双槍銃士   作:トマトしるこ

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 ひさしぶりにゆったりと書けました。質は変わりません。

 あと一つだけ。お願いがございます。
 「phase 7」でのアンケートありがとうございます。ですが、もう締め切っておりますので、感想や活動報告への要望はお控頂きますようお願いいたします。

「やった! 感想とコメきてるぞ!」

「もうアンケート締め切ってますよ!?」

 と上げて落とされてますので(笑)



phase 9 騎士

 

 ボス攻略の際、レイドを組むことが基本とされている。一つのパーティに六人、そしてパーティが八つ集まった形がレイドだ。

 今回の第一層ボス攻略に集まった人数は四十五人。基本に習って六人パーティを組んだ場合、どこかが少ない人数でパーティを組むことになるわけだが、アスナの反対によって、六人パーティが三つ、五人パーティが三つという現状の最善策をとらずに、六人パーティ五つ、三人パーティ一つという異色のレイドが完成した。三人パーティが俺達である、というのは言うまでも無いか。

 

 連携は集まったプレイヤーの中でも上手くとれている方だろうし、レベルもトップに近いはず。人数の差は俺とキリトの経験や実力、レベル差によるゴリ押しで通してやる。

 

 しかし、というか当然のことなんだが、俺達が相手をするのは取り巻きである《ルインコボルド・センチネル》というザコに決まった。ザコと言っても迷宮区でうろついているコボルドよりは強いので注意が必要だ。勝てるという自信はあるが、確実に勝てるという保証はどこにも存在しない。

 

H隊と名付けられた俺達三人は最後の確認を行っていた。

 

「メインのA隊とB隊がローテーションを組みながらボスを相手して、C~H隊は出てくる六体の取り巻きを倒す。ただし、こいつはボスのHPが減るとまた出てくるから注意が必要だ」

「このセンチネルには突きが有効だ、だから、俺がサポートに入って武器攻撃で敵の耐性を崩す。そこをアスナとアインが突きで攻撃する。狙うのは―――」

「首。鎧と兜の隙間を正確に狙う、よね」

「ああ」

 

 一つの隊が二体のセンチネルを相手にすることは今回の作戦ではありえない。なので、余裕を持って戦えるし、集中できる。もしそんな状況になったら相手にするだけだ。あんなの一人で十分だろ。

 

「とか考えてないか? アイン」

「よくわかったなー」

「ダメだからな」

「わーってるよ」

 

 清潔な布で《アイアンスピア+5》の石突きから穂先まで綺麗に拭っていく。システムによって保護されているため、泥が付いたり、使いこんだ為にグリップが滑りやすくなったりという事は発生しない。だが、これも気分だ。命を預ける相棒をずさんに扱うことは気持ち的に良くないし、そんなことでは武器に見捨てられる……というオカルトだってある。日本は八百万の神がいるとされているから、あながち間違いではないかもな。

 まぁ、神様なんていう都合のいい偶像を信じたりはしないが。

 

 余談だが、刃こぼれは起きる。武器の不調を目に見て確認できるため、結構便利でありがたい。現に、ボス部屋までの移動で起きた戦闘で使った短剣はボロボロで少しも切れそうな雰囲気を感じない。ドロップ品だし、仕方ないか。

 

 じーっとボロボロの短剣を眺めていると声をかけられた。

 

「アイン君、短剣使うのね。知らなかったわ」

「サブアームには丁度いいだろ。動きの邪魔にならないからな」

「βテストの時からコイツ、面白そうな武器とか見つけたらすぐに使いたがるんだ。短剣はその時から使ってるんだよ」

「最初は槍じゃなくてコレ使ってたんだ。まぁ、乗りかえたんだけど」

「なんで? 私的には、槍よりも短剣の方が慣れてるって感じがしたし、動きも良かったように見えたんだけど」

「そりゃそうだ、ずっと使ってたんだからな。でもこれでいいんだよ。嫌ってぐらい慣れてはいるけど、あんまり気が進まないんだ」

「………変わってるわね」

「今更気付いたのかよ」

 

 この短剣じゃないが、結構お世話になった。

 

 握るたびに思い出すよ、肉を切り裂く感触を(・・・・・・・・・)、な。

 

 ………やめやめ。今は集中しなくちゃいけない時だ。

 

 武器と防具のメンテはとっくに終わっている。アイテムで欠けているものが無いか指さし確認でチェック、異常なし、と。

 

「OKだ」

「私も」

「じゃあ連絡してくる」

 

