九尾の狐と天の巫女   作:ジャズ

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 五条悟の手引きで栃木県から東京へと移動した九重と玉藻の2人。郊外から離れた山奥にある古びた学校へと招かれた。

 東京都立呪術高等専門学校、日本に2校しかない呪術専門の学校であり、同時に各地で活動する呪術師の拠点でもある。東京から郊外の山奥に建設され、表向きは宗教の私立学校という体をとっている。九重と玉藻はとりあえずは学生寮の空き部屋に通され、しばらくは抑留と言う形となった。八畳ほどの広さがある一室に据えられたベッドで九重と玉藻が並んで座る。少し気まずそうに俯く九重と、室内に置かれた冷蔵庫やクーラー、水道などといった現代の設備を物珍しそうに眺め、いじっていた。玉藻が家電をいじる雑音が流れ続ける時間が数分間続いた。

 

「あの……」

 

 不意に九重が重い口を開く。

 

「貴女は……本当にあの玉藻の前、さんなんですか?」

 

「ええ。如何にも私は玉藻の前その人でございます」

 

 玉藻は九重の問いに静かに頷く。

 

「恨んでは……いないんですか?私たちのこと」

 

「恨む、ですか?いいえ全く。もう過ぎた話ですから気にしてません。それに、貴女を恨むのはお門違いというやつです」

 

「そんな風に、割り切れるものなんですね」

 

「ええ。それに、貴女からは何か特別な匂いがしますし。せっかく千年越しに出会えた方にそんな無碍なこと致しません!」

 

「ありがとう、ございます……」

 

 九重は少し申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「〜〜〜〜〜ハイッ!辛気臭い話はこれで終了です!それより貴女……いつまでも貴女という呼び方イヤですね。お名前は?」

 

「あ、赤司九重です」

 

「じゃあ九重様!どうせなら現代のこと私に教えてくださいます?蘇ったはいいのにこの時代の知識がまるで無いのですよ」

 

「私でよければ……」

 

 その日は部屋に設置された家電や世間話、玉藻の前が過ごした時代よりも後の歴史を簡単に話し、2人は一夜漬けで語り明かした。

 その翌日、2人は学内の応接室に通され五条悟と向き合って座った。

 

「すまないね九重。せっかくの旅行だったのにこんなところに連れ込んじゃって」

 

「い、いえ。こんな事態ですから」

 

 先に五条が不可抗力であったとは言え、貴重な卒業旅行を中断させてしまったことを詫びるが、九重もここに来るまでに今回の事態がどれだけ重い状況なのかを彼から説明され理解していたため、納得した。その隣で玉藻が物珍しそうに辺りを見回している。道中でも、玉藻は現代の日本に驚いてばかりで、特に街を走る自動車を見て大きくはしゃいでいた。

 五条も九重の返事に「ありがとう」と答えると、早速説明を始めた。

 

「じゃあ、先ずは2人の処遇について。結論から言わせてもらうと……2人とも高専に入ってもらう事になった」

 

 五条の報告に九重と玉藻は「やはりか」と心の中で呟く。

 

「ちなみに、拒否権は」

 

「無い。悪いけど、これは強制なんだ」

 

 九重の問いに五条はバッサリと答えた。その言葉に九重は少し俯く。

 

「もちろんちゃんと理由も説明するよ。順を追って話そうか、まず今の玉藻の状態なんだけど……どうも玉藻が九重に憑依してるに近い、言い換えると玉藻が九重を依代にしてるんだ」

 

 呪霊とはそもそも人々の負の感情が蓄積されて顕現する存在である。そして玉藻の前は特級仮想怨霊、人間が作り出す共通の負のイメージを元に作り出され顕現する呪霊である。そして彼女も、本来であれば単独で顕現できる筈であった。しかし、五条の分析によると、どうやら今回玉藻が出現するにあたり1つ問題があったらしい。

 

「今の玉藻ってさ、不完全な状態だよね?」

 

 本来、玉藻の前は九尾の狐である。しかし今の彼女は三尾、すなわち本来よりもかなり弱体化していると言うのだ。

 

「本来なら玉藻だけで顕現できるはずが、不完全故に現世の人間と一種の“つながり”がないと存在を維持できない状態にあるんだよ。わかりやすく例えると、パーツが足りなくて動かない車って言えばいいかな?」

 

 特級仮想怨霊は人の負のイメージが蓄積されて出現する。今回の玉藻も、人々のイメージの蓄積が満ちた為に殺生石の封印が解かれ、出現に至った。しかし玉藻の前にはこのようなエピソードがある、「南北朝時代、会津の元現寺を開いた玄翁和尚が殺生石を破壊し、破壊された殺生石は各地へと飛散した」と言うものだ。この逸話から、蓄積された玉藻の前のイメージの中に「今の玉藻の前は不完全なのでは無いか?」と言うものが含まれた為に、今の彼女は九尾ではなく三尾しかない状態で顕現してしまったのでは無いかと言うのが五条の見解だ。

