双槍銃士   作:トマトしるこ

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「この剣を抜くたびに、私のことを思い出してね♪」

勿論ですとも!

どうでもよくないけど、尻尾握られたシノンとか、エクスキャリバー渡す時のシノンとか、めちゃくちゃ可愛い


phase 19 《射撃》

 

 ドアを開けると、三人が一斉に俺を見た。

 

「シノンは?」

「やっと眠ってくれたよ」

「よかったぁ…」

 

 はあぁ、と大きな息をはいて肩の力を抜いたアスナはソファにもたれかかった。キリトもフィリアも安堵の息を漏らす。

 

「アイン。お前は、シノンの様子がおかしくなった理由知ってるんだろ?」

「……ああ」

 

 出来れば話したくはない。例え俺であっても、これは詩乃の問題だ。何とかしてやりたい気持ちはあるが、詩乃自身が整理してケリをつけなくちゃずっと残り続ける。

 

 たが、説明しない訳にもいかない。シラを切るなんて真似はしたくないし、かといって話せないで納得はしてくれないだろう。深くは聞かないでほしいといえば下がってはくれるが、関係にヒビを入れるのは良くない。

 

 普段は冷静なシノンが何故ああも取り乱したのか? 何がシノンをそうさせるのか? 仲間としてキリト達には最低限の情報を知る権利がある。

 

 だから、話そう。

 

「まずはこれからだな」

 

 ストレージを開いて、フィリアが苦労して開けた宝箱の中身を物体化させる。

 

「これは………弓と、拳銃?」

「正確に言えば、拳銃のような何かだな」

 

 一つ目はシンプルなデザインの弓。何か装飾があるわけでもなく、ただグリップと弦が張られているだけ。もう少し言うなら矢は一本もない。

 

「これ、使えるのか? SAOに遠距離武器なんていいのかよ」

「少し試してみたが、ダメだった。装備品なのは確かなんだが……」

「特別な専用スキルが必要ってこと?」

「ああ」

 

 テーブルに置いた弓を手にとってタップ、アイテムの詳細情報を開く。

 

「名前はウッドボウ。カテゴリは武器で、弓に分類されている。要求レベルやステータスは特に無し。解説にもおかしなところはないよ」

「でも装備できない、ね」

「SAOじゃこんなのチートじゃないの?」

「フィリアの言う通り、遠くから一方的にダメージを与えられるこれはチート同然だな。ビーターも真っ青だ。だからこそ、何らかのシステムロックがかかってるんじゃないかと思う」

「……武器カテゴリとかも実は嘘っぱちで、ホントはただの飾りだったりしてな」

「ありえない話じゃないが、とことんRPGを追求したこのゲームがこんなことするか?」

「それ言われたらそうなんだよなぁ」

 

 ポケットなモンスターを戦わせる某国民的ゲームとは違い、行ける場所はどこでも行けるし、いけない場所はどれだけ攻略が進もうが行けることはない。たきの〇りを覚えなきゃ先に進めないとか、い〇くだきがないから貴重なアイテムがとれない、なんてことはないのだ。

 

 だから武器と書かれているならそれは武器。

 

「問題はこっちじゃないんだよ。これこれ」

 

 指で指し示すのは拳銃によく似た何か。というか拳銃にしか見えない。

 形からして自動拳銃だな。だが、肝心の弾倉は無く、大事な機能のセーフティロックもない。引き金と銃口に違和感は無いが、これもどこかおかしいかもしれないな。

 

 拳銃と呼ぶには色々と欠けている。

 

「なんなんだこれ。銃、だよな?」

「ああ。よく似た型はいくつかあるが、同じものは見たことがない。てか形なんてどうでもいいんだよ、この際」

「なんで銃がこのゲームにあるのか? ってことよね?」

「ゲーム的にも良くないし、シノンにも良くない」

「……てことは、しののんがああなったのはその銃が原因なの?」

「………」

 

 無言で頷いてアスナ達に示す。

 

 あの場に俺は居た。強盗が銃を握った程度、どうとでもできた。じっくりと機を待って取り押さえるつもりでいたところに詩乃が動いて、詩乃と詩乃のお母さんを護るために俺も動いた。

