複雑な想いの中でユッケは?
「・・・・・・。」
ユッケは思い出の小川にあるいつもの定位置だった岩場に寝転がって空を黙って眺めていた。
ユッケはあれからどれほど、叫んだだろうか?
ひとしきり叫び、怒りを小川にぶつけて、拳から血を流したユッケだったが、突然襲ってきた虚無感にあっけなく囚われていた。ユッケはそれに逆らわず、その虚無感に導かれるように、いつもここに来て、寝転がっていた岩場に寝転がり、ただただ黙って空を見上げていた。そんなユッケに木漏れ日が心地いい暖かさを与えていた。しかし、そんな暖かさも、小川で濡れて冷えた体温も、血が出てズキズキ痛むはずの拳も、ユッケの五感には届かなかった。全ての情報を脳が遮断して、生命維持だけに徹するようにユッケはただただ目を開けて、息をしているだけだった。
「・・・・・・。」
そのユッケの姿を静かに見守るハモウ。小川のちょうどいい岩に腰を下ろして、ずっとユッケの様子を見ていた。
「・・・・・・。」
同じくモグッチもハモウの近くで困惑した顔でユッケを黙ってみていた。今まで取り乱していたユッケが突然静かになり、今は寝転がってボ~ッとしており、どう接していいか分からなくなっていたのだ。
〔サァ~~~~~~ッ〕
一陣の気持ちのいい風が小川に流れ込む。春を少し過ぎて、湿気を少し感じる風だった。
「・・・帰りたい・・・。」
ユッケが風の出す音で掻き消されるぐらいの小さな声で言葉を息と共に吐き出す。
「・・・・・・。」
ハモウは静かに聞くだけだった。
「・・・ここが俺の帰るべき場所だったはずなのに・・・。」
ユッケが小さな声で自分の頭に浮かぶ言葉をただ音に出して世界に発する。
その時だった。
〔ガサガサッ、パキンッ、パキンッ〕
「ッ?!」
ハモウとモグッチは近くの林の中からこちらに向かってくる何者かの出す音に反応して身構える。ちょうど、自分達がこの世界に来た時にいた洞窟の方向からだった。
「・・・どうして・・・。」
一方、ユッケは放心状態で音がしても何も反応する事なく。ただ、頭に浮かんだ言葉を発し続けているだけだった。
〔ガササッ、ガサッ〕
何者かは間違いなくユッケ達の小川の方へと近付いてきていた。
「・・・・・・。」
ハモウは臨戦態勢を取る。モグッチはハモウの後ろに隠れてハモウの服を掴んで震えていた。
「これこれ、誰かいるかもしれんのに・・・お主は忍ぶと言う事を知らんのか?」
林の向こうから明るい口調の老人が誰かと話す声が聞こえる。
「何言ってんだっ。このシド様が誰を恐れるってんだッ。」
シドと名乗った若い男の声が老人に言い返す。
「何者かが叫んで居ったから様子を見に行くのはいいが、また軍人かモンスターならどうする?無駄に戦う必要はなかろうてっ。」
明るい口調の老人がシドに慎重に行動するように諭している。
「ハンッ、このシド様がいれば、軍人だろうが、モンスターだろうがこのスパナで殴り倒してやるわッ!ラムウは黙ってみてればいいのよっ!」
明るい口調の老人をラムウと言って、シドが威勢のいい言葉を放つ。
「ラムウじゃとッ!」
ラムウという言葉に反応したのはハモウだった。
「ムッ?!その声はハモウか?」
ハモウの声に反応した林の向こうにいたラムウ。
「おっ、やっと大当たりか?」
ラムウの反応にシドがなにやら喜んでいる。
〔ガサガサッ〕
林の向こうから二人の男が姿を現した。
「ラムウッ!」
「おうおう、ハモウッ。」
二人の老人は互いの姿を確認すると喜びの余り勢い良く近付き抱き合った。
「・・・なんだよ、じじいの再会かよ・・・。」
二人の再会をガッカリした顔で眺めるシド。
ラムウと言われた老人は身長が180cmぐらいの大柄な老人でベンパツのような髪型で白く長い髪を後ろで結び流していた。一番目に付くのはその口の周りに存在感を放つ髭だった。フサフサというのを通り越した毛量で膝まで伸びたその白い髭はフカフカという表現が似合いそうなぐらいだった。青い厚めのローブに身を包み、右手には身長ぐらいある丈夫そうな木の杖を持っていた。表情は暖かさがあり、優しい眼差しをしていた。
