ユッケ達はゲートを潜り、ミッドガルドへと向かう。
しかし、失意の中にいるユッケは・・・、
接触と再会
(・・・・・・俺は、弱いな・・・。)
ユッケは闇の中にいた。
暗いくらい闇の中に浮かび漂っていた。
「お前は弱い。」
暗闇から顔だけを覗かせたハディがユッケを笑ってなじる。
「お前には何も守れない。」
別の方向からもう一人のハディが顔を出して、ユッケに追い討ちをかける。
「お前にいったい何が出来る?」
さらに別の方向からハディの3つ目の顔が現れてユッケに言葉で畳み掛ける。
(・・・・・・俺は何が出来るんだろう・・・・・・。)
ハディの言葉だけが頭の中に入ってくる。目の焦点は合っておらず、ハディの顔はユッケの意識の中にはなかった。しかし、ハディの的確な言葉だけはユッケの精神を抉り攻めて来る。
「もう楽になれ。」
一言ごとにユッケの周りに増えていくハディの顔。
「お前はそこでジッとしていればいいんだ。」
ユッケを四方八方から囲み、言葉で追い詰めていくハディ。
(・・・・・・・・・・・・。)
ユッケは最早考える事をやめようとしていた。
「ユッケ殿っ!・・・ユッケ殿!」
「・・・・・・。」
闇の中を漂うユッケの耳に聞こえるはずのないレオンの声が聞こえてきた。
「ユッケ君っ!」
「・・・・・・。」
レオンの次にはアグニスの声も届いてきた。虚ろな目で周囲を探るユッケ。
ユッケは意識を取り戻していたが、目の前でハモウに続いて父親も失ったという絶望にもう精神が壊れようとしていたのだった。なんとかレオンやアグニスの呼びかけのおかげで闇の中から抜け出す事が出来たが、闇から抜け出せただけでユッケの身体には立ち上がろうという力すら込み上げてこなかった。
ユッケがいるのはどこかのテントの中。周りにはアースカンドの軍服を着た兵士が何人か慌しく動いている。たぶん、アポニスの部隊員だろう。それと同じように最早純白とは呼べない白いローブをマトッた人物も何人かユッケの視線の中に入ってきた。どこかの神官なのだろうか。神官達も慌しく動いている。
「しっかりして下さい、ユッケ殿ッ!」
レオンが真剣な顔でユッケの肩を揺らしながら声をかけている。
「グズグズしてる奴は殴りゃいいんだよっ!」
「落ち着いて下さい、シドさんっ。」
シドの声がする方向に目線を向けるユッケ。
そこにはユッケを見てイライラしているのだろうか。シドが今にも殴りかからんばかりの勢いを出していたが、ラスターに羽交い絞めにされて辛うじて押さえ込まれている状態だった。
「こら、やめんかっ!状況を考えてみろっ、今は無理強いするときではないわいっ。」
ラムウが羽交い絞めにされたシドの怒りを静めようと諭している。
「・・・・・・レオン。」
ユッケは壊れそうな心を必死に繋ぎ留めて言葉を振り絞った。
「ユッケ殿っ!」
ユッケが自分の名を呼んでくれて満面の笑みを浮かべて答えるレオン。
「・・・・・・俺、帰って来れたのかな・・・?」
虚ろな目でミッドガルドに帰ってきたことを確認するユッケ。
「・・・そうだ、君のおかげでレオン君とも戦わずにすんだよっ。」
アグニスが精一杯の笑顔でユッケに感謝する。
「・・・・・・俺の・・・おかげ・・・?」
要領を得ないユッケがアグニスに聞き返す。
「そうだよ、君がいてくれたおかげだ。僕達はゲートを潜ったところでレオン君が率いるミッドガルドの戦士達に囲まれてしまったんだ。」
さかのぼる事。数刻前、
ゲートを無事に潜ったアグニス達ではあったが、見知らぬ森の少し開けた茂みの中で周囲を警戒し、動けずにいた。
「アグニス隊長・・・大変です、もうすでに周囲を何者かに取り囲まれています。」
