キリトが俺にプレゼントしてくれる槍は《アイアンスピア》。かなり安直なネーミングだが、序盤なんてこんなものだろう。クエストは引き続き《ホルンカ》で受けられるそうなので、移動の手間が省けて助かる
でも、なんでだろう。すごく嫌な予感がする。
「ほれ、あそこ見てみ」
「ん……あれは、武器屋じゃん」
「そう、昨日挑戦したクエスト《森の秘薬》っていうんだけどな、それをクリアして尚且つ槍を装備したプレイヤーがパーティにいると発生するんだ」
「よく見つけたなー、それ」
「βテストの時は臨時でパーティ組んでたんだけど、面子の中に槍使いがいたんだよ」
「あー」
至って普通の理由だな、それ。
クエストランプが武器屋のおっちゃんの頭上でクルクル回っている。槍使いがキーになってるなら、俺が話しかけないといけないんだろう。でもなんて言えばいいんだ? ………定型文でいいか。
「すいませーん」
「……ん、おお! 旅のお方じゃあねえですか! 聞きましたぜ、アガサちゃんの病気を治す為に森の魔物を倒したそうで!」
「アガサ?」
「ほら、病気にかかっていた女の子だよ。奥の部屋にいただろ?」
「あー、あの子か」
「ここは一つ、俺のお願いも聞いてくれやしませんか?」
「ええ、なんでしょう?」
「助かりますぜ! ここ最近の出来事なんですがね―――」
おっちゃんが懇意にしている鍛冶職人がいるらしいが、大量の発注がいきなり来て大忙しで、寝る間も惜しんで鉄を打ってるらしい。ただ、締め切りが近付いているにも関わらず素材が底をついてしまったそうだ。自分で採りに行ければいいが、必要としている素材は魔物が溢れる森の奥深く。とても鍛冶職人も武器屋のおっちゃんでも行けそうにない。仕方ないので自分で行くことを諦めた鍛冶職人は変わりに行ってくれる人を探している………。
というわけで、もう一度西の森まで行って、奥深くに存在するであろう素材を採集して戻ってくるクエストだ。
嫌な予感の正体はこれだったか。またしてもあの《リトルネペント》を見なければならないのは憂鬱だが、これも鍛冶職人とおっちゃんの――もっと言えば俺自身の為。割り切って、クエストを受ける事にした。
「くそ、このクエストまでコペルとディアベル達に手伝ってもらえばよかった……」
「これはそこまで難しいクエストじゃないから大丈夫だって。素材は楽に手に入るし、アニールブレード持ちがいる前提だから」
「はぁ………さっさと終わらせようぜ。今日中に迷宮区前の街に移動したい」
「そうだな」
武器屋を後にして、またしても西へ進路をとる。たった一往復しかしたことのない道だが、何度も通ったような錯覚を感じる。出来れば二度とレアドロップを探すクエストは受けたくない……。リアルラックは最悪だからな。
あくびをしながら最低限の整備がされた道を歩く。身体をほぐす様に首を傾けたり、腕を伸ばしたりする。実際に筋肉があるわけじゃないから気持ちよくないし、準備運動不足でおきる怪我をするわけでもないから、本来の意味は無い。ただ、つい昨日までは起きるたびにこうして筋を伸ばしていた――習慣なんだ。たったの一日二日じゃ変えられそうもない。
そう、まだ一晩明けただけなんだよな……。詩乃、どうしてっかな……。ナーヴギア外さなきゃいいけど。
「お」
「ん?」
「敵だ」
「……ああ、ただのザコか」
「一日で5もレベル上がったから苦労はしないだろうけど、死ぬんだからな」
「分かってるって」
現れたのはおなじみの青イノシシ。名前は……いいや、メンドクサイ。βテストからダメージを貰ったことのない相手だ、ザコと言って差し支えない。レベルもこいつ相手なら安全圏だ。
事実、俺達はソードスキル一撃で屠った。
「素材アイテムのドロップは嬉しいけど、経験値とコルは寂しすぎるよな」
「仕方ないさ。フィールドは元々稼ぎに向いてない。パーティ組んでたら尚更」
「やっぱ最前線だ」
