ノブヒデの生まれた世界アースカンドにやってきた。
そこでノブヒデの父親になる男ヒロヨシと出会う。
シヴァが語る二人の秘話とは?
「それは・・・。」
シヴァの歯切れが悪くなる。
バハムートとシヴァとの間に少し張りつめたものが走る。
「闇の民がアルテマの神殿を強襲してからもう数十年近く経つ。数十年もの間、お前達は手をこまねいていたと言うのか?」
そう言いながらシヴァを冷たい眼光で見るバハムート。
バハムートのさすがの鋭い眼光にシヴァは視線を外す。
「・・・・・・隠しても仕方がないわね。話すわ・・・リアとヒロヨシのこれまでの事。」
ポツリとシヴァがそうつぶやいた。
「ヒロヨシと出会って、リアが体調も回復した頃、リアは自分の事を素直に話したわ。」
シヴァの口が鈍いながらも動いていく。
「・・・本当に信じてくださるんですか?」
リアは自分の話を信じるヒロヨシに驚いていた。
「だって、リアさんは俺に嘘をついてるわけじゃないんですよね?」
ヒロヨシが無邪気に頭をかきながら微笑んで返す。
無邪気に自分を信じるヒロヨシにリアは少し胸をくすぐられる。
「・・・そうですけど・・・私の年齢や、ミッドガルドの事。こことはだいぶ違うと思うのですが。」
リアは嘘偽りなく話しているが、それをそのまま鵜呑みにするヒロヨシに少し戸惑いもしていた。
「確かにリアさんが300歳を越えてるとか。魔法のこととか言われると疑いたくなる気持ちもないわけじゃありませんが・・・。だって、リアさんがあまりにも真剣に話すので。」
ヒロヨシは真剣なリアが嘘を言うはずがないと信じきっている。
そんなヒロヨシの懐の深さに素直に感謝するリアだった。
「・・・ありがとうございます。こんな私を信じてもらえて・・・。」
リアは自然と頭を垂れて、ヒロヨシの素直さにどこか安堵した。
シヴァはあの頃のリア達を脳裏に蘇らせながら、誰よりも父や母の事をノブヒデに伝えようとして、バハムートよりノブヒデをじっと見ていた。
「ヒロヨシはリアの話すミッドガルドの話を一つも疑うことなく信じて、リアに協力を自ら申し出てくれた。そして、二人は必死にミッドガルドに帰る方法と闇の民に対抗する方法をずっと一緒に探していたわ。」
シヴァはどこかわだかまりのある親子を気にかけるように必死に訴えかけている。
とある一室。ヒロヨシがアルテマクリスタルをにらみつけている。
「・・・駄目だ。アルテマクリスタルはいくら叩いてもビクともしないし、いくら調べても何も分からない。」
ヒロヨシがそう嘆く。ヒロヨシの目の前のテーブルには真ん中にアルテマクリスタルが鎮座して、その周りにありとあらゆる工具が散らばっていた。
そんな塞ぎ込むヒロヨシをなだめるように、リアがその行為がさも当然のように寄り添う。
「・・・アルテマクリスタルは私達にも分からない大きな力を秘めています。調べようとした者もいたのですが、余りにも神聖すぎて・・・。」
リアはヒロヨシに寄り添いながら、優しくアルテマクリスタルについてそう語る。
「・・・何か他の方法を考えてみましょう・・・そうだ、あの場所に行ってきます!」
ヒロヨシはリアの優しさに励まされるようにそう言うと善は急げと部屋を飛び出していった。その瞳がギラギラと光るものがある。
部屋を飛び出すヒロヨシを健気に追いかけるリア。
「ヒロヨシさん、待ってください。私も行きます!」
リアはしっかり道具が入ったカバンを持って足早に次いで部屋を出ていった。二人が向かったのは、もちろんリアとシヴァが現れたあの洞窟。
部屋を出る二人を姿を消した状態のシヴァが見送る。その過去の自分と今の自分を合わせるシヴァ。
