新世界のとある島にて。
その島の海軍基地へ続く道を、一組の男女が進んでいく。
「おおぅ、やべぇ規模だな。ひぃ、ふぅ、みぃ……ざっと一万はいるか? それに軍艦が四つもありやがる」
「そうねダーリン! でも大丈夫! ダーリンはマスターに実を貰ったし、私とダーリンが力を合わせれば無敵よ!」
「まぁ、そりゃそうだけどよぉ……」
溜め息を吐きながら頭を掻くのは、愛嬌を感じさせる童顔でありながらも精悍な肉体を持ち、腰に無骨な棍棒を携えた雄々しき大男。
その男の腕にしがみついてキャーキャーと黄色い声を上げるのは、グラマラスな肉体に煽情的な赤いドレスを纏った銀髪の美女。
二人の関係性を示す様に、互いの背には同じデザインで色違いの大弓を担いでいる。
大男は美女が掴んでいるのとは逆の腕に道中で仕留めた動物(加熱済み)を抱え、その肉を二人でつまみながら視線の先にある海軍基地を目指す。
二人の後ろには多くの大穴が開いた凸凹道と、あり得ない程に身体が拉げた海兵やゴロツキの死体が転がっていた。
「ふぅ、やっと着いたぜ」
「ダーリン、二十分も歩いてないわよ?」
「……ふんっ!」
美女に指摘され気まずくなった大男は、雰囲気を誤魔化す様に基地の門を殴り壊す。
破砕音が敷地中に響き渡り、当然と言えば当然だが基地内の海兵達が駆け付け二人を取り囲む。
「貴様等、カルデアの!?」
「間違いない! カルデアのオリオンとアルテミスだ!」
海兵達は剣や銃を構え、いつでも突撃できる体勢で控えている。そんな彼等の間を縫って、コートを羽織った海兵が走って来る。
その男を見て、オリオンと呼ばれた大男が口を開く。
「おいアンタ、ここの頭か?」
「そうだ! 私が准将の──」
ドパンッ!
ドゴォォォォン……!
言い切る前に。
いつの間にか弓を構えていたオリオンの放った矢が准将の身体を砕き、その後ろの兵達を抉って、さらに後ろの基地の壁を粉砕した。
「悪いがマスターの頼みでな。お前ら、ここで退場してもらうぞ」
そう言った途端、オリオンの身体は稲妻を纏いその姿を変えていった。
「キャー! ダーリンカッコイイ! ワイルドー!」
同刻、
海軍基地の敷地に突如現れた氷山の上で、二人の女性が眼下を見下ろしている。
一人は真冬に降り注ぐ雪の様な白銀のドレスと髪に、どこか不気味な金髪のぬいぐるみを抱いた十代後半の少女。
もう一人は濃紫の髪と真紅の瞳を持ち、桃に近い薄い紫のドレスと金のティアラを身に付けた先程の少女より少し年上ぐらいの女性。
其々アナスタシア、スカディという名の二人は、氷山の上にいるが故の問題に突き当たっていた。
「………………暑い」
「……暑いな」
嘗て北方の雪国を治めていた二人は、暑さに弱いのに南方の夏島の侵略に志願した挙句、調子に乗って大きな氷山を作ってしまった為に先程より太陽を近くで浴び、その暑さに呻いていた。
「まったく……、何でこんな場所志願したのかしら。昨日の私の馬鹿……」
「もう少しの辛抱だ、ロシアの皇女。これだけ汗をかけば後の風呂はとても気持ちいい筈だ。そしてそこで食べるアイスクリームは絶品に違いない」
「せめてお風呂上りまで我慢しては? 入浴中に食事なんて品が無いわ」
「水着の私よりは弁えてるつもりなのだが……」
そんな風に駄弁っていると、目視できる距離に軍艦が見え始める。数は二、どちらもカモメを掲げる海軍の艦だ。
「……おっと。皇女よ、来たぞ。アレを沈めれば目的達成だ」
スカディの言葉に頷きを返し、アナスタシアも軍艦を見据える。一歩進んだスカディの背に、今度はアナスタシアが声を掛ける。
