それを止めようとその身を投げ出したユッケだったが?
その結末からどれくらいの時が立っただろうか?
結論から言うと何秒の世界だった。
ミナのクリスタルが砕け散り、ユッケがアルテマウェポンを構えて立ったままの状態で止まっている世界。周りの人間はユッケの次の行動に固唾を飲んでいた。
〔カシャンッ・・・ドサッ〕
ユッケの手からアルテマウェポンが地面に滑り落ちた。それと同時にユッケが倒れ込む。倒れ込んだユッケの身体から黒煙が立ち上っていた。
「ユッケッ!?」
一目散に動いたのは流石にシヴァだった。
「・・・ここ・・・は・・・っ・・・。」
ミナは白い空の下、柔らかな花の匂いがたち込める花畑の上で仰向けになった状態で目を覚ました。最初に目に飛び込んできたのは白いのにどこか淡く光り輝く空だった。
「・・・ッ?!私はっ!」
ミナはハッと意識をハッキリさせて上体を起こす。
「・・・・・・っ?!」
ミナは周囲を見渡して、自分の置かれた状況を整理しようとした。
そして、周囲を見渡すとそこには・・・。
少し離れた所で空を見上げるユッケの姿が目に入った。
「・・・ユッケッ!」
ミナは目に入ったユッケに大きな声で呼びかけた。
「・・・・・・。」
ユッケはゆっくりとミナの方に目を向けるとニコリと微笑む。
「・・・えっ?・・・何よ・・・どうしたの?・・・気持ち悪いわね・・・。」
ミナはユッケが何も言わずに自分に微笑みかけるのに違和感を持った。
「・・・・・・。」
ミナの悪態にも微笑んだまま、ジッとミナを見つめるだけのユッケ。
「・・・ちょっとっ!・・・何か言いなさいよっ!」
苛立つミナは立ち上がり、語気を強めてユッケに少し近付く。
「・・・・・・。」
それでもユッケは微笑んだまま何も言わなかった。
「・・・ちょっと・・・何とか言いなさいよ・・・・・・私、あの祭りの後から何も覚えてないのよ・・・ハディに再会できたと思ったら、そこから記憶が無くて・・・。」
ミナは黙って微笑むユッケに今までの事を話した。
「・・・・・・。」
ミナの必死の訴えにも変わらず、黙って微笑むだけのユッケ。
「・・・あんた・・・いいかげんにっ。」
ミナはじれったいユッケに業を煮やして拳を握り締める。
その時だった。
「・・・ちょっ?!」
ミナは黙って、ミナから背を向けて歩き出すユッケに驚いて声を漏らす。
「・・・・・・。」
ユッケは黙って歩いていく。
「ちょっと待ちなさいよ!どこに行くの!?」
ミナは慌ててユッケを追いかけようとする。
「えっ?!」
ミナはユッケを追いかけようとするが、いくら走ってもユッケに追いつかない自分に驚く。
「・・・・・・・。」
ユッケはそんなミナの方を一切振り返らず、黙って白いモヤがたち込める世界へと姿を消して行く。
「・・・ちょっと待ちなさい!」
ミナはそう叫んでユッケに手を伸ばすが・・・。
そこはあの花畑ではなく、どこかの平原だった。
いや、元々はアースカンド軍によって森の中に作られた少し舗装された道だった場所だが、ユッケ達とミナの戦いにより様変わりしたのだ。
「・・・・・・・・・・・・えっ・・・。」
今までいた自分の場所との違いに困惑するミナだった。
が、周囲を見渡して発見したユッケの姿に言葉を失ってしまった。
「死なせない・・・ユッケは死なせない・・・。」
「シヴァ様、どうしてしまったのですか?!」
「シヴァ様、もうお止め下さいっ。」
「・・・シヴァ様・・・うぅっ・・・。」
ミナの目に飛び込んできたのは、氷付けにされ、氷柱の中に居るユッケだった。
氷柱にシヴァが抱きつき必死にうわ言の様に言葉を繰り返している。
