暑さを嫌ってては水も飲めない。
レオンに教えてもらったフレビアのことわざだ。フレビアは火のクリスタルの恩恵を受けた都市で、暑いながらも人々は活発に満ちていた。特に商売人の熱気は気温より暑いもので、声の張り具合で商売人か一般人かわかるほどだった。
「ガードナーの兄さん、どうだいこのジュース。喉にたまらないよ!」
「ガードナーさん、この扇使ってみなよ。驚くほど涼しいぜ!」
フレビアに入って道を数十m歩いただけで10人以上から声をかけられて戸惑うユッケ。
慣れているミナ達は無視してズンズン進んでいく。頭を一々下げて断っているユッケはいつの間にか商人達に囲まれていた。
「あんた達、いいかげんにしなさい。私達は巡礼中よ!」
珍しくティアが大きな声でユッケを取り囲む商人達に怒鳴った。商人達は蜘蛛の子を散らすように人ごみの中へと消えていく。
「・・・あんた、ここで生活するとか言ってたけど、稼いだ金その場で持ってかれて2・3日で餓死しそうよね。」
ミナがそう言いながら、チョコの上からニヤニヤしながらユッケを見ていた。
「・・・・・・。」
その言葉に何も答えられないユッケは別の意味でふさぎ込む。
「はっはっはっはっ、ユッケ殿も洗礼を受けましたな。」
バンバンとユッケの背中を叩きながらレオンが大笑いした。
「フレビアじゃ、日常茶飯事。気温の高さなんて周りの熱気で忘れちゃうわよ。」
呆れた様子でため息をつきながらティアがそう吐き捨てる。
「ガードナーのあんちゃん!」
道で立ち止まっているとさっきとは違う商人がまた商品を売りつけようと迫ってきた。
「もうしつこい、神殿に早く行くわよ!」
ミナがチョコの上で頭をかき、前方の少し離れた場所に見える大きな建物を指差して叫んだ。その大きな建物は町の中で一際大きく白く、大きな金色の栗を乗せて輝いていた。
「巫女様、よくおこし・・・。」
神殿に駆け込むユッケ達一行に衛兵らしき人物が声をかけたが、そんなのお構いなしに猛スピードで駆け抜ける一行。
「あっ。こらっ、お前たち!ここは神聖な場所だぞ!!」
後方で衛兵が叫んでいる。ユッケ達を追いかけてきた商人達を必死に抑えているのだろう。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・。」
「はっはっはっはっ、ユッケ殿がんばりましたな。」
息絶え絶えのユッケをよそ目にレオンが汗一つかかず、表情ひとつ変えずに笑っていた。
「ホントだらしないわね。」
チョコにまたがっている女が何か偉そうにしている。
一行が思い思いの言葉を交わす中、そこに聞き覚えのない声が混ざる。
「ミナ、無事でよかった。」
透き通った男性の声が神殿の奥から聞こえてきた。
「ハディ!」
ミナはチョコから飛び降り、駆け出して声の主に飛びついた。
「はっはっはっ、元気そうで何よりだよ、ミナ。」
ハディと言われた青年がミナを優しく包み込んでミナにそう答えた。髪は銀髪で長髪。腰まで伸びた髪を後ろで束ねて流していた。服装もきれいに整えられ、鉄製のよく手入れされた肩当て、上半身を包む鉄製の鎧もピカピカに輝き、上から下まで完璧に整えられた非の打ち所のないイケメンがそこに存在していた。
「ハディ殿、こちらは途中の森で救助した青年です。」
レオンがニコニコしながらハディにユッケを紹介した。
「・・・どうも。」
息を整えて汗を拭きつつ頭を軽く下げるユッケ。
「そうでしたか、ご無事で何よりでした。あの森も近頃、物騒になっていたので幸いでしたね。紹介が遅れて申し訳ありません。私はミナのガードナーをしています。ハディ=クリシュトルと言います。以後お見知り置きを。」
にこやかに微笑みながらユッケに手を差し伸べるハディ。
男でもこの爽やかさに心を奪われそうになる。自分が女ならと思わずにはいられない。
「・・・・・・。」
ユッケはハディ=クリシュトルに見惚れてしまっていた。
「・・・んっ!」
ミナが呆けているユッケに対して、咳払いをする。
ミナの咳払いでハッと我に返るユッケ。
「あっ、すっすみません。あの~・・・ユッケです・・・。」
ユッケは手を慌てて自分の服で拭き、その手でハディの手を恐る恐る握った。
「ユッケ?・・・はっはっはっはっ、変わった名前ですね?」
「私がつけたの。そいつ、記憶がないらしくて、名前覚えてないっていうから。」
ミナがハディの後ろからヒョイと顔を出し、名前の経緯を説明した。
「記憶喪失・・・それは大変だったでしょ。先のことはまず置いておいて、ゆっくりと休んでください。」
ハディは握った右手をそのままに左手をゆっくりと神殿の奥に流してユッケを優しく導いた。その動作一つ一つになぜか美しさを感じずにはいられなかった。
「そうね、巡礼前に少し休憩しましょ・・・誰かさんのおかげで走らされて疲れたわ。」
嫌味を言いながら横目でユッケを見るミナ。
(お前はチョコの背中乗ってただけだろ!)
