その中で、バハムートが引きこもって
戦いから身を引いた事を知る。
そんなバハムートに怒り、会いに行く事を決めたユッケだったが
光の塔から南西に進んだ場所に山脈があり、そこの中腹に大きな洞窟がある。ユッケ達は1日掛けてそこに来ていた。戦況も刻一刻と変わる今、余裕なんてなかったが、それでもユッケはここに来る事をタメラわなかった。
「・・・こんな所にあいつが・・・。」
目的地の入り口である洞窟。そのぽっかり空いた山の穴、暗い闇を睨みつけてユッケが呟く。
「随分逃げてきたもんだ・・・なんでも、王様だったんだろ?」
シドが辺りを見回しながら言葉を吐き捨てる。
「まぁ、やつの力はまさにこの世界の頂点のような存在だったからのぅ。」
ラムウが髭を触りながら遠い目をして話した。
「でも、バハムートに会ってどうするの、ユッケ?何か手があるの?」
シヴァがここまで連れてきたは良いが、不安が解消されないのでドギマギしていた。そんなシヴァを他所に
「・・・まぁね。」
闇を見つめるユッケの目には決意の強い光が灯っていた。
「・・・・・・。」
洞窟の入り口からそう時間がかからずにユッケ達はその場所に辿り着いた。10分そこそこ暗い闇を抜けた先にバハムートはいた。バハムートの居る場所は大きな空洞になっており、その巨体をもってしても余りある空間が広がっていた。真っ白な装飾がされていれば、見慣れたクリスタルの間に近いものだった。バハムートはユッケ達が来たにも関わらず、身体を沈めたままで、前足を組み、その上に頭を乗せて目をつむっていた。
「・・・どうして黙ったままなんだ?」
ユッケが自分達の存在を無視するバハムートに声をかけた。
「・・・・・・なんのようだアルテマの巫女の子よ・・・。」
片目を開けてユッケを見て、バハムートが言葉を零す。
その言葉に今までの王者としての覇気はまったく感じられなかった。
「ふわ~~~っ、でけ~~~っ。」
シドがバハムートを見て、率直な感想を口から吐き出す。
「なんとまぁ、変わり果てた姿よ。」
ラムウがバハムートの覇気の無さを見て率直に話す。
「・・・・・・ラムウか・・・久しいな・・・。」
バハムートは長年アースカンドに居たラムウにそう言葉をかけるだけだった。
シヴァの時とは大違いで、最早自分には関係ないことだと割り切っているような口振りだった。
「ミッドガルドの皆は頑張ってる。あなたが来てくれると信じている者もいるだろう。なぜ、こんな所でジッとしているんだ?」
ユッケが少し棘がある口調でバハムートに言葉で詰め寄る。
「・・・・・・。」
バハムートはユッケの方を見るが何も感じないようだった。
「皆、自分達の世界を守ろうと必死だ。俺も皆もミナやクリスタルも諦めてない。」
ユッケは黙り込むバハムートに畳み掛ける。
「・・・最早どうでも良いことだ・・・。」
「ッ?!」
バハムートが吐き捨てた言葉にユッケの頭の中で何かが切れた。
「ラムウ、ごめんっ!」
「なんじゃ?!」
〔フュージョン〕
「このやろおおおおおおおおーーーっ!」
ユッケはフュージョンをしながらバハムートに飛び掛る。
ラムウはユッケに引っ張られて光の粒となり、ユッケを包み込む。
次の瞬間、そこに現れたのは「ライジングナイト」となったユッケだった。ユッケはそのままの勢いでバハムートに拳を振り上げて、
「なっ?!」
〔バチコーーーーーーンッ!〕
驚いて、首を上げたバハムートの左頬を思いっきり右ストレートで殴った。
バハムートの頭は殴られた衝撃で軽く仰け反り、余りの事に目を見開いた。ユッケは完璧なストレートをバハムートに放つとそのままバハムートの近くに着地して、兜の下から睨み付けた。
「今まで散々人をないがしろにして、クリスタルクリスタルと言っていたのに。自分の思い通りにいかないと一人で塞ぎ込んで知らん振りかよっ!」
ユッケは驚いて固まっているバハムートを見上げながら叫ぶ。
「おっおい・・・ユッケよっ。」
行き成りフュージョンで共犯にさせられたラムウがフュージョンを解いた後、ユッケの余りの怒りに隣で圧倒されていた。
「あんた以外の人は誰一人、この世界を諦めていないのに・・・この世界で一番のあんたがなんで一番最初に諦めるんだっ!」
その場にいる誰もがユッケの行動に驚く中で、ユッケは今まで溜まっていたモノを全て吐き出そうとしていた。
「・・・・・・。」
バハムートはそんなユッケから目が離せなくなっていた。
「俺は諦めない!自分が望んだ明日なんて、そうそう来ないけど、自分が望んだ明日に少しでも近づけるように俺は前に進む・・・・・・一人じゃ出来ないなら、皆を頼る!俺はミナもクリスタルも必ず取り戻す!」
そう熱い気持ちを乗せてユッケはバハムートに言葉を叩き付けた。
「・・・自分が・・・・・・望んだ・・・明日・・・。」
ユッケの言葉で突き動かされたバハムートがそう言葉を繰り返した。
「俺も一人じゃないし、あんただって一人じゃない!あんたもきっと来てくれるって信じてるっ!」
ユッケはバハムートに向かって右手で握りこぶしを作り、掲げてみせた。
「いきなり殴ったりして・・・ごめんっ。」
ユッケはそう言うと深々と頭を下げて、何事もなかったかのように来た道をスタスタと戻っていった。
「はへぇ~~~~っ。」
嵐のような出来事にシドは最早まともな言葉がなかった。
「わっ、ワシが殴ろうって言ったんじゃないぞぃっ!」
ラムウが後退りしながらバハムートに言い訳して足早にユッケについていった。
「ふふふっ。」
その光景を見て、微笑んだのはシヴァだった。
ユッケやシド、ラムウはその場所から洞窟の外へと消えて行った。その場所に残るのはシヴァとバハムートだけだった。
「・・・・・・私も諦めないわ。あの子が望む明日が来るように最後まで一緒に頑張るわっ。」
シヴァはユッケ達が去って行った方から視線をバハムートに戻し、バハムートにそう微笑みかけて、ユッケ達の後を追って、その場から静かに飛んで去って行った。
後に残ったのは大きな身体をした守護獣の王だけだった。どんよりとした暗い洞窟の中で王は嵐のように去って行った青年の背中を追い続けていた。
「・・・・・・あきらめない・・・か・・・。」
誰に届けるわけもなく、王の声は静かに小さく洞窟の壁へと響き、そして、小さく反響して消えていった。
ユッケとバハムートが再会した頃、
あの男が動き出そうとしていた。
次回、「アグニスという男」
青年よ、世界の非情な仕組みを知れ!(千葉繁さん風)