その周りで、ティアとレオンがシヴァの行いを改めるように説得している。
ミューレは未だ現実が受け止められずに戸惑っているようだった。
「・・・・・・バハムート様・・・・・・。」
未だに整理がつかないミナがさらに周囲を見渡すと、ミナ達を見下ろすようにバハムートが少し離れた所で黙って佇んでいた。
「・・・・・・アルテマの巫女よ・・・正気を取り戻したようだな。」
バハムートがミナに気付き、言葉をかける。
「アルテマの巫女殿、無事で何よりじゃ・・・。」
「えっ?!・・・ラムウ様!?」
バハムートに目を奪われていたミナだったが、少し目を下げるとそこにはラムウの姿が目に入った。
ラムウは優しい微笑でミナを歓迎している。
その姿に驚きを隠せないミナ。
「・・・ミナッ!?」
「キャッ?!」
ティアもミナが目覚めた事に気付いて急いで駆け寄って抱きついてきた。それに驚くミナ。
「・・・・・・よかったですな・・・ミナ殿・・・。」
レオンもミナに気付いて、声を掛けてくれたが、いつもの笑顔にしては弱々しかった。
「・・・ミッ・・・ミナさん・・・よかった・・・。」
ミューレもミナに声をかけて言葉を振り絞る。大粒の涙で喜びを表現していた。
「・・・だめよ・・・死なせない・・・絶対に死なせない・・・。」
ティア達とはうって変わって、シヴァはずっと氷柱に抱きついたまま呟いていた。
シヴァの焦点は定まっておらず、正気なようには思えなかった。
そして、一番異様な風景。
「・・・ねぇ・・・何してるの、ユッケ?・・・・・・。」
ミナは未だ混乱する中で、独り言のように言葉を発して尋ねた。
「・・・・・・。」
シヴァ以外の誰もがミナの問いに沈黙で返した。
「・・・ユッケは・・・貴方を助けたのよ・・・でも、大丈夫・・・すぐ生き返るから・・・。」
焦点の定まっていないシヴァがミナの方は見ずにそう弱々しく呟く。
「・・・いき・・・かえる・・・って・・・。」
ミナは益々状況が掴めなくなっていた。
「・・・ユッケは闇の民に操られたお前を助ける為にその身を犠牲にしたのだ。」
痺れを切らしたバハムートが事の顛末を説明しだす。
「お前は闇の民に擬似クリスタルで操られて、今まで我々と戦っていたのだ。ユッケはお前を傷付けずに助ける為に己の命を犠牲にして、お前を見事救って見せた。勇敢なる戦士・・・いや、こういう者を勇者と称えるのだろう。」
バハムートは淡々と話す。
「・・・何言ってるのバハムート・・・過去形はやめて・・・ユッケは大丈夫だから・・・。」
シヴァはバハムートに反論するが氷柱に抱きついたままバハムートを見ずに呟くだけだった。
「・・・・・・そんな・・・・・・。」
ミナはバハムートの言葉で全ての事が繋がり出した。
そして、あの異様な花畑でのユッケの様子も納得してしまった。
「・・・・・・いいかげんにしないか、シヴァよっ!」
いよいよバハムートは辛抱できずにシヴァに噛み付いた。
「・・・・・・。」
バハムートの声にまったく反応しないシヴァ。
「・・・ユッケは死んだのだ・・・アルテマの巫女を救って・・・死んだのだ。」
シヴァに届くように丁寧に言葉をツヅるバハムート。
「・・・死んでない・・・死ぬはず無いわ・・・ユッケは死なないっ!」
シヴァがバハムートの全てを否定するように言葉を荒げた。
「・・・ユッケ・・・。」
ミナはシヴァ達が言い争う中、氷柱の中で静かに眠るユッケを見ていた。
ユッケの死を受け入れる者、受け入れられない者
今まで一緒に戦ってきた仲間の中で
初めて絆に亀裂が入ろうとしていた。
次回、「命の理」
青年よ、命の平等とはなんなのか?(千葉しげるさん風)