多分これが今年最後の更新になります。あんまりにも久しぶりすぎてクオリティ落ちてそうで心配ですが……
一口にスキルといっても、数種類あることは周知の事実だろう。
大まかに分類すれば二つ。《戦闘系》スキルか否か。このゲームはモンスター達を蹴散らして最上階を目指すのだから当然戦うための術は必要だ。これはこれで、武器ごとに細かな分類もされれば、戦闘のサポートをするためのものもある。
では戦闘系以外はというと……これもまた様々だ。《商人》としてアイテムを提供するのか、《鍛冶士》として全プレイヤーの命を預かるのか、《料理》や《裁縫》等で娯楽をもたらし金を稼ぐのか。
正直に言えば多すぎて語れない。
だが、これらのスキル云々にせよ幾つかの大前提やある程度の常識の元に成り立っているものが殆どだ。
例えば、『HP全損は現実での死を意味する』『遠距離主武器は存在しない』『Mobは常に一定数を維持する』。まだまだあるだろうが、一つ一つ上げていけばキリが無いし、一プレイヤーが全てを把握することは不可能だ。
ルールや常識、規則は遵守することが基本だ。そのおかげで秩序が保たれているわけだし、守らせるために警察のような取り締まる機関が存在し、法がある。
だが、“常識は破るもの”という言葉もまた存在する。
マニュアル通りと言うのは悪いことではない。むしろ、先人達が積み重ねてきた経験や知識が詰まった代えようのない貴重な資料だ。だが、型に嵌まり過ぎることも時によっては正しくない事もあるだろう。
武道や合気道で、型通りの動きをすれば相手を倒せるかと言えば否だ。それが通じるのは昇段の試験のみであり、実際の試合や実戦では役に立たないとは言わないまでも、型通りに動いて勝てるかと言えば不可能に近い。
なら、これらSAOの常識を覆すようなスキルが存在するのは、別に不思議でも何でもないだろ?
網の目をすり抜けるように、或いは逆手にとるようにして考案された《システム外スキル》が良い例だ。というより、今まではこれしか存在しなかった。
ここに一つの石が投じられる。シノンがいつの間にか習得していた《射撃》だ。
既にスキルとして存在している以上これを《システム外スキル》として呼ぶのは適切じゃない。従って、分類されるのは通常の
しかし問題がここで発生する。《射撃》というゲームバランスを大きく崩すスキルが、はたして大勢のプレイヤーが習得できるのか? それだけの武器はどこにある? そのほかの職業は? 《射撃》を複数のプレイヤーが習得するのは現実的じゃあない。
となると、《射撃》はシノン専用のスキルとなるわけだ。恐らく武器はあの弓だろう。これからも何らかのイベントが発生しては強力な弓、もしくは新しい射撃武器が手に入る可能性は高い。
そしてこれだけのスキルが存在するのならば、同じようなスキルが存在していてもおかしくはない。むしろプレイヤー同士の均衡を保つためには存在しなければならないはずだ。
シノンの了解を得、更にはパーティ全員に相談した上で俺が取った行動は、アルゴに調査を依頼することだった。他言無用の条件を設け、それに見合うだけのコルを支払った上で、シノンのトラウマを伏せ全てを話した。アルゴですら驚くほどであり、その反応からして同種の物は未だに見つかっていないということ。
「ねず………アルゴ、これは何だと思う?」
「オイラですら聞いたことも無ければ見たことも無い、全く新種のエクストラってことは確かだナ。そっちはどうなんダ?」
「それに加えて、全プレイヤー中たった一人しか習得できない超限定的なバランスブレイカー。少なく見積もっても、あと四種類はあるんじゃないか?」
「………千分の一で十種類だナ。エクストラ中のエクストラ。《ユニークスキル》とでも名付けるカ?」
「いいな、それ。実に奇怪なワンオフ。《ユニーク》か」
少し先の話も含むが、シノンの《射撃》を始めとしたキリトの《二刀流》にヒースクリフの《神聖剣》は、この《ユニークスキル》に分類されることになる。元々は俺達とアルゴの中だけでの呼び名だったが、スキル公開と共にアルゴがそう名付けたと言うと、全プレイヤーはユニークという言葉を使うようになった。
ゲーム進行率がそろそろ四分の一を通過するところでの《ユニークスキル》の登場は、はたしてアーガススタッフ………茅場晶彦の描いたシナリオ通りの展開なのか、それとも大幅なズレを伴っているのか。
シノンがログインするまでの一ヶ月間、彼は捕まることはなく行方をくらませていたらしい。今も警察から逃げきっているのかは流石に分からないが、絶対に捕まりはしないだろうという確信が俺にはあった。確実に逃げきる自信と準備があり、今もどこかでこの世界を観測していることも。
なあ、天才プログラマー様よ、あんた結局どうしたかったんだ? これがお前の望んでいた世界だったのか?