「……ねぇスカディ様。今後は一緒に組む事も多くなりそうだし、アナスタシアって名前で呼んで頂ける?」
「! あ、あぁ! 行こうかアナスタシア」
少し恥ずかしそうに名を呼んだスカディにアナスタシアは微笑み、二人は魔術やルーンを使った訳でも無いのに冷気を纏い、その姿を徐々に変貌させていった。
「それじゃあ行きましょう? 私の視線と貴女の愛で」
「あぁ、悉くを凍えさせよう」
一方、
『ギャアアアアアアアッ!!!??』
一つの海賊団が恐怖と混乱に包まれていた。
彼等は変わりない毎日を送っていた筈だった。朝から酒と女で馬鹿騒ぎし、足りなくなれば略奪し、飽きれば捨てる。今日もそんな生活を送る筈だった。
突如、飲もうとした酒瓶が真っ二つになった。
突然、畳んでいた筈の帆が縛っていた縄ごと切れて落ちてきた。
唐突に、咄嗟に掴んだ武器がバラバラになった。
何が起きたか分からない。そして、何かが起きたと騒ぎ出した男が立ち上がった途端、
──男の首が宙に舞った。
それからは連鎖的だった。二人目は上半身と下半身が別れた。三人目は縦に真っ二つにされた。四人目は胸に大穴が開いた。五人目はいきなり倒れ、確かめてみれば事切れていた。そのまま次々と死んでいった。
混乱に包まれた彼等を恐怖させたのが、時折見えた骸骨の様な人影だ。黒い大男が見えた者は、それを仲間に伝える前に死んでいく。そして次にその姿を見た者は、前者と同じ運命を辿る。
そうして生き残ったのが船長だけになって、彼は死神の声を聴き、その姿を見た。腐り落ちた様な骨の翼を。
「聴くがよい。晩鐘は汝の名を指し示した」
同じ頃、
「……先生」
「あぁ、囲まれているな」
ここにもカルデア海賊団の者達がいた。
街中では目立つ黒スーツに眼鏡を掛けた長髪の男は、そう言って建物の陰を睨む。男の脇を固めるのは手袋をした金髪の少女、フードを被った銀髪の少女、赤毛の美少年の三人組の男女。
「師匠、どうしますか?」
「元々戦いに来たんだ。逃げる必要もあるまい」
「いや~お兄様ったらやる気だねぇ」
なんて事を言っている間に、四人は隠れていた賞金稼ぎ達に囲まれる。彼等は一様に、四人の手配書を手にゲスい笑みを浮かべている。
「行くぞ。我が王、グレイ、ライネス」
「はい、拙は頑張ります」
男、孔明ことエルメロイ二世の声と共に、フードの少女・グレイと赤毛の少年・アレキサンダーが飛び出した。それと同時に金髪の少女、司馬懿ことライネスが周囲に水銀を展開する。
「やっちまえ!」
そして賞金稼ぎ達も駆け出した。
「アッド!」
『よし来たぁ!』
一人目の刃をグレイが鎌で受け、そのまま引っ掛ける様に振り回してその後ろの二人にぶつける。そのまま勢いをつけて接近し、柄の部分で殴る。そして鎌を軸に身体を回し、体重を乗せた蹴りを叩き込んだ。
「よっ、ほっ、……はっ!」
一方アレキサンダーも剣で相手の銃弾を弾きながら近づき、銃を持つ腕を切り落とす。それと同時に背後から迫る相手を確認しつつ、目の前の相手を蹴り飛ばす。そのまま腰を落としながら反転し、すれ違い様に隙だらけの足を切り飛ばした。
『おいグレイ! 新しい力を見せてやろうぜ!』
「師匠!」
「あぁ、ぶちかましてやれ!」
エルメロイ二世のゴーサインが出ると同時、グレイの身体を白銀の鱗が包む。
「はあっ!」
グレイは変化と共に火炎を吐き出し、一気呵成に突撃する。猛火で炭化した敵の身体を、竜の膂力で放たれる鋭い鎌が切り裂いていく。
「ははっ、流石姉弟子! 僕も鼻が高いな」
その様を見て、一人また一人と斬り伏せていくアレキサンダーは鼻高々と笑う。
「さて! 僕も弟弟子として、何より先生の未来の王様として、良い所見せないとね!」
