憎しみの形   作:沖野ミノン

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今回も、また細かいところに物語のキーが隠されています。

少し、段落わけを細かくしました。
(ほんの少しですけどw)

読みにくい等の感想があればお願いします。




ー1か月後ー

俺は、病院を背にし、歩き出した。

今日は、念願の退院日である。

幸い、足の傷は、膝関節が残っていたおかげで、(すね)の部分は、簡単な義足で済ませるとこができた。

膝関節が残っているのとないのとでは大きく違う。

もし関節がなかったら、屈伸運動が自力でできず、膝が曲がらず走ることが困難になるからだ。

刀で戦う井野にとっては致命傷になることになる。

リハビリを懸命に取り組んだ成果からか、今はもう義足歩行にも違和感を感じなくなった。

井野は、病院前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。

しかし、さすがに前のようにスムーズにはいかず、少々手こずってしまった。

なんとか車内に乗り込み、

運転手に、

「存霊対策局に。」

と一言告げると、タクシーはゆっくりと発進した。

井野は、携帯を開き時刻を確認した。

〝9:17〟

朝の陽ざしが窓越しに当たり、タクシーの揺れもちょうど良い。

だんだんと瞼が重くなり、ふとしたときには、眠ってしまっていた。

 

「お客さん。。。お客さん?」

運転手の声で、はっと目覚めた。

窓を見ると、見慣れた光景が広がっていた。

「着きましたよ。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

俺は、前に表示された料金を確認した。

〝5140円〟

結構かかるな。。。

多分、この経費くらい出してくれるだろう。

あとで天道室長に頼むことにしよう。

運転手に6000円を出した。

運転手はそれを静かに受け取り、お釣りの準備をしている。

すると突然、

「お客さん。最近、変な噂が流れているのは知っていますか?」

運転手がバックミラーでこちらを凝視しながら質問し、井野は少し驚いた。

「え?変な噂・・・?」

何か嫌な予感がする。

「まだ知らないんですか。。。」

少し運転手の顔がにやけている。

「今日まで入院していたもので。で、その噂ってなんですか!?」

前に身を乗りだして運転手に問い詰めた。

「いや、実はね。。。この存霊対策室の隊員の一部が、民間人を殺したって噂なんですけどね。。」

口に手を当てがいながら、小声で俺に言ってきた。

「え・・・・?」

その言葉を飲み込むまで少し時間がかかった。

この中にいる隊員が民間人を殺す・・・?

「あくまでも噂ですよ。あまり信じないでください。」

軽く笑い、運転手はお釣りを渡した。

タクシーの扉が開かれ、俺はタクシーを降りた。

一体どういうことなんだろうか。

歩道の右から来た自転車にも気づかず、思いっきりベルを鳴らされた。

「あぶねえだろ!」

40代くらいのおじさんに怒鳴られ、はっと我に返った。

「あ、すいませんっ」

慌ててお辞儀をした。

噂は所詮、噂だ。うかつに信じても厄介なことになるだけだ。

井野は、頭からその情報を振り払い、目の前にそびえたつ20階建ての存霊対策局にゆっくりと入って行った。。。

 

