Dear Hibari Kyouya   作:瑠威

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題名詐欺にならないよう気をつけたいけど自信はない。意図はあるとだけ言っておきます。


第1話

 

 寝て目覚めたら知らないところだった、という体験はこれで何度目だろうか。最早数えられないぐらいには経験しているつもりである。常人ならそんなこと無いのだろうが、残念なことに私にはよくあるのだ。そして今回も──どうやら“それ”らしい。

 

 はあ、と重いため息をつきながら私は眉間を揉んだ。最早これは慣れた作業である。とりあえず、私の現状を知りどう立ち回っていくかを考えなくてはいけない。何故こうなったんだろうと頭を痛めた。

 

 私が初めてこの体験をしたのは14年前のことである。14年前の私は日本で普通にOLをしていた。大して多くない賃金で働き、華金と呼ばれる日に残業はザラ、ブラック一歩手前のような会社で働いていた。そんな日のとある1日。特別何も可笑しいことはしていなかったハズだ。しかし、その日はやけに運が良かったようにも思える。華金の日に定時で帰れたし、珍しく帰りの電車は満員ではなく席に座れた。駅でご飯処の割引クーポン券も貰えたし、家の前では機嫌の良かった大家さんからリンゴをたくさん貰った。

 家に帰り、疲れ果ていた私はお風呂よりも寝ることを優先した。世間の皆様は大抵お休みであろう土曜日に仕事はあいも変わらずあるからである。しかもその仕事も朝の7時に始まり夜の11時に終わるブラックぶり。そのことを考えるとスーツからパジャマに着替えることも億劫に感じた私は、ベッドで泥のように眠った。そして次の瞬間…赤ん坊になっていたのだ。家に着いて寝るまでの約数分に一体何があったのだろう。おぎゃーおぎゃーと泣き続ける私は遠い目をした。

 

 こうして何故か赤ん坊へと生まれ変わった私だが、そこからまた波乱万丈な生活を送ることになる。生まれ変わったのか転生なのかは分からないが、第2の人生を歩み始めた私は物心つく前から母の記憶はなく、父と2人での生活をしていた。母が居なくて寂しいと感じたことはあるけれど、それ以上に恐怖が勝った。何故かって? 2人家族であるその父がかなりイカれていたからである。どれぐらいイカれていたのかと言うと、齢5歳の娘を全く知らない大人達がいる場所に何の説明もなしに「生きてたらまた会おう」的な事を言って私1人置いていったのだ。まるでそれが当たり前だと言わんばかりの彼の背は今でも脳裏に焼き付いている。急に置いて行かれた私も、急に私を押し付けられた父の知り合いであろう彼らも酷く狼狽えたものだ。

 

 そして数年後、ようやく今の生活に慣れたかと思ったらふらりと父は戻ってきて──また知らない場所へ置いていかれた。その場所は戦場だったり、全く見知らぬ人達の家だったり、よく分からないパーティー会場だったり。多様すぎて何度私は死にかけたことだろう。おかげで私の戦闘能力は格段に上がった。フリーザ様と互角に渡り合えるぐらいには強くなったと自負している。

 

 兎に角、またこの世に生まれ落ちたあの1回目を除いてこのような現象の殆どは父が関与していた。さて、今回も父が関与しているのだろうか。うむ、と頭を悩ませる。

 ──私と父の関係性は普通の家庭とは違ってかなり薄いものだった。父とは呼ぶものの、会話なんて殆どしたことがない。父の好きな食べ物も知らないし、父の嫌いなものも知らない。赤の他人と何ら変わりなかった。それくらいの関係性である。それに、目を覚ますまで私は私に分け与えられた仕事をしていた。それは長期の任務で上から手配されたホテルにいたはずだ。そんな所にわざわざ父が来るだろうか? 仕事の途中である私を連れて? きっとそれは否である。父はそこまでして私に価値を見出していない。では、この現象は一体なんなのか。奇襲か? 職業柄、奇襲をかけられても可笑しくは無い。なんならその可能性が1番高い…

 

