ミッドガルドに戻るためのチャンスを伺っていたのだが
父ヒロヨシとアグニス大佐の人質交換の日から数日が立っていた。
アポニスのアジトで人々が慌しく準備に追われている。
「・・・いよいよだな・・・。」
シドが自分の準備をしながらユッケに話す。
「・・・そうですね。」
ユッケはアルテマウェポンを握り、それを見つめながら答えた。
ユッケは父から調節してもらったアルテマウェポンをこの作戦決行の前に慣れておこうと訓練していた。アルテマウェポンは本当に想像を超える武器で、その一振りで大概の物が真っ二つに切断された。刀身も非常に高エネルギーで出来ているため近づけるだけで大概の物が黒焦げになる。しかも、刀身はエネルギーの塊なので、実質重さが柄だけという軽さ。しかし、使えるのはユッケだけで、シドや他の者が試そうとしても刀身が現れず、使う以前の問題だった。ヒロヨシは他の者も使用できるような事を言っていたが、どうやら相当人見知りらしい。
「お二人とも準備はよろしいですか?」
シドとユッケの元に、準備万端の装備をしたメラーニが声を掛けに来た。
「おうっ、いつでもいいぜっ。」
お気に入りのスパナで肩を叩きながらシドがメラーニに答える。
「・・・大丈夫です。」
ユッケも立ち上がって、メラーニの目を見て、にこやかに答えた。
「・・・ユッケ君。今回の作戦は君達が前面に出て戦うことはないと思うが、十分に用心して、まずは自分達の身の安全を第一に行動してくれ。」
メラーニと話しているところに、アグニス大佐も声を掛けに来た。大佐は髪をサッパリ切って、髭も剃り、彫りが深いイケメンの外見を前面に押し出していた。軍人だけあり、体はムキムキだったが、軍人でなければ、モデルでも俳優でも何だって出来そうなぐらいの男に見えた。
「・・・あっ、ありがとうございます。」
男に見惚れるのが初めてのユッケが戸惑いながら答えた。
「ユッケ君の仕事はミッドガルドに着いてからだ。我々だけでは交渉は出来ない。ユッケ君が今後の要だという事を頭に叩き込んでおいてくれよ。」
アグニスはにこやかに白い歯を見せてユッケの胸に拳をタッチさせてそう言った。
「・・・はい・・・。」
新しい世界の扉を開きそうなユッケがたどたどしく答える。
「それにしても、最強の部隊とは言え、それだけで軍が守るゲートを突破できるもんなのかね?話を聞くだけじゃにわかに信じがたいぜっ。」
シドがアグニスに疑いの眼差しを向けながら言う。
「ハハハッ、確かにシド博士の言うとおりだ。誰もが無謀に思うだろう。手薄とは言え、ミッドガルド侵攻にとってはランツゲートは向こうの要だからね。」
アグニスが笑いながらシドに答える。
「大佐ッ、こんなアホゥにかまっとらんでもええぞい。」
シドとアグニスの話に割って入ってきたラムウがニヤケながらシドに悪態をつく。
「あんだとっ!」
拳を振り上げてラムウを睨みつけるシド。
「・・・断崖絶壁の山を背にした敵をある戦士がとんでもない所から敵に襲い掛かり、見事戦いに勝ったという話があります。どこからだと思いますか?」
アグニスがシドににこやかに微笑みながら問題を出した。
「・・・えっ・・・空から?」
突然の問いに戸惑いながらも答えるシド。
「ハハハッ・・・ちょっと違いますね。正解は崖です。断崖絶壁の崖から馬で滑り降りて、敵の不意をついて倒したのですよ。」
アグニスは微笑みながらシドに説明する。
「馬で崖をっ?!そんな無茶苦茶な答えがあるかよっ!」
シドは徹底抗議の構えでアグニスに詰め寄る。
「・・・そう、無茶苦茶なんです。だからこそ、敵を欺けるんですよ。」
アグニスは詰め寄って来るシドの肩をポンと触り、白い歯を見せて颯爽と答えた。
「・・・なっ、なるほど・・・。」
アグニスの自信満々の答えと余りのイケメンフェイスにシドは気圧されして、それ以上は何も言わず納得した。
「フゥーッ・・・シド博士、もうよろしいですか?あなた方はラスター大尉と一緒にゲートに向かってもらいますので、くれぐれも無理をなさらないようにお願いしますね。」
メラーニは鼻でため息をつき、シドだけを見ながらそう言った。
「なんで、俺だけにいうんだよ。」
シドは納得いかなさそうにふくれっ面になった。
「ヒョッヒョッヒョッヒョッ、これから大変だというのになんとも緊張感のないことじゃっ。」
ハモウが髭を弄りながら笑う。
「うぅぅぅっ、ミッドガルドに早く帰りたいけど、怖いクポ・・・。」
モグッチはそう言うとユッケの肩に負ぶさって顔を埋めた。
