「はぁ~~~~っ」
大きなため息をつくユッケ。
「・・・あんた、ホント場がしらけるから、ため息ばっかりやめてくれる?」
チョコにマタガリ前を見据えて、ユッケを見もせず、言葉を吐き捨てるのはミナ。
ユッケとミナのやりとりを見て、思わず口をはさむのはレオン。
「ユッケ殿、下ばかり見ていても地面しか見えません。前を向き、空を見上げて御覧なさい。ため息も空気を大きく吸い込むことにすれば、清々しく思えませんか?」
レオンはニコニコと笑顔でユッケを見て、大きく手を広げて見せた。
そんなレオンの明け透けないまっすぐな光にどこか胸が痛むユッケ。
(レオンの優しさが痛い)
レオンに精一杯の笑顔で返して、ユッケは思う。
見ず知らずの完全に足手まといの自分。
そんな後ろめたさがユッケを苛む。レオンやティアは今までユッケに襲い来る化け物から体を張って守ってくれていた。ユッケは護身として剣を持ってはいるものの、戦いに慣れているわけではないし、化け物でも切れば血が出る。血が噴き出すと腰を抜かしてしまうユッケ。呆れるミナを尻目にそんなユッケを二人は責めもせず、ただ当たり前のことのように守り、ユッケに優しい言葉をいつもかけてくれていた。
(それに比べてこのお姫様は・・・。)
そう思いながらユッケはチョコにマタガって悠然としているミナを見た。
「あによ?」
ユッケに見られているのに気付いたミナがユッケを睨み付ける。
「いえいえ、なんでもございません。」
ミナに睨まれて、静かに目を逸らすユッケ。
「ミナ、そろそろ入る頃じゃない?」
チョコを真ん中にしてユッケと反対側にいたティアがミナに声をかける。
「そうね、だいぶ暑くなってきたし。」
ティアの方を見て、そう答えるミナ。
(そういえば、なんだか汗ばんできたな)
ユッケはそんなティアとミナの会話を聞いて、次第に熱を帯びる身体に気付いた。辺りを見回してみると昨日までいた森とは生息している植物が所々変わってきていた。
「火のクリスタルの影響が高まっている証拠ですな。」
レオンは胸を張ってそう答えた。昨日はあんなに肌寒そうだった格好が今では快適なように映るのが不思議なほどな気温の変わり方だった。
「クリスタルの力で環境が変わるなんて、未だに信じられないな。」
ユッケは独り言のようにボソリとつぶやき、額に滲んだ汗を腕で拭き取る。
「まぁ、変わりもんのあんたには分からないでしょうね。」
ミナがまた辛らつな言葉でユッケを攻めた。
「記憶があっても、分かってるかどうか。」
また独り言のようにボソリとつぶやくユッケ。ミナの方はあえて見ない。
「あんたも仕方なしに連れて来てるけど、この巡礼は本来、大事なものなんだからね。ミッドガルドの人々の希望でもあるのよ。それに少しの間だけでも同行してるんだから、しっかりしないさいよ。町についてもそんな腑抜けた態度だと民も不安になるでしょ!」
ユッケの方を見もせず、ミナが堂々と胸を張って語ってみせた。
どうやら、ミナ達は巡礼と称して、世界に散らばるクリスタルを目指しているようで、ユッケが聞くところによるとこの世界には『光・火・水・土・木』5つのクリスタルがあるらしい。ミナは神聖な巫女らしく、定期的にその5つのクリスタルを巡礼して旅をし、ミッドガルドというこの世界の人々も同時に元気付けているようで、レオンとティアはそんなミナを巡礼の間、如何なるモノからも守るための護衛『ガードナー』だと教わった。
(町に着いたら、お別れだし・・・それまで我慢かな)
心の中で、そうつぶやくユッケ。
ユッケは記憶喪失で森で発見されたので、火のクリスタルがあるフレビアという町までと言うことになっていた。それもそうだ、記憶喪失で足手まといのユッケをそんな大切な巡礼に連れ回すのも双方にとって良いわけがない。
「町に着けば、ユッケ殿ともお別れとは少々寂しいですな。」
ニコニコとしながらユッケに寂しさを素直に伝えるレオン。
「レオンには申し訳ないけど、しょうがないさ。俺が居たってみんなを危険にさらすだけだし。」
苦笑いを浮かべながら、ユッケもレオンにそう素直に答える。
「でも、フレビアに着いた所でユッケが記憶戻らなかったら、どうするの?」
ティアが回り込んできてユッケの顔を覗き込みながら尋ねる。
「・・・その時は町で働きながら、ゆっくり思い出すのを待つよ・・・。」
ティアの顔を少し見た後、視線を外してユッケがそう弱弱しく答える。