 ──馬鹿だね

 

 声が、聞こえた。クスクスと嘲笑うように、それでいて優しさのこもった声だった。誰だ? と辺りを見渡すが人気は可笑しいぐらいに一切無かった。この声は近くで話しかけられたのではなく、まるで頭に直接語りかけてきているような声だった。

 

 それ以降は声が聞こえるわけでもなく、もう考えることを放棄した私は現状把握に努めることに切り替えた。

 

 …辺りを見渡せばどうやらここはどこかの公園のようだった。ここに来る前は──確実にイタリアの再端にいたはず。明らかな日本家屋が並ぶこの場所は確実にイタリアではないのだろう。やばい、頭痛くなってきた。周りを見渡せどイタリアのイの字も見えなく、私が寝ていたのはどうやら公園のベンチだったようだ。どう見ても、どうひいき目に見てもここは懐かしき日本である。

 

 私の手持ちは──残念なことに身一つだった。そもそもここに来る前は普通にイタリアで寝ていたのだから仕方ない。まあ何故か寝巻きではなく黒のパーカーにジーンズというラフな格好になっているのはこの際、何も言わない。ポケットとかに何か入ってないかなと漁ってみれば、黒いカードが出てきただけだった。…まさか、ここで本来の私が反映されているとは思わなかった。私は職場の先輩の影響ですっかりと財布を持ち歩かなくなってしまった。黒い魔法のカード一つで出歩くようになったのがまさかここで仇になるとは…。結局、黒い魔法のカードしか出てこなかったので身体検査は諦めた。ええ、これどうするの…。この言葉は声にならず、代わりにため息が出た。

 

 

 ◇

 

 どうやらここに私の戸籍は無いらしい。いや、ここでは無く「この世界に」と言った方が正しいのか。色々と調べて分かったことだが、どうやらここは「20年前」の世界のようだ。ええ…20年前ってなに? 世の中には10年バズーカーと言って10年後の自分と今の自分を5分間だけ交代出来る代物があると聞いたことがあるが、20年バズーカーは聞いたことがない。それも未来の自分ではなく、過去の自分と入れ替えられている。つか、20年前は私まだ生まれてすらいないんですがそれ如何に。

 

 私はパソコンから目を離し、机に顔を伏せる。今はネカフェで何とかなっているけれどきっと長くは持たないだろう。そもそも、今の私は中々にいい生活をしていたせいでこのネカフェの空間が落ち着かない。とりあえずは戸籍を作って家を借りなくてはいけない。はあ、と何度目か分からないため息が漏れる。…良かった。自分に何があるか分からないからとその手の裏回しの仕方を教えて貰っていて。私の働いている職場に一人、面倒見のいい先輩がいた。その先輩は私の師匠が教え逃した常識を拾っては呆れたように教えてくれた。怒るとすぐに手が出てしまうのは難点だったが、彼の言う「気づいたら巻き込まれてる、なんてことはザラだ」のおかげで私はこうして生きていけている。本当に全く彼の言う通りだった。教えてもらったその当時は、絶対に使わないと自負していたのに今ではあっさり手のひら返しだ。元の時代に戻ったら彼にお礼を言おう。ついでに何か奢ってあげようとも思う。

 

 とりあえず、今日はネカフェで一夜を過ごそう。本格的な始動は明日から。戸籍の偽造に家の手配、この時代の重要なことについて調べることも、全て明日に回そう。明日から忙しいぞ…と遠目をしながら私は眠りについた。

 

 

 

 ◇

 

 小さな違和感は次第に大きな違和感へと変貌して行った。目を開ければ、その空間は小さなネカフェの一室では無く、広い草原にポツンとアンティークの机と椅子が並べられていた。高級そうでいて、少し古びたその椅子に悠々と座っている1人の男性。彼はチラリと私の存在を認識すると文句を言うでもなく一口、紅茶らしき液体を口に含んだ。

 

 

「突っ立ってないで座れば?」

 

 

