esp.ルーミアは最強なのか?   作:YJSN

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第一話 邂逅

赤い眼と、赤いネクタイ、それに謎のリボンの様に見えるお札が頭にくくりつけられたその少女は暗い森の中を迷えていた。

 

「...ここ どこなのだー...。」

 

間の抜けたようなその声に、森の木々は答えるように風によってワサワサと騒ぎ立てる。

 

既に日没を迎えた後の暗い鬱蒼とした森の中で、この少女は完全に闇と同化したようにぶらついていたのだ。

 

すると、

 

 

ドンッ

 

 

「いたっ...ぅー...。」

 

 

どうやら目の前にあった木に気づかずに頭をぶつけたようだった。

 

だがそれでも諦めずにすいっと前を進み続ける姿は、月光に照らされる所々の木々の隙間においてかなりの美貌であった。

 

そのまま進み続けること、約二時間が経過したであろうか。

 

ようやく、この薄暗い森の終わりが見えてきて、今度は草原地帯に出た。

 

それも、向こうの方に何やら赤い灯りが伴っている街道のようなものが見えた。

 

「おー、道なのかー。」

 

またも間抜けた声で、腕を横にピンっと伸ばしながら言い放つ少女。

 

そうして、純粋な少女はその灯りの方に向かっていくのであった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ......。」

 

私は、今にもため息を抑えきれそうになかった。

 

今日は街道沿いにキャンプを張り、野宿になってしまった。

 

それもひとえに、私がギルドから頼まれた依頼、ここから数日歩けば着くカスタという村周辺に最近、わんさかと湧いて出始めたモンスターの討伐依頼からだった。

 

一応、第三幻魔法使として、それなりの腕を持つ私だからこそ、このように女一人でも旅をできる程度の持久力とそれなりの強みはあると自負している。

 

だが、村に駐屯していたエスパニョル兵の助けがなければ、今頃私はあの気味の悪いオーガやゴブリン共の腹の中だったろう。

 

今でも、魔法を用いた遠距離戦から木々の多い森へと誘われ、誘導され、囲まれてしまった時はしまったと思った。

 

ついつい油断し、そして一個体に執着しすぎたのが運の尽きであった。

 

近接戦において魔法使は全くの役立たず。

 

魔法をそれぞれ詠唱をする時間が必要な上に、無防備な立ちっぱなしだ。

 

一応、剣の腕もある方ではあるが、魔法に比べれば劣るし、生身の女の剣があのドデカいオーガに通用するかと聞かれれば、少し唸っただろう。

 

そうして、終わりを悟った時に、哨戒に出ていたエスパニョル兵数名の援護が入ったのだ。

 

今でも覚えている...マスケット銃から発せられた轟音と、火薬の強烈な匂い。

 

「...ふんっ。」

 

でも、今の私の身の上からしてみれば、彼らは憎むべき相手なのかもしれない。

 

助けてくれた上でこんな感情は身勝手だが、そう思っても仕方ないと感じた。

 

私は鼻を鳴らしながら、小川で水の補給を済ました後、焚き火をしている街道沿いに歩いて行く。

 

すると、先程まで月明かりが雲に隠され、世界は真っ暗闇とでも言いたげな暗黒が、今になって漸く雲が晴れ始めた。

 

そして月明かりが、向こうのカスタ村の手前の森から焚き火の方へと順々に照らしていく。

 

そうして月明かりで照らされた焚き火のすぐそばにいたのは...

 

「すー...すー...。」

 

眠りこけている幼い、少女だった。

 

その容姿は私より断然綺麗と思ってしまった程に、整った顔立ちだった。

 

どこの国の者だろうか、いつの間にこんな場所にいたのか、道に迷ってしまったのか...。

 

そんな疑問と共に、私はその子に声をかけた。

 

「...って、ちょっとちょっと、あんた起きなさいよ!」

 

ふと我にかえり、こんな時間にこんな幼い少女が街を離れて出歩くなんて尋常ではないことに気づき、声を荒げながらその少女をガクンガクン、と揺さぶる。

 

すると、面倒くさそうにあくびと伸びをしながら、その少女は

 

「ふぁー...もう朝なのかー...。」

 

と、間の抜けた声でそんな事を私に聞いてきた。

 

「まだ真夜中よ!なに人のキャンプでゆったり寝てるのよ...はぁ。」

 

今日はひどく疲労が溜まっているため、さっさと眠りこけたいが、そういうわけにもいかないようであった。

 

パチ...パチ...

 

焚き火が乾いた音を立てながら、私達は改めて目の前に対峙する。

 

互いの目線がばっちり合ってしまい、気まずい雰囲気になってしまったが、意を決して私も話しかける。

 

「...それで?あなたは一体全体どういうわけでここにきたわけ?」

 

こんなに幼い少女が街から出て夜中に散歩だなんて思えない。

 

明らかに家出か、或いは悪趣味な歪んだ少女か...。

 

モンスター蔓延る夜間の森の近くを歩くなんて、どう考えたって訳ありとしか言いようがなかった。

 

だけれども、その予想とは裏腹に、少女はまたも素っ頓狂に

 

「んーとねー、森からー。」

 

と、答えた。

 

それを聞いた私は焚き火に木を追加しながら、

 

「森から...?よく平気だったわね。モンスターとかには出くわさなかったの?」

 

と、平然と疑問を口にしてみるが、少女の反応は薄く、

 

「ぜーんぜん〜。それより、お腹すいたなぁー。」

 