 

 が、努力空しく、詩乃の手を血で染める事になってしまった。あの時、あと少し早く動けていたらこんなことにはならなかったのに……。虐められることも、孤独に耐えることも無かったんだ。

 

 俺のせいで。

 

 だから護ろうと決めたのに、これだ。笑えるな、まったく。

 

「銃にトラウマを抱えている。かなり重いPTSDをな。それこそこんなパチモンでも見ただけで発狂するほどに、シノンは銃を恐れている」

「………何が原因なのかは?」

「言えない。だから結果だけを知ってくれ」

「………そっか」

 

 弓を机に置いて、代わりに銃を手に取る。

 

「本物は勿論、良く似た物や連想させるものでもシノンは耐えられない。モデルガンは当然そうだし、手を銃の形にしてもな」

 

 空の左手で、銃を形どる。握りこぶしの状態から人差し指と親指をピンと伸ばせば完成だ。「ばーん」なんて言ってよく遊んだりもするだろうこのジェスチャーでさえ、詩乃は狂う。全く関係のない誰かが話していた友達相手にこれをやって、偶然それが視界に入っていた詩乃はいきなり吐く事だってある。

 

「だから、そう思われるかもしれないことは絶対にシノンの前では止めてくれ」

「……分かった。約束する」

「助かるよ」

 

 キリトの真面目な表情を見て、一先ずの安心を得た俺は話を続けることにした。ふざける事ばかりだが、コイツは根が真面目だから大丈夫だろう。

 

 俺としては、フィリアが心配なんだよな……。うっかり漏らしそうで。

 

 

「で、それは結局なんなの? 銃じゃないんでしょ?」

「ああ、銃じゃない。作りが違うとか言う話の前に、まず武器じゃない」

「どういうこと?」

「カテゴリが《装飾品》なんだよ。パチモンらしくモデルガン以下ってことさ」

「た、ただの飾り………」

「アスナ。“ただの”飾りじゃあ無いぞ。ことアインクラッドからすればな」

 

 弓という武器は割と見かける。プレイヤーサイドは使用不可になっているが、敵はそうでもない。下層の序盤では弓を持ったゴブリンやらリザードがうじゃうじゃといるし、上に行けばもっと出てくるだろう。弓がプレイヤーの武器として登場したのは衝撃的だが、この世界に弓が存在している事に関して言えば珍しくはない。

 

 しかし、銃は違う。バネや金属、火薬等を用いて鉛玉を打ち出す近代的な機構やフォルムは時代背景に沿わない。それどころか存在そのものがおかしいレベルだ。

 

「たとえ装飾品であっても銃に該当できる物体が存在するということは、本当に武器として使用できる銃があるかもしれないという可能性を生む。実際にあるかどうかは問題じゃない」

「………そういうことね」

 

 “飾り”とは言ってしまえば一種の模倣品に近い。モチーフとなる原典(オリジナル)があるからこそ、精巧な作品が出来上がる。プラモデルやモデルガンなんかはまさしくそうだ。特に銃に関してはモデルガンというカテゴリが存在している。

 

 意味なくこれが存在しているとは思えない。必ず生まれるに至った経緯があるはずだ。最も考えられるのはやはり実銃の存在。弓と言う遠距離武器が登場したからには、銃だってあると思うのも仕方が無い。

 

「シノンに関係なく、この二つは俺達だけの秘密という事にしよう。アルゴに知られてみろ、アインクラッド中に知れ渡るぞ。確保していることもそうだが、こんなものが存在していることを知ったプレイヤーが何をしでかすか分かったもんじゃない」

「……攻略そっちのけで探せ探せーってなりそうだな」

「………あぁ」

 

 実際はどうなんだろうな? この層以上では弓を使用するのが当たり前になるのかもしれない。銃は流石に無いだろうが………。ある分には嬉しいし、スキルがあるならソードスキルだってあるはずだから火力不足なんてこともない。剣の届かないところも楽々攻撃できるはずだ。戦略の幅が一気に広がる。