「そう簡単に潜れなくなっちまったけどな」
「なぁに、レベルを上げればいいんだよ。装備が整ってたら尚良し」
「そんなの、どこのダンジョンでも言える事だろ」
バカみたいな話、俺はスリルを求める癖がある。料理に合いそうにない調味料を入れるものから、ヤバいやつは命が掛かるような危ないものまで、ピンキリだ。別に死にたがりではない。
今の状況にスリルもクソも無いけど。まぁ、昨日の実つきが現れた時は中々楽しかった。……こんなの詩乃には言えない。
こんな仕様になりはしたけど、ゲームであることに変わりは無いんだ。余裕があるうちに楽しんでおきたい。SAOほどゲームとして完成している作品は殆どない。手も込んでいるし、細かい。何より現実と大した区別がつかないほどリアルだ。良い意味でも悪い意味でも歴史に名を残すだろう。
悪い意味――デスゲームか。まぁ、
「行こうぜ。どうせ倒すなら強いMobの方がウマい」
「スキル上げにはなるだろ? わざわざ避けて通ったりなんてしないからな」
「おう」
スキルの熟練度を上げるには、今の所一つの方法しかない。スキルに関連する動作をひたすら行う事だけ。《片手剣》なら片手剣を振り、《槍》なら槍を振る。《投擲》なら物を投げ、《盾》なら盾を使ったガードをする。《鍛冶》なら鉄を打ち、《料理》なら何度も飯を作ること。今後レアアイテムで、スキルポイントを幾らか上昇させる物が出てくることも考えられる。だが、そうなったとしても反復して行う方が得られるものは多いだろう。実戦は最たるものだ。
βの頃は、レベルが低いMobと遭遇した場合はなるべく急所を避けるようにチクチク攻撃して、スキル上げを行っていた。強い奴と戦えばそれなりに長く戦うので、効率だけを見るなら悪いが、素振りよりはいくらかマシと思ってあくびしながら槍を振っていたっけ。
キリトの《索敵》に引っかかる事もあったが、目の前に出てこない限りは無視して森へ急いだ。
……完璧にどうでもいいが、モンスターの事をMobと言うらしい。いままでモンスターと連呼していた自分がちょっぴり恥ずかしかった。
つい数時間前まで実つきが寄せ集めたネペントを狩っていた場所を通り過ぎて、昨日よりも森の奥へ入って行く。やはりというか、現れたネペントはキモかったのでひたすら一撃でぶちのめす。
「オラァ! こっちくんな!」
「すっかり嫌いになりやがって……奥にはもっとデカイのいるんだぞー」
「すっごい聞きたくないこと聞いてしまったー!?」
先に教えてくれてありがとうお陰で動揺せずに済んだよ。これで満足か?
耐久値を完全回復させた槍は切れ味を取り戻し、スパスパとネペントの幹を切り裂いていく。俺は色々と言っているが、こいつらザコであることに変わりは無い。5レベルにもなっていれば、群れて囲まれない限りは初心者でもまず負けない。
この程度、俺達ならノーダメージ。
「ふぅ……でも奥に行かなきゃクエストクリアできないわけだし、行くしかないか」
「なんでこいつらが嫌いなんだよ? もっと気持ち悪い奴らはいくらでもいるじゃないか」
「なんとなく」
「………」
もう見たくないね。植物系は全部こいつらのせいで嫌いになりそうだ。
クエストをこなしているわけじゃないから敵を探す必要も選ぶ必要も無い。道を外れることなく真っすぐ奥へと進んだ。景色は相変わらず、生息している植物も変化なし。どこからがキリトが言う奥になるのか区別がつかないが、肌で何かが変わったのを感じた。
早速木陰から大きな影がぬっと出てきた。
リトルネペントよりも更に一回り大きな植物系Mob。大きな口、垂れるよだれ、倍に増えたツル。名前は……《ラージネペント》。
本当に出てきやがった……。言った傍からこれかよ。
「でかいだろ?」
「デカイな」
