双槍銃士   作:トマトしるこ

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トマトしるこです

なんかちょっと変な出来あがりになってしまいました。


phase 30 作戦前夜

決行はなんと一週間後という連絡が来たのは、ヒースクリフに話を持っていった僅か三日後のことだった。早いに越したことはない。デカイ組織だからな、もう少し先になると踏んでたが。

 

それまでにやっておくべきこととしては、まずはアイテムの拡充と、武装の選定、スキル上げ。

 

そして、他の連中に対人戦を叩き込むことだ。

 

今回参加予定になっているのは俺達と血盟騎士団、聖竜連合、風林火山、商工会ギルド《ルイーダ》の攻略組連中(要はエギルが所属するギルド)の計五十二名。ボス討伐のレイドでさえ四十二名という大所帯だというのに、今回はプレイヤーが参加を呼び掛けただけの集まりでこれだけ集合するとは……。自分が声かけておきながらビックリした。

 

その中で対人経験を積んだことがあるのはどれくらいいるだろうか? まっとうなプレイヤーなら腕試しや生死をかけたデュエルしかないだろう。実際、俺の知り合いはそうだった。加えて頻度はそう多くない。あくまでも敵はこのアインクラッドであって、プレイヤーを相手として鍛錬するよりそこいらのMob相手に剣を振った方が百倍タメになる。

 

で、そのデュエルだが実際の所結構人気だったりする。なにせ血盟騎士団は闘技場を所有しており、そこでのデュエルでプレイヤーを競わせて報酬を与える半面、観戦料でしっかり稼いで経費に充てているのだから。お陰で言葉通りの決闘ではなく娯楽として浸透していった。街中でデュエルしようものなら野次馬が集まってくる。

 

ここにいるプレイヤーならデュエルを経験してない、ってことはないはずだ。攻略組は挑まれる側の存在で、実力者として名が通っていればいるほどデュエルを申し込まれる。ヒースクリフやリンドといった大ギルドのリーダーとなると、そもそも人前に姿を出さなくなるので見る機会は少ないが、俺達の様に少数で顔も割れていると申し込まれることはしょっちゅうだった。

 

「勘違いすんなよ。分かってるだろうが、デュエルと殺し合いは全く別だからな」

「勿論。と、言いたいけど……」

「ま、その反応が普通だな。いきなり言われても分からんよな」

 

殺し合いなら普段からしてる、モンスター相手にな。高レベル帯のボスなんかはまさしくそうだ。肌がひりつく様な緊張感がそれを教えてくれる。

 

俺が言っているのは、人間同士。

 

「決まったパターンでは動いてくれない。アイテムだって使われる。戦う場所は連中のアジト。殺す前の最後の一線。ボスとは違うところなんて上げてちゃキリが無い。だから身に染みてもらう」

「どうやって?」

「デュエルを延々とする」

 

キリトと徹夜して話し合った―――もとい説得した結果だ。今まで経験したことのない感覚の中で戦うことは誰だって怖いし、攻略組が誰よりもそれを知ってる。少しでも慣れてもらわないと、いくらボス戦で戦えていた英雄だって腰を抜かすかもしれない。今度はそういう戦いだ。

 

まあ俺達は幹部連中との交戦経験だってあるんだが、それはそれ。きっと温泉騒動の時も連中は本気じゃ無かったはずだし。

 

「室内の広い場所を貸し切って、お互いにデュエルを延々と繰り返す。クラインとエギル達も呼んでな。色んな武器を持つ奴らと戦って、プレイヤー同士で戦うことに頭を切り替える。何もしないよりは良いし、Mob相手にスキル上げするよりははるかに効率が良い。まぁ、打倒ラフコフ強化合宿とでも思ってくれ」

「合宿ってことは泊まりかしら?」

「そうなるな。つっても、大ギルド同士の定例合同訓練に混ぜてもらう形になるだけだ」

「ああ、そういうこと。ゲスト扱いで?」

「ゲスト扱いで。今までもたまーに中小ギルドを招待してはデュエルしてたらしいし、今更俺達が混ざっても不審な目は向けられないはず。ちょっと話題になるかもしれないが」

「ね」

 

俺もいい機会だから色々と試させてもらうつもりだ。ユニークスキルについては切り札として取っておくつもりなので今回は見せない。というかそもそも練習の必要がないスキルだし。

 

普段では味わえない刺激が待ってると思うと、不謹慎だが楽しみで仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

宿の一階で集合した俺達は一先ず血盟騎士団の本部へ足を運んだ。彼らから招待されたクチなので、一度合流する必要があった。

 

「では、頼んだ」

「はっ」

 