 

「だからあの時の玉藻は、ほっとけばそのうち消えてたんじゃ無いかな。しかし幸か不幸か、その場に彼女と縁が深い人物がいた。それが君だ」

 

 そう言って五条は九重を指差す。あの日、玉藻の封印が解かれ権限する際に九重が居合わせた事で彼女を依代にし、現世とのつながりを得たことで玉藻は顕現に成功できたのだ。

 

「君の家系を調べさせてもらったんだけど、どうやら君の家系って元を辿ると玉藻の前に行き着くみたいなんだ。つまり君は、玉藻の子孫という事になる」

 

 彼の言葉を聞いて九重は目を見開いて玉藻を見る。

 

「存在自体が弱くても、そこに何かしら縁があれば呪霊は存在を確立できる。あの場に玉藻の血を引く九重が居たから、玉藻はこうして顕現できているんだ」

 

「ああ、やはりそういう事でしたか……どうりで九重様か懐かしい匂いがするわけですね」

 

 玉藻はゆっくりとため息をつきながら呟く。そんな彼女を他所に、五条は「続けるね」と話を始める。

 

「ここからが問題。弱体化してる、と言っても玉藻の存在はあまりにも脅威だ。これを放っておくとなると周りが煩くてね。『玉藻を消せ』ってみんな言うんだけど、玉藻だけ祓えば万事解決かと言うとそうもいかないみたいでね……」

 

 そこで彼は一呼吸置き、続ける。

 

「少し話を戻すけど、九重は玉藻の一族って話はさっきしたよね?つまり、君は呪術師の家系なんだ。そこでさらに調べた結果、またとんでもないことがわかっちゃってね……九重は自分だと気づいてないだろうけど、呪術師の家系だけあって君の呪力量は人並みはずれてるんだ。それこそ呪霊一体分に相当するくらいの。で、何が言いたいかというと……九重がいる限り玉藻は消えないって事が判明したんだ」

 

 解説すると、玉藻が九重を依代にした事で玉藻の呪力が九重の呪力に混じったのだという。これによって、玉藻が消滅しても玉藻の呪力のカケラが九重の呪力を食らって復活できる。つまり九重がいる限り玉藻は何度でも蘇るのだ。

 

「そんなわけで、上は九重を秘匿死刑にしろとか言い出す始末だ」

 

「し、死刑……?」

 

 五条はやれやれとため息をつきながら告げ、九重は声を震わせた。

 

「ふ、ふざけないでくださいます!?九重様を死刑だなんて、そんなの認められません!!」

 

 玉藻が立ち上がって眉間に皺を寄せて叫ぶと、五条は「当たり前だ」と唸るような声で同調した。

 

「そんな事僕がさせない。だから上に対してこう言ったんだ、『玉藻が完全復活したら赤司九重諸共消す、それまでは呪術高専で監視及び管理する』とね」

 

「そ、それって……」

 

 玉藻が完全復活するまでの先延ばし、ではあるがこれは実質無期限の執行猶予である。

 

「それともう一つ、九重を高専に置きたい理由がある。それは九重の持つ生得術式だ」

 

 呪術に関してまだ何も知識がない九重は首を傾げるが、五条は「その話はまた今度話すね」と前置きし、そのまま続けた。

 

「君の持つ術式は“気象操術”って言う、数ある術式の中でもぶっちぎりですごい能力の一つなんだ」

 

「気象、操術……?」

 

「分かりやすく言うと『天気を操れる』。まあ君の代だとかなり衰えてはいるみたいだけど、それでも力は折り紙付きだ。近いうちに間違いなく僕を超える術師になれる。呪術師ってさあ、人手不足が常で大変で大変で……そんな時にこんな貴重な存在を捨て置くのは僕にはできないよ」

 

 彼の説明を聞いても終始困惑していた九重だったが、不意に問いかける。

 

「私も、皆さんの役に立てるって事ですか?」

 

「立てる立てる!なんなら君がいれば世の中一変するよ!」

 

 少し考え込む九重だったが、やがて意を決した表情で五条を見る。

 

「分かりました、どのみち拒否権も無いんですよね……」 

 

 一呼吸置き、力強い口調で告げる。

 

「私は、呪術高専に入ります」

 

 




お読みいただきありがとうございます。今回の九重の呪術は完全オリジナル術式(の、つもり)です。詳細な技なんかは追々やっていきます。
感想などありましたら是非。
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