アースカンドの方でも動きがあった。
その動きの渦中に居るのはもちろんあの男だった。
「とまれッ!何者だッ!」
道を歩いてきた一団にそう言いながら一人の兵士が銃を構えながら叫んで命令した。
兵士の後ろには見張り台が左右に一つずつあり、数人の兵士が下の兵士に合わせて、一団に同じように銃を構えている。その先に居るのはもちろんアグニス達だった。
アグニス達はユッケ達の元を離れて、ロッテント少将のキャンプ地へと来ていた。アグニス達が来る前に部隊員を連絡で行かせていたのだが、敵地のど真ん中として、兵士の対応は当然のことだった。
「アポニス部隊隊長のアグニス大佐だ。ロッテント少将にお会いしたい。」
アグニスは両手を挙げて、無抵抗を示し、名乗りを上げて要求を簡潔に相手に伝える。
アポニスにとって、同じ軍だからといって信用できる相手がどうかは分からない。どこにゴコーレやフォッカの息のかかった者が居るか分からない。メラーニはアグニスと一緒に両手を挙げて無抵抗の意志を示しているが、いつでも大佐の盾になれるような位置取りはしていた。メラーニだけでなく、周りの兵士達も同じ思いで自分達の立ち位置をお互い示し合わせるように動いていた。
「そのままゆっくりと近付いて来いっ!」
銃を構えた兵士が次の命令をアグニス達に伝える。
「了解したっ!」
アグニスは叫んで答えた。
銃を構えた兵士まで5mほどまで近付いた時だった。キャンプ地の中から一人の兵士を先頭に6人ぐらいの集団がアグニス達の方へと近付いてきた。
「お待ちしてました、大佐。手荒な歓迎を許して下さいっ。」
集団の先頭に立っていた兵士がアグニスにそう声を掛けて、敬礼をした。
周りの兵士達もそれに合わせて、銃を下げて敬礼をした。
「いえ、適切な対応です。ロッテント少将の教育がちゃんとしているのが分かります。」
アグニスは敬礼をして、そう返答した。
「さぁ、こちらへ。ロッテント少将とベロニキ中将がお待ちしています。」
さっきまでの対応とはうって変わって、丁寧な歓迎を受けるアグニス達。
アグニス達は案内されるがままキャンプ地の中に入り、奥の方に立っている少し周りより立派なテントの中に案内された。
「・・・来たか、アグニス君。」
テントの中に入るとそこには身体はガッシリとして姿勢は良いが、どことなく優しさがあふれ出ている初老の男性が立っており、アグニス達を出迎えてくれた。
「ロッテント少将、お久しぶりです。」
アグニスは丁寧な敬礼をしてロッテントに挨拶をした。
「・・・変わらんな・・・。」
アグニスが声のする方を見ると、ロッテントの後方にあったソファーに杖を前に立て、両手を杖に置きながら座っている老人がこっちを睨みつけて言葉を発していた。老人は少し細身ではあるが、背筋はきちんと伸ばされており、眉間のしわが深く強調されていた。
「お久しぶりです、ベロニキ中将っ。」
再びきちんと敬礼をし直してベロニキに挨拶をするアグニス。
「ふん、うまくアサッシュを説得したようだな。」
何でもお見通しと言わんばかりのベロニキの目が光る。
「はははっ、さすがです中将。」
頭を掻きながらロッテントに案内されてベロニキのところまで歩くアグニス。
「今、前線は小さな小競り合いがあるが、こう着状態だ。君からの一報を受けて、少しずつ前線を下げているよ。」
ロッテントはそう言いながら別のソファーへと腰を下ろした。
「・・・私はここに皆さんを説得に来たのですが・・・その必要はなかったようですね。」
少し苦笑いをしてアグニスが立ったままロッテントを見て言う。
「まぁまぁ、掛けたまえ。」
「ハッ、失礼します。」
ロッテントの促しに素早く答えて、空いているソファーに腰を下ろすアグニス。
「・・・ワシらも組織の人間だ。上が動かねば、下された命令を気に食わんでも遂行せねばならん。しかし、上が正しく動いてくれれば、ワシらはそれに喜んで従うまで・・・。」
アグニスの目をジッと見据えてベロニキが言う。
「・・・なんとも無駄な事で多くの兵士の家族の悲しみを増やしてしまった。哀れな事だ。」
下に目線を向けて、虚空を見つめながらロッテントが呟く。
「ベロニキ中将の所は大丈夫だったのですか?」
アグニスが真一文字に口をつぐんでいたベロニキに尋ねた。
「確かに思った以上の犠牲は出てしまったが、命令を遂行しつつ、できる限り人命優先に動いたからな・・・お前がもう少し遅ければ、もっと被害が出たかもしれん。」
ベロニキはそう話すと静かに口角を小さく上げてアグニスを見た。
「君の根回しが手間取ったみたいだったね。それとも、向こうの方が上手だったのかい?」
優しい微笑でロッテントがアグニスに尋ねる。
「・・・正直、上手でした。ゴコーレ中将の後ろに居るのは化け物です。」
アグニスは両手を組んで力を込めた。
「・・・ハディと言ったか、あのミッドガルド人は?」
ベロニキの目が再び鋭く光った。
「はい、恐ろしい男です。どこまで考えているか、底が知れません。我々は早々に事態を治めて、奴に備える必要があると思います。」
アグニスはそう言ってベロニキの目を真っ直ぐ見た。
「・・・君がそこまで言うなら、そうなんだろうね。」
ロッテントも真剣な眼差しをして、アグニスを見た。
「・・・あの古狸め、昔から余計なことしかせんっ。」
ベロニキはそう言うと身体をソファーに預けた。
「何はともあれ、ミッドガルド人との和解は出来そうなんだろ?」
ロッテントがニコリと笑ってアグニスに尋ねる。
「・・・えぇ、根回しには手間取いましたが、彼に会えたのは怪我の功名でした。」
アグニスは初めてロッテントに笑顔で返答した。
「ほほぅ、君がそんな顔をするのはメラーニ君以来だね。」
ニコニコしながらアグニスを見るロッテント。
「・・・その人物は、よほどの奴なのか?」
興味津々でアグニスの目を覗き込むベロニキ。
「えぇ、ヒロヨシ博士のご子息で・・・我々の希望ですっ。」
アグニスは自信満々にベロニキにそう笑って返答した。
アグニスが順調に事を成す中、
アグニスと対極に位置する男がいた。
ユッケと言う存在が認知されぬまま、その男を悩ませていた。
次回、「思わぬ誤算」
青年よ、敵を出し抜き、味方を救え!(千葉繁さん風)