 彼は不思議そうに言った。一脚しかなかった椅子は彼が瞬きすると同時に彼の向かいにまた一脚増えた。そこに座れと言わんばかりに薄く引かれた椅子を見て私は大人しく彼の言うことに従った。

 

 

「まあ、分かってはいるだろうけどここは精神世界だよ。それも僕のね」

 

 

 精神世界。話には聞いたことがある。よく、この世界のことについて教えてくれた師匠が愚痴と共に教えてくれた。精神世界の主に反映されるらしいこの場所は、目の前の彼を反映しているのだろうか。この場所は酷く長閑で静かな場所だった。

 

 

「色々と僕にも制約があってね。あまり長く話してはいられないから手短に話すけど」

「えっと、はあ」

「キミのいる場所は20年前。今14歳のキミはもちろん生まれていない。だからキミが未来人だってバレるとまあキミの未来が危ういんだけど…そこはキミの生き方次第だから僕からは何も言わないよ」

 

 

 あーさいですかー…っていやいやいやいや!! 聞き捨てならないことが聞こえた!! 私の未来危うい言われてるやん!? え、何!? 本当に私は一体何に巻き込まれたんだ!?

 

 

「僕からキミに言えることは少ない。キミが所持しているリングにチェーンをかけた方がいいとか、沢田綱吉の元にいることをオススメするとかそれぐらいかな」

「さわだ、つなよし…」

「どうせなら同じ中学校に通えばいいんじゃない? あの子が通ってるのは確か…並盛中って言ったっけ? 子供は青春するものらしいからね。別に学校ぐらい通ってもいいと思うんだけど」

 

 

 そう言って彼は茶菓子として置いていたであろうまんじゅうに手をつけた。実に綺麗な食べ方だ。塵ひとつ落としていない。

 

 

「後は…ああ、そうだ。これを1番に伝えなくちゃいけないね」

 

 

 彼は整った顔を上下に動かした。楽しそうな顔と長閑な背景にそこに有るのが当然と言わんばかりのアンティークが絵になる。これを写真で撮ったら高値で売れるのではないのだろうかと錯覚するほど綺麗だった。

 

 

「キミの苗字。キミの苗字を持つ者…まあつまるところキミの父親なんだけど、アイツはここでは力があり過ぎる。同じ姓を名乗るのは得策じゃない。下手すればキミがアイツの娘だってバレる可能性だってあるからね。そうだな…キミの姓は出雲(いずも)と名乗ればいいよ。名は別に紫苑(しおん)のままで大丈夫。どうせキミはこの時代に生まれていないわけだから、最後まで気づかれなかったらいいわけだし」

 

 

 何故、彼は私の名を知っているのだろう。それに私の父についても知っているようだ。…私は彼の名すら知らないというのになんかズルい。少しぐらい私にも教えてくれたらいいのに。そんな私の思いを悟ったのか彼はクスクスと笑った。

 

 

「僕はずっとキミを見ていたから知っているよ。キミの父親は…まあ、つまるところ縁があったのさ。キミ以上にね。ああ、名前よりもこっちの方が重要かも。キミの持っている2つのリングのうち…1つは誰にも見つかってはいけない。君が持っていることを知られてもいけない。確実に殺されるからね」

「…ああ、何となく想像は」

「未来でさえそのリングのせいでキミは殺されかけているからわかってるとは思うけど。キミは知らないだろうけど意外とそのリングは凄いものでね」

「…それも、はい。説明受けてます」

 

 

 2つのリング。1つは私の師匠から貰ったものである。こちらも中々の曰く付きらしく、怖いので使った経験は片手程である。そしてもう1つ…これが先程のリングとは更に別次元の曰く付きリングであり、このリングは父から貰った唯一のものだった。父と初めて別で暮らすことになったあの日、父はこのリングを私に投げ捨てて「多分それが助けてくれるから」と言い捨てた。しかし、現実は非道で幾ら私が死にかけてもこのリングは助けてくれることはなかった。何なら「そのリングは…!?」と命を狙われることもあったし、職場の先輩方にも「なんでお前がそれ持ってんの!?」と直ちに返却しろと私に言ってきた。ちなみに返却しようにも、父と会える機会なんてそれこそ父が私の前に姿を現してくれた時しかなかったし、運良く会えても受け取ってくれなかった。一度、見かねた師匠が私の代わりに父の元へ届けようとしてくれたが、本気で殺されそうだったからと尻尾巻いて逃げてきた。というか、師匠の話では何回か死んだらしい。分かりやすく言うと確実に私は父に嫌われているということだ。

