しかし、シヴァは受け入れようとしない・・・。
その理由とは?
そして、森へと逃げたあの男がついに・・・。
その場にいるシヴァ以外の者はその戦士の死を受け入れようとしていた。
ミナもまた、それは受け入れなければならない現実だと思った。
「・・・ユッケは死なない・・・ユッケは生き返る・・・。」
シヴァは氷漬けのユッケを抱きながら、まだうわ言を続けている。
そこでミナは少し気になっていた。
シヴァは必死にうわ言を繰り返す中で、違和感的な言葉を続けている。
「ミューレ・・・レイズは試したの?」
ミナは率直な疑問をミューレに尋ねた。
「・・・はい・・・息も・・・心臓も動いてなかったですが・・・。」
ミューレは両手で自分の裾を力一杯握り締めながら言葉を搾り出して答えた。
「蘇生魔法 レイズ」
レイズを使えば、死のフチにある者も生き返らせることが出来る究極の回復魔法の一つだ。
万能ではなく、定まった運命を捻じ曲げる事は出来ないが、ある程度の無理を捻じ伏せる事が出来る魔法。
「・・・じゃぁ・・・なんで、シヴァ様は・・・。」
ミナは思い呟く・・・ユッケはレイズも試した状態。定まった死がユッケに訪れたのにも関わらず、シヴァがしきりに使う「ユッケは生き返る」というフレーズが頭から離れなくなってしまっていた。
「・・・シヴァ様・・・ユッケを生き返らせる方法があるの?」
ミナは恐る恐る命の理を覆す方法をシヴァに尋ねた。
「ならんっ!」
その時だった。バハムートが今まで一番の大きな声で割って入る。
「・・・・・・バハムート様も知っているのね・・・。」
バハムートの否定でミナは察してしまった。
そんな方法は無い。
ではなく、
その方法は使ってはならない。
「・・・・・・。」
失言をしたと気付いてバハムートは黙ってしまう。
「・・・シヴァ様、教えて・・・ユッケを生き返らせる方法・・・。」
ミナはシヴァに近付き、優しく声をかけて尋ねた。
「・・・・・・ユッケを生き返る・・・生き返らせる方法は・・・あるのよ・・・。」
しかし、ミナの問いかけも虚しく、要領を得ない返答だった。
「・・・バハムートよ・・・この青年の存在は大きい・・・反対するにしても選ばせようぞ・・・。」
方法を知っている者達の中で、ミナ達に答えをもたらす者が現れた。
ミッドガルド一の知恵者にして、今では科学にも精通する守護獣。
雷の守護獣ラムウだった。
「・・・・・・。」
ラムウの言葉にそっぽを向くも諦めを無言で伝えるバハムート。
「・・・アルテマの巫女よ・・・命の理を打ち破っても、その青年を助けたいか?」
ラムウが今まで見せた事の無い険しい表情でミナに問う。
「・・・・・・。」
ミナは事の重大さに即答出来ない。
「・・・命の理を破り、この世から人を助ける術を失ったとしても・・・ユッケを助けたいか?」
ラムウがさらに問いかける。
「・・・・・・どういう・・・こと・・・でしょうか?」
ミナはラムウに素直に尋ねた。
「・・・ユッケを助ける方法はある・・・しかし、それをしてしまうと、この世から蘇生魔法は消え、回復魔法も著しく弱くなり、最悪の場合、回復魔法さえも消えてしまうかもしれん・・・それでも、一人の命を助けたいか・・・・・・皆もどうじゃ・・・ユッケを助けたいか?」
「っ?!」
ラムウが淡々と表情を変えずにミナ達に説明する。
その言葉に衝撃を受けたのはミナだけではなかった。
「・・・・・・助けたい・・・方法があるなら、ユッケを取り戻したいっ。」
ラムウの話を聞いて、ミナはバハムートが反対する理由も分かったが、それでも心の奥底は変わらなかった。
思えば、これがミナが巫女として、バハムートの考えに初めて背いた形となった。
「・・・私も・・・助けたいです・・・。」
レオンはラムウの話を聞いても答えは変わらなかったようだ。
「・・・わっ・・・私も・・・。」
オドオドしながらも頑張って自分の意見を言うミューレ。
「・・・・・・私は・・・賛成できない・・・。」
ミナ達の中で一番長生きで年長者となるティアだけが反対した。
いつもなら、こういうことには誰よりも猪の一番に賛成するだろうティアに思えたが、誰よりも冷静沈着に考えたのかもしれない。
ティアは右手で左腕の服を力一杯握り締めて、苦悶の表情で反対した。
「・・・確かにユッケは凄い男の子よ・・・・・・だって、シヴァ様だけでなく、ラムウ様ともフュージョン出来るし・・・でも、正直言って、戦闘経験は乏しいし・・・この先も続く闇の民との戦いにケアルやレイズは必要よ!」
ティアは冷静にこれからの事を考えて、ユッケを天秤に乗せて判断している。