と、幼い少女は子供らしく空腹を訴えてきた。

 

(...純粋そうな瞳...まぁ、少し怪しいけれど、警戒するほどの事でもないわね。)

 

よしっ、と私はこの娘に少しなりとも気を許した。

 

子供を利用した盗賊の強襲などもあるため、こんな幼い少女にすら悪意を疑ってしまったのは、こちらの落ち度であろう。

 

だからこそ、少し多めに自分の食事を分けてやることにした。

 

「ほら、食べな。その様子じゃ今日一日なんも食ってねーんだろ。」

 

ホイっ、と少女に投げ渡したのは乾いたパンと、塩味の干し肉だ。

 

「ぇー、これっぽっちしかないのー。もっとほしー!」

 

赤い眼をしたこの少女は欲張りでよっぽど腹ぺこらしい。

 

「我慢してよ。街に着いたらもう少しまともな食事でも出してやるからさ。」

 

と、私が宥めると、その少女も折れてくれたようで、残念そうな顔でその肉を頬張る。

 

あむっ

 

と、可愛らしい音を出しながら一口摂った、と思えば、

 

「...ぉぇ〜...これ何日前のお肉なのー...。」

 

しょっぱそうにぺっぺと舌を外に突き出し始めた。

 

「干し肉なんだから仕方ないじゃない...ほら、お水。」

 

きゅぽんっ、と蓋をあけてやって、少女に水を渡してやると

 

ごくっ ごくっ ごくっ

 

と、一気に飲み干す勢いで飲んだ。

 

「ぷはぁ〜っ。水は新鮮なのだー。」

 

と、元気な笑顔を私に向けてきた。

 

私も少女の笑顔を見て、少し微笑みを漏らして、

 

「それは良かった。...で、あなた本当はどっから来たの?森の前は?出身とか、わかる?」

 

食事を餌に、少女から情報を色々と聞き出そうとした。

 

さすがに、いつまでのこの娘の面倒を見るとなると、私の今の稼ぎじゃ養えるとはあまり思えない。

 

恐らくこんなに素直で、結構わがままな娘なんだから家出か何かなんだろう。

 

すぐに家に帰してやれば、また平穏な生活が戻ってくるさと、そう思っていたが、

 

「んー...森の前も森の中だったよー?」

 

あむっ あむっ

 

と、肉とパンを二口交互に頬張りながらそう言ってくる少女。

 

「...だいぶ長い間、彷徨ってたのね。お家とかわかる?」

 

そう聞くも、期待している答えとは裏腹に

 

「お家なんかなーいよー。」

 

むしゃむしゃとパンを頬張りながら、流浪の民だというこの少女、にわかには信じがたかった。

 

その言葉に少し驚いた私は続けて、

 

「えっ...と...お家もわかんない、家族も親戚もいないし、森の中でずっと生活していた...の?」

 

チラリと、彼女の赤い眼を見てみると、

 

コクン コクン

 

と、可愛らしい動作で頷いてみせた。

 

「はぁぁぁーーっ......あのねぇ、お姉さんだってあなたを放って行こう、なんて思ってないわよ?

 

でもね、わたしにも生活ってものがあるの。あなたを養って暮らせるならそうしてあげたいけど、生憎私は貧乏なのよ...。

 

あなたこれから行く所もないでしょうし、引き取ってあげたいとは思うけれど...。」

 

と、半ば愚痴のように少女に現実を突きつける。

 

これは少女からしてみれば身勝手な文句だと分かってはいるが、これからの自分とこの娘の境遇を考えれば、少しくらい言ってしまっても納得できるものであった。

 

「ふーん。」

 

当の本人はわかっているのかいないのか、よくわからない生返事を返すだけだ。

 

(...いっそこの娘を身売りにでも出すか...。)

 

 

 

(...なーんてな。いくら落ちぶれた私でも、そんな事までしたら...。)

 

自責の念に駆られて、一生自分を許せないだろうな、と良心の呵責が込み上げてくる。

 

過酷な世界だけれど、この娘のような純粋な子さえ守れないようでは、大人として情けない。

 

そんな思いを胸に、パンっと頬を叩いて仕切り直し、食事を終えた少女に向き直る。

 

「よしっ、わかった!私が当面は面倒見てやるけど、あんまりおかしな事するなよ?」

 

と、彼女を身請けすると言ってやったら、

 

「おーけーなのだー。」

 

と、また間の抜けた声で、しかしながら若干嬉しそうに両手を上げながら了承してくれたようだ。

 

「とりあえず、いつまでもお嬢ちゃん、お姉さんじゃやりにくいから、名前教えてくれるかしら。」

 

そう、まだこの少女の名前を聞いていなかったのだ。

 

一寸それを聞いた少女は考えるポーズを取った後、こう述べた。

 

「ルーミアだよー。お姉さんはなんて言うの?」

 

と、朗らかに答えてくれた。

 

「ルーミアちゃんかー。私は...ぁー...。」

 

自分の家名に少し苦手意識が働いたため、名乗ることが躊躇われてしまった。

 

それを不思議そうなルーミアは見つめている。

 

が、私も意を決して、こう名乗る。

 

「...イザベラよ。ただの、イザベラ。エリザベスって呼んでくれたら構わないわ。」

 

と、イスパニア語のスペル Isabela をブリタニア語に変えて呼び名を教えた。

 

これが、私 エリザベスとルーミアとの最初の夜の出会いだった。

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