 

 

「…まあ、なんだ。楽しめばいいんだよ」

「へ?」

「別にキミをいじめたいわけじゃないんだ。ただ、楽しく生きて欲しい。僕が言ってもキミは信じないだろうから言わないけれど、それでも」

 

 

 凛とした彼の顔はどこかで見たことのある表情だった。どこで見たのだろうと頭を悩ませるが残念なことに思い出せない。

 

 

「キミは父親に嫌われてないよ」

 

 

 やはり彼は私の心が読めるのだろうか? キョトンとした私の顔を見て彼はクスクスと愛おしそうに笑う。

 

 

「質問、受けるけど何かある?」

 

 

 ここまで一方的に喋り続けていた彼だがどうやら質問は受け付けてくれるらしい。しかし、すぐに「答えられることは少ないけどね」とつけられた。どうやら全てを答えてくれるわけでは無いようだ。

 

 

「名前。あなたの名前は?」

「へえ。どうして過去に来たのか、とか帰る方法じゃなくて僕の名前を聞くの」

 

 

 ふーんと彼は興味深そうに私をジロジロと観察し始めた。なんだか、急に居心地が悪くなった。

 

 

「教えてあげたいけど残念。僕からの口じゃ言えないね。それこそ本当に怒られる」

「怒られる?」

「そう。僕は見逃して貰ってる立場だから何も出来ないんだよ。見てるだけ」

「えっと、話が……」

「まあ、死なないように頑張ってよ。これぐらいかな言えることは」

 

 

 言いたいことをまたしても一方的に言った彼は満足気に「じゃあ、ばいばい」と彼は流れる動作で手を振りそう言った。何も理解出来ていない私は瞬きを一つする。するとその一瞬で幻想世界は無くなってしまった。

 

 

 ◇

 

 師匠がよく「寝ている間に精神世界に行くと寝た気にならないからやめて欲しい」と愚痴を漏らしていたけれど、まさかそれを実感するとは思わなかった。

 目を覚ませばまるで二日酔いの如く重苦しい身体に、私は隠すことなくため息をついた。きっとこの身体の重さの理由なんて簡単なのだ。一言で言うとストレス以外にないのだろう。のそのそと起き上がると、軽く伸びをしてネカフェから出る支度を始める。流石に長時間寝ることはできなかったし、ネカフェという狭苦しい空間、すぐ隣には人の気配がするというもう慣れなくて背筋がゾワゾワする感覚、最後に全く寝た気になれなかったこの身体。もう、やだ本当にやってられない。

 

 ネカフェのお支払いは黒い魔法のカードでお支払いした…と言いたいところだけれど、20年後に有効活用されているこのカードが使えるはずも無く、私はちょいとした裏技でやりきった。きっと師匠が今の私を見ると呆れた顔をするに違いない。…ひとまず言い訳だけでもさせて欲しい。切実に!

 

 ネカフェを出た私は普段よりも忙しさにかまけたと思う。不信がられない戸籍を作って、精神世界で言われた『沢田綱吉』について、ついでにその関わりがあるものまで全て調べ尽くした。

 正直に言うと私は『沢田綱吉』についてそこそこ知っていた。何なら両手で数えられるほどではあるが会ったこともある。そしてよく、私の職場の先輩が『沢田綱吉』の愚痴を零すこともあった。しかし、未来の彼と今の彼では大きく異なるらしい。何をやってもダメダメなダメツナと呼ばれているらしく、運動もダメ、勉強もダメ、いい所を探す方が逆に難しいとさえ言われるような少年なんだとか。えー、これ嘘情報掴まれてる?と疑ったが、幾ら探せど情報は同じものしか出てこなかった。