浮遊城アインクラッド 第二十五層
「よぉ集まってくれた! レイドリーダー勤めさせてもらう《アインクラッド解放軍》のサブリーダーキバオウっちゅうもんや!」
二十五層主街区に設けられた石造りの劇場には約五十人のプレイヤーが集まっていた。右も左も顔も知りの猛者ばかり。気軽に「よぉ」と返事を返してくれる奴もいれば、あからさまな舌打ちで返してシノンに睨まれている奴も中にいる。
劇場の舞台で進行している懐かしいウニ頭――キバオウを始め、この場にいる全員がアイツの言うとおりボス攻略に集まった現在の《攻略組》の中でもトップクラスのプレイヤーとギルドだ。
キバオウ率いる《アインクラッド解放軍》
クラインを中心とした《風林火山》
ディアベルの意志を継ぐかのように振る舞うリンド、彼を支えるようにして加入したコペル達の《聖竜連合》
そしてソロプレイヤーや少数派ギルドと、俺達のパーティ
現状、俺達はギルドを結成していないため通常のパーティ扱いになる。一度立ちあげようかという話もしたが、どうせなら過ごしやすそうなホームを見つけてからにしようということと、誰がリーダーになるのかで少し揉めたので保留になっている。ギルドボーナスが発生する上に、専用のクエストも存在するのでこれだけの長い時間を共に過ごしているなら結成するべきなんだが………。
この層を突破したらもう一度考えよう。
「ワイはまず謝らなアカン。スマンかった!」
「お、おい、どうしたんだよ……」
「今回ボス部屋見つけた《軍》のパーティが様子を見て戻って来たもんやから召集かけたんやが……二人、死なしてもうた」
ボス部屋発見後の様子見は、決してこちらから攻撃しないことが前提にある。軍の連中がそれを破るとは思えない………つまり、今回のボスは全力で回避に徹しているプレイヤーを蹴散らすほどのパワーを持っているという証拠だ。
「それで、どんなボスだったんだ? 生きて帰って来た奴は居るんだろ?」
「急かすな、今から話したる。ボスネームは《双頭の巨人》、下層で出てきたちゃちい巨人とは比べもんにならん、本物のデカ物や。武器は見たところ持っとらん、腕と足をブン回してくる。衝撃波やら破片やらにもダメージ判定あるっちゅう話。首が二つあるんならブレス系の攻撃もしてくるかもなぁ」
ふむ……。
「聞いたところ、特に変わったところはないな」
「実際に見て見ないとわからん」
「まあな」
ボス戦は本当に何が起きるのか分からない。新たにもう一体現れた事もあれば、いきなり変身してHPバーが全快しやがった奴もいた。そのへんに転がっている柱を武器にしてくるかもしれないし、実はこっそり武器を隠し持っていたり、どこからともなくザコが湧く可能性もある。
毎度毎度手の込んだドッキリばかり仕掛けてきやがる。何度寿命が縮んだことやら。
「特徴らしい特徴は外見からは見られんかった。強いて言うなら………“デカイ”」
「どれぐらいだ?」
「パニクっとった奴からの報告で容量が得られんかったが、見立てでは最低でも十メートルは超えとる」
「十メートル!?」
ボスモンスターは基本大型だ。小さくても三メートル、大きくても八メートル程度が今までのボスだったが……十メートルか。確かにデカイ。まさしく巨人だな。
「これ以上質問無いなら早速チーム組んでボス部屋や」
チームなんて言っても、殆どギルドだし、加入していなくてもパーティ単位が殆どなんだからさほどの時間はかからない。すっぱりと決まった。
昔と変わったところなんてソロが減ったことと、エギルのパーティが減ったことぐらいだな。みんな商人やら料理人になって行くもんだから、攻略から離れているらしい。そんなエギルも今では立派な商人なんだけど。
「ユウ」
「ん?」
「嫌な予感がする」
「奇遇だな、俺もだ。今日は人が死ぬぞ」
「物騒ね、あなた達」
「私もそんな気がしているよ。巨人って奴、今までの比じゃなく強い」
「フィリアまで……まだ見てもいないのに」
「百を最高とするなら二十五は節目だろ? 記念日みたいに、ゲームとかじゃあ強力なボスが現れるイベントが起きるのはザラにあるもんさ」