 H隊のリーダーはキリトに任せた。なので、隊長らしくレイドリーダーのディアベルに準備完了の報告を済ませに行って、ささっと帰ってきた。……なんとも隊長らしからぬコミュニケーション能力の低さよな。

 

「よし、みんな準備は終わったな!」

 

 俺達H隊、そしてクライン達《風林火山》のG隊が最後だったようで、報告を聞いたディアベルはすぐに集合をかけた。

 彼の隣には《アニールブレード》とレアドロップの円形盾を装備したコペル、反対側には攻略会議で一騒動起こしたキバオウが並んでいる。その他にも、メインのA隊メンバーがずらっと並んでいた。

 

 なんでキバオウがディアベルと同じ隊にいるんだろうか? 実はパーティメンバーで攻略会議のアレは自作自演だった? もしくは、アレをきっかけに打ち解けたとか。……誰が誰と組もうがどうでもいいや。仕事をしてくれるのなら文句はない。

 

「………」

 

 俺達を睨んでいるように見えるが、気のせいだろ。

 

「俺から言う事は一つだけだ、勝とうぜ!!」

『おう!!』

 

 右手の握りこぶしを突き上げ、それにみんながならう。俺はこういうノリは苦手なので遠慮させていただいた。幸い最後尾に居たので誰からも見られていない。正確にはH隊のあと二人は横目で見ているが、そういうタイプらしくぼーっと見ていたのでノーカン。

 

 ボス部屋前の広い空間を雄叫びで震わせながら、ディアベルは何メートルもある扉をゆっくりと開けた。

 

 真っ暗だ。

 

 一瞬だけそう思ったが、瞬く間に赤い絨毯に沿う様に設置された柱の燭台に、青い炎が灯されていく。ボボボボと音を立てながら、入口から奥の玉座へと順に灯され、部屋は昼間のように明るくなった。

 

「グオオオオオオオオオォォォォ!!」

 

 姿を現す第一層ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》、その手下である《ルインコボルド・センチネル》がモンスター相応の雄叫びを上げながら、武器を片手に走ってくる。

 

 いつの間にか抜刀していたディアベルがレイドの先頭に立ち、剣を真上に持ちあげ、指揮棒(タクト)のように振り下ろした。

 

「全軍、攻撃開始ィーーー!!」

 

 指示によって一斉に駆けだした先頭のA隊と、コボルドロードを追い抜いたセンチネルの衝突によって、SAOプレイヤーの存亡を欠けた長い闘いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所取りとは意外と大事なことだと思う。花見とか花火とかな。勿論SAOだってそうだ。

 ということで、俺はスキルにモノを言わせたレイドで一番の速力を活かして、コボルドロードに最も近いセンチネルのタゲ取りに成功した。

 

 さっさとザコ蹴散らして、ボスのLA(ラストアタック)ボーナス頂こうぜ! というのが俺の考え。せこい? まさか。貪欲でなくちゃこのゲームは生きていけない。

 

「というわけでさっさと済ませたいんだが……」

「賛成だな」

「えるえー、って何?」

「ラストアタック。ボスに最後の一撃を入れたプレイヤーは、唯一無二のアイテム……ユニークアイテムをゲットできるんだよ。他にも経験値やコルにもボーナスつくし、ボス戦の花形って言われるくらいには名誉なこと、なんだけど……」

「なんだけど?」

「キリトの奴、LAをかっさらうのが好きでなぁ……」

「横取りするの? サイテー」

「待て待て! 確かに欲しいからちょっと攻撃を調整したりはしてたけど、全く貢献していたわけじゃないぞ! むしろ働いてたから!」

「ってよ?」

「自称、だろ」

「はぁ……」

 

 まぁ、俺も今回は狙ってるぜ。思ったよりも周りのレベルが低いもんだから、余裕のある立ち回りができる。LAが狙いやすいってこった。その為にはボスに近い方がいいし、横取り感を出さないようになるべく途中からコボルドロードの戦闘に加わりたい。

 

 上手くやりたいところだ。こういったスタートダッシュの差は後で大きく響く。最初のガチャでSSRが引いたとか、ギリギリ装備できる範囲内のドロップ率0.1%以下のレアドロとか、そんな感じ。

 

 SAOはコツコツと努力を積むRPGだが、レアアイテムがけっして価値が無いなどとは誰も言わない。誰だって喉から手が出るほど欲しいんだ。ここにいる連中はとにかくクリアする、倒す、二層に上がる、生きる、みたいなことで頭がいっぱいになっているだけで、余裕が出ればLAだけを……とか姑息な奴がでてくるんだろう。