 

 こうなれば一目見てみるしかないな、と思った。たまたま運良く人柄のいいおばあちゃんから中々の家を買い取った私は、明日は彼が通っているらしい並盛中に言ってみようと思った。

 

 

 

 まだ家具も揃っていない部屋で目覚めて、朝食もそこそこに今日のスケジュールを決める。今日は並盛中に行く予定だ。並盛中、名前は知っている。けれど、中学校と聞くと中々に懐かしいものである。最早、前世の私が通ったその記憶を覚えていなかった。今世での伝聞とそんなものがあったような気がする〜という微妙な懐かしさだけが私の心に渦巻くのだ。どうせなら彼の言う通り通ってみてもいいのかもしれない。私の周りでは色々と予想外のことが起きすぎて学校すらマトモに通えていなかったから、少しだけではあるが興味があるのだ。それに未来では裏社会のトップとも言われるボンゴレの首領(ドン)が同い年としているのだから経験しておかないなんてそれこそ勿体ないような気がする。

 

 そうと決まれば!と意気揚々に私はまた裏工作を始めた。色々と偽造の書類をでっち上げ、数時間で容易く私は並盛中に通うことが決定した。トントン拍子に話が進んでいくものだから思わず神に祈りを捧げてしまった。私に生きる術を教えてくれた職場の先輩に感謝。マジでありがとう。少なくとも私の父よりも役に立ってます。

 

 色々と熱中しすぎていたせいで時刻は15時を指していた。お昼ご飯も食べていないし、適当に外で食べてこよう。自分で作るのはあまり得意ではないが「女の子なんだから料理ぐらい出来てなきゃダメ」と多少ではあるが教えこまれていた。家庭料理ぐらいなら難なく作れるけれど、好んで作りたいと言うほど料理は好きではなかった。

 

 そうだ、ご飯を食べる前に並盛中に言ってみよう。そもそも、今日の目的はそれだった。よし!と変に意気込んで──一瞬で帰りたくなった。やはり私はつくづくツイていない。というか今日一日、それこそ呪われているのではないかと不安を覚えるほどここまでいい流れで進んでいたのだから、そこに疑問を持たなければいけなかった。だって私がこの世に生まれ落ちる前もやけに運が良かったのだ。そう、人生とは波である。いいことが起きたのなら、それ相応に悪いことも起きる。そして、私は出会った。出会ってしまったのだ。彼に。

 

 

「逢うのはこれで5回目かな」

 

 

 

 獰猛な瞳とは釣り合わなくコテンと首を傾げている彼の名は雲雀恭弥という。この並盛の絶対的な秩序であり、麗しい外見とは裏腹に凶暴な性格を持つ男である。

 

 私は彼のことについて知っていた。というか、先程も言った通り『沢田綱吉』に関する人間は徹底的に調べ尽くしていたし、抜かりはないのだが、それ故に私は恐れていたのだ。沢田綱吉に関する人物の中で死神と称されるアルコバレーノ リボーンの次に警戒しなくてはいけない相手。そんな彼とどうやら私は縁があったらしく…今日、お昼ご飯兼夕ご飯を探し求め家を出、並盛を散策して彼に会うのは実に5度目のことだった。名無。

 

 1回目は並盛中学校で。門の外から校舎を眺めていると、校舎の方からこちらにやってくる雲雀恭弥が現れた。先に門の前に居たのは私だし、特別何も悪いことはしていないので、そのまま知らぬ存ぜぬを貫き通せば雲雀恭弥は嬉しそうに目を細めてどこかへ行った。

 2回目はコンビニの裏路地で出会った。私がコンビニから出てきて雲雀恭弥が裏路地から出てきた。正しくばったりである。数秒間の気まずい空気が流れ…私と雲雀恭弥は見なかったことにした。