「……そういうもの?」
「そういうもの」
……キリトの言うことはわりと信じるのね、アスナさん。気持ちは分かるよ。
しかし洒落や冗談じゃない。俺達の勘がそう囁く上に、ゲーマーのキリトが良くあることだと太鼓判を押した。今まで以上にヤバい何かがあるのは確かだ。ただデカくて硬いだけのボスで済むはずが無い。
今回はあんまり余裕ぶっこいてられないな。
*********
ボス部屋前の最終点検、新調したレアドロップの槍とナイフに装備を切り替え、綺麗な布で拭う。一層の頃と何も変わらない、気持ちの問題だ。あまり使いたくはないが、使うことになりそうだな。
アイテムも問題なし。枯渇した場合は筋力値の高い俺とキリトが分けて持った素材をフィリアがその場で錬金合成で作ってくれるので気にせず使う。ボス戦ではむしろ使いきる勢いで丁度いいぐらいだ。
一番数の多い《軍》を先頭に、後ろを残ったギルドとパーティで固める。俺達は丁度集団の中央、囲まれているのでとっさに動きづらいところだが、重装備の連中をここに置くと後ろが詰まるので仕方が無い。もう随分前から突入前はここにいる気がするな。
「開けるよ」
バックラーで押すようにコペルが左側の扉を、もう片方を別の《軍》プレイヤーが押してドアを開く。
それと同時に部屋の明かりが灯され、全体像が窺える。正方形のシンプルな大部屋だ。天井がやたらと高く、柱が乱立している事を除けば、だが。
「来るでぇ………」
ぼそり、とキバオウが呟くと、部屋全体がドスンと揺れた。音が少しずつ大きくなり、震源は近くなるのが分かる。心の底から竦み上がるような地響きは鼓膜を破るんじゃないかってぐらい大きくなると急に止み、次の瞬間、天井から一体の巨人が現れた。
「アレが……」
「双頭の巨人か……!」
着地と同時に巻きあがった粉塵が衝撃波を伴って襲いかかる。アレだけ高い天井の更に上から飛び下りたんだからそりゃ酷い。軽装備のプレイヤーは吹き飛ばされそうになるところだった。《軽業》系統を習得しているシノンは体重が低めに設定されていたので実際に飛んで行きそうになっていたし、革装備の男性プレイヤーは地面にしがみ付いている。
ゆっくりと着地体勢から直立へと姿勢を正し、その全長と姿が露わになった。
「でっけぇ………!」
「キバオウの奴、何が十メートルだよ。軽く十六は超えてるぞアレ! ガンダムかっての……!」
「ガンダムって何?」
「さぁ?」
キリトがぼやいたように飛び下りてきた巨人の大きさは今までの比じゃない。なるほど、確かに“デカイ”な。十六メートルって言えば五階ビルに相当するが……これは七階ビルぐらいありそうだ。視線を合わせようとすれば首が痛くなるし、二つ並んでいるであろう頭が霞んで見える。
鈍く四つの瞳が光った様に輝き、先の地響きの何倍も心臓を震わせる重低音がフロアに響いた。鼓膜がはち切れそうなほど振動し、敷き詰められた石畳が地割れを起こしたような錯覚に陥る。
巨人の雄叫びが止むと同時に、向かって右側の頭の横に四段のHPバーが現れた。今この瞬間から、奴は俺達を攻撃し始めるだろう。
「パターン探りつつ地道に削るで! 《軍》が正面、《聖竜連合》が右手、他で左手側から攻めるで!」
今回はどれだけ重武装をして速度減少のペナルティを負う覚悟で盾を持ちこんでも一撃で殺される。あらかじめ《軍》内部と《聖竜連合》には伝えてあったのか、誰一人として壁役のプレイヤーはおらず、ひたすらフロアを走り回って注意を逸らし続け、防ごうとしたり紙一重で避けて攻撃を加えようとはしない。ある程度訓練された動きだ。《聖竜連合》は軽装のプレイヤーが多かったので特に疑問は無かったが、装備を統一しまさしく軍隊と化した《軍》までまばらな防具を装備しているのは珍妙だな。
恐らく、キバオウの作戦としては、事前に《軍》と《聖竜連合》である程度の情報を共有してターゲットをこの二大ギルドに集中させ、その他の少数ギルドやパーティにダメージを稼がせるつもりだろう。だからこそ、一番危険な正面のポジションを大多数の《軍》が引き受けている。