ったく、自分よりデカイと見上げなくちゃいけないから嫌いなんだよな。見下された気分になる。偉そうにしているだけのカスに負けたように見られてイライラする。ガキだからって舐めて掛かる奴が後を絶たない。いつもいつもカモを見つけた詐欺師みたいにニヤニヤしやがる。返り討ちにしてやったけどさ。
………あー、嫌なこと思いだしてきた。
「八つ当たり確定」
「は?」
突進単発技《スパーク》で現れたネペントを一突き、一撃で倒す事が出来た。どうやら小さいネペント同様に、こいつらも幹にあたる胴体部分が弱点らしい。それさえ分かれば十分だ。狩りつくしてやる。
「右半分は任せた。俺は左半分を斬る」
「ここはさっきまでの森に比べて木が大きいし、木の間隔が狭い。長物には不利な場所だから気をつけろよ」
「おう」
言われてみればそんな気がしなくもない。気のせいで済む程度だが、一度クエストを受けたキリトを信じて《リア・サイズ》の様に振り回す技や行動は控えよう。でもまぁ、見たところ実つきに相当するタイプはいないみたいだから、縦に振るのは構わないよな? キリトも《バーチカル》を使ったりしてるし。
よし、やるか。
「これがクエストアイテム?」
「ああ。《ラージネペントの蔦》だ。あともう一つ、《薬草の雫》がそれなりに必要になる」
「でもこれ、普通の生産系アイテムだぞ?」
「だから言ったろ? 簡単だって」
……確かに、クエストの受注に関係なく、倒せば手に入れられるアイテムを一定数集めるだけなら簡単だ。俺はてっきり昨日の胚珠を探すよりは楽、って意味だと思ってた。
「もう一個の方は?」
「奥にある湖の水を《薬草》で掬うだけ。そうすれば《薬草の雫》ってアイテムに変わる」
「ホント……楽だなぁ」
拍子抜けだよ、まったく。これだけで非買の武器が手に入るんだから。《アニールブレード》を手に入れる為に頑張ったプレイヤーに申し訳ないぐらいだ。
……いや、でも槍使いにとってはこっちが本命なんだよな。どっちが楽とかメンドクサイとか、上手く言えなくなる。
いいや、俺にとって楽に手に入るんだからそれで。
「どれだけ要るんだ?」
「100個ずつ」
「…………ほう?」
「入手難易度が低い代わりに、手間がかかるんだよ」
《ラージネペントの蔦》は一体あたり、2~4個手に入る。倒した敵全てが最大数ドロップしてくれたとしても、後25体倒さなければいけない。実際にはそんなことはありえないので50体は狩る必要がある。
《薬草の雫》も100個って事は、100個の《薬草》を手に入れて、100回《薬草》で湖の水を掬わなくちゃいけない。
「なんて作業くさいんだ……地味すぎる」
「ソロよりマシだろ? 俺も手伝うから、さっさと済ませようぜ」
「……ああ」
なんてメンドクサイ……愚痴ってもアイテムが集まるわけでもないし、奥の湖を目指しながら狩りまくるしかない、か。
アイテムストレージをクルクルと指先で回して遊んでいた俺はふと気付いた。
《薬草》ってなんだ?
やったことは無いが、日本ではゲーム黎明期から続く国民的なゲームが幾つか存在し、その中のとあるRPGにおいて、「やくそう」はとてもお世話になる回復アイテムらしい。某龍の冒険だったり、某小さなモンスターを使役して世界を廻ったり、自分の何十倍も大きなモンスターを狩るハンターだったり。ゲームをやったことのある人なら一度は聞いたことがあるはずだ。
だから違和感を持たなかった。だが、SAOでの回復は基本《ポーション》系の薬品を使う。ファイナルなんたらの様に緑色のドリンクの事だ。MP、TPのようなゲージは存在しないので用途はほぼ回復一択。解毒においても《ポーション》が一般的。NPCのショップにもあれば、ダンジョンの宝箱、Mobのドロップが主だ。生産系スキル《錬金》で材料から作り出すなどの方法もあるが、《薬草》というアイテムを使うなんて聞いたことがない。
葉っぱ系のアイテム全般が《薬草》なのか? それとも、俺が知らないだけで実は存在していて、使用者が極端に少ないとか?