「ハハッ、大丈夫だよモグッチ。」
ユッケはモグッチを優しく撫でて言い聞かせた。
「ラスター大尉。」
「ハッ!」
メラーニが名前を呼ぶと近くまで来ていたラスターが胸をめい一杯張って大きな声でそれに答えて一歩前に出てきた。
「大尉は我々の中でも信頼できる軍人です。私と大佐は大将閣下との交渉に向かいますので、大尉の部隊と一緒にゲートの確保と保持をお願いします。」
メラーニはそう言うとラスターの背後に回るように一歩下がった。
「皆さん、ラスターです!皆さんの事は私が命に代えてもお守りしますのでよろしくお願いしますッ!」
ラスターはそう言うと胸を張りつつ、にこやかに微笑み、右手を前に出した。
ラスター大尉は大柄の男で、2m近くありそうだった。体格もゴツゴツしていて、ザ軍人といった所だろうか。ヘルメットの下から見える髪の毛はブロンドで彫りも深く顎が二つに綺麗に分かれているのが印象的だった。
「よろしくお願いします、ラスター大尉っ。」
ユッケは差し出された手を握り、笑顔で答えた。
「ラスター、よろしく頼むぞ。」
「ハッ!」
アグニスから声を掛けられたラスターは今までで一番胸を張り、大きな声を出して答えた。
大好きな親に褒められた子供のような恍惚とした表情が見て取れる。如何にアグニス大佐の人望が厚いかが伝わってきた。
「集合ッ!」
アジトにメラーニの大きな声が響く。
今まで、準備でざわついていた部隊の面々はメラーニの声と同時に動きを合わせて、アグニスの元へと駆け足で集まった。
「・・・諸君。我々はこれからこの国のために大きなミッションを行う。報酬もなければ、賞賛もないかもしれない・・・だが、我々は我々の国のためにやらねばならない。無益な戦いを終わらせて、兵達を家族の元に返す為に、みんなの力を貸してくれ。」
「サッ!!!!」
アグニスが兵士一人一人の目を見ながら話し、握りこぶしを作って前に出す。それと同時に兵士全員が胸を大きく張り、大きな声でアグニスに答えた。兵士一人一人の目は大佐をジッと見つめて揺ぎ無い忠誠心を示していた。軍が守るという基地を攻略するには余りにも少ないと思われる数だが、恐れるものは誰もいない。むしろ、自分達には出来ない事は無いと自信満々の目をしていた。
同日昼過ぎ、
ユッケ達はランツゲート基地近くの茂みに隠れて、その時を待っていた。アサッシュ大将は早朝に車で基地に入ったのをアポニス部隊の斥候が確認していた。さらにメラーニ達が掴んだ情報では、今は基地内部の視察を終え、昼休憩を取って客間で談笑しているという。
〔ウウウウウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーッ〕
基地内部からけたたましいサイレンの音が聞こえてきた。
「いよいよですね。」
基地の様子を伺っていたユッケが小さな声で言葉を発する。
「俺はこういう待ちの姿勢はどうも嫌いだ・・・。」
シドがジッとしながらもイライラを隠さずに不貞腐れながら小さな声で答える。
「もう少しお待ち下さい。」
ラスターがニコニコしながらシドに小さな声で言葉を掛ける。
〔ドーーーンッ、ドドーーーンッ、ズガーーンッ!〕
その時だった。基地内部から爆発音が鳴り響いた。これが合図だ。
内部に侵入したアポニス部隊が陽動作戦を開始し、基地内部のあちこちで爆発を起こしていた。
〔ドドドドドドッ、バンバンッ、ドガーーーンッ〕
〔ウワアアアアアアアアッ〕
基地内部から様々な音が聞こえてくるようになった。
「さぁ、我々も動きますよ。」
ラスターが小さな声をやめて、皆に指示を出した。
「よっしゃ、いっちょやってやるかッ。」
ニヤニヤしながらシドが右拳を左手の手の平に叩き付けた。
「・・・お主、な~~~んも聞いとらんな・・・。」
ウズウズしているシドを見て呆れるラムウ。
「それにしたって、シドさんは別について来なくてもいいんじゃなかったんですか?」
いまさらながら意気揚々としているシドにユッケが尋ねる。
「馬鹿言うなよッ!こんな面白い事があるのに遠くで眺めてられるかッ!」
心外だとばかりに怒りながらシドがユッケに詰め寄る。
「フォッフォッフォッフォッ、火事と喧嘩はなんとやら・・・好物がぶら下がってて黙っておられる男じゃぁないからのっ。」
ニヤケ顔をしたラムウが今にも暴れそうなシドを押さえ込みながら言う。
「うっせっ!なんだかんだ言って、お前だって喜んでるだろうがッ!」
自分を押さえつけているラムウに向かって言葉をぶつけるシド。
