子に驚く二人。
バハムートは確かにエネルギーの供給を制限された今の状態で、ディアボロスとパンデモニウムに対峙するのは危険なことだった。その後に、オメガが復活してしまえば、その相手もしなければならない。それでもバハムートに迷いはなかった。
今はむしろ、ディアボロスとパンデモニウムを自分に引きつける事が目的だったからだ。
バハムートはアルテマクリスタルのエネルギー供給が制限されてから、ミッドガルドとアースカンドとの戦いから身を引いた。それは闇の民がオメガを復活させるかもしれないと思ったからだ。その戦いのために、制限された自分の力を温存する事をその時は選択した。
しかし、ユッケのあの言葉と一撃によって、バハムートの考えは変わった。
ユッケの言った「自分の望んだ明日に少しでも近付く為に」という言葉にバハムート自身も動かされ、ユッケの力に賭けようと思ったのだ。
今まで、気にもとめていなかった地上の人間と一緒に戦う事を選択したバハムート。
そのためにまずはディアボロスとパンデモニウムという存在をバハムートがひきつける必要があった。闇の民だけでも厄介な存在。それに加えて、この二人の守護獣が近くにいれば、いくらアースカンドの人間でも行動を起こす事は出来ない。だからこそ、バハムートはあえて、自分の存在を一切隠すことなく、堂々と空を飛び、自分がいることを報せながら、わざと二人をここに誘き出したのだった。
闇の民を始め、二人はアースカンド人やミッドガルド人を過小評価している。
自分達の敵ではないと端から気にも留めていないだろう。
その結果、バハムートは自分の考えがうまくいったことを思って、思わず口角を上げたのだ。
「何を笑っているッ!」
バハムートの笑みに一番怒りを感じたのは他でもないディアボロスだった。
今まで、他人に見せた事がないまさに鬼のような形相でバハムートを睨みつけて怒鳴った。
「・・・ふっふっふっふっ・・・そうか・・・たしかに人を小バカにするのは楽しいな・・・。」
バハムートはディアボロスの様子を見て、抑え切れない笑みを零した。
「・・・おまっ!」
「・・・やめろ・・・私達がうろたえてどうする・・・。」
ディアボロスが怒りに任せてバハムートに挑もうとしたのをパンデモニウムが制した。
「・・・・・・。」
苦虫を口いっぱいにして噛み潰すような表情でバハムートを見るディアボロス。
「・・・私達に勝って・・・オメガも止める気でいるようなら本当に狂ったようだな・・・。」
冷静にバハムートを口撃するパンデモニウム。
「・・・お前達には分からんさ・・・。」
しっかりとパンデモニウムを見据えてバハムートが答える。
「・・・ならば、体現してもらおう・・・その答えを・・・。」
パンデモニウムが臨戦態勢を取る。
「・・・ぶち殺してやる・・・。」
ディアボロスが怒りを最大限に溜めながら言葉だけを吐き出した。
「・・・くるがいい・・・。」
バハムートは二人を見据えて、悠然と構える。
その瞳に、敗北と言う文字は一切映らない。
(・・・頼んだぞ、アースカンド人よ・・・。)
心の中でバハムートは望みをまずはアグニスに託した。
バハムートとパンデモニウム達の戦いがいよいよ始まる。
その中で、オメガクリスタルを破壊せんとアグニスが動く。
次回、「オメガの遺跡」
青年よ、決死の男達の生き様を見よ!(千葉しげるさん風)