「キリト、《薬草》ってなんだ?」
わからないので聞くことにした。わりと大事なことかもしれない。
「あーっとな、湖につけば分かるよ。だから、先にドロップアイテムを集めよう」
「釈然としねえけど……そうしよう。狩りは得意だ」
「大好きの間違いなんじゃないか?」
「まさか。嫌いだよ、得意なだけだ」
「どう違うんだ、それ……」
「そうだな……例を挙げて見よう。冗談半分に「ばーか」とか「死ねッ!」って言うのと、銃やナイフを突き付けながら「死ねッ!」って言うのは別だろ?」
「まぁ、確かに。生卵とゆで卵みたいなもんか」
「それは違うと思う……」
話が逸れたが、着けば教えてくれるとのこと。とにかく今は《ラージネペントの蔦》を100個集める事に集中しよう。結構簡単に手に入るっぽいし、苦労はしないはず。さっき倒した分を差し引いて……残り72個か。頑張ろう。
「これで100個か、直ぐに集まったな。まだ30分しか経ってないぜ」
「さっきの群れで結構稼げた。後は《薬草の雫》だけだ」
「湖まで案内頼む」
「ああ」
あっ……と言う間に100個回収しました。最初聞いた時はメンドクセェーって思ったけど、割と直ぐだったな。これならソロでも一時間かからずに集められる。後から受けに来るであろうプレイヤーの為に情報提供でもしようかな? 稼げそうな予感。
………止めた、向かないし、そういうのは鼠の仕事だ。
「どうしたんだよ?」
「稼げそうな方法を思いついたけどやっぱ止めた」
「ふうん。…………お、あれだ。着いたぞ」
「どれどれ」
キリトが指さす先には大きな池――もとい湖が木々の隙間から見えた。開けた場所なので太陽の日差しも入ってくるし、Mobもここら一帯には見当たらない。対岸や草の陰にはウサギとかリスもいて、高価な絵みたいな風景だ。テント張ってBBQとかイイかもしれない。すっげぇ台無しの予感。
どこを見ても綺麗だが、俺の目を奪ったのは小人サイズの可愛い生物だった。
「……妖精?」
「ああ、ここは《
「てことは……もしかして、これって《
「その通り。俺が知っている中じゃ一番簡単な奴だ。βには《アニールブレード》は要らないけど、この《妖精の試練》の為に昨日の《森の秘薬》クエストを受けたヤツがいるくらいさ」
「まさか一層にあるとはなぁ……」
アインクラッドには様々な種族が生活している。上の層にはエルフ、ゴブリン、ドワーフ、龍人、魚人などなど、後半は想像だがそんな奴らがいる。その中には妖精も含まれる。妖精は俺達プレイヤーにとって非常に頼りになる友好的な種族だ。
俺が思い浮かべる妖精と言えば、西洋の昔話に登場するような悪戯ばかりする妖精と、羽根を生やして飛び回る優雅で可愛い妖精の二種類。SAOでは後者がこの100層のどこかで暮らしている。
彼女達の住処である《妖精の溜まり場》を見つけるのは非常に困難とされ、クエストとは全く関係のない山奥にあったり、逆に幾つものクエストを順番に受けた上である特定の場所に特定の時間訪れるなど、難易度と条件は様々だ。
しかも見つけただけでは妖精の協力、恩恵、応援を受ける事はできない場合が殆どで、そこで更にクエストを受ける必要がある。勿論、そのクエストも通常とは比較にならないほど難しい。
βで俺が発見、挑戦した《妖精の試練》は2つ。六層と十層だった。だが、コペルに聞けば五層と六層だと言われた。同じように、三層で受けたというプレイヤーもいれば、八層と十層で受けたというプレイヤーもいる。
このことから、通説は――
① 各個人によって受けられるものと受けられないものが存在する。
② 全ての層に存在し、誰でも受けられる。
――の二つ。だが、発見するのは偶然なので発生条件を確定させるのは不可能。故にどちらが正しいのか、もしくはどちらも間違っているのか、βテスト終了まで判断をつけられなかった。
今の状況を見れば②が正しいと思うだろうが、偶然にも俺とキリトはこの一層の《妖精の試練》を受けられるプレイヤーだったと考える事も出来る。ある程度進んだら、協力者を募って試してみるのもいいかもしれない。
このとおり、かなりの難易度を誇るが、その分得られるものも大きい。ワンオフのレアアイテムだったり、その層では絶対に手に入れる事の出来ない上層のレアアイテムだったり、情報だったり、スキルだったり……。要するに、凄い見返りがあるって事だ。俺が手に入れたのは転移結晶10個と、十五層相当の槍だったっけ。
この異常なまでの難易度と、ゲームバランスがひっくり返りそうなほどの報酬を得られることから、βの頃は《
「この《妖精の溜まり場》は先に《森の秘薬》クエストをクリアしないと発生しない仕組みになっている。ゲームを始めたばかりのこの時期、《森の秘薬》クエストだけでもかなりの難易度だろ? 一層って事も含めて考えれば、ここはやっぱ《妖精の溜まり場》だと俺は思う」
「なるほどなぁ……」
夜行性の出現率低めMobからレアアイテムをドロップさせて尚且つ槍を装備してクエストを受ける。確かに序盤では難しい。
