風の聖痕――電子の従者   作:陰陽師

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第十七話

 

美琴に妖気を憑依させること、美琴と妖気の同化率、増幅率、そのどれもが当初の兵衛の思惑を上回り、順調に進んでいた。

肉体の変化こそ始まっていないが、妖気は高まり続けている。

 

だが今の状況ではまだ不味い。確かに妖気こそ流也に匹敵するが、肉体が変化を遂げていない今、その力を百パーセント扱いきる事は出来ない。

さらには制御も追いついていない。流也がアレだけの力を制御しきれるようになったのは完全に憑依してからさらに数日を要した。

いくら力が強くてもその全てを扱いきれず、また制御も出来ないのでは何の意味も無い。

 

尤もそれも時間の問題。このまま行けばあと半日も待たずに美琴は完全に同化を果たし、肉体の変化を開始し、完全な魔へとなるだろう。

そうなった時こそ、神凪を打ち滅ぼす切り札となる。

 

しかし何事も思い通りに行かないのが世の常である。特に兵衛にとって見れば、最悪の事態が近づいていた。

それは遥か彼方から、また遥か上空から彼らに向かい飛来した。

真っ先に気がついたのは妖気を増幅させ続けていた美琴であった。叫び声が急に途切れた。

 

何事かと思い兵衛は美琴を見る。まさかもう同化が終わったのかと思った。

結論から言えば、兵衛の考えは間違いだった。

彼女が気がついたのは空より迫り来る破壊をもたらす悪魔の物体。彼女の風が捕らえた。

 

音速の約二十倍で迫る物体を。

美琴は本能的にそれらを攻撃する。直後、それは上空で激しい爆発を起こした。

 

「な、何じゃ!?」

 

遥か上空で爆発する幾つかの物体。その光景を見た兵衛は驚きの声を上げる。

爆音が兵衛達の耳に届いた時、すでに美琴は空へと飛翔していた。妖気を纏い、今まで以上の力を宿した彼女は上空から迫るそれを迎え撃つ。

 

美琴の妖気が刃となり、空から彼女達に向かい襲い掛かるそれらを迎撃する。爆発が空を染め上げる。

 

彼女達に襲い掛かる物体の正体。

大陸弾道ミサイル。大気圏を越え、上空千キロ以上から弾頭を落とす兵器であった。

それがなぜか、彼らに向かい放たれたのだ。

だが攻撃はそれで終わりではない。遥か上空に意識を向けていた美琴だが、不意にこちらに迫る物体に気がつく。

光学迷彩に包まれ、気配を遮断する結界のようなものに護られながらも、高速で接近する物体。

 

その正体は巡航ミサイル。数は五。それすらも美琴は迎撃をする。

しかしそれだけで終わらない。間断なく、上空からまたは地平から美琴に向かいミサイルが向かってくる。

美琴はそれらを簡単に迎撃するが、それも自分から数キロ離れた地点でしか迎撃できなかった。

攻撃は続く。美琴の妖気を消費させるように……。

 

 

 

 

 

「マスター。攻撃は全部防がれてますね」

 

遥か彼方。京都から三十キロほど離れた誰もいない地点で、結界と光学迷彩を用いたウィル子と和麻は軍用ヘリに乗りながら、幾つかのパソコンを用いて、遠距離から攻撃を繰り返していた。

 

弾道ミサイル、巡航ミサイルと言ったウィル子が01分解能で作り上げた兵器を、和麻が光学迷彩やら風での気配遮断などを施した後、京都の風牙衆の聖地に向けて打ち出していた。

 

レーダーもウィル子がハッキングにより無効化にしているため、国内や各国の軍事基地にはこのミサイルは一切映っていない。さらには和麻の風で見えなくしているため、視認する事も無理であった。

 

和麻自身、三十キロ先に攻撃を向ける事は出来ないが、ミサイルに風の精霊を纏わせる事は出来る。そのまま精霊にお願いして、ミサイルと一緒に京都まで向かってもらったのだ。

 

「……憑依は完了してずいぶんと力は増してるな。けど制御はまだできて無い」

 

和麻はウィル子が見せるデータを見ながら、自らの考えを述べる。流也の力ならば二十キロ先から攻撃を行う事が可能だろう。

しかし美琴は二キロ先まで到達しなければ迎撃できていない。いくら力が強くても制御しきれていなければ宝の持ち腐れである。

さらには亜音速、超高速で向かってくるミサイルを迎撃する事も中々に難しい。

 