「アルテマクリスタルのことを調べようともしたけれど、欠片を取る事すら出来なくて、途方にくれていたわ。でも、諦めずにリアが倒れていた所を入念に調べ、偶然小さなミッドガルドのマテリアルを見つけたの。代わりにそのマテリアルを徹底的に調べて、解決の糸口を掴もうとしていた。ヒロヨシは地質学者だったけど、科学に関する勉強も役に立つと、寝る間も惜しんで勉強していたわ。リアは自分が持っている全ての魔法の知識をヒロヨシに教え、二人はミッドガルドのために文字通り、寝る間も食べる間も惜しんで、命を削っていた。」
シヴァはあの二人がどれほど世界の事を考えていたかを皆に真剣に伝えようとしていた。
「ヒロヨシさん、無理しないでください。昨日も寝てないんでしょ?」
リアは手に朝食をトレイに乗せて、ヒロヨシに届けながらそう言った。
「すいません、もう少しで何か掴めそうだったので、つい・・・。」
ヒロヨシはリアの方を見る事もなく本に没頭していた。無精ひげが生え、髪も見事にボサボサだった。
ヒロヨシの頑張りがリアには感謝よりも悲壮感を漂わせる。
「・・・ヒロヨシさんが倒れられたら、私どうしたらいいか・・・。」
「・・・えっ・・・。」
泣きそうになるリア。その言葉を聞いて、リアの方を見て驚くヒロヨシ。
リアは自分の気持ちをもはや隠そうとはしない。真剣にヒロヨシを思うリア。
「・・・この世界で頼れる人はヒロヨシさんしかいません。どうかご自愛して下さい。」
リアは朝食を机に置き、ヒロヨシの前にヒザマズいて、ヒロヨシの手を取ってそう本心を伝える。
リアは絶世と言わずも美女である。そんな女性から上目遣いで見られるのは、勉学にかぶりついていたヒロヨシにとっては刺激が強い。
「・・・気をつけます・・・。」
ヒロヨシはリアの目を直視できない。顔を真っ赤にして目を逸らす。
目をそらすヒロヨシの視線を追うように立ち上がるリア。
「・・・あっ・・・。」
「危ないっ?!」
立とうとしたリアが立ちくらみを覚えて倒れそうになった所を透かさずヒロヨシが支えた。
見詰め合う二人がそこにはいた。
「大丈夫ですか?」
「・・・はい・・・。」
言葉を交わす中でも、自然と顔が近づいていく二人。
シヴァは常にとは行かないまでも、二人の邪魔をしない限り、傍でずっと二人を見守っていた。その時の気持ちにシヴァは胸を締め付けられながら、今、ノブヒデはバハムート達に対峙して二人の代弁者となっている。
「それから、数年して、ヒロヨシとリアの努力のかいあって、マテリアルから莫大なエネルギーを取り出して、活用する方法を二人が見つけ出したわ。そんな時だった。ヒロヨシの家を拠点に世界中を飛び回ってゲートを探していた私がリアに話があると呼び出されたのは。」
シヴァがノブヒデの目だけを見て話しを続ける。
「ごめんなさい、シヴァ。」
リアがシヴァに深々と頭を下げる。
「・・・そんな・・・貴女、いつから気付いていたの?」
リアの謝罪に困惑するシヴァ。そのリアの謝罪の内容にシヴァは驚愕する。
シヴァが驚愕する中でも、不思議と落ち着いているリア。
「・・・たぶん、この世界に来たときだと思うわ。アルテマの力を感じなくなっていた。」
リアは微笑みすら浮かべて、深刻な状態を言葉にする。
アルテマの巫女が、アルテマクリスタルの力を感じられないなんて、これ以上深刻な問題はない。それでも、落ち着きはらしているリアにシヴァの思考は乱される。
「・・・貴女、どうしてそんなに落ち着いていられるの。アルテマの巫女じゃなくなって、アルテマからエネルギーの供給がないなら、もう時間がないんじゃないの?」