 そうならない前に、余裕が生まれる前の今、大衆と差をつける。コレ大事ね。

 

 というわけで、俺とキリトはLAに餓えている。

 

 まあこんな感じで意識半分なわけだが、仕事はしっかりこなす。キリトが無理矢理開いた隙を逃す事も無いし、アスナとの連携も問題ない。キリトも何か考えごとをしているようだが、コイツもやることはやってるし、まあ大丈夫だろう。ミスしてもこれくらいの敵ならどうとでもなる。

 

「オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォオオオ!!!」

 

 フロアに入った時よりも遥かに大きく、重く、響くコボルドロードの雄叫びが部屋いっぱいに広がり、迷宮区を駆けめぐる。

 四段あったHPバーはいつの間にか最後の一段へと突入しようとしていた。ここでの大きな雄叫び、必ず何らかの意味がある。アルゴの攻略本と、βテストを思い出して、答えを弾きだした。

 

「武器の持ち替えだったな」

「あと、センチネルが追加で現れるのよね?」

「……三体、か。よその隊に押し付けたいところだが、ボスに近い俺達が一匹相手しなくちゃいけないんだろうな。まさかこんなところで弊害が出るとは……」

「グチグチ言っても仕方ないでしょ」

「そうだな。余所の隊より経験値が多く貰えると思おう」

 

 とあることに、そこで気が付いた。

 

 キリトの手と足が完全に止まって、A隊の方向……正確に言うならキバオウとディアベルを見ている。

 

「キリト、ボーっとするな」

「………そういうことだったのか」

「何が?」

「いや、ここに来る途中の迷宮区でキバオウと少し話してさ。俺の《アニールブレード》を買い取ろうとしていたのはキバオウだったんだって気付いた」

「……それ、今言うことか?」

「それで、会話がなんか噛みあわなくて………キバオウの後ろに誰かいて……」

 

 あー、始まった。思考が壺にはまると周りが聞こえなくなるんだよな。センチネル一体ぐらいなら俺とアスナでもなんとかなるけど、戦場でボーっとされるのは困る。早く戻ってこい。

 

「アスナ、スイッチ」

「スイッチ!」

 

 キリトの役割を俺が引き継いで、アスナに攻撃させる。

 武器を弾くのは簡単だが、キリトの片手剣のような重い一撃を槍で出すのは難しい。なので、槍をセンチネルの長斧(ハルバード)に絡めて弾き飛ばす。長斧は手から離れて俺の背後、遥か遠くへ飛んで行った。拾うのはもう不可能だろう。

 

 そのまま横へスライドしてアスナに道を譲る。

 

「やあっ!」

 

 《リニアー》がいつものように綺麗に決まる。クリティカルヒットの赤いエフェクトを散らしながら、センチネルは動きを鈍らせた。

 

「スイッチだ!」

「! 分かった!」

 

 初の連続スイッチだが上手く反応してくれた。《リニアー》の硬直タイムが切れた瞬間、横へステップしたアスナの影を踏んで突撃。

 

 まずは体重を載せた突き。こらえきれなかったセンチネルは地面から脚が離れて浮き、後ろへと飛んでいく。そこへ追い打ちの突き、そして掬いあげるように真下から斬りあげて更に浮かせる。

最後に槍系対空単発技ソードスキル《グレイヴ》で喉元を貫通して、センチネルを倒した。

 

 これでノルマは達成したな。ボス攻略に混じってこよう。

 

「私の事ばかり持ちあげるけど、あなた達も相当よね」

「そうか?」

「キリト君は天性なんじゃないかってくらいだし、あなたも同じかそれ以上の何かを持ってる」

「褒められるほどじゃあないよ」

「さっきの攻撃、斬りあげ以外は全部急所……クリティカルだっけ? に入っていたじゃない」

「槍の扱いが長いからな。一ヶ月そこらで追いつかれちゃ立場が無い」

「……まぁ、そういう事にしてあげる」

「そうかい」

「それよりキリト君よ」

「だな」

 

 さっきからずっと呆けているコイツ、何とかしないとな。

 

「そうか、ディアベルか!」

「……何を言ってるんだか。ほら、さっさと行くぞ」

「おう。なんかスッキリしたよ」

「何よりだ」

 

 コイツは天才なんじゃないかって思う事が多いけど、たまーにどうしようもない馬鹿にしか見えない事もある。天才と馬鹿は紙一重ってことか。

 

丁度そこへ最後のセンチネルが現れた。予想通り、一番ボスに近い俺達を標的に選んだ一体がこっちへ向かってくる。

 