 3回目は普通にすれ違った。私は家具屋の帰りで雲雀恭弥は知らない。怖かったので視線すら合わせることはしなかった。

 4回目は明日の朝食を調達を目的とした私と人助けをしている雲雀恭弥だった。スーパーから出てきた私と孫に間違われているらしい雲雀恭弥。しかもこれに関しては私が遠目で見ただけで多分あっちは気づいていないと思っていた。おばあちゃんに「あらあら、サクちゃん」と絡まれていて、雲雀恭弥は非常に煩わしそうにしていたけれど、ちゃんと話を聞いてあげていた。怖かったので普通に見なかったことにした。

 そして──今。5回目である。明日の朝食べようと思っていたサラダのドレッシングの買い忘れに気づいた私がまたコンビニに向かう所で出会ってしまった。知らないフリを決め込むつもりだったのに、あっちから話しかけられたので無視をする訳にもいかなかった。非常に怖い。主に4回目が私を震えあげさせる原因になっている。とにかく、こわい。

 

 

「きみ、名前は?」

「はい!?」

「だから、名前」

 

 

 まさか名前を聞かれるとは思わず変な裏返った声が出てしまった。きっとこれを師匠に聞かれていたら笑われた。…いや、笑われたのか? 師匠は多分、笑わないな…。

 

 

「なに。名前も言えない馬鹿なの」

「出雲紫苑と申します」

「出雲、紫苑…ね。ああ、明日来る転校生か」

 

 

 怖い。転校生把握してる、怖い。いや、確かに時期外れの転校だし把握されていても別にって感じなんだけど、手続き諸々したの今日よ? なんであなたが知ってるの??

 

 

「…きみってさ、強いの?」

「へ?」

「きみの気配が感じ取りにくいんだよね。気配を消すのが上手い証拠だ。強い証ってことだよね」

「え、いや、あの」

 

 

 強いも何も私は未来人で、父親の頭が可笑しかったので強くならざるを得なかったというか、なんというか…。少なくとも目の前にいる雲雀恭弥よりおったまげな攻撃が出来るとは思うけれど…。

 

 

「ワオ。避けるんだ」

「よ、避けないと死ぬ…!!」

 

 

 何もしてないのにトンファーで私の頭狙いに来た。え、なにこれ怖い。殺される…!! 私、何もしてないのに!!

 

 

「ここでは僕が秩序だよ」

 

 

 心まで読まれていた。逃げ場が無い!! …えー、これはどうしよう。戦うべきなのだろうか? しかしなあ、ここで雲雀恭弥を伸してしまっても後が怖い。じゃあもう一択だね!!

 

 

「逃げるが…勝ち!」

「へぇ…僕から逃げ切れると思ってるの?」

 

 

 生憎と私は逃げ切れる自信がある。未来人なめんなよ! こちとら何回殺されかけてるんだと思ってんだ!! 何度も何度も修羅場潜ってるんだよ!!

 

 

「…いない」

 

 

 こうして私はあの手この手で雲雀恭弥から逃げ切り、楽しみな学校生活に胸を踊らせその日は眠りについた。

 後日、並盛の制服がセーラー服であったことで学校に問い合わせてみたがうちあっては貰えなかった。まだ1日も通ってないが転校を所望する。





【出雲紫苑】
 父に振り回されている可哀想な乙女。しかし、攻撃力は高い方。殺しも厭わないヒットマン。
 容姿端麗でスレンダーボディ。彼女の恋人になりたい方は是非とも仕事場に連絡を。100%殺される。
 内心、ヒャッハーでも顔には出さない。というか修羅場潜りすぎて出ないようになった。本人は気づいていない。

【職場の先輩方】
 基本的に頭の可笑しい集団。攻撃力は高い。防御力も高い。常識は知らない人が沢山いる。残念な人達が多い。けれど紫苑からは運良く尊敬されている。

【謎の彼】
 多分金持ちのボンボン。イケメン。動作一つ一つが綺麗。気配を消せる達人。

【雲雀恭弥】
 並盛の秩序。怖い。兎に角怖い。平気で無実の人間にトンファーを振るう悪魔。死神。屍の上に立つことが好きらしい。後日、紫苑にセーラー服を贈った。
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