リア本人よりも現状に焦り慌てるシヴァ。
シヴァから伝えられなくとも、リアの中で起こっている変化がリアにとって命にもかかわることをリアは当然知っている。
「・・・そうね、慌てないとおかしいわよね。もう残り少ないってわかっているのに。どうしてかしら、今とっても幸せなの。」
リアは満面の笑みでシヴァに答える。
シヴァが空に輝く星を見ながら遠い目をした。
「あの子は自分の死期を感じ取っていたわ。」
シヴァはあの頃のリアと向き合う記憶を思い出しても、胸が張り裂けそうになっていた。それでも、シヴァは言葉を止めることはない。
そんなシヴァをジッと見ているバハムート。
「・・・・・・うむ、アルテマの巫女はアルテマクリスタルとリンクすることにより、世界にその力を供給し、その恩恵も同時に受けている。リアは巫女になって300年近くだったか。」
シヴァを見ながらバハムートが付け足すように冷静に説明する。
(300年!シヴァの話にも出てきてたけど、かあさんがそんなに生きてたなんて・・・。)
さらっと言ったバハムートの言葉に驚愕するノブヒデ。
母の秘密に驚きを隠せないノブヒデを見て、シヴァが救われたように微笑む。
「300年といっても、ほとんど神殿の中だけだったから。あの子にとってアースカンドの数年はさぞ充実したものだったと思うわ。」
シヴァは息子に向き合えないリアの代わりに、母の代わりにしっかりとノブヒデと向き合う。
「私は巫女でなくなって、ホッとしてるの。これで私はヒロヨシさんの子供を産めるから。」
リアがお腹を摩りながらシヴァに話す。
シヴァはこうなることを予期はしていた。が、それを止めることはしなかった。それはリアが選ぶ道だから・・・しかし、リアの現状が目の前に突き付けられると、さすがに戸惑いを隠せない。
「・・・・・・リア、大丈夫なの?力も殆どなくなっている今の貴女に、子供なんて・・・。」
シヴァが心配そうにリアを労わる。
「・・・危険なのは十分分かっているわ。それでも、この命をかけたい。ヒロヨシさんとの大事な絆を残したい・・・それに・・・。」
リアは優しい目でシヴァを見て、言葉を続ける。
「・・・それに、私は自分の子供にこの世界を見せてあげたい。」
リアは優しさの中にしっかりとした言葉でシヴァにそう気持ちを伝える。その優しい目の奥にシヴァは強い光を感じた。
「リアの決意は固かったわ。自分の命があとわずかとわかって・・・もしかしたら、出産はその時間すら縮めてしまうかもしれない。そんな危険もお構いなしだった。」
シヴァはノブヒデを見ながら優しい声で、そう話した。その瞳には小さく光る粒が姿を現す。
「・・・・・・。」
バハムートはその光景を静かに見る。
シヴァとノブヒデの周りが押し黙る中、シヴァがノブヒデに近寄る。
「リアは程なくして、ノブヒデを産んだ。その結果、さらに力が衰えたのは言うまでもないわ。それでも、リアは幸せそうにしていた。今までミッドガルドでも見た事ない笑顔を浮かべて・・・・・・本当に馬鹿な子・・・。」
シヴァは自然とノブヒデを包み込むように抱きしめた。ノブヒデもその行動を自然と受け入れる。
シヴァはソッと抱き寄せたノブヒデを視界に入れるために両手でゆっくりと離した。
「ノブヒデ、あなたが生まれてからのリアは本当に強かったわ。あなたの存在がリアにとっては支えだったのよ。」
「?」
シヴァがノブヒデの両肩に手を置きそう言う。当のノブヒデは理解できず、シヴァを不思議そうに見つめる。
「・・・リアはそこから4年も生きた。命はもう風前の灯だったのに・・・わが子の成長を少しでも見たい。そんな母親の強さを私はみた。そして、あの日。」