 

 ゲームバランス崩壊だな。ありえないか。

 

「ってことで、外でこの話題はしないこと。この二つの管理は……フィリア、お前に任せる」

「わ、私ぃ……?」

「元々お前が苦労して開けた宝箱の中身だろ。俺が持っておきたいところなんだが、結婚してるからシノンがストレージを見てきた時にバレる」

「あー、そっか。仕方ないね」

「助かる。俺はシノンの様子を見てくる」

「OK。攻略は明日からにして、今日はゆっくり休もうか」

 

 キリトの言葉を機に今日はお開きとなった。フィリアは個室に戻って調べると出て行き、キリトはアイテムの補充と市場調査をすると言って散策に、アスナはお風呂に入るからと言われて部屋を負いだされた。口にしたようにシノンが眠る部屋へ入る。

 

 ひとしきり暴れたシノンは糸が切れた人形のように気を失った。本当なら主街区に着くまで寄り道をしながら時間をかけてアクティベートするところなんだが、事情が事情なだけに得意のスピードで駆け抜けて宿をとり、時間を忘れて付き添っていたのでアクティベートする前に二時間経過して自動的に開通。二層以来の開通祭りの見送りとなった。

 気絶してからベッドに寝かせて部屋を出るまで、息は荒くて汗は止まらないし、苦しさのあまりにもがいてシーツはグチャグチャで毛布を蹴飛ばしたり、かなり心配だ。アレから一時間ほど、少しだけでも落ち着いてくれていると嬉しいんだが………。

 

「シノン、入るぞ」

 

 起きてはいないだろうが、念のために三回ノックしてドアを開けた。以前着替え中に入ってそのままベッドインしたので気をつけるようにしている。

 

「………ぅ」

「ふぅ、さっきよりは大分マシになったな」

 

 疲れきって暴れる体力も無くなったんだろうな。仰向けになってただ熱っぽい息を漏らすだけだった。いつもに比べれば今日は比較的軽い方だ。これなら明日にはいつも通りに戻れる。

 

 ベッド際のテーブルに置いていたタオルを手にとって額の汗を拭う。汗はあくまでもエフェクトであり、バッドステータスじゃあない。拭う必要はないし、そもそも気に掛けるほどでもないんだが無視する選択肢はない。乾いた面に変えては何度も優しく押さえるようにしては額を撫でた。

 

 風邪や熱といったいわゆる病気のような症状はゲームに導入されていないため身体的な心配はしていない。極論になるが、裸で極寒エリアに行こうが灼熱エリアに行こうが何も起きないのだ。ただものすごーく寒くなるか暑くなるかだけである。羞恥心と耐寒耐熱さえ我慢できるなら裸でうろついたっていい。ハラスメントコードは振れない限りは発動しないし。ただ、防御力はお察しである。

 気持ちはそうもいかない。ポーションを飲んでもじわじわ回復しないし、絆創膏を貼ればその内治るわけでもなく、服のように何かを着れば無くなるはずもない。

 

 SAOにログインしてからは当然だが、それ以前の時間を遡っても数ヶ月は何事もなく過ごしてきたんだ。克服したわけでも克服する為に何かをしたわけではないが、少なくとも傷つくことはなかった。

 

 “剣を握って城を駆けあがれ”

 

 それがこのゲームのコンセプトだ。銃なんて以ての外、絶対に存在してはならない。ここには無いという安心感があるはずだったのに………。

 

 何故だ? これも全て茅場晶彦の思惑なのか?