正門で待っていたのはヒースクリフと二十人近いプレイヤー達。どうやら団長殿は今回参加されないらしい。相手が相手だからな、ボス戦とは違って危険だし、パターンの決まった敵じゃないから何が起きるか分からん。

 

先導する幹部らしき男と、精鋭達に囲まれながら歩く。アスナは知り合いも居るみたいで楽しそうだが、人付き合いの無かった俺達は肩身が狭い。そんな俺らを見かねてか、一人の細身の男が話しかけてきた。

 

「どーも」

「お、おお。どうも」

「クラディールだ。団内の要人護衛をやってる」

「アイン。ま、よろしく」

 

結構な高身長、長髪でかなり不健康そうな顔をしてる奴だな。武器は両手剣か、背中じゃなくて腰に装備するって事は結構筋力に自身のあるタイプとみた。護衛と言う割には盾を装備してないが大丈夫なのか? 独特のスタイルでもあるのかもな。

 

「あんたらとは一回で良いからデュエルしてみたかったんだ。ボス戦常連のプレイヤーはどんなもんかってな」

「血盟騎士団にも数人居るだろ? ヒースクリフとか」

「団長たち幹部は忙しいのさ、下々の相手なんざしてくんねぇよ」

「そりゃご愁傷さま。後で一言ぐらいは添えてやる」

「くかか。そりゃ楽しみだ」

 

差し出された右手をとる。ぶっきらぼうな性格だが、そこまで悪い奴じゃなさそうだ。ちょっと危ない雰囲気は感じるが。

 

「ところでよ、前から聞きたかったんだが……結婚ってのはステータス合算なんだろ? やっぱ違うもんかね?」

「まぁ、そうだな」

 

興味本位、と言った様子を装ってクラディールが小声で話しかける。またか、と思った俺は適当にお茶を濁した。

 

笑う棺桶のプレイヤー一人が適当に捕まえた女性プレイヤーを麻痺とロープで縛って拘束し、一方的に結婚するというとんでもない事件があったことは記憶に新しい。標的になった女性はソロで活動しており、レベルもそこそこ高かったのが原因だろう。装備やアイテムも充実していたことから、格好のエサだった。

 

結婚システムがもたらす恩恵は計り知れない。ストレージの共有、ステータス合算はSAOでは反則技みたいなものだ。誰だって手を伸ばすが、そこに至るまでの過程やその後のリスクを考えると、踏み切れるのは極僅かだろう。だからこそ俺とシノン、キリトとアスナみたいな既婚者は星五レアモンスター並に希少で、トッププレイヤーとして名が知れ渡っているわけで。

 

尚、既婚者は全体の一%にも満たないとか。今のアインクラッド総人口がおよそ七千から六千弱だから、多くても既婚者は七十人。ペアにしておよそ三十五組。この数字を更に下回ったのが実際の既婚者達で、その中でもさらにレベルごとで活動帯が変わってくる。攻略組では俺達二組と、居ても三組程度だろう。強くなれる反面、何時死ぬかも分からないのに愛するなんてことがどれくらいの人間にできるのか……ってのが文屋の意見だっけ。

 

閑話休題。

 

兎に角、結婚のメリットに魅入られたそいつは上手い具合に女性プレイヤーを縛って、利益だけを手に入れた。そこそこ良いステータスに、倍加したアイテムスロット。そして倫理コード解除。強引に結婚した結果、美味い汁だけを吸った。

 

女性プレイヤーは返信が無いことを怪しんだ友人から救出され、笑う棺桶のプレイヤーは復讐にあい殺される。その後、女性は自ら命を絶ったそうだ。

 

この一件は悲惨な事件として周知される反面、結婚システムの優秀さを立証したような事件だった。システムの第一人者だからたまにこういうことを聞かれるんだが……そろそろ止めていただきたい。

 

俺のそっけない反応がつまらなかったのか、クラディールはそれ以上触れてくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

早速始まった訓練で、午前の部を全勝で終えた俺はドリンクを飲みながらシノンを探していた。なんかアスナに引っ張られて女子の群れに突っ込まれてたから、向こうの方だろ。

 

途中で見知った顔を見つけたので声をかけた。

 

「クライン、エギル」

「よ、久しぶりだな」

「Hello、元気してたか」

「おう」

 

久しぶりの友人達は以前よりもたくましく感じた。事実レベルも結構上がってるだろう。武器も変わってるし、防具もよりしっかりした作りの鎧を着込んでる。二人を通じて知り合ったそれぞれのギルドの面子も顔つきが変わったように見えた。

 

「さっきの凄かったなー」

「そうか? 速さで負けるわけにゃいかんからな、ちょっとだけ頑張った」

「あれでちょっとかよ……俺見切れるかな」

 

