しかし、そこに暗雲が立ち込めようとしていた。
ユッケは果して、その光景を目にしてどうするのか?
初めての巡礼の成功で、ある程度の事は想定していたものの、『奇跡の巫女』というミナの想像を超える神殿前広場の湧き上がる大歓声に困惑してしまうミナ。その心には嬉しさよりも不安が広がっていた。
ミナの心の内がつかめないユッケ達はミナの背中をただ見ている。
「レオン達も初めてだったの?」
ユッケはレオン達に巡礼に対して慣れている様な感じだったので、そのことについて、おもいきって尋ねてみた。
「ティア殿とは比べられませんが、数年しております。」
レオンはニコニコと素直にそうユッケに答える。
「おばさんみたいに言わないでよ。私は確かに初めからしてたけど。」
「えええええええええええっ?!」
ティアの口から出た言葉に驚きを隠せないユッケ。驚くのも無理はない、レオンより若そうなティアが巡礼の初期メンバーだったのだから。
「ちょっと待ってよ。私、まだ215歳よ。そこまで年取ってないわよ。」
ちょっと怒った感じでとんでもないカミングアウトをするティア。エレゼンにとって、寿命は長いもので3桁前半はまだまだ若者なのだろう。そう顔が得るとティアのご立腹も当然のように思える。
ガードナーというものは世界に存在するクリスタルのそれぞれの守護者のようなもので、巫女とはまた別に、それぞれのクリスタルによって選ばれた強者だった。ガードナーも1世代ずつ選ばれ、時期が来れば代替わりするものだが、寿命の長い種族は自ずとその期間も長くなるもので、ティアは『樹のクリスタルの守護者』として初代。レオンは『土のクリスタルの守護者』として3代目。ハディは『光のクリスタルの守護者』として2代目ということらしい。
ちなみにアルテマクリスタルがあった頃はそれぞれのガードナーはそれぞれのクリスタルの守護者としてその地域から出ることなく文字通り守っていた。しかし、アルテマ消失から巡礼と言うものが始まって、クリスタルのコントロールの方が優先度が高くなり、ガードナーはその強さからアルテマの巫女の巡礼守護者としての役目に変えられた。
「そんなこと言ったら、ハディだって長いわよね?」
自分の年齢の話題から逃げるようにハディに話を振るティア。
ティアに乗るようにレオンが話を続ける。
「ハディ殿も十何年も続けておりますからな。」
「・・・・・・えっ、ええ。そうですね。」
レオンの話に考え事をしていたハディはレオンの言葉にハッと我に返って、慌てて答える。
「ハディさんも、もしかして・・・。」
ユッケはハディの表情の変化を気にして、恐る恐るハディの年齢について尋ねた。
「いやいや、私は33歳ですよ。」
苦笑いしながらユッケの想像を否定するハディ。その時だった。
「・・・あれ、なんだか静かになったわね。」
ティアはそう言うとミナの方を見た。すると、外がまだ昼間なのに暗くなっているのを感じた。そして、ティアの言うように先程まで、ミナを出迎えていた大歓声は静まり返っていた。
誰よりも早く行動を起こすハディ。
「ミナの元へ!」
それにつられてガードナーのティア達も駆け出す。
「・・・・・ッ!?」
ユッケは3人の迅速な行動に驚き、体が硬直する。しかし、その姿をみて、一瞬(俺が行っても)という気持ちが横切るが、ユッケの視界にミナの姿が入るとそんな気持ちも消え失せて、気づけば、3人の後を追いかけていた。
〔ドゴーーンッ〕
「うわーーーーーーーーーっ!!」
「きゃーーーーーーーーーっ!」
ものすごい地響きのような炸裂音と共に群集の悲鳴が神殿の外から木霊した。
「これはすげーぜ、今までにないほど力が溢れて来る!」
威勢のいい聞き覚えのない男の声が神殿の外から聞こえた。
「ミナ!」
ティアが颯爽とミナの前に出て、ミナを自分を盾にして後ろに隠した。すかさずティアの横に並ぶレオン。
「何者だ!」
〔ドガーーンッ〕
〔ズゴーーンッ〕
ハディの叫び声を掻き消すかのように轟音が鳴り、群集のいた広場に土煙が舞う。
「ギルじぃ、その辺にしとけよ。巫女様に当たったら事だぜ!」
ミナ達は頭上から聞こえた声の方に目を向ける。