「ちっ……やっぱきたか」

「よし、さくっと片付けるか」

「お前、今度は働けよ」

「わかってるよっ! と」

「相変わらずいい仕事ね」

「そりゃどうも」

 

長斧を掲げて躍りかかってくるセンチネルを涼しげに捌いて、武器を弾く。追い打ちで関節部を狙って斬りあげたアニールブレードは、センチネルの左腕を斬り落とした。

 

「ナイス!」

 

 掛け声はなかったが、自然とキリトは脇へ逸れ、アスナが前に出る。満足に武器を振れないセンチネルは長斧を持てあましていて、アスナの攻撃に対応することはできなかった。喉の隙間に《リニアー》が面白いくらい綺麗に入る。続けて《リニアー》のラッシュが始まり、全て急所に吸い込まれていった。ソードスキル使用後の膠着時間の間に、センチネルは体勢を立て直せずに、モロに喰らい続けている。

 

「このっ!」

「アスナ! スイッチ!」

「了解!」

 

 最後の《リニアー》を繰り出した後、そのまま後ろや横へそれて道を作るのではなく、前に進んで、右手を斬り落とすという土産を置いて行った。

 

 細剣でよくやる。

 

「出てきてすぐなのに悪いが、引っ込んでもらうぜ」

 

 穂先で右脚を叩いて浮かし、手の中で半回転させてもう一本の左脚を石突きでぶん殴って先程同様に両足を浮かせる。センチネルが突っ込んできた時のように槍を振りかぶって、思いっきり振り下ろす。斬ると同時に叩きつけ、トドメに右足で身体を踏みつけ、首へ槍を突き刺した。ガキン! と良い音がしたので貫通してるな。

 

 センチネルは青いポリゴンとなって消え去り、右脚が一瞬だけ浮遊感を感じたが、そのすぐ後には石畳を踏みつけていた。

 

「よし、行くか」

 

 ちょっと引いている二人が気になるが、今はボス攻略だ。あとで聞こう。

 

 コボルドロードの四段目HPバーは既にイエローに入ろうとしている。足元で必死に斬りつけているB隊の斧使いが、ソードスキルで親指を斬った瞬間、HPはイエローゾーンに突入した。

 

 コボルドロードはここから武器を切り替えて攻撃してくる。左手に持った盾をその場にドスンと落とし、右手の斧を放り投げて腰の湾刀(タルワール)を引きぬく。そしてソードスキルを使い始めるのが特徴だ。一層のザコ敵にはソードスキルを使ってくる敵はいないので、対人戦闘経験のないプレイヤーは、ここで初めてソードスキルをその身で味わう。

 

「おい……アイン」

「どうした?」

「あいつ、湾刀を使うんだよ、な?」

「ああ、俺の記憶と、アルゴの本によればだが……」

 

 キリトがコボルドロードの武器に疑問を持った。だから? と雑に流す事なく話に乗り、俺も右手に持たれた湾刀……を…………。

 

 待て。何故あれは真っすぐな刀身をしている? 何故あれはあんなにも長い? 何故あれは……湾刀じゃない?

 

「カタナ……なのか?」

「間違いない……! コボルド王が持っているのは湾刀じゃない、野太刀だ!」

 

 βテストでは第十層まで攻略が進んでいた。厳密に言えば、攻略したのは九層までで、十層は攻略の最中だった。だが、ここに来て今までの攻略のペースがガクンと落ちて、βテスト終了まで十層が突破されることはなかった。

 理由はズバリ、この十層で初めて登場するMobの中に、モンスター専用のソードスキル《カタナ》を使ってくる奴が混じっていたからだ。

 

 後半ともなると、腕試しにとプレイヤー同士の決闘《デュエル》を行うプレイヤーはそれなりにいた。町の中で行われることが殆どで、野次馬が集って盛り上がった物だ。有名なプレイヤーがデュエルをすると、トトカルチョが行われるくらいには、SAOの魅力の一つとして俺達の中にあった。

 その為、プレイヤーが使用することができるソードスキルは既に広まっており、十層で活動するようなトップの集団はほぼ全てのソードスキルと戦ったことがあり、Mobが使ってきてもバッチリ対応できた。

 

 が、この《カタナ》はそう上手くいかない相手で、フィールドに出れば、ダンジョンに入れば、迷宮区まで進めが、必ず《カタナ》スキルを使ってくる奴がいて、大勢のプレイヤーが敗れて町まで送り返された。

 