「んで、どうするんだ? 《薬草の雫》もそうだけど、《妖精の試練》も受けるんだろ?」
「ああ。ただ、ここに限っては《妖精の試練》は無い。これもやっぱり一層だから、だろうな。何も苦労せずに妖精からレアアイテムを貰えるはずだ」
「マジかよ……すげえな! 早速貰おうぜ!」
知らずに走りだした俺は湖の岸で止まって、飛びまわる妖精に声をかけた。返してくれたのは金髪で長い耳の美女系妖精。ぐらまー。
「あら? 珍しいわね、人間なんて」
「そうなのか?」
「ええ。昔はそうでもなかったんだけど、いまじゃ周りの森には魔物が住みついてしまったから、誰も来なくなったし、私達も容易に出られなくなったの」
「? 飛べばいいじゃないか」
「高く飛びすぎると、風に飛ばされてしまうの」
あー、そうだよな。小さいから軽いんだな。可哀想に……。
「こっそり森を通らないのか?」
「森の中を通ろうとすれば、蔦を振り回すおぞましい植物達に巣まで連れていかれてしまうわ。そのあとは死んだ方がマシと思えるような辱めを受けるって言われているの」
辱め……蔦で、妖精にあんなことやこんなことを……。
「変態」
「うぐっ……すまん」
「あはははは! 冗談、冗談よ」
「は?」
「アイン、妖精は自分達の住む場所から離れると死んでしまうんだ」
「あら、そっちの可愛い顔した坊やはよく知っているのね。坊やの言うとおり、私達は住処――私で言うと、ここの湖から離れると生きていけない。ある場所にしか存在しない植物が出す匂いや蜜、呼吸で生まれた空気に満たされた空間じゃないと直ぐに消えてしまう、それが妖精よ」
「そう、なのか」
生まれた場所で一生を過ごさなければならない、か。どれだけ嫌なことがあっても、外に憧れても、離れられない。その気持ちは凄くわかる。だからこそ、今度は本気で思った。
「……悲しいな」
この言葉には、キリトも妖精も黙ったままだった。
「……そうでもないわ。こうして偶に訪れる人間がいるもの」
「まあ、アンタらがそう言うなら、いいんだけどさ。寂しくないのか?」
「……じゃあ、坊や達の色んな話を聞かせてくれない?」
「なんだ、そんなことでいいならいくらでも話してやるぞ。まぁ、流石に丸一日は無理だけど……いいだろキリト」
「そうだな。少しだけ、な」
「じゃあ、まずは何を話そうか―――」
《ホルンカ》に戻ったのは、空が真っ赤になる頃だった。ついつい話が盛り上がって話し込んでしまった。話題はもっぱらSAOの事だけ、それでも時間を忘れるぐらい楽しかった。あの妖精にはまた会いに行きたいもんだ。
肝心のクエストもしっかりと終え、無事に《アイアンスピア》を手に入れた。切れ味、威力共に申し分無し、ぐっと戦闘が楽になる。ゆっくりと重さに慣れていこう。
そして俺達が妖精から貰ったレアアイテム。
「これが……ねぇ」
「いかにもって感じの果物だな」
「キリト、お前知ってたんじゃないのか?」
「知ってたさ。だけど、ここまで禍々しい雰囲気を出してはいなかった」
それは一風変わった果物だった。大きさはリンゴぐらい、ただし、色は形容しがたいほどどす黒く、正直食べたいとは思わない。あの妖精がコレを渡してきた時は流石に動揺した。要らない、なんて言えるわけも無いので頂いてきたが、本当にこれ大丈夫なんだろうな?
「んで、食ったらどうなるんだ?」
「スキルポイントが100手に入る」
「ハァ!? 100!?」
「そ、凄ぇだろ?」
「凄過ぎだろ! ………大事にしよう」
あるかもしれないなー、ぐらいに思ってはいたけど、まさか本当に存在するなんてな。しかも開始二日目にゲット。βならこの凄さがきっと伝わるはず。
各スキルの上限は1000。この果物――《黒リンゴ》を使って手に入るスキルポイントは100。つまり、コレを食べるだけで十分の一は苦労せずに稼ぐことが出来る。ただし、こんな序盤では使い様が無いし、よく知らない奴からすれば希少価値すら理解できないかもしれない。
実にいやらしいな。
「さて、どうするキリト?」
「行こう。迷宮区に少しでも近づきたい」
「だな」
これが現実なら、世話になった人に挨拶して回るが、時間が無いしきっと覚えていない。NPCだらけだった《ホルンカ》も、今では戦う決心をしたプレイヤーで賑わっている。攻略に踏み切ったプレイヤーが増えた証だが、言いかえれば先を進むプレイヤーに遅れていることにもなる。レベルで負けているとは思えないが、迷宮区から遠く離れている現状は焦りが出る。
攻略したい。先へ行きたい。他人の背中なんざ見たくない。
俺達はいつの間にかそう考えていた。
ゲームに染まりつつあるのか、それともゲームに抗い始めているのか。始まったばかりの今、俺には分からなかった。
死なない。生きて帰る。それだけでいい。
それはきっと、一万人全員に言えることだろうな。
なぜこんな展開になったのやら……
アニメ始まったし、はやくGGOに入りたいな