シヴァはカスむ視界の中、ノブヒデを見失わない。震える声で発する言葉を必死に紡ぎながら、リアの姿を語る。
(アルテマよ、私の最後のわがままを・・・。)
リアはベッドの上で上体を起こして、アルテマクリスタルを握り締め、そう心の中で祈る。すると、手の中のクリスタルが輝き出し、部屋全体を飲み込んでいった。
光が収まると、リアは一目でわかるぐらい弱り切った身体を精いっぱい奮い立たせて、傍にいる我が子に手を伸ばす。
「・・・ありがとう、アルテマクリスタル・・・ノブヒデ。私と出会ってくれてありがとう・・・。」
「・・・おかあさ・・・。」
リアの手が弱弱しく宙を漂い、愛すべき息子の頬を優しく撫でる。それを泣き出しそうな顔で見る幼きノブヒデ。その手が力なく頬から離れ、地面へと落ちる。
「リアは本当に自分の命が尽きる寸前までもがいたわ。そして、最後の最後にある願いを込めて、アルテマクリスタルに巫女の祈りを吹き込んだ。」
シヴァはノブヒデを再び抱きよせて、優しく言葉をノブヒデに届ける。
「どうか、私の大事な息子をお守りください・・・と。」
シヴァがノブヒデを抱く腕に力を込める。
シヴァの言葉が、記憶の彼方に薄れる母の声と重なり、ノブヒデの脳を揺さぶる。
「・・・かあさんが、そんなことを・・・。」
ノブヒデが母を思い、涙を流す。
シヴァはノブヒデを抱きしめるのをやめて、今度はノブヒデの顔を両手で包み込み、涙でクシャクシャになった微笑みをノブヒデに向けた。
「・・・リアの最後はりっぱな母親だった。世界よりもどうかわが子の幸せを・・・そう願ってやまない強い母親そのものだったわ。」
シヴァはリアの最後の雄姿を、しっかり伝えるために、震える口を使って、しっかりと言葉を発する。その目には涙が溢れ、頬を伝っていた。
母の子を思う強い心に胸を打たれた一行の中で、レオンが口をソッと開く。
「・・・・・・お幸せな最後だったのでしょうか?」
レオンは茶化すことなく、真面目な顔でリアの心境をシヴァに尋ねる。
「・・・きっと、もっと自分の子の成長を見たかったはずよ。それでも、巫女として子を授かる事なんて出来ないと思っていたあの子がわが子を抱けたんですもの・・・幸せだったんじゃないかしら。」
ティアはシヴァが答えるよりも早く口を開き、自分の感じたリアの心境を代弁する。ティア自身ももらい泣きして、顔がぐちゃぐちゃだった。
ティアの言葉にシヴァはうなずく。
「・・・そうね、幸せだったんだろうけど、きっと今のノブヒデも見たいとリアは思っていたはずよ。」
シヴァは涙を流しながらも微笑み、ノブヒデを真直ぐ見て話す。
人間の素直な感情に己が心を揺さぶられる一行の中、当然のようにしっかりとした言葉を発するバハムート。
「・・・・・・アルテマの巫女の最後はわかった。それを責めるのは、今は置いておこう。」
バハムートが湿った光景を嫌うように厳しい口調で切り出す。
「・・・・・・ならば、10数年、今まで戻れなかった理由はなんだ?」
バハムートは語尾を強くして、率直にシヴァをギラリと視界に入れて尋ねる。
「・・・・・・。」
シヴァは口を開かず、ジッとバハムートを見る。
シヴァの強い眼光にバハムートの眉がピクリと動いた。
「まさか、本当にノブヒデを守るためだけに・・・。」
「そうよ、ノブヒデを危険な目に合わせないためよ。」
シヴァが大きな意志と共にバハムートの言葉に割って入ってそう言い放った。
母が命をかけて願った事は
何よりも我が子の幸せだった!?
父と母が命を賭けて果そうとした事は何か?
次回、「母の祈り」
青年は母の愛の強さを知る!(千葉繁さん風)