「けどこのまま攻撃を続けていると向こうは慣れてきて、制御が出来るようになりませんか?」

「まあな。このまま続けてりゃ、すぐにでも制御が鍛えられるだろうよ。でもまあ、攻撃を続けてないと不味い理由があるからな」

 

和麻は別のパソコンに映る地図とそこにマークされている一つの光を見る。

 

「この神凪の主力が無事に兵衛のところについてもらわないと、こっちとしても計画が全部パーだ」

 

コンコンとパソコンを叩きながら、和麻は言う。彼らの狙いは神凪の主力を無事に兵衛達の下に送る事だった。

最大射程の長い強大な力を持つ風術師が不意打ちを仕掛ければ、まず間違いなく炎術師には防げない。奇襲を防いでも遥か上空から攻撃するだけで、炎術師は何も出来ないまま終わる。

 

仮に防げたとしても、人間と比べれば体力などが段違いな妖魔と我慢比べをすればどちらが有利かなど考えるまでも無い。

だからこそ、彼らには無事に到着してもらい妖魔となった彼女の相手をしてもらわなければ困る。

何が悲しくて、あんな流也並みの化け物と真正面から戦わなければならないのだ。

しかもこちらは一文の得にもならないことを。

付け加えるならば、嫌いな神凪の問題であると言うことも大きいだろう。

 

「でもこんな面倒な事をしなくても、マスターが出向けば楽なんじゃないですか? 今なら妖気は流也クラスでも総合面ではマスターとウィル子の方が確実に上ですよ」

「何で俺がわざわざ全力で、しかも真面目に神凪さん家のゴタゴタの解決をしないといけないんだよ。先代宗主……、ああもう言いにくいから宗主でいいな。宗主をはじめ、綾乃とか神凪の主力が出向いてくれてるんだ。ガチンコの殴り合いになれば神凪が有利だ。そいつらに任せて、俺はおいしいところだけ貰えばいいんだよ」

 

和麻はほぼ万全の体調に戻っているものの、厳馬との戦いで正面から戦う事が嫌になり、出来る限り楽に、それでいて一番おいしいところだけを掻っ攫おうと考えていた。

妖気を注入された美琴も単体ならば厳しいが、彼女には封印や兵衛を護らなければならないと言う制約がある。

 

兵衛だけなら逃げればいいのだが、封印がある地は逃げる事ができない。ミサイル程度で三昧真火が消滅する事は無いだろうが、少なくとも余波で周辺は滅茶苦茶になり、さらには京都のほかの退魔機関の介入すら招きかねない。そうなれば封印を解くどころの話ではなくなる。

 

こちらのミサイル攻撃がどれだけ続くのか向こうがわからない以上、下手に離れるわけにも行かず、重悟などがまともに持ちこたえてくれるのなら、その隙を突いて様々な策略をめぐらせる事も可能だ。

 

「つうか今って本当に便利だよな。遠距離から簡単に攻撃できる手段があるんだから」

 

和麻はもう何度目かになる弾道ミサイルと巡航ミサイルの射出を行いながら、しみじみと感想を述べる。

 

「そりゃそうですよ。今はウィル子が作ってはいますが、何の力も無い普通の人でも金さえあれば入手可能ですし、鍛える必要も無くボタン一つ、指先一つで使用可能。さらには使用されれば、並みの術者では逃げるしかできませんから」

 

科学技術の進歩は著しく、ハイテクと言う技術は日々進化している。数百年前に比べれば今はまさに魔法としか思えないものがごろごろしている。

そしてウィル子と言うまったく新しい精霊さえも生み出した。

 

「そうだな。そう考えりゃ、科学って言うのは魔法みたいなものだな」

 

そもそも今の社会が成り立っているのは科学が進歩したからだ。自分達が何気なく、当たり前に使っている物のほとんどは科学の産物である。

魔術や魔法と違い誰でも使えて、誰でも同じような効果を発揮する。これほどまでに汎用性に優れた物があるだろうか。

 

術者とはこういうハイテクを軽視しがちである。それは自分達が他者には無い、自分たちだけが使えると言う力を持つがゆえの優越感から来る油断と慢心。

だからこそ、今の和麻はその隙をつき、簡単に相手を蹂躙する事ができる。

 

「宗主達が目的の場所に着くまでに必要な時間は?」

「残り三十分くらいですね。車での移動なので、向こうも気づくとは思いますが」

「だろうな。ただでさえ常時莫大な数の精霊を従わせてるんだ。それも数人固まって移動だ。気づかないはずが無い」

 