 

「ぅ……………あ」

「シノン?」

「あ、あぁ……………」

「………」

 

 防具も外して上着を脱がし、少しでも負担を和らげるためにラフな格好に着替えさせている。普段から色々と見せないであろう部分を晒している服を着ている上に、上着も脱いでいる事によって破壊力が数倍に跳ね上が…………なんでもない。とにかく薄着だ。現実ではこうはいかないので助かる。仮想世界の思わぬ恩恵だな。

 

「ユ……ゥ……?」

「ああ。大丈夫か?」

 

 目を覚ましたらしいシノンは、俺の問いに首を横へ振った。

 

「やぁ……怖い……」

「大丈夫だ。心配するなよ」

「でも、何で……」

「分からない。だが、アレはシノンの目が届かない場所に隠してるよ」

「そんな……!? 壊してくれないの!?」

「シノン、アレは人の目に触れちゃいけない。壊してまたどこかで現れたら大変だろ? 他のプレイヤーもそうだが、またシノンの目の前に現れたらどうするんだ?」

「う、あああああぁ…………」

「あー、泣くな落ちつけ」

 

 身体を起こして震え始めたシノンの身体を抱きしめて頭を撫でる。ボロボロと溢れだそうとした涙は止まって、小刻みに揺れた肩と呼吸は落ち着きを取り戻していった。

 

「ユウっ……!」

「詩乃、大丈夫。傍にいるから」

 

 背中をさすり、頭を撫でて、優しく囁き、気持ちが落ち着くまでずっと抱きしめあった。

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 メニューウインドウのデジタル時計が午後九時を表す頃、いつものシノンにようやく戻ることができた。

 

「その、ありがとう」

「いいって。んじゃ、キリト達に話したこととか整理するぞ」

 

 内容をそっくりそのまま、包み隠さず伝える。弓のこと、銃のこと、ほんの少しだけ詩乃の過去を話したこと。

 

「トラウマがあるってことだけ、話したのね?」

「ああ、すまん」

「……いい。じゃなきゃフィリア達は納得してくれないもの」

「そう言ってくれると助かるな」

 

 ベッドに並んで座って苦笑を浮かべる。良かった、メチャクチャ怒られるんじゃないかって内心ヒヤヒヤしてたからな。

 

「それにしても気になるわね」

「だろ? どうしてこんな低層でゲームバランスを壊すような武器が現れたのか。SAOに概念すら存在しない銃の飾り物が存在するのか。何より、なぜ同じ宝箱の中に入っていたのか」

「もしも弓が武器として登場するのなら、ゲーム終盤のはずよ。銃もそうだけど、どうして………」

「……考えても分からない、か」

「実物はどうしてるの? 隠したって言ってたけど」

「お前に言ったら意味無いだろ」

「いいから」

「まったく………フィリアに渡したよ。フィリアが宝箱開けたからな」

「あら? てっきりユウが持ってるとばっかり思ったわ」

「ばーか。アイテムは共有してるだろ」

「………本当?」

「疑うなら見てみろよ」

 

 ふふっ、と笑いながら右手を縦に振りウインドウを開くシノン。わざわざ可視化されたウインドウを覗きながらアイテムボタンが押されるところを見る。シノンによって小分けにされたタブの中にある《Eins(アイン)》のタブをタップ。

 俺のストレージも勿論タブで小分けしてあるので、シノンは全部を開いて確認していく。

 

「……本当ね」

「だから言ったじゃないか」

「知ってる」

「ったく……可愛い嫁さんを貰えて幸せだよ」

 

 やれやれ、お茶目な奴だ。

 

「……え?」

「どうした?」

 

 そのままウインドウを閉じようとしたシノンの手が止まる。驚きの声を上げたシノンを見て、その視線の先にあるウインドウを見る。

 

 瞬間、俺は声を失った。

 

「な…………!」

「嘘……!?」

 

 多分押し間違えたんだろう、アイテムタブじゃなくてその下にあるスキルタブが開かれていた。その中でもシノンが習得しているスキルは優先的に上に配置され、一目見て分かるように赤い枠で囲まれている。《短剣》《投剣》《軽業》《索敵》《業師》《遠視》《集中》《回避》《料理》《裁縫》等々、戦闘スキル八割といったところだ。その中で異色のスキルが一つ、俺とシノンの目に留まる。通常ならばありえない青い枠で囲まれたスキルがあった。

 

 《射撃》。

 

 つい数時間前にキリト達と話し合っていた中にも出てきた。もしかしたら、特別なスキルや何らかのクエストが必要なんじゃないかと。

 

 まさか、こんなことが………。

 




銃と言ったな、あれは嘘だドヤァ
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