シドと言われていた男は、年齢は30代ぐらいの成人男性でツンツンというかボサボサの白い髪を無造作にして、無精髭もそのままだった。身長はラムウと同じぐらいで体は中肉中背ではあるが、胸板は少々厚めに感じた。右手には油汚れが少し目立つ大きめのスパナを持ち、服装も油汚れが目立つ水色の厚めのツナギを着て、両腕は長袖を肘ぐらいまで捲り上げていた。腰にはナースポーチを付け、そこに色々な道具が見え隠れしている。
「クポポッ。」
そんな中、感動の再会で突然自分から離れてしまったハモウを追いかけようか迷っているモグッチがソワソワしていた。
「ンッ?なんだなんだ、随分かわいらしいもんすたっ・・・?!」
困惑しているモグッチを捉えたシドの目が、その奥で寝転がっているユッケに視線を奪われた。
「・・・どうして・・・どうして・・・どうして・・・。」
ユッケは空を見上げながらも我関せずと言った状態で言葉をただ発するだけだった。
「・・・・・・。」
シドはそんなユッケを見て黙って近付いていった。
「・・・・・・オイッ!」
シドはユッケまで近付くと、顔をユッケの目の前に持って行き、ユッケの顔を覗きながら大きな声をかけた。
「・・・・・・。」
ユッケは放心状態のまま、一瞬シドに目線をやって、また空に視線を戻した。
〔ガシッ、バシャンッ〕
「クポポポッ?!」
シドの突然の行動に驚いたのはモグッチ。
シドは自分を無視したユッケの胸倉を掴み、勢い良くユッケを岩場から小川に叩き付けた。
「・・・・・・。」
さすがの放心状態のユッケもシドに視界を奪わわざるを得なかった。
「何、クヨクヨしてやがんだ、コノガキはッ!」
シドはびしょ濡れになったユッケに顔を近付け睨みつけながら怒鳴った。
「おいおい、手荒な真似はよさんか、シドよっ。」
乱暴にユッケを扱うシドにラムウが近付きながら落ち着くように言う。
「まったく、ヒロヨシに頼まれたから探し回って来て見たら、こんな腑抜けたガキだったとは思わなかったぜっ。」
シドはユッケから顔を離して、腕組みをして視線を外した。
「・・・とうさん・・・?」
父親の名前を聞いて少し意識が戻るユッケ。
「そうじゃよ、ワシとシドはお主の父親に頼まれて、お主を探して居ったのじゃ。」
ラムウがユッケに近付き、ニコニコしながらそう話してくれた。
「・・・どっ、どういうことですか?」
要領を得ないユッケが素直に聞き返した。
「・・・ヒロヨシはお前が次元の歪みに落ちて、ミッドガルドかアースカンドの何処かに飛ばされたんじゃないかとずっと探し回ってたんだよ。」
ふてぶてしい態度ながらもシドがそうユッケに教えてくれた。
「ヒロヨシがくれた、次元の歪みを見つけるためのこの機械を頼りにの。」
ラムウはそう言うとなにやらレーダーが付いた手で持てる位の大きさの機械をユッケに見せてくれた。
「いやいやいやいや、それは俺も一緒に作ったんだからもらったはおかしいだろッ。」
ラムウに顔を近づけて訂正を求めるシド。
「どっ、どうして、父さんは俺が次元の歪みに落ちたって分かったんですか?」
当然の疑問を尋ねるユッケ。
「ん?あぁ、それはお前が持ってたアルテマクリスタルを探知する機械をヒロヨシが持ってたからだよ。それでお前の居場所をいつも確認してたんだ。」
ユッケの疑問に丁寧に答えてくれるシド。
「ふぉっふぉっふぉっふぉっ、忙しくて会えない中でも子供が心配なのは親の常じゃて。」
ラムウが髭を弄りながら笑う。
「・・・とっ、父さんと知り合いなんですか?」
ユッケはゆっくりと状況を整理するようにシドに尋ねた。
望んでいた希望とは程遠いが、進展する状況にイチルの光を見い出したようなユッケは見る見る瞳に輝きを取り戻していった。
父ヒロヨシの知り合いだと名乗るシドに出会ったユッケ
絶望で右も左もないユッケにとって
シドは光となるのか?
次回、「科学者?シド」
青年はか弱き糸をたぐり寄せる?(千葉繁さん風)