流也クラスならば三十キロ先からでも余裕で見つけられるだろうが、今はこちらが気を引き付けているので、神凪にちょっかいをかける余裕が無い上に、制御も出来ていないので遠距離攻撃はまだ無理だろう。

 

仮に神凪に攻撃を仕掛け、少しでも隙を見せれば兵衛達の方にミサイルが飛んでいく。いくら思考能力が落ちたといっても、その程度を考えられないはずも無い。

 

「データ上では少しずつ射程が延びていますね。ですがまだ有効射程は三キロ」

「それでも三キロ先でも迎撃できるってのは厄介だな」

「ですね。でもいくら落とされても問題ないのですよ。マスターの負担にならない

程度に生成できるミサイルはあと百前後。この間に十分神凪の連中は目的地に到着できますし、爆薬も少なめにしてますので、周辺への被害はほとんどありません」

「あんまり派手にやったら後処理が面倒だからな。まあバレても逃げるし、こっちに足が着かないようには出来るけど」

「にひひひ。部品からは特定できませんからね」

「ああ。なんかあっても神凪と風牙衆に責任とか色々となすりつけたらいいし」

「酷い人ですね、マスターは」

「くくく。今さらだろ?」

 

こうしてウィル子、和麻の攻撃は続く。

 

 

 

 

同時刻、神凪の精鋭は大型の車にて目的の地に向かっていた。

重悟、綾乃、燎、煉、雅人、武哉、慎吾の七名で、運転は武哉が行っていた。

助手席には慎吾が座り、その後ろに雅人と重悟と煉。最後尾には綾乃と燎が座っている。

車内の空気は決して軽いものではない。誰も一言も発しない、重苦しい空気が漂っている。

 

そんな中で綾乃と燎の心中はかなり穏やかではなかった。

友人であり、同年代でもあった美琴が妖魔になっているかもしれない。それを思うだけで彼らの心に荒波が立つ。

 

「綾乃、燎よ」

 

そんな中、重悟の声が車に響く。

 

「お前達が何を考えておるのか、薄々は気づいておる。今は忘れよと言うべきなのだろうが、それを言うのは酷であろう。ならば助けるために力を振るえ」

「お父様……」

「綾乃よ。炎雷覇継承者として、お前はまだまだ未熟だ。だがだからと言って何も出来ないわけではあるまい。ならば持てる力を全て使い、見事に風巻美琴を助けて見せよ。燎も同じだ。風巻美琴に恩義を感じておるのなら、その恩を此度の件で返せ」

 

つまり妖魔になっていた際は、お前達が助けよと言う意味だ。まだ確定ではないが、その可能性が高いと重悟は考えていた。

 

「しかし重悟様。自分にはそんな力は……」

 

悔しそうに自分の拳を握り締めながら燎は呟く。彼には、もちろん綾乃にも妖魔になった人間を無傷で浄化するような器用な真似はできない。

 

「甘えるでない」

 

だがそんな燎を重悟は一喝した。

 

「その程度の覚悟ならば迷いを持つな。助けられないと思っているうちは、どのような状況になっても助ける事などできん。綾乃もだ」

 

厳しい重悟の指摘に綾乃も燎も黙り込む。

 

「そのような迷いは自らを危険に晒すだけではなく、他の者まで巻き込む可能性がある。私とてお前達を護ってやれるかもわからん。私も所詮は戦える身体ではないのだ。お前達がその様ではどうにもならん」

 

きつい事を言うが、今は神凪が滅亡するかも知れ無いと言う非常時なのだ。その折に子の二人がこんな精神状態では勝てるものも勝てなくなる。

 

「浄化は私に任せよ。お前達は仮に風巻美琴に妖魔が憑依していた場合、その動きを封じればよ。それならば出来るな?」

「はい。任せてください」

「俺も何としても美琴を止めます」

 

二人は力強く重悟に言う。二人の言葉に満足したのか、重悟は優しい笑みを浮かべる。

だがそれもすぐに変わる。彼らの目的地である場所の付近で大きな爆発が見えたからだ。

 

「な、なんだ、あれは!?」

 

運転していた武哉も驚きの声を上げる。彼らの見る視線の先にいくつ物爆発が生まれる。

 

「重悟様、あれはまさか……」

「誰かが戦っておるのか? しかしアレほどまでの爆発は……。大神武哉。出来る限り急いでくれ。事態は我々の予想以上に悪いのかもしれん」

「は、はい!」

 