アレキサンダーは剣を握り直し、戦場へと駆けて行った。
同時刻、
──地獄。そうとしか形容しようがない。
特定の島ではなく、海域全体の実に七割が影響を受けている。
消えない炎、溶けない氷、吹き荒ぶ嵐、石になった大地、降り注ぐ隕石、止まらない地殻変動。
それらはたった二人の巨大な存在によって齎された。
一人は巨人。嵐と龍の力を得た、氷の左腕を持つ炎の王。
一人は怪物。妖刀魔剣の如き鱗を得た、石の眼の女怪。
二人が歩を進める。ただそれだけで滅びの災害足り得るのだ。
「──素晴らしい! マスターは実に良い能力を与えてくれた! なぁゴルゴーンよ」
「その通りだ。実に貴様に、そして私に合っている能力だ。炎の巨人王スルト」
燃え盛るスルトが歩けば、焼野原が出来上がる。腕を振るえば、嵐を呼び起こす。剣を振るえば、触れる全ては蒸発する。
蛇髪の女怪たるゴルゴーンが進めば、全てが切り裂かれる。睨みつければ、視界にあるものが石に変わる。叫びを上げれば、大地が揺れ空が泣く。
この地獄に終わりは無い。有るとすれば、二人が満足した時だろう。
「甘露! 痛快! 実に愉快! ンンンンンンン~ッ、快感! 拙僧は昂ぶっておりまするっ!!」
一人の男が死体を片手に高笑いしていた。
一目見て真面ではないと判る装いと言動の男。
最早正体を隠す気も無いリンボこと蘆屋道満が、先程まで戦場だった更地で笑う。自分達の作り出した景色に酔いしれているのか。
それを少し離れた所から見ている、彼の仲間が三人。
「ねぇねぇ。私前から思ってたんだけど、あの人何であんなテンション高いのかしら?」
「■■■■■■■■■」
「ねー」
「……朕からすれば、其方等の会話が成り立つのも不思議だが」
「そこはアレよ、フィーリングってやつ?」
そう言って頬に指を当てて頭を傾けるのは、骨の尾と雷の様な角を持った大柄の美女。それに頷くのは、彼女の倍程の背の鋼鉄の様な肌色をした大男。それに疑問を感じる様に首を傾げる、周囲に銀色の液体を漂わせた男。
其々名を伊吹童子、ヘラクレス、始皇帝といい、この惨状を作り出した張本人達である。
因みに、主に動いたのは伊吹とヘラクレスであり、道満と始皇帝はそのサポートに徹しただけである。なのに道満のあのテンションの高さは、本当に意味不明である。
「ねぇもう帰りましょうよ。私女子会の約束してるのよね」
「■■■。■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■」
「あ、そうなの? じゃあ一緒に飲みましょうよ!」
既に帰った後の話を始めている伊吹とヘラクレスに溜息を吐きつつ、始皇帝は道満に声を掛ける。
「陰陽師、そろそろ帰ろうぞ」
「おやおや始皇帝殿、拙僧少々ハッスルし過ぎた様でございますな。ンンンン、拙僧としましてもマスターを待たせるのは本意ではありませんなぁ。是非そうしましょう」
周囲に何百何千という死体が転がっている状況とは思えない平和な会話に、何とも弛緩した空気が広がり始める。
そこへ……
「……ってあれ? あそこに見えるの、相手さんの船じゃない?」
ふと何かが視界に入って、それを指摘した様な伊吹。その視線を追えば、確かに海軍の軍艦が数隻確認できる。海軍のお膝元であるシャボンディ諸島の近辺となれば、さもありなんと言えよう。
「ンンンン! どうやらまだ拙僧の芸を見たい輩がいる様で! 結構、実に結構!」
そう言ってまた勝手に昂った道満と共に、他の面々も溜息半分で姿を変えながら突撃していった。
誰が何の能力か分かったでしょうか?
ヒント 出てきたのは動物系オンリーだよ。