ミナ達がいる神殿のすぐ上の屋根。そこには一人の男が立っていた。黒い短髪に白いバンダナを額に巻き、皮製の黒いジャケットを羽織り、皮製の黒いズボンと重厚感のあるブーツを履いて、こちらをニヤニヤした顔で見下ろしていた。ユッケはその姿を見て、なぜか不思議と懐かしさを感じていた。
「小僧、わしに指図するんじゃねぇ!」
拡声器を使ったような声で広場に木霊す声。重厚感があるが元気のいい老人の声だった。声のする方向を見てみるとそこにはこの世界には似つかわしくないような鉄の塊で出来た物体があった。筒状の長い棒が延びていて、そこから煙が上がっている。
「・・・・・・戦車?」
その鉄の塊を見て、ユッケが自然とつぶやく。
「・・・戦車とは?」
聞き覚えのない言葉にレオンが不思議そうにユッケに尋ねる。
「・・・いや、戦車ってのは・・・キャタピラで動く・・・。」
自身の名前も思い出せないユッケだが、初めて見るはずの戦車の事に関する知識はスラスラと出てきた。
「・・・キャタピラ?」
ユッケの口から出た初めて聴く言葉に驚くティア。大歓声に包まれていた神殿前広場は怒号と悲鳴と爆発音に飲み込まれて、混沌に支配されようとしていた。
混沌が支配しようとする中で、その混沌の発生源であるだろう構造物の中から言葉が発せられる。
「この天才ギルガメッシュ様が考案した。魔法と科学が織り成す超兵器。その名も聞いて驚け、見ても驚け、『ギルダンク28号』、アルテマの巫女をかっさらいに来てやったぞ!!」
拡声器で増幅した元々大きいであろう声が周囲の人々の耳をさらに攻撃する。
「ミナをさらいに来たって言ってるけどっ。」
戦車を指差してレオン達のほうを見るユッケ。
「我々がいて、そう簡単に行きますかな?」
ニヤリと不適に笑みを浮かべるのはレオン。今まで見たことないレオンの戦闘体制がユッケの目に映る。
「舐められたものね。」
弓を構えて、ティアが言う。レオンが近接担当なら、ティアは後方からなのだろうと見て取れた。
ティア達が臨戦態勢に入る中で、ハディは最も敵の近くに陣取っていた。
「・・・二人は変な物体と上の男を頼んだよ。」
ガードナーの中でも一段と神妙な顔をして、ハディが戦車の横を凝視している。
「あいつも見たことないわね。」
「ひと目で強者と分かりますな。」
ハディの見ている方を見て、ティアとレオンが息を呑む。
そこにいたのは白銀の鎧を着た人物だった。強さと言うのがわからないユッケだったが、その人物が放つ異様な雰囲気に冷や汗が出た。戦車より、頭上にいる男よりもその男が危険だと本能がユッケに告げていた。
「ギルじぃ、そんなに離れて、かっさらえるのかよ!」
そういうと、頭上にいた男が飛び降りてきた。
〔バーーーンッ〕
すごい着地音と共にミナに最も近かった敵がガードナー達の前に現れる。ニヤリとミナを見て笑みを浮かべる男。高所から飛び降りたにも関わらず着地のダメージは一切ないようだった。
〔ビュオッ〕
そんな敵にレオンが間髪入れずに先制攻撃を放つが、レオンのコブシが空を切る。その後もレオンの連撃が男を襲った。
〔シュババババッ〕
ものすごい速度のレオンのコブシが空を切る。涼しい顔でレオンの連撃をよけ続ける男だが、男とミナの距離は確実に離れて行った。
〔ビュビュッ!カンッ、カンッ〕
レオンが敵の男を迎え撃つ中、ティアも自身の敵を見定めて、矢を放っていく。
「ガハハハハッ、そんな弓矢がこの28号に通じるかよ!」
ティアの放った矢が戦車の装甲に弾かれる。その絵を戦車の中で見ているであろう老人が得意げに笑っていた。
「ユッケ、ミナを頼んだよ!」
そういうとティアは弓を構えながらギルダンクとの距離を詰めて行った。ガードナー達が自ずと敵を見定めて、護るべき者から敵を遠ざける行動をとった。そして、
〔ガキンッ〕
ハディが自身の迎え撃つ敵だと見定めたのは、もちろんハディの目の前にいる白銀の鎧を着たモノだった。白銀の人物も自分の敵が誰なのかを理解し、剣を抜いてハディへと距離を詰めた。
[ギャリリリッ・・・]
ハディと白銀が接敵する。二人の剣が交わり火花を散らす。
「ミナ!」
「ちょっと、あんた。私よりも自分の身を守りなさいよ!」