重悟に言われるまま、武哉は車のアクセルを踏み込み現場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

兵衛は和麻とウィル子のミサイル攻撃を防ぐ美琴を見ながら若干の安堵とそれ以上の危機感を覚えていた。

攻撃の正体が不明であり、兵衛には何が起こっているのか理解できなかった。まあそれもそうだろう。巡航ミサイルと弾道ミサイルを使ってくる術者がどこにいるか。

 

「一体何が起こっておるのだ? だがさすがは美琴だ。どんな攻撃か知らぬが、その全てを防いでおる」

 

兵衛は何とか笑うことで精神を保たせる。大丈夫だ、今の美琴ならば防ぎきれる。

 

「兵衛様。我らはこのままここに留まっては危険では?」

「いや、下手に動くほうが危険じゃ。今は美琴がおるゆえこの封印の地と我らを同時に護れるが、我らがここを離れればいくら美琴と言えども両方を護りきれるものではない」

「では事態が落ち着くまでここに?」

「うむ。どれだけの攻撃かはわからぬが、永遠に続くなどと言う事はあるまい」

 

兵衛はそう言いながら、もう一度上空を見る。

普通ならミサイル一発で終わりであるが、それを美琴は良く防いでいる。普通ならばこれだけ打ち込まれれば、一発くらいは通してしまうがそこは風の力を操るだけの事はある。

 

彼女は迫るミサイルを何とか一キロ以内に侵入される事なく全て叩き落している。しかしその力もミサイルに集中していればの話しだ。

これが仮に完全に肉体も変化を遂げた状態で妖気と同化していたのなら、彼女の体力は底なしに思えたかもしれない。危なげなくすべてを叩き落し、接近してくる神凪の精鋭をも同時に攻撃できただろう。

 

だがまだ肉体が変化しきっていない今の美琴は、徐々にではあるが妖気と体力を消費していった。

さらには和麻達が重悟達が向かってくる方向からは一発も撃っていなかった為、彼女の意識は完全に上空と和麻達がいる方へと向けられていた。

 

だからこそ、和麻とウィル子の狙い通りに、美琴は神凪が近づくのを阻止する事が出来なかった。

気がついたときにはすでに三キロの地点まで侵入されていた。攻撃をと思ったが、タイミングを図ったかのように今までに無い程の数のミサイルが来襲した。

 

しかもミサイルは一直線ではなく、同時に迎撃されないように位置や速度をそれぞれに変化させていた。

さらに核ミサイルや大火力のミサイルではないため、一発を撃墜してその余波で周辺のミサイルを破壊すると言うことが出来ないため、美琴はミサイル分の風を操り破壊するしかなかった。

 

長距離攻撃が可能と言っても、高速で迫る大量のそれも微妙に位置や速度が違うミサイル全てを迎撃するのは至難の業である。今の美琴にはあまりにも難しい作業だった。

そのため意識の全てを傾けなければ、全力を持って望まなければ到底達成できない事。

ゆえに神凪は迎撃される事なく、封印の地へと到達する事ができた。

 

「なっ、まさかこれは重悟!?」

 

七百メートルに至り、ようやく兵衛達も重悟達の接近に気がついた。しかし遅い。あまりにも遅かった。

彼らはすでに車を降りて高速で向かってくる。重悟も速度は遅いが、それでも一般人と比べるとかなり早い速度だ。

 

足を失おうとも、気を操る事で一時的に作り物の足でも無理に動いているのだろう。神炎を操る重悟だ。気の扱いは神凪一族では厳馬と同じくらい優れている。

 

「み、美琴!」

 

兵衛は叫ぶが美琴もミサイルの迎撃で手一杯だ。とてもそちらに向ける余力は無い。

そして兵衛の元に、神凪の精鋭達が姿を現した。

 

 

 

 

 

「マスター。神凪の術者が兵衛の元へとたどり着きました」

 

携帯のGPS機能を使って全員の位置情報を眺めながら、ウィル子が和麻へと報告する。

 

「そうか。何とか思惑通りの行ったな。ああ、ウィル子、ミサイル攻撃は次で最後にしろ」

「はいなのですよ。最後の弾道ミサイル三発と巡航ミサイル五発で仕上げにしますね」

 

最後のミサイルの発射を行いながら、ウィル子は一息つく。

 