「これからの闘いはもっと激しくなるかもしれない・・・今まで以上にたくさんの人が傷付くわ!・・・その時に、レイズも・・・ケアルも無くなってたら、助けられる命を助けられないとしたら・・・悔しくてしょうがない・・・。」
ティアの言う事は最もだった。
この場の雰囲気だけで決めて良い事ではないと実感できるものだ。
〔ドガーーーンッ、ドゴゴーーンッ、ボボーーンッ!〕
ミナ達が考えあぐねていた時、ビッグブリッヂがある方向からけたたましい爆発音が鳴り響いた。
どうやら、ミナ達が戦っている間にミッドガルド軍が見事ビッグブリッヂを制圧したようだった。その祝砲とも言える爆発音がミナ達の所まで聞こえてきたようだ。
ミッドガルド軍の本隊がここに来るまでそう時間はかからないだろう。
「ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・。」
ある男が走っていた。
今まで、確かに楽な道はなかった。
中には泥水をすするようなこともあった。
しかし、男は走りぬいて、走り抜けて、いよいよ登り詰めようとしていた。
もうすぐそこまで、男の手の届くところまで来ていたのだ。
ただ男の目指す頂に差す輝く光を誰よりも強く浴びたくて・・・。
だが、今の男が望むのは頂でも、光でもなかった。
ほんの小さな道のほころびにつまずいて、男は今、谷底にいた。
(なんだというのだ・・・この私がなぜ、このような事に・・・。)
フォッカは必死に走っている。
この世のものとは思えない飛行する怪物に襲われ、今まで築き上げてきたモノが一瞬で破壊されようとしている。そんなフォッカの望むモノは唯一つ。
(助かりたい!)
ただ、助かりたい。
命を繋げて、また来るであろうチャンスを待ちたい。
それだけだった。
「フォッ・・・フォッカ様・・・お待ち下さい・・・。」
フォッカと一緒に逃げていたたった一人の部下がフォッカに懇願する。
「ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・。」
フォッカは答えず、振り返りもせず、ただただ走っていた。
フォッカも流石軍人の端くれで、基礎体力は一般人よりもあった。
小柄でとても戦えるような人間には見えないフォッカだったが、いざという時のために備えはちゃんとしていた。そして、そのいざという時が今なのだ。
「フォッカ将軍ッ!フォッカ将軍閣下ッ!!」
「っ?!」
フォッカが森の中をただ走り抜ける中、フォッカの望んでいたものがあった。
軍の助けだ。
フォッカ達が走る前方から少し遠目ではあるが、軍服を着た軍の関係者が自分を呼ぶ声が聞こえた。
(しめた・・・やっと援軍が来たか・・・おのれ、だいぶ待たせおって・・・。)
援軍の存在にフォッカは安堵して、思わず気が緩み、笑みが自然とこぼれた。
「将軍っ!こちらですっ!!」
前方で手を振る軍人が大きな声で先導する。
しかし、フォッカはその時、思った。
(・・・なぜ、わかった・・・。)
これはフォッカがもっている最大の武器とも言える「危機回避能力」が発動した瞬間だった。
考えてみれば、フォッカが逃げるのは伝えていたが、どの方向に逃げるかは分からない。伝えていた方向は怪物によって塞がれて、慌てて森の中に姿を消したのだ。そして、今も闇雲に走って逃げていた。それなのに、なぜ、前方の軍人は自分を認識しているのか?
「・・・・・・まて・・・・・・。」
フォッカは慌てて立ち止まって、後ろからついて来ているであろう部下に手を小さく上げて指示した。
「ハァッハァッハァッ・・・どうか・・・なさいましたか・・・閣下・・・。」
必死でついてきていた部下は息も絶え絶えで両膝に両手をつきながらフォッカに尋ねた。
〔ススンッ〕
フォッカ達が立ち止まって、様子を伺おうとした瞬間だった。
「うっ・・・・・・。」
さっきまで息も絶え絶えだった部下が前のめりに倒れた。
フォッカがその様子を見てみると頭と背中に銃弾を受けて絶命していた。
〔ススススンッ〕
何かが自分に向かってくる風を切る音がした。
「・・・なぜ・・・こっ。」
フォッカがこの世に残した最後の言葉だった。
前方から頭に一発と胸に一発。背中に後ろから二発。
フォッカは的確な銃弾を受けるとヒザから崩れ落ちて静かに地面に倒れた。
「任務完了・・・後の処理は任せた」
前方で手を振っていた軍人がそう静かに無線機で誰かに伝えて、森の中へと消えていった。
ユッケの復活について意見が分かれる一同。
その重苦しい空気をさらに重くするように
バハムートがこれからの未来に続く衝撃の過去を口にする
次回、「バハムートからの警告」
青年よ、今も昔も変わらないのは人間の愚かさか?(千葉しげるさん風)