記憶が戻れば、どんなに良いか。
それは自分ではどうにも出来ない事をユッケ自身も痛感している。自分が何者か、この世界の人間なのかすら分からない。自分の身も満足に守れないユッケにとっては自分探しの旅も出来ない。安全な町で気長に待つしか手はなかった。最悪、記憶が戻らなくても町ならなんとか生きていけるというのもある。
「なんなら、巡礼に同行して世界を回ってみてはどうですか?」
レオンが優しい提案をしてくれる。
「・・・・・・。」
ユッケは答えられない。それが如何にみんなに甘えていることか理解できるからだ。
「・・・まぁ、チョコがあれば便利だし・・・私がお守りするわけじゃないから・・・レオンとティアが良いなら、良いんじゃないの?」
空を見上げながらミナが言う。思ってもないところから思ってもない言葉が出た。
「クククッ・・・ミナがこう言ってることだし、ついて来たら?私も旅は多い方が楽しいし。」
ミナのツンデレに笑いを堪えながらティアが言う。
「ちょっと、ティア。なに笑ってんのよ!」
笑いを必死に堪えるティアにミナがコブシを振り上げて抗議した。
複雑な思いでミナ達のやり取りを目にしているユッケ。
「・・・・・・願ってもないことだけど、考えさせてもらえるかな。」
ユッケは苦笑いで答えるのが精一杯だった。
「・・・・・・。」
ユッケの言葉に静まる一同。ミナも呆れてコブシを降ろした。
「・・・それもそうですな。危険な旅ですし、無理強いは出来ません。」
相変わらずニコニコしながらレオンが優しくユッケの立場と思いを尊重するように言葉を選んで発した。
それはまさにレオンの言う通りで、自分本位でついていっても、記憶が戻るどころか足手まといになりかねない。ましてや、命を落とすかもしれない。しかも、自分が傷つくならまだしも、ユッケを助けるためにレオンやティアが傷つくことがユッケには最も耐えられそうになかったからだ。森からここまでのミナ達にとっては短い旅路の中でも、何度も化け物に襲われ、ユッケは肝を冷やしたものだ。自分を守ってレオンやティアが怪我をしたら・・・もしかしたら、命を落としたら・・・そう思うと気軽に「つれていってくれ」と答えられる問題ではなかった。
「危険な旅だけど、私達も慣れてるし。フレビアにいけば、ハディもいるから大丈夫だと思うけどね。」
ティアが頭の後ろに両手を回して、空を見ながらそう言った。
ハディといわれた人物。ユッケは話だけでしか聞いたことがなかったが、凄腕の剣士でイケメンらしい。巡礼にもちろんガードナーとして同行しているのだが、用があってフレビアに先行しているらしい。
「ハディがこのことを聞けば、連れて行くって聞かないでしょうしね。」
ミナがティアを見ながらニヤケながらそうつぶやく。どうやらハディという人物は心もイケメンらしい。
(・・・熱いな)
ユッケは先程拭いたはずの額の汗を再び腕で拭き取る。
そうこうしていると、だいぶ周囲が熱気を帯びてきた。太陽は変わらないはずなのに気温がグングン上がっていくのを感じる。ミナ達を見ると、ミナとティアはフードとマントを羽織り、太陽の光から身体を守っていた。
「ユッケ、あなたもフード被った方がいいわよ。火の力が増してるから。」
ティアにそう促されてユッケもフードとマントで身を包んだ。
「いつ来ても、慣れるものではありませんな。」
レオンはそういうものの普段と変わらず、ニコニコしながら歩いている。もちろんフードも何も着ず、いつものままで悠々と歩いている。その姿は熱いのか涼しいのか分からない。が、レオンは修行マニアで、この暑ささえも修行と思っている節があった。
「あ、見えてきたわよ!」
チョコに乗って、人一倍高いところから前方を見ていたミナが地平線を指差した。
「ユッケ、あれがフレビアよ。」
ティアがフードを脱いで視線を前方に向けて、頭をクイッと前に促すように動かした。
「・・・あれが・・・フレビア。」
ユッケが前方の地平線に目をやると、そこには陽炎で揺れている大きな町が姿を現した。建物は白く長方形や正方形のものが多く目についた。そして、町を挟むようにして川が流れている。まさに砂漠の中のオアシスのような佇まいの町。一向は熱に奪われた元気を取り戻すかのように足取り軽くして、フレビアを目指した。
火のクリスタルがあるという街「フレビア」
ユッケが始めて、世界の文化に触れる
次回、「フレビア」
青年の前に待ち受けるものとは?!(千葉繁さん風)