「ご苦労。で、敵の動きは?」

「ええと風巻美琴の携帯のGPSの位置情報では兵衛の前あたりにいますね。多分地上に降りたのではないでしょうか?」

「わざわざ降り立ってことは封印と兵衛達を護ろうってことだな」

「おそらくは。もう少し詳細なデータが欲しいところですね。今からスパイ衛星で調べましょうか?」

「今、この上空にあるのがあるのか?」

「はい。某国が秘密裏に打ち上げたのが丁度この真上に来ています。まあスパイ衛星自体、地球の周回軌道上をいくつも回っていますからね。いっそのこと、ウィル子達もスパイ衛星を作って打ち上げますか?」

 

笑いながら言うウィル子に和麻はそうだなと少し考える。

 

「大阪の連中に作らせるか。前に人工衛星作ったって言う実績があるし、打ち上げも俺が風である程度まで運んでその後にロケット噴射をさせれば楽に上がるだろうし」

 

和麻の能力では完全に大気圏を離脱させる事は出来ないが、ある程度の高度まで運ぶ事は可能だ。

自分達専用のスパイ衛星があればかなり楽に色々なことを調べられるようになる。

 

「まっ、現状でも俺とお前の能力があれば調べるのは楽なんだけどな」

「確かに。でもウィル子の能力でもさすがに限界はありますし、マスターも十キロ圏内は完璧に調べられても、それより離れたところを調べるのは難しいですし」

「そうだな。この一件が終わったら、それも考えるか。とにかく音声を拾ってこっちに流せ。連中の携帯にも仕掛けはしたんだろ?」

「もちろんなのですよ。で、ウィル子達はこれからどうしますか? しばらくここで事態の推移を見守りますか?」

「それもいいが、それだと出遅れそうだからな。少なくとも兵衛は俺が潰したいから、少し移動するぞ」

「にひひひ。タイミングを見計らって登場ですね。俗に言う満を持して」

「最初からクライマックスでもいいけどな。宗主がどれだけ戦えるか知らねえが、それなりには戦えるだろ。炎だけ見れば、厳馬以上なんだからよ」

 

あの厳馬以上の使い手。想像するだけで恐ろしい。そこに炎雷覇を付け加えれば、本当に手におえない化け物だ。

 

「出遅れないようにしないとな。つうわけでうれし楽しの死刑の時間と行こうか」

 

最悪の敵が兵衛へと迫る。

 

 

 

 

 

美琴をまるで盾にするかのようにその背後に陣取る兵衛達。対して神凪の術者達も一列に並び、彼らと対峙する。

その中心には重悟が立ち、その脇には炎雷覇を構えた綾乃と炎を召喚した煉と両手に少し短めの刀を持った燎が経つ。分家の三人もそれぞれにその横につき炎を召喚している。

 

何故、どうして、馬鹿な。

兵衛の頭の中はぐるぐると回るように混乱していた。神凪の術者、それも重悟をはじめ宗家と分家の最強のメンバーが目の前に現れたのだ。

兵衛にしてみれば突然の出現と言っても間違いではなかった。計画はバレていないはずだった。神凪には何の情報も伝わっていない、漏れていない、そう考えていた。

 

「な、何故ここに……」

 

そう呟くしかできなかった。

 

「やはり娘に堕ちた神である大妖魔の力を憑依させていたか。兵衛、お前は神凪一族を滅亡させるために、この計画を実行したのだな?」

 

重悟が確認するかのように呟く。その言葉に兵衛は押し黙るが、内心ではなぜ知られているのかと戦々恐々していた・

 

「兵衛。諦めるのだ。すでに風牙衆は拘束し、お前を支持していたものは逃亡、あるいは自ら命を絶った。これ以上、被害を広げるべきではない」

 

その言葉に兵衛は驚愕した。まさか風牙衆が全員拘束され、味方がほとんどいなくなったなど、信じられなかった。

 

「逃亡中の者もすぐに見つけ拘束されよう。お前の計画は達成できん。またさせるつもりも無い。兵衛、大人しく縛に着け」

 

重悟は諭すように兵衛に言うが、彼は到底聞き入れない。聞き入れられるはずが無い。

 

「馬鹿なことを! そのような言葉、到底受け入れられぬ!」

 

反発し、叫ぶように兵衛は言う。

 

「何故我らの計画がばれたのか、またお前達がここに来れたのか、あの攻撃はなんだったのかと疑問は尽きぬが、今はそんな事は関係ない! こちらには美琴がおるのだ! こちらの悲願である神復活のために必要な神凪宗家もここにいる! この場で全員を倒し、我らの悲願を成就させる!」

「風巻兵衛! 美琴は、流也はあんたの子供じゃないの!? 何でその子供を妖魔の生贄なんかに!?」

 