結婚したことで敏捷値を共有している俺とシノンが突出して回りこむ。頭一つ飛び抜けた俺達が目についたのか、足先が左へ開くが、戦斧のヘイトを稼ぐソードスキルが連続で正面から叩き込まれ、巨人の注意がこちら側から早速逸れた。
「そのまま駆け抜けて後ろから斬るぞ!」
「わかった!」
真横を通り過ぎてうなじが見える位置まで回りこんだ俺は近くにあった柱を駆けのぼる。壁を走るスキルは今の所聞いたことが無いので、単純にステータス任せの無茶ぶりだ。いつもなら三角跳びで済むはずなんだが、相手が相手なので、漫画の様にビルを駆け上っている気分だ。対するシノンは《軽業》スキルがあるのでさほど苦労せずにするすると駆け昇っていく。時には隣接した柱へ飛び移ったりなど、俺とは違って手慣れたものだ。
「ユウ、合わせる!」
「おし、先行くぜ!」
踏み出した右脚にめいっぱいの力を込めて柱から跳躍、高さにして二階建築物を飛び越えるほどの放物線を描いてようやく巨人のテッペンを越えることが出来た。
空中でやり投げの体勢を取り、左手で狙いを定め右手を引き絞りスキルを発動させる。紫に包まれた槍が俺の手から放たれて巨人の両の首の付け根に突き刺さった。悶え始める前にスキル補正のかかった落下速度で突き刺さった柄を掴み、抉り斬るように十字に斬り裂き、もう一度交点に突き立てる。空中発動の四連撃中位槍スキル《テンペスタハート》。相手より高い位置でしか発動できないという制限は付くが、発動後は敵に槍を突き刺したまま硬直に入るので、今回の様な大型に取りついたりするには持って来いのソードスキルだ。
続けてシノンが柱から離れて攻撃に移る。左手で投擲用の短剣を二本腰から引き抜いて光が灯り、下から上へ腕を振って一本、返す腕で一本投擲。投擲スキル《ツヴァイクスロー》。一本目は縦回転しながらも綺麗に首筋へ垂直に刺さり、二本目が一本目の柄に突き刺さりより深く食い込む。
「やああああっ!」
腰だめに右手に握った短剣を構えて加速、単発突進系短剣スキル《アーマーブレイク》は二本目の短剣の柄に見事命中し、二本の短剣を根元まで巨人の首筋に食い込ませた。耐久値が全損するまでは常に貫通ダメージを与え続けてくれるだろう。
硬直に入ったシノンの身体を支えてしがみ付き、互いの硬直が解けた頃に振り落とされないように左右の首へ直接攻撃を畳みかける。こういう時は規格外の巨人で助かる、しっかり両足で踏ん張れるだけの足場があるし、図体がデカイからいきなり振り落とされることも少ない。
ドット単位で減ったHPバーを間近で見ながら、次のソードスキル発動に入った。
*********
「来るぞ! 下がれ!」
「うん!」
「分かった!」
ボス戦が始まってからおよそ一時間が過ぎようとしている。アインとシノンはアイテム補充と様子見がてらに一度だけ降りてきたが、またすぐ昇ってはソードスキルを連発しているのが下からでも見えた。上は上で好き勝手にやっているようだから、こっちもこっちでやらせてもらおうじゃないかということで、キバオウ達を信じて俺達はひたすら休まずに攻撃を加え続けた。全体重を乗せた一撃に、熟練度の高いソードスキルを三人で上手くスイッチを繰り返し続け、ただただダメージを稼ぐ。最も数の多い《軍》が攻撃に加わるチャンスがあまり無い以上、俺達がその穴を埋めるために倍以上の頑張りを見せるしかない。何よりアイン達は不安定な足場でひたすら武器を振り回しているのに負けていられるか。
重点的に狙っているのは左脚のアキレス。
このゲームはやたらとリアリティが高いので、変なところでこれも現実なんだなぁって思い知らされる事がわりとある。この前なんてアインがブーツを脱いでくつろいでいたら小指をぶつけて三分ぐらい悶えてたし……。というわけで、身体を動かす上で重要な筋である腱、特にアキレスを狙って攻撃している。上手く抉ることが出来れば膝を付かせることが出来るし、再生する前に右側も抉れれば転倒させることが出来るかもしれない。そうなれば頭も脚も関係あるもんか、全員でたたみ掛けれる。