エレベーターに乗り、8階のボタンを押し、上昇した。

そしてエレベーターを降り、通路をひたすら左に進む。その突き当りが退治対策室になっている。

擦りガラスの扉には、〝退治対策室〟

と金色の文字で書かれていた。

ここに来るのも1か月ぶりだなぁ。

俺は、その重たい扉をゆっくりと開けた。

すると、みんなの視線が俺に集中した。

俺が気まずくしていると、

「よお~~。おかえりい~~」

橋本が大声で出迎えてくれた。

「あ、戻りました。なんか心配かけてすいませんでした。」

一応、みんなに謝っておく。

「気にすんなって。さあ、足もこんなだし、座って座って。」

橋本は俺のデスクに誘導した。

妙に橋本のテンションが高いのはきのうせいだろうか。。。

「よいしょっと。」

俺は椅子に深々と腰をかけた。

ふと周りを見ると、何かが変わっている。。。

何か、見慣れないというか、空気が違うというか。。。

あ、そうだ。前にいた人のほとんどが身に覚えのない人たちに変わっている。

数日しか会ってなかったとしても、自分の前や隣の人たちの顔くらいさすがに覚えている。

それが今では初めて会う人たちになっている。

「まさか。。。」

「すまない。井野。」

橋本が俺のところへ歩み寄ってきて、そう謝った。

「え、、、これって。。。」

だいたい検討はついていた。

「ああ。1か月前の()()でSH部隊は壊滅、AGUKI部隊も半分が重傷で退任、

 我々RYUJI部隊も1人を失った。でもうひとりは重傷でまだ入院中だ。」

「なんてことだ。。。」

処理班が一日で半分程度しかいなくなってしまったのか。。。

「あの場で援助していた支援の人も8人のうち2人が死んだ。」

「そんな。。。」

改めて聞かされる被害の大きさを知り、再び憎しみと悲しみがこみあげてくる。

橋本のテンションが高かった理由が分かった。

俺が戻ってきたことで、悲しみを紛らわすためにそう振る舞っていたのか。。。

俺は強く拳を握りしめた。

「で、今の編隊はどうなっているんですか?」

俺は力なく質問した。

「我々RYUJI部隊は欠如した2人を再び補充して5人編成。

 SH部隊の代わりに塚本毅(つかもとたけし)隊長率いるTAKE部隊を6人で再編成。

 AGUKI部隊は我々同様、欠如した3人を補充し、5人編成。計、今まで通りの16人だ。」

「塚本毅・・・」

どこかで聞いたような覚えがある。

「ああ、塚本は今まで情報統計室の指揮官をしていたそうだ。」

橋本は、すかさず補足する。

あ、そうだ!重要会議があるといつもあいつが前に立っていた。

「お前は知っているはずだろ?」

「ああ、はい。まあ、話したことはないですけど。。。」

「そうか、まあひとつよろしく頼む。」

橋本は肩をポンと叩いて、事務所から出て行った。

 

俺は、その塚本の顔を探してみる。

・・・いた。

俺の斜め右奥にいるのが奴だ。

相変わらず、机に足をのっけて、背もたれにどっぷりとメタボリックな体を任せている。

〝ったく、態度のでかい奴だ。。。〟

塚本を見ていると、その視線を感じたのか、塚本もこちらを睨んできた。

俺は慌てて視線を自分のデスクに戻した。

〝なんか空気が重いなあ〟

俺は少しバランスを崩しながらも椅子から立ち上がり、外の空気を吸いに部屋からでた。

 

外の休憩室に行くと、橋本が煙草をふかしていた。

すでに灰皿には数本の吸い殻が溜まっていた。

「お、また会ったな。」

にやけながらこっちを見てくる。

「そりゃ、同じ部署なんですから会うに決まってるでしょ。。。」

「まぁ、そう堅いことを言うなって。」

「煙草もほどほどにしてくださいよ?」

「分かってるって。これでも努力はしてるんだ。」

橋本はそう言い、吸い終わった煙草を灰皿に入れ、ベンチに腰をかけた。

俺もその隣に座る。

「それにしても秋の風は気持ちがいいなあ。」

「そうですね。日中なのにそこまで暑くもないですしね。」

空には薄い雲がかかっている。

俺は、この場所に来ると、嫌なことも忘れることができるような気がして、このテニスコート1面分くらいのテラスが好きだ。

すると、ふと思い出すことがあった。

「あ、隊長。なんか変な噂を聞いたんですが。。。」

それを聞くなり、橋本ははっとこちらを向いた。

「そのぉ。。。この対策局の隊員が、民間人に危害を加えたって、聞いたんですが、、、」

途切れ途切れに、橋本に伝えた。

橋本は少し黙っていたが、やがて口を開いた。

「ああ。本当だ。この局の〝軍事管理室〟という部署が、発砲した銃弾が誤って民間人に当たってしまったのだ。」

「そ、そうなんですか。。。」

俺は、橋本がすんなりと真実を話すのは予想外だった。

「幸い、その民間人は軽傷で済んで、被害者からも、この事件は丸く収めてくれるそうだ。」

「それは、良かったですね。」

「ああ。その撃った隊員は辞任した。全く、民間人に発砲したなんていう情報を聞いた時には驚いたよ。」

橋本は軽く笑って、よどんだ空気を誤魔化してくれた。

〝人騒がせな運転手野郎だな。。。〟

朝方の事を思い出し、苦笑した。

橋本は、立ち上がり、

「んじゃあ、先に戻ってるわー」

と、再び事務室へと向かっていった。

俺はその背中を見送った後、8階からの眺めを一望した。

8階というのはそこそこ高いもので、ある程度の外観を見渡すことができる。

俺は大きく深呼吸をした。

 

その直後!

〝ピカッ!〟

突如、数百メートル先の住宅街の路地裏から、とてつもない強い赤い光が目に差し込み、ぎゅっと目を瞑った。

「んな、なんだ??」

恐る恐る目を開けて、さっき光った場所へと目を向ける。

そこには、誰かが狭い通路を歩いているのが分かった。

 

その光とは・・・

 




気になるところで終わってしまいました(汗)

今までは、1日ごとの更新でしたが、
次話の更新は2,3日後になると思います。

今後もよろしくお願いします。

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