兵衛の叫びに綾乃が過剰に反応した。彼女達の目の前にいる一人の少女。虚ろな目をして、全身から妖気を放っている彼女達の友人。その姿を見たとき、彼女は怒りを抑え切れなかった。

 

「流也の事まで知っておるのか。……美琴は、流也は風牙衆の未来のための礎になったのだ。美琴は違うが少なくとも流也は望んでその身を差し出した」

「ふざけんじゃないわよ! 精霊術師が悪魔に魂を売るなんて!」

「黙れ、小娘! 貴様に何がわかる。我らの何が! 力が無いと言う理由で我らは隷属されてきた! 確かに三百年前、我らの祖先は確かに罪を犯したかもしれん! だがそれを我らはいつまでその業を背負い続けなければならん!」

 

己の内に合った激情を兵衛は吐き出す。神凪一族に対する恨みつらみ。その全てを兵衛は吐き出す。

 

「神凪一族が我ら風牙衆をどう扱ってきたか。どう思ってきたか、知らぬわけではあるまい? いや、知らぬのなら教えてやろう。貴様ら神凪一族の大半は我らを見下し、侮蔑し、奴隷のように扱った。違うか、結城慎吾! 貴様は我らをそう思っていたはずだ!」

 

問われて結城慎吾は表情を固くする。確かに常日頃からそう思っていたが、重悟達のいる手前、それを言うわけにも行かなかった。

 

「違うか、大神雅人、大神武哉! 貴様の兄は、父は、他の分家は我らを特にそのように見てきた。扱ってきた! 違うとは、嘘だとは言わせぬぞ! 我らの親の代も、その前も……。そしてそれらはこれからも続くであろう」

 

ギリギリと歯をかみ締め、兵衛は悔しさに顔を歪ませる。

 

「一体、我らに何の咎がある!? これから先、生まれてくるであろう風牙衆がなぜそのような扱いをされねばならぬ!? 答えろ、神凪一族! 我らをそのように扱う権利が貴様らにはあるのか!?」

 

兵衛の言葉に誰も何も言わない。言えるはずが無いのだ。重悟は兵衛の言葉に動揺こそしていないものの、この状況を打開できなかった己の無力さを呪った。

また綾乃、燎、煉は兵衛の言葉に動揺を隠せないでいた。彼女達は風牙衆をそのように見たことも扱ったことも無い。

 

だが心のどこかで風牙衆を弱いと決め付けていた。さらに彼らの苦しみや扱われ方に疑問を浮かべず、神凪内でどのような扱いをされているのかを知りもしなかった。だからこそ、兵衛の言葉で戦意が砕かれた。

 

他の分家の三人は表面上は動揺も見せなかったが、雅人は自分の兄が風牙衆にどのように接しているのかを知っていたし、それを積極的に変えようともしなかったと言う事では兵衛に何も言い返せない。武哉も同じで積極的な行動こそ無かったが、風牙衆を見下していたのは否定できない。

 

慎吾は兵衛の言うような扱いをしていただけに、風牙衆のくせに生意気なと言いそうになったが、何とか言葉を飲み込む。ここで下手な事を言えば、宗家の不評を買うのは目に見えていたからだ。

 

「息子を、娘を犠牲にしようとも、それでこれから生まれる風牙衆の子供達が我らと同じような思いをせずに済むのなら、風牙衆の誇りが護られるのなら、いくらでも犠牲を出そう! 例えこの身を悪魔に捧げようとも、貴様らを打ち滅ぼしてくれよう! やれ、美琴!」

 

兵衛は宣言し、美琴へと告げる。

命令を受け、美琴は何処とも無く、両手に扇子を広げる。黒い妖気が収束し、周囲を闇色に染め上げていく。

 

重悟は不味いと思った。綾乃達が動揺している。これでは思うように実力を発揮する事が出来ない。兵衛の言葉に完全に出鼻を挫かれた。

美琴が両腕を振りかぶり扇子を重悟たちに向かい振り下ろす。

風の刃が無数に生まれ、衝撃波を発生させながら迫り来る。

 

「喝ぁぁっっ!」

 

重悟は気合を込め、炎を召喚する。黄金の炎が吹き上がると同時に、それが変色していく。重悟の気を取り込んだ最強無敵の力。神炎と呼ばれる炎に変化していく。

紫炎。

これこそが重悟を最強と言わしめた力だ。

漆黒の風と紫炎が激突する。

ここに神凪一族と風牙衆の最後の戦いが始まった。

 

 


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