「くそ……しぶといな。もう一時間経つんだぞ」
「でも最後の一本だし、もうすぐレッド入るよ。あとちょっと」
「分かってる、へばっちゃいられないよな」
「キリト、アスナ、新しいドリンクだよ」
「サンキュ」
速攻でフィリアが錬金合成したステータス強化系のドリンクを三人で煽る。攻防走を高いレベルで底上げしてくれるお手製の非買ドリンクはかなり効いてくれるので大助かりだ。スッキリリンゴ味で飲みやすいし、一本ずつ飲むよりもこっちの方が便利で良い。効果が切れる前に飲んで上書き、時間ギリギリまで連続スイッチの流れは確実且つ効率的にHPを削れた。それもこれも、攻撃される心配が無い状況あってこそだが。今回はキバオウに感謝だな。
「よし、行くか!」
飲み干した後の瓶を握りつぶして駆けだす。
すっかり気に入った突進スキル《ヴォーパルストライク》から入ってアスナの《リニアー》、フィリアが錬金アイテムの追い風を起こす《ウインドボム》で更に速度が乗った《ヴォーパルストライク》を決めて、フィリアが短剣スキル《ファング・ショック》で短剣を牙の様に突き立て抉り、アスナの連続《リニアー》が的確に抉った傷口に吸い込まれていく。
SAOにコンボ数なんて概念は存在しない。ソードスキルごとの連続ヒット数のばらつきならよくあることだが、プレイヤーが連続してダメージを与えることで倍率が上昇することは絶対にない。同じ部位に同じ力と速度と武器と熟練度で攻撃すれば、理論上は常に一定のダメージを与える。一回目だろうが百回目だろうが変わりない。百なら百、千なら千だ。故に、連続スイッチで大切なのはコンボ数を稼ぐことじゃ無く、自分のターンでどれだけダメージを与えられるか、だ。
敵との相性や攻撃部位、周囲の状況によって最適なソードスキルを選択し、現状で最高のダメージを与えられるように握りから力加減、振り抜きにパートナーがスイッチしやすいように抜けるタイミングまで含めてスイッチと呼ぶんじゃないかと俺は考えている。人によって好みのソードスキルはあるだろうし、使いこみも変わってくる。下位だの中位だのは関係無い。アスナが今でも得意としている《リニアー》がいい例だ。アレほどまでに完成されたスキルは下手な上位互換よりも高いダメージを叩きだす。
ただパワーのある上位互換スキルをバカスカ使えばいいというものじゃない。普通のRPGなら話は変わるが、生憎とSAOは自分が剣を握って振るうゲーム。身体が覚えるほど馴染んだ技と剣が一番頼りになる相棒だ。
「キリト君! レッド入ったよ! 下がろう!」
「OK!」
アスナの忠告通り素直に距離を取る。これだけの巨体相手にステップ数回分の距離じゃ明らかに足りないので、背中を見せながら大きく離れる。視線だけ背中に向けて確認すると、確かに四本目のHPバーは赤に染まっていた。ここからは最後の追い込みであると同時に、最後の足掻きで最も面倒なパターンが混じってくる。ボス戦で最も死亡率が高いのは最初のパターンを読む前と、レッドに入ってからの大幅な変化について行けない時だ。十分に気をつけなければ……。
「「――――――――――――!!!!」」
巨人の雄叫びがステレオで響く。パターンが大きく変わる瞬間だ。
「さてさて、どうな―――」
ごき
「き、キリト君……あれ……!」
ばきグシャごりごりっ
「う、うっそぉ………」
めきゃごりばきぐしゃめりめりぐちゃみしべきぃ
人間がダンプカーやロードローラーに挽き潰される、という表現が一番適切かもしれない。そんな音がフロアに響いて、プレイヤーの手を止める。何が起きているのかなんて認識したくないし、考えたくもなければ見たくも無い。が、目をつぶるわけにもいかない。というか、誰かに固定されているかのように顔を背けることが出来なかった。
ただ、結果から言えば―――
―――巨人は分裂した。
皆さんよいお年を!
来年もよろしくお願いいたします