 敗因は何と言っても初見だったこと、プレイヤーが使うことのできないスキルだったことが大きい。対Mob戦のためにデュエルを申し込まれることもあった為に、最もソードスキル練習に都合がいいのはプレイヤー同士だった。が、何度も言うようにカタナは使えない。使えるんだろうけど、開放条件が分からないままが続いた。対策を立てようにも、その為には必ず町の外に出る必要があり、ハイレベルなプレイヤーでも死亡率がとても高かった。

 そこまでプレイヤーを追い詰めたカタナスキルには、他のソードスキルにはない特徴があった。

 

「止めろディアベルーーー!」

 

 カタナスキルについて頭の中の辞書を引いていると、キリトが腹から叫んだ。あそこまで大声を出すのは非常に珍しく、またそれだけ異常な事態ということ。

 

 視線の先ではディアベルが前線に立ってソードスキルで攻撃しようとしていた。その向こう側ではディアベルにターゲットを定めたコボルドロード。そして、コボルドロードもまたソードスキルを放とうと構えている。野太刀には赤い光。

 

「攻撃するなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 もう一度響くキリトの叫び。だが、ディアベルには聞こえていないのか、集中する為に敢えて無視をしているのか。どちらにせよ、システムはソードスキルの初動モーションを検知しているので、もう止めることはできない。

 

 青い光を纏いながら、ディアベルのソードスキルが発動した。アシストによって、高速でコボルドロードへ迫るが、同時にコボルドロードのソードスキルも発動した。

 

 ディアベルの放ったソードスキルは《スラント》。ざっくばらんに言うと水平切り。迎えるコボルドロードのソードスキルは床スレスレの低空を野太刀が駆け、カクンと急に斬りあげへと軌道を変える。《浮船》、だったか。

 

 悔しそうな顔のディアベルは空中でもう一度ソードスキルを発動させようと剣を構え直し、コボルドロードはにやりと口元を歪め、間を置かずに(・・・・・・)ソードスキルを発動させた。

 

 これこそが、カタナスキルの特徴、《スキルコンボ》。

 通常のソードスキルの場合、一つのソードスキルを発動させた後は必ず硬直時間が発生する。この時間は、スキル熟練度や時間短縮のアシストスキルを習得すれば短くすることは可能だ。だが、失くすことは不可能。

 カタナスキルはそれを覆した、現時点で唯一のソードスキルだ。

 

 《浮船》から始まり、それが終わって猶予時間の間に次のソードスキルの初動モーションをとると、そこから更にソードスキルが発動していく。

 

 流れるような赤い光が上へ、下へ、そしてディアベルを吹き飛ばす様に突きが繰り出される。三連続ソードスキル、《緋扇》。

 

 斬られては減り、減って、減った。山なりに飛ばされたディアベルは、さっき俺が弾いた長斧が突き刺さっていた辺りに落ちた。さらに、勢いがあり過ぎて止まらずにバウンドし、柱にブチ当たることによってようやく止まった。

 

 つい数秒前まで安全域にあったHPバーはぐーんと右へと移動して行き、イエローを軽く通り越してレッドゾーン……危険域に突入。そして、そのまま止まる事はなく、一ドットも残さず、HPは消えた。

 

「ディアベル!」

 

 キリトがポーションを片手に駆け寄り、俺とアスナも続く。

 

 身体を起こす力も残っていないらしく、首を俺達の方へ向けるだけで精一杯の様子のディアベルは、ただ右手を伸ばしていた。

 

「ディアベル、飲め! いまならまだ――」

「キリトさん」

 

 死を迎えようとしているディアベルの声は、必死にポーションを口へ流し込もうとするキリトの手を止めた。

 

「すみません、後を、お願いします……」

「馬鹿を言うな! そんな暇があるなら飲め!」

「ディアベル、皆がここに集まったのはお前が居たからだ! 死ぬな!」

「あなたが居なくなったら、誰が引っ張っていくの! βテスターとビギナーを繋げられるのは、あなたなのよ!?」

 

 キリトが、俺が、アスナが、必死になってディアベルを繋ぎとめようと声を絞るが、口を開こうとはしなかった。

 

 光がアバターを包んでいく中で、俺達が最後に聞いたのは……。

 

「俺も……あなたの、あなた達のように―――」

 

 「生きたい」でも「死にたくない」でもなかった。

 

 ディアベルを形作っていたアバターが青のポリゴンへと姿を変え、カシャンと甲高い音と共に砕け散った。

 




 サブタイで中身が分かるのはいいんです。その為の物ですから。
 でも分かりやす過ぎるのもどうかと思うんですが、思い浮かばないんですよねぇ。

 他の投稿者の方々が羨ましい。
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