ミナの前に乗り出すユッケにミナのキツイ言葉が浴びせられる。ハディと謎の騎士とのツバゼり合いに触発されたユッケが思わずとってしまった行動だった。
「・・・俺じゃ、時間稼ぎにしかならないけど。頼まれたから・・・。」
震える身体を押さえつけ、ミナの手前、強がるユッケ。
「・・・ユッケ。」
ミナは強がりを言っているユッケをみて、その覚悟に驚く。
しかし、ミナはユッケがどれだけ強がっているかを見て取り、ユッケの肩をガッシリと掴んで、語気を強める。
「あっ、あんた。記憶が戻る前に死ぬわよ。私はいいから逃げなさい!」
「嫌だ!」
ミナがユッケの身を案じて、あえてキツイ言葉をユッケに放つがそれを間髪入れずにユッケが拒絶する。
「みっ、巫女様。奥の方へ。」
ユッケとミナが押し問答をしている中、ミナの傍に残っていた神官がミナの裾を引っ張る。
「神官様、ここはいいから怪我をした民を助けてあげて!」
神官の方を見て、そう大きな声で指示するミナ。
「しかし、巫女がいなければ世界が!」
もっともなことをミナに言う神官。
「私のガードナー達を甘く見ないで!」
強く目を開き、神官に怒鳴るミナ。
「わっ、分かりました!」
ミナの思ってもみない怒声に驚き、慌ててミナの指示に従う神官達は広場にウズクマる人々へとかけて寄っていった。
「ユッケ、向こうに行きましょう。戦車って言うのがまた攻撃してきたら皆が巻き込まれちゃう。」
神官たちをあえて遠ざけたミナはそういうと、グイとユッケの服を引っ張る。ミナはユッケの覚悟が揺ぎ無いのを理解して、会場の人たちにこれ以上犠牲が出ないよう自分をエサにするように移動する。
「うっ、うん。」
ミナの考えを知ってたか知らずか、ユッケはそのミナの行動に従順に従った。
「危なくなったら逃げて良いからね!」
「・・・断る。」
一緒に移動しながらユッケを心配するミナとそれをまたも小さな声で拒否するユッケの言葉が交差する。
「・・・あんた、本当に頭悪いわね。」
ユッケの頑固さに呆れるミナ。自然と悪態が零れ出す。
「・・・記憶喪失でバカな俺でもこの世界に何が必要かは分かるからね。」
さっきまで震えていたのがウソのように強気のユッケがそこにいた。
決心と覚悟の強い目でミナを見て、言葉を紡いでいくユッケ。
「やっと恩返しの仕方が分かったような気がするんだ。」
ユッケの言葉に意識が乗る。
「死んだら、元も子もないでしょ!」
そんなユッケの言葉を聞いても、ユッケの身を案じ、勇気と無謀の違いを諭そうとするミナ。
「ミナのガードナーは強いんでしょ?」
なぜだかにこやかに笑うユッケ。時間稼ぎだけでも・・・時間さえ稼げば、ティア達がどうにかしてくれると思ったユッケ。そのために、この命を使おうと決めたユッケ。
そんなユッケとミナに向けて、声が飛ぶ。
「ミナ、ユッケ、逃げて!」
「っ?!」
ユッケ達の耳に届いたのはティアの悲痛な叫びだった。
ティアの叫びが示すモノはもちろん、
「ガハハハハッ、やはりこの天才こそがあの方の一番の役に立つのだ!見たか、小僧!!」
ユッケ達がその存在に気がつくと二人との距離を詰めて、戦車が突進してきていた。
「ミナは俺が守る!」
もうその場から逃げる時間はない。両手を広げて、戦車に立ちはだかるユッケ。
ミナの前で体を張ったユッケに青ざめるミナ。
「もういいよユッケ、逃げて!」
ミナは叫ぶことしか出来なかった。自分と戦車の間から頑なに動こうとしないユッケ。ミナは胸が張り裂けそうになる。
「邪魔だ、クソガキがああああああああッ!!!」
拡声器で叫びながらギルダンクがユッケ達に迫り来る。
ギルダンクがユッケ達に迫る中、ユッケの足が前に動く。
「うわあああああああああああっ!!!」
大声を張り上げ、己を鼓舞しながら戦車へと決死の突撃をするユッケ。
「だめえええええええええええっ!」
「ユッケエエエエエエエエエエッ!」
ユッケの特攻を見て、叫ぶミナとティアの声。ギルガメッシュの戦車がユッケのもう目と鼻の先に迫っていた。
突如襲い来る敵!
ユッケは己の命を盾にして、非力な自分が出来る精一杯の事をしようと
ギルガメッシュが操る戦車ギルダンクへと立ち向かう!!
次回、「VSギルダンク」
青年は守るべきモノの為に命を賭ける?!(千葉繁さん風)