ハモウの捨て身のディメンションのおかげで、ハディという強敵を退けて、ゲートを潜り、ミッドガルドに来る事が出来たアグニス率いる部隊だったが、アポニスの部隊員の一人の証言通り、ゲートの向こうも安全とはいえる状況ではなかった。どうやら、アースカンドの侵略軍に出くわしたのか、それともそれに対抗する為に展開されていたミッドガルドの部隊なのか、もしかしたらモンスターの群れの中に運悪く転送されてしまっていたのか。どれにしても、今の自分達にとってどれがもっとも運が良いのかさえ分からない状態だった。
「・・・姿が見えません。どうないさいますか?」
アグニスの傍にいたメラーニが指示を求める。
「・・・最悪の場合、ミッドガルドの人達なら和解する前に決裂してしまうな・・・。」
アグニスは自分が背負っている気を失っていたユッケの顔を見ながら冷静に状況を判断するように選択肢を声に出し、周囲に自分の考えを聞かせる。
「・・・了解しました・・・・・・各人、発砲は許可を待て、警戒態勢だ。」
メラーニが無線を使って、アグニスの考えを自分なりに解釈して、部隊に指示を行き渡らせる。
「サッ。」
無線からアポニス部隊の隊員達が短く聞こえるギリギリの声で返事をした。
「・・・シドさん達は一般人だ。一箇所に集めて優先的に守ろう。」
周囲を警戒して情報を集めながらアグニスが言葉を流す。
「ラスター、シドさん達の安否は?」
メラーニが即座にラスターに応答を促す。
「サッ、こちらに全員居ります。」
ラスターが無線で即座に返答する。
「低い姿勢で陣形の中央に・・・視認できるものは援護を。」
メラーニが部隊員に即座に指示を送る。
「サッ。」
数名が応答して周囲が少し人の動きでざわめく。
「少佐、お連れしました。」
ラスターが先頭でシド達をアグニスの所にまで導いてきた。
「おいおい、どうしたどうした?ミッドガルドに来れたんだよな?」
周囲をキョロキョロして落ち着きのないシドがメラーニに訪ねる。
「・・・この辺りはシャイナールに近いようじゃな。」
ラムウが木々の間から遠くの方に見える光の塔に顔を向けながら話す。
「ラムウさん、ここの辺りの地理に詳しいんですか?」
アグニスが周囲を伺いながらラムウに情報を求める。
「ふむっ、光の塔が右側に見えるという事はボヤン草原の近くの森じゃろう。」
ラムウが髭を触りながら的確に位置を割り出す。
「メラーニっ。」
「ハッ。」
アグニスはラムウのしっかりした言葉に答えるようにメラーニに次の指示を出した。メラーニは返事をしながらアグニスの意図を汲み取り、荷物の中から地図を取り出した。
「ラムウさん、光の塔とはこちらで宜しいですか?」
アグニスがユッケを担いでいるため手が離せないので、メラーニが地図に書かれている『光る大きな建造物』という所を差してラムウに尋ねる。
「ほうほう、これはまた精巧な地図じゃな・・・。」
ラムウはメラーニの地図を見て感心した。
「ということはボヤン草原というのはこちらですね。」
メラーニが光の塔から指を動かして草原のような地点が描かれた場所を指す。
「ふむ、塔の大きさからして、森のここら辺りじゃろうな。」
ラムウはメラーニの地図に大体の位置を推測して指し示す。
「ありがとうございます。」
メラーニはラムウに小さな声でお礼を言って、即座にアグニスの方へと移動する。
「隊長、この辺りは部隊の展開はありません。8割方、ミッドガルドの部隊かと・・・。」
メラーニが地図をアグニスに見えるように広げながら意見を述べた。
「・・・そうだな。こちらの軍ならゲートを確認すれば、何かしたらアクションを起こすだろう。今も状況を伺っているのはゲートの先から味方は来ないと思っている側・・・。」