「ヒョッヒョッヒョッヒョッ、わしらは自分達の世界に帰りたいだけだというのに。面白いからと命を危険にさらすとは難儀な連中じゃわい。」
シドとラムウのやり取りを見ながらハモウが笑う。
「なんでもいいから、無事に帰りたいクポ・・・。」
周りの騒々しい雰囲気とは裏腹に不安で一杯のモグッチ。
「皆さん、遅れないようにお願いしますよ。」
ラスターが促すように皆に言葉を掛けた。
ラスターの部隊は全員で6人。こんなハチャメチャなメンバーで落ち着いていられるラスターがどれほど大佐達に信頼されているかが伺えた。ゲート確保と維持を大佐からは指示されてはいるが、ラスター達がそれをするわけではない。ラスターやユッケ達はあくまでサポート部隊、先にゲートを確保維持している部隊に合流して後方支援をする形になっていた。
〔ドドドドドドドドドッ、ドガーンッ、ズドーンッ、ババババババッ〕
ユッケ達が進もうとしている基地の中から絶え間なく戦闘のけたたましい演奏が続いている。
〔ドゴーーーーーンッ!〕
〔ウワアアアアアアアアアアアッ〕
ユッケ達が基地の入り口近くの茂みに来たタイミングで入り口を見張っていた小屋が爆発した。爆発で驚き、逃げ惑う敵の兵士達。完全に指揮系統を失っているランツゲート基地守備部隊は戦意を大きく削がれており、敵に応戦するのではなく、自分の命を守るので精一杯になっていた。
「第一段階はクリアしたようですね。合図しますので、それまで待機で、合図と同時に一気に内部へ行きましょう。ここからは悪ふざけは無しですよっ。」
ラスターがユッケ達の方を見ながら釘を刺しつつ、親切に説明しくれた。
「お主のことじゃぞ。」
シドを見ながら、ニヤケるラムウ。
「ラムウさんっ。」
ユッケが挑発するラムウを制止した。
「・・・お前は後で必ず頭カチ割ってやる・・・。」
シドがユッケの行動を見て、納得いかないなりにも怒りを抑えて、ラムウを睨み付けた。
〔ドガーーーンッ、ズガーーンッ、ボオオオオンッ〕
基地の内部の遠くの方で爆発音が連続する。
「行きましょうッ!」
ラスターがイヤホンで情報をもらいつつ、状況を判断してユッケ達に合図を出した。
ユッケ達はラスターに置いて行かれまいと、必死に後を追った。ラスターは十分に周囲を警戒しつつ、素早く全員が隠れられる位置を判断して、そこに走り込み一同が集まり、落ち着くのを見て、また合図を出して次の位置へと移動していく。敵の動向を瞬時に識別し、味方の様子を逃さず観察して、適切なタイミングを判断し、ユッケ達を導いていった。
基地の内部は逃げ惑う兵士達がチラホラ見えた。殆ど見逃してはいるが、チラホラアポニス部隊の隊員達がそこかしこで動いているのがユッケには見て取れた。殆どの監視塔は抑えているようでラスターに情報を与えているのはそこにいる部隊員のようだった。一個中隊に満たない人数で迅速かつ手際よく進められる作戦遂行が如何にアポニス部隊が歴戦の雄かを現していた。
「・・・案外すんなり進むな・・・。」
スルスルと基地内部に侵入できている呆気無さにシドが言葉を漏らす。
「ハハハッ、そう言ってもらえると現場の兵士達の励みになりますよ。」
ニコニコと周囲の様子を見ながらラスターがシドに答える。
「・・・すごいですね・・・基地の中で敵に見張られてるんじゃなくて、こんなに味方に見守られてるのは不思議です・・・。」
ユッケが周囲を見ながら、感じた事を素直に口から滑らせた。
「・・・なるほど・・・大佐が一目置かれるのも頷けますね。」
ラスターがユッケの言葉にニコニコしながらも目は笑わずにユッケを見ていった。
「・・・っ?」
シド達はラスターの言葉に困惑して顔を見合わせる。
「・・・さぁ、もうすぐゲートです。無理はさせませんが、十分に気を引き締めて下さい。」
ラスターがタイミングを見計らって、皆に声を掛ける。
〔ドガガガーーーーンッ!〕
〔ウワアアアアアアアアアッ!〕
ユッケ達が進もうとした方向から爆発音と共に兵士達の叫び声が木霊した。
「ガハハハッ、このギルダインをなめてもらっては困る!たかだが軍人風情が適うものかっ!」
「ッ?!」
前方の方から拡声器越しになにやら聞き覚えのある声が聞こえてきてユッケはハッとした。
順調にランツゲート基地を制圧していたかに見えたアポニス部隊
しかし、そんな部隊の前に思いもよらぬ人物が立ちはだかった
次回、「悪魔が来たりて・・・。」
青年よ、悪魔の微笑を打ち砕け!(千葉繁さん風)