俺もシノンも敏捷値には結構割り振ってる。更にスキルで上乗せしているので、速さだけなら全プレイヤーでも上の方にいる、はず。壁走ったり三角跳びで大型モンスターの頭をとったりなんて毎度のことだ。勿論、プレイヤー相手にも十分通用する。

 

クラディールとも一戦やってみたが、全武器の中でも重たい部類にある両手剣で俺を狙って斬るのは至難の業だろう。時々置く様な振り方でダメージを貰ったが、終始俺が圧倒する形で決着をつけた。本人はかなり悔しそうだったので、ちょっと満足してる。

 

二人はと言うと、俺達が来た時は見かけなかったので、途中から合流する形で参加したんだろう。そこで俺の試合を見たってわけか。

 

「キリトはどうだった?」

「アイツも大概だな。けど、武器破壊禁止って言われてたから結構やりづらそうにしてたぜ」

「あー、想像つくわ」

 

キリトは反応速度がケタ違いに速い。お陰で相手より遅く動いた癖に何故か自分が攻撃を貰っている、武器を破壊されるというえげつなさ。しかも筋力高めで、武器の攻撃力と重量が見た目以上にあるもんだから火力も出る。加えてアスナと結婚してからは、彼女の速度が加算されているので攻撃特化のオールラウンダーと化した。俺とは違う意味で反則じみてる。

 

談笑しながら通路を歩く。だんだんと黄色い声が大きくなってきたので目的地は近そうだ。二人はこれかららしいので、丁度良い別れ道で脚を止めた。

 

「……その、悪い。こんなことに付き合ってもらって」

「んあ? 気にすんな。どうせいつかはやってたことだ」

「エギルの言うとおりだ、それに速いに越したこたぁねえ」

「だな。じゃ、また」

「おう」

「またな」

 

ニッと笑ってお互いに振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間はあっという間に過ぎた。毎日が宿との往復で、朝から晩まで槍を振るい続けたわけだが……時間をかけただけはあったと思う。参加者が曖昧にしていた自身が装備していないソードスキルのモーションも熟知出来たのだから、やった甲斐は十分にあったと言える。

 

それでも、と不安が拭えないキリトは俺に付き合ってほしいと声をかけてきた。出来ることはやっておきたい気持ちもわかるので、二時間だけと条件をつけて汗を流している。

 

「この!」

「ふんっ!」

 

振り下ろされた剣を払い、石突で喉元を突く。それを滑らかにかわしながらさらに一歩踏み込んできたキリトは《体術》スキルをゼロ距離で発動させて俺のわき腹を捉えた。速度の乗った一撃は重たく、踏ん張りきれずに壁まで吹き飛ばされる。

 

圏内の暴力行為は全てシステムが防いでくれるが、発光エフェクトや衝撃までは防いでくれない。今のは結果的に痛みやダメージは無かったが、圏外なら文句無しの一発だった。

 

「今のは良かった」

「だろ? でも明日は控えるよ。あそこまで踏み込むなら必殺じゃないとな」

「そうだな、それが良い」

 

敵は非道虐殺当たり前の連中。地の利も向こうにある。何が起きるか、仕掛けてあるか分からないなら不用意に近づくのは得策じゃない。数合だけ打ち合って実力不足と判断したら、その差を何で埋めてくるのか。想像もつかない。

 

何をしてこようが卑怯な事じゃない。向こうも必死だ。だから、その隙を与えないように制圧する。抵抗の意思を削ぎ落とす。動く前に潰す。必要であれば、躊躇わない。殺す。

 

メンバーはどれだけのシーンを想定しているだろうか? 自分が最悪人を殺す覚悟まで持っているのか?

 

キリトに問いかけた。

 

「……わからない」

「そうか」

「でも、本当にそれしかないのなら俺はやる」

「できんのか?」

「やるさ。後悔や償いは後から幾らでも出来る。でも死ぬのは嫌だろ? 妹に言うこともあるし、さ」

「結婚しましたってか?」

「ちげぇよ!」

 

そうなったら、きっとコイツは表に出さずに苦しむだろう。逃げるのがヘタクソだからな。ただ今の言葉を聞いてそんなに心配はしてない。

 

死にたくない、って気持ちは強い。醜さもあるし、汚いけれど。かつての自分が諦めずそうだったように、力をくれるし何かを引き寄せる。

 

「うし、もう一頑張りするか」

「……いいぜ」

 

俺が抜いた武器を見てキリトが目を変える。

 

問題ないとは言ったが、少しくらいは慣らしておかないとな。お互いに。

 

ユニークスキルを。

 

 

 

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