心の中で、そう小さな抵抗をするユッケ。
「はっはっはっはっ、ユッケ殿。商人は騒がしいですが、あの元気の源となるフレビアの料理は格別ですぞ。」
レオンがユッケの背中をポンポンと軽く叩きウィンクしてそう言った。
「アルテマの巫女殿、お待ちしておりました。」
「ガードナーもお疲れでしょう。」
ハディに案内されて入った部屋には白とは軽く言えないほどの純白のローブに身を包んだ背の低い人物が数人立っていた。ユッケのちょうど半分ぐらいの背で、その顔は子供と思われるほど幼い。アルテマの巫女とはミナのことだろう。ガードナーとは、当然ユッケを除くハディ達の事。それにしても、案内されたその部屋に用意された料理の豪華さから、ミナ達が言っていた『大切な巡礼』というのがどれ程のものかが感じ取れた。20mぐらいの長い金の装飾が施された白い豪華なテーブルに出来たての料理が埋め尽くさんばかりに並べられている。
「神官様、豪華な歓迎は感謝しますが、民への救済の方もお願いいたします。」
先ほどまでのミナとは別人のようなミナがそこにはいた。
「我々の生活はミナ様の巡礼あってこそなので・・・。」
神官と言われた童顔の人物が両手を組んで前に出し、ミナに対して深々と頭を下げた。
「ガードナー様もどうぞ。」
「えっ?!」
後ろから甘い声がしたかと思うとそこにはメイド姿の服に、頭には猫の耳をつけたように見えるスレンダーな女性が立って、ユッケの両肩に優しく手を添えていた。そのあまりの美しさとかわいさにハディに感じたとは別の意味で度肝を抜かれるユッケ。
〔グリグリグリッ〕
「ぐわーーーーーっ!」
「きゃっ!」
おもいっきり足を踏まれたユッケはその場で大声を出してしまう。いきなり大声を出したので横にいた猫耳メイドも思わず声を出し驚く。
「このガードナーは疲れてないみたいだから、気にしなくていいわよ。」
ミナが踏みつけた足をどけて、テーブルの方へと歩きながらそう言った。ユッケはあまりの痛さにその場にふさぎ込む。
「だっ・・・大丈夫かい?」
ハディは心配そうにユッケの背中をさすりながら声をかけた。
「ハディ、巡礼も今日中に済ませるからほっときなさい!」
ミナは棘のある声でハディにそう言い放ち、ユッケを突き放す。
「ミナ、みんなの前だ。もう少し巫女らしくしないと・・・君らしくないよ。」
「うっ・・・。」
ハディが少し怒った表情でミナに声をかける。それに答えるかのようにミナは肩をすぼめて身体を小さくした。
「ホント・・・巫女らしくなくて、私は楽しいけどね。」
ティアがそんな風景をみて悪戯好きな子供のようにニヤケてみせた。
「ユッケ殿との出会いは必然なのではないでしょうかな?」
ニコニコしながらティアに同意を求めるようにレオンが尋ねた。
「そうだと良いわね。」
ティアがニコッと笑ってそう答え、テーブルへと向かった。そして、いよいよユッケ達はフレビアの神官達のもてなしを大いに堪能することに
「カレーーーーーーーーーッ」
ユッケの叫び声が神殿に木霊す。堪能できたことはできたが、問題があるとすれば料理が驚くほど辛いということだった。ユッケの叫び声と共のその場にいた人達の笑い声も木霊した。
フレビアの洗礼と歓迎を大いに堪能したユッケ
記憶のない自分にとってミッドガルドの世界とは?
ミナ達の巡礼の大切さ、人々の切望
右も左も分からないユッケにハディが優しく接してくれる
次回、「ミッドガルドという世界」
青年は自分を見つけられるのか?(千葉繁さん風)