そこで待っていたのはあの男だった。
オメガクリスタルが鎮座する中、その前に立ちはだかる者がいた。
隆々とした筋肉を覆う黒い肌。
血液という名のマグマが流れている事を示すように黒い肌の下を走る赤い血管。
大きな口からそそり立つ白い牙。
その口からうごめく炎が我慢出来ずに踊り出していた。
左目は赤く光り、白い部分など一切ない。
髪は真っ赤な炎、プロミネンスが荒れ狂う様を表すように長くうねっている。
額の両脇から黒い角が後ろにうねって伸び、存在感を主張している。
爪という爪が黒く伸びて獲物を切り裂かんと訴えていた。
唯一、ゼッドの面影が残るのは右半分の右目の周りのみ。
別の意味でユッケとは違い、人を超越した姿がそこにはあった。
「レオンッ・・・さぁ、始めよう・・・血のタギる殺し合い・・・もう逃げる事は許されねぇ・・・フェニックスさえも邪魔はさせねぇ・・・背中を見せた瞬間にお前の仲間を一人一人生きたまま喰らってやる・・・。」
口から炎とよだれを出しながらゼッドだったモノがそうレオンを挑発する。
「あなたのその声も正直聞き飽きましたよ・・・我々はオメガクリスタルさえ破壊できれば、それで良いのでそんなに戦いたいなら、その後でもよろしいですか?」
臨戦態勢を整えて構えながらレオンがゼッドにそう尋ねる。
「小賢しいなレオン・・・オメガクリスタルもりっぱなエサだ・・・どうなろうが知った事じゃないが、お前を食い殺すまではこのままだ・・・。」
レオンの挑発を巧みにかわすゼッド。
「・・・まったく執念深い方ですね・・・いえ、逆に尊敬すべき事でしょうか?」
両拳に力を込めて、レオンがより一層挑発する。
〔森の雷(フォレアラゥ)〕〔シュバアアアアアアーーーーーーンッ!〕
〔パシュッ!〕
「・・・・・。」
「ッ?!」
レオンが挑発する後ろで完璧な不意打ちをオメガクリスタルに放ったティア。
しかし、その行為を見透かしたようにゼッドは片手でそれを防いで見せた。
「甘いぜ甘いぜ・・・お前達のずる賢さはお見通しだ・・・。」
大きく口を割いて笑うゼッド。
「・・・チッ。」
攻撃を防がれて思わず舌打ちがもれるティア。
〔地獄の火炎〕〔ゴゴゴゴゴゴオオオッ、ゴバアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!〕
「ッ?!」
ゼッドから放たれた技はティア達を襲うわけではなく、ティア達の後ろにあった出入り口を襲った。
〔ドゴーーンッ、ドガーーンッ、ドゴゴゴーーーンッ〕
全ての出入り口を塞ぐゼッド。
「これで、逃げられない・・・・・・邪魔者も来ない。」
レオン達の逃げ道を全てなくして不敵に笑うゼッド。
「・・・なっ、なるほど・・・。」
ゼッドの行為に少し驚くレオン。
「・・・・・・まずいですよティアさん・・・これでは爆弾が使えない・・・。」
レオンとゼッドの後方でラスターがティアに声をかける。
「・・・・・・まったく・・・ホント厄介な男ね・・・。」
ゼッドから目を離さずもそうラスターに答えるティア。
しかし、このゼッドの行為はプラスの面もあった。
「・・・・・・あいつ・・・気付いてたのか?」
塞がれた出入り口のガレキの前で暗闇の中からディアボロスが姿を現した。
その後方には落とし子達がうごめいている。
知っていてやったのか、ただの勘だったのか。
ゼッドの行為は本当に邪魔者を排除する妙手となった。
爆弾を使えば、皆諸共吹っ飛ぶ環境にはなってしまったが、ゼッドのみならず、ディアボロスと落とし子達を前にすれば、レオン達は無事ではすまなかっただろう。それを知らないティア達にとっては踏んだり蹴ったりのように思えた舞台裏が人知れず展開していた。
〔連続魔法 ブリザガ〕〔・・・・・・〕
「え?」
ミューレはティアに続けとばかり、今度はゼッドに攻撃を仕掛けたが、魔法を唱えても発動しなかった。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ・・・残念だったな、嬢ちゃん・・・この部屋じゃ魔法は使えねぇよ・・・。」
ミューレの驚いた顔をサカナにゼッドがケタケタ笑う。
「全部クリスタルが吸収しちまうんだよ・・・ガードナーや守護獣の技は吸収できねぇみてぇだが、純粋な魔法は発動もしない・・・補助魔法は掛けてきたのか?かけて来たなら、運がよかったな・・・。」
ご丁寧にクリスタルルームの説明をしてくれるゼッド。
「・・・ッ・・・。」
爆弾が使えない。逃げる事もできない。魔法が使えない。という3重苦がレオン達に襲い掛かり言葉が出てこない。
「もう・・・待ちきれねぇーーーッ!!」
「ッ?!」
色々話していたが、我慢の限界に達したゼッドが勢い良く飛び出して獲物(レオン)に襲い掛かる。
〔ドゴーーーンッ!〕
凄まじい音を立ててゼッドの大きな拳が床に突き刺さる。
アグニス達の爆弾ですら、傷が付かなかった床は意図も簡単に破壊された。
「こちらは何とかしますので、クリスタルをッ!」
レオンはゼッドの攻撃を交わしながらティア達に指示する。
「バカッ!そんな相手一人で時間稼ぎも出来るわけないでしょ!」
ティアがゼッドの強力な攻撃を分析して、レオンに怒鳴る。
「次々いっ・・・ッ?!」
〔裁きの雷〕〔ズガンッ、ズガガンッ、ズゴゴゴオオオッ、ズギャギャンッ、スパンッ〕
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
突然の電撃の激痛に撃たれてもだえるゼッド。
「おいおい、イフリートよ。さっき自分で言わんかったかの?守護獣の攻撃は気をつけぃよ。」
杖を天にかざしてラムウがゼッドにそう告げる。
「ぐぅぅぅ・・・。」
さすがのゼッドでも、ラムウの攻撃は相当効いたようで片膝をついてラムウをにらんだ。
「ふぉっふぉっふぉっふぉっ、いい顔をするじゃないかイフリート。」
ゼッドのにらみをするりと交わしてラムウが笑う。
「・・・ワシらの目的を忘れるでないぞ・・・生きて帰るのも大事じゃが、役目を果たさねば同じじゃ・・・。」
ラムウはゼッドを見つつも、傍にいたティアとラスターに対してそう小さな声で冷静に諭した。
「・・・・・・。」
ついさっき誓い合った事を早くも破ってしまうかもしれない状況がティア達に沈黙をもたらす。
レオン達がゼッドと対峙する中、
いよいよユッケ達は闇の民ハディと対面しようとしていた。
次回、「セレスと闇の民」
青年よ、愛を信じる者の剣となれ!(千葉しげるさん風)