アグニスが状況を総合的に整理して結論を導き出していく。
「・・・よし、動こう。」
「サッ。」
アグニスが手で合図を出しながらメラーニに何かしらの指示を出した。
「各人、警戒レベルを上げろ。引き続き発砲の許可を待ち、待機。」
「サッ。」
メラーニが指示を上書きする。それに答えるアポニスの隊員達。そして、
「我々に敵意はありません。話し合いにやってきましたっ!」
メラーニはサッと一人だけ立ち上がり、1番目立つように両手を広げて姿を現し、隠れているであろう相手に声をかけた。
「・・・・・・。」
隠れている相手からの応答はない。
「我々はアースカンドから交渉にやってまいりました。今回の我々の戦争は本意ではありません。友好的な解決策を話し合いませんか?」
メラーニは堂々と両手を挙げてさらに訴えかける。
「・・・内容はともかく、すばらしい心構えですねっ!」
「ッ?!」
アグニス達の目の前の林の中から野太い男の声が聞こえた。
その男は一人、林の中から姿を現してメラーニをニコニコと見つめていた。その男は軽装ではあるが、2mを越える身長でガッシリとした体型はそれだけで威圧感を与えていた。しかし、そんな存在感とは裏腹に男の顔は笑顔で友好的に見える。
「出てきて頂き、ありがとうございます。私はアースカンドの兵士でメラーニと申します。」
メラーニは一歩近付きながら相手に自己紹介をした。
「これはこれは・・・私はミッドガルドの土のクリスタルのガードナーをしています。名をレオンと申します。女性でありながら堂々とされていますね。周囲の方々は臆病者ですか?」
レオンはニコニコしながら表情を崩さす、隠れているアグニス達に釘を刺した。
「・・・失礼。確かにののしられても文句は言えません。」
レオンの言葉に透かさず身体を低くして隠れていたアグニスがユッケを背負ったままの体勢で姿を現した。
「見ての通り、負傷者もいるので、どうか友好的に・・・。」
「・・・ッ?!ユッケ殿っ!」
〔ガサガサガサッ、カチャッ、カチャカチャッ〕
アグニスが背負っていたユッケを見て、レオンが我を忘れて駆け出した。その咄嗟の行動にアポニスの部隊も慌てて茂みから銃を構える。
「やめろっ!」
レオンの行動に焦った部隊に喝を入れるように叫ぶアグニス。
「・・・生きて・・・生きておられたのですね。」
レオンはアグニスに背負われた気を失っているユッケを抱きしめて涙を流した。
雑踏でにぎわう何処かのテントの中、
「・・・私は確かにユッケ君を使って、交渉しようとしてたが、まさか背負った状態でも有効的だったとは恐れ入ったよ。」
アグニスがレオンを見てニコリと微笑んだ。
「ハッハッハッハッ、私ぐらいになりますと筋肉の付き方や持っているオーラで大体誰だか分かりますよっ。」
レオンがその場から立ち上がり、胸を張ってアグニスにニコニコしながら自慢した。
「・・・しかし、結果として我々は血を交えることなくこうして話し合えたので感謝しかありません。」
メラーニが少し引いた目でレオンを見ながら素直にお礼を言った。
「・・・・・・それはよかった・・・・。」
ユッケに少し笑顔が戻るがそれはか弱い小さな光だと誰しも分かった。
「ノブヒデッ!!!!!」
そんな弱りきったユッケの耳にどこか懐かしい聞き覚えのある女性の大きな声がテント内を響き渡って届いた。
失意と絶望の中で消えかかろうとしていたユッケ
しかし、そんなユッケの元に闇の中から救わんと、
あの人物が駆けつける
次回、「再会と再開」
青年よ、時に立ち止まったとしても、仲間と共に再び歩き出せ!
(千葉繁さん風)