悪魔の手のひらで踊るアースカンド人
ヒロヨシもまたその一人なのか?
「・・・・・・。」
ヒロヨシは病室のベッドの上から窓の外の不穏に曇る空を眺めていた。
別にヒロヨシはその様子を見ているのではなかった。
静かに頭の中であの悪魔とのやり取りを振り返っていたのだった。
息子との再会の後、
息子の望む世界へと旅立たせる為に命を掛けたあの瞬間。
「・・・理解しろなんて言わないさ・・・お前の好きにするがいい・・・。」
「・・・じゃぁ、そうするよ。」
悪魔ディアボロスの虫をその手で簡単にひねり潰す程度の感情しか動かなかったその瞬間。
「・・・・・・。」
ディアボロスはヒロヨシの息の根を止めようとしたその手を止めて、ヒロヨシの事を静かにジッと見ていた。
「・・・・・・どっ・・・どうした・・・。」
殺されると思ったヒロヨシは悪魔の行動に困惑する。
「・・・君、長くないね・・・。」
悪魔はそう一言呟いた。
「・・・・・・。」
ヒロヨシは黙って目線を悪魔から外した。
ディアボロスの言うとおり、ヒロヨシの命は長くはなかった。
寝る間も食べる間も惜しんで、ただただ愛する最後の家族のために命を燃やしてきたその行為に代償がないわけはなかった。
ヒロヨシの身体はボロボロになり、病魔が全身に広がり、最早手の施しようがないほど弱り切っていたのだ。
それをディアボロスは初めて向き合ったにも拘らず、意図も容易く見抜く。
「・・・ほっといても死ぬ奴の命を奪っても面白くもない・・・。」
ディアボロスはヒロヨシから目線を外して、ユッケ達の様子を見る。
しっかりと拡声器の電源を切って。
「・・・あ~あっ・・・逃げられちゃった・・・。」
少年のように残念がる悪魔。
「・・・・・・。」
その様子を見る事しか出来ないヒロヨシ。
「・・・君を息子の前で殺さないと面白くもないし・・・見た感じ、それまで持つかも怪しいもんね・・・。」
ヤレヤレといった表情でヒロヨシを見る悪魔。
「・・・見逃すという事か?」
恐る恐る口を開くヒロヨシ。
「・・・見逃すも何も、君を殺す事に意味もないし・・・それなら・・・。」
底まで言うと悪魔は大きく手を広げてヒロヨシを見て微笑む。
「これから起こる地獄を見せる方が面白い。」
そう言って、人間では有り得ないほど口角を上げて、口を割き笑った。
「・・・じっ・・・地獄・・・。」
ヒロヨシはこの世のものとは思えない文字通り悪魔の表情を前にして体中が震えた。
「・・・そう、地獄さ・・・逃げ場のない世界でアースカンド人が苦しみモダえ、目の前で大事なモノをむざむざ奪われていく・・・ヒヒヒヒッ・・・考えただけで、ゾクゾクスルヨネ。」
悪魔は身もだえながら微笑む。
「・・・・・・。」
ヒロヨシは何も出来ないニラまれたカエルとなった。
「・・・後半年か・・・一年・・・残りの人生楽しんでよっ。」
悪魔はそう言いながら部屋を出て、最後にヒロヨシにウインクして姿を消した。
あれからヒロヨシは文字通り、病人となり、今は軍の管理の元、身体を誤魔化す治療を受けている。
「・・・半年・・・か・・・。」
ヒロヨシは文字通り、悪魔から受けたこれ以上ない信頼できる『死の宣告』と向き合っていた。
軍の関係者から今の現状は聞いていた。
ミッドガルドに攻めた軍が敗北したこと。
ハディが恐ろしい事を計画している事。
アグニス大佐がそれを阻止しようと行動を開始した事。
細かくは聞かないし、聞く必要などないと思っていたので、特に深く聞かなかったが、息子のがんばりだけは伝わって死の不安よりも安らぎが勝っていた。
「・・・博士っ・・・失礼します・・・。」
不意に男性の声が部屋の外から聞こえる。
「・・・はいっ・・・どうぞ・・・。」
ヒロヨシはハッと意識を戻して、その者の方を見る。
ヒロヨシは病気により、最早現場には立てないが、その知識からゲートに関わる事。マテリアルの運用など、各方面から客足が絶えなかった。
軍に管理されているため、本当に必要とされる者。軍にコネがある者以外は会う事も許されないのが救いだろう。
「おそれいり・・・あっ、ちょっとっ!?」
「博士ッ、大変ですっ!」
部屋に入ろうとしたほっそりした男性を押しのけて、一人の兵士が飛び込んでくる。
「・・・どうかしましたか?」
ヒロヨシは驚く事もなく、落ち着いて対応する。
「・・・・・・アグニス大佐が・・・・・・。」
兵士が悔しそうな表情でヒロヨシを見る。
「・・・・・・。」
それだけでヒロヨシは全てを理解した。
アグニスの死。
そして、闇の民ハディの計画の成就。
最悪な悪魔の予言の的中。
「・・・大佐・・・アグニス大佐が、その命を掛けて、重要な資料を遺跡から回収しました・・・メラーニ中佐がその資料を博士に見てもらって、意見を聞きたいと・・・。」
兵士は悔しさを押し殺して任務を全うする。
「・・・・・・わかりました・・・私で助けになれるなら・・・。」
ヒロヨシは真剣な顔で兵士を見て、強い意志を伝える。
「ちょっ、ちょっと・・・私のやくっ・・・。」
「・・・・・・。」
いきなり現れた兵士に邪魔をされた男が割って入ろうとしたが、兵士が静かに男を見ると
「・・・そくは・・・今度にします・・・。」
そう言い残して、細身の男はそそくさと姿を消した。
「博士、ここは危険ですので、まずは安全な場所にお連れします。」
兵士はそう言うと一目散に部屋を後にした。
(・・・ノブヒデ・・・どうか、お前だけでも・・・。)
ヒロヨシは息子の安否を神に祈るように窓の外に目をやって祈った。
ディアボロスの死の宣告ともとれる発言
それを理解して全てを受け入れたヒロヨシだった。
しかし、休んでなどいられない。
科学者から科学者へ、受け継がれる未来をヒロヨシは
その身を持って知る。
次回、「ヒロヨシとギルガメッシュ」
青年よ、科学者の生き様がここにある・・・。(千葉しげるさん風)