ご飯好きなお隣さん   作:のへてみこそ

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ご飯好きなお隣さん

そんなはずがないだろうって思っていた、思い込んでいた。

そんな馬鹿げたこととは。彼らの必死さまでは頭が回らなかった。

 

私の母国は侵略を受けた。弱小であった私たちの国は弱いからこそ独立を許されていた、そんな国だった。私は9で徴兵された時から、死に物狂いで敵のトリオン兵を倒した。戦場は残酷なまでに平等だった。隣に立っていた人はいなくなり、できるだけ目立たない術を学んだ。コソコソと逃げて隠れて、必死に生きてきた。

そして、エンジニアの一人に頭を下げて、ただでさえ少ない時間から暇を見つけ出して技術を学んだ。前線に立つことを避けるために。12の頃には戦争は終わり、平和な時期が訪れた。私は軍の技術開発に携わり、複数の新型トリオン兵の制作に成功した。

 齢15の時に、再び母国は攻撃を受けた。特殊なトリオン兵に騎乗して戦う国であった。そこで、私が作ったトリオン兵は活躍した、しすぎてしまった。私は自分が優れていると思ったし、それはうぬぼれではなかった。けれども、誰かのことを思いやるような気持ち、悪目立ちすることが引き起こすことを理解はしていなかった。調子に乗っていた。

 我が国は敵の精鋭トリガー使いを確保し、優利に交渉を進めることが出来た。

 久しぶりの快挙であった。余裕が出来てしまった。

 

 

無機質なトリオンで作られた部屋には上等な椅子に座って、幾つもの勲章を胸に付けた上官がこちらを疎まし気に眺めていた。

あの中の勲章でいったい幾つが自分の力で手に入れたものなのだろうか。私はそんなことを考えていた。

「私は断固反対します。今回の遠征計画は無謀です。確かに先日の戦闘ではこちら側の圧勝でしたが、このトリオン兵は攻撃任務には向いていません。現在は国力増強に重きを置くべきです」

「しかし、ルレーネ技術少尉。でしたらば、当該トリオン兵の攻撃力を上げるためにさまざまな改良工事を行うべきで、それが出来ない場合はあなたの怠慢なのでは」

「このトリオン兵は、設計思考から防衛用として作られているのです。限定された状況でなければ、モールモッドと同じ程度の戦闘能力しか発揮できません。それでは、コストパフォーマンスが悪すぎる」

「あなたは国の為を思っているのかもしれませんが、これは国の決定です。たとえ、このトリオン兵が攻撃用に向いていないとしていても、何とかして改善しなければなりません」

「しかし、」

「少尉。ここに、一つの命令書があります。そこには、こう書かれています。玄界への単独調査任務。」

「そんなの」

目の前に一枚の紙を見せられる。

「これは、私が許されている権限を行使しているだけにすぎません。軍法上は何の問題もありません。ただ、任務の危険度が高い、それだけです。トリオンを使わない暮らし、いったいどんなものなのでしょうか」

彼はニタニタと下品な笑みを浮かべた。私を下に見ることが出来て、とても気分がいいようだ。ああ、彼の派閥が試作したトリオン兵を私のトリオン兵がコンペで破ったことを思い出した。玄界はトリオンを使わない暮らしが行われているらしい。どんなものか想像もつかない。

 

「もし、あなたが今回の任務に賛成して、さらに貴方の優秀な、優秀な仲間たちと協力して遠征を成功に導くと約束してくれるならば、私は気が変わることもあるでしょう」

 

彼は道化師のように手を大きく広げて、もはや笑みを隠さない表情で立ち上がり、こちらを見下した。

 

「わかりました。協力します」

残された道は実質上一つだけだった。あの時の私はどんな顔していたのだろうか。

 

 

 私は与えられた仕事、遠征に使うトリオン兵のプログラミングを終えた。我ながら十二分の出来だったと今でも自負している。

 夜更けとを叩く音がした。久しぶりの来訪者だった。それは自宅で就寝中の出来事だった。寝ぼけまなこで戸を開けると、トリガーを起動した軍の兵士が二人いた。えっ。こちらに刃が向けられていた。

「ついてきてください。これは命令です」

有無を問わない声色だった。

「トリガーを出してください」

「もう、もう一度、お願いします」

震える声で確認した。噓だと言って欲しかった。

「あなたは今トリガーの提出が求められています」

「お願い。噓だと言ってよ」

 

 兵士たちの目は無機質で感情を感じさせない。ここには、私のことを気にかけてくれる人は一人もいない。トリガーという、唯一の自衛手段は取り上げられた。手枷をはめられて、トリガーを没収されること、すなわち、罪人に課す処罰だった。

 日が沈み、夜のとばりが下りている中、私は罪人のように基地を目隠された状態で歩かされた。辺りは夜の香りに満ちていた。とても、静かだ。私たちの息遣いと足音だけが響く。幾度となくドアをくぐり、階段を下る。

突然男の声がした。

「あなたがただの研究者であったのならば、こんなことにはならなかったでしょう。恨むならあなたの生まれを恨みなさい」

「生まれ、いったいどういうことですか」

返答はなかった。私は私が今置かれている状況を理解できなかった。このままでは、まずいと思いながらも、どうすることもできない。

私は荷物のように無機質な床に置かれた。

「誰か、助けて」

 

 

「遠征艇のトリオン量50%充填」

「トリオンはそのくらいにしておきなさい」

「しかし、規定よると」

「その必要はありません。現在は緊急時です。遠征に多くのトリオンを回したい。それに、こちらの不手際にはならないギリギリの所で解消されてほしいのです。それならばトリオンは少ないほうが良い。規定には抵触していないはずです」

 

「お願い、誰か」

ああ、本当に短慮だったのは自分の方か。

バシン。扉が閉められた。私は遠征艇に閉じ込められた。

 

「私は適切な処置をした。軍法に基づき最低限必要な物資とトリガーを置き、遠征艇を動かした。道中に困難なことがあっても、本人一度説明はしているため、問題はない。国宝による裁判も乗り切れるはず」

 

黒いゲートが開かれた。小さな船は大きな旅路を迎える。

 

 体をよじって目隠しをとる。

 遠征艇には一か月分の食料と水、訓練併用の簡易トリガーが一つ置かれていた。

 トリガーを用いて手械を壊す。

 

 

 

 私は憔悴していた。用意されていた食料は出来るだけ切り詰めて、遠征艇のトリオンは常に自分のトリオンで補填した。終わりがみえなく、少しづつ生き残る可能性が消費されていく。

 とくに辛いのは、孤独だ。自分一人での船旅。幾度となく繰り返される狭い遠征艇での一人旅。一人用の遠征艇はとても狭い。娯楽となるようなものは排除されてしまっていた。無味無感想な毎日。日々薄れていく時間の感覚。こちらからの操作は受けつけず、自動で玄界へと目指す旅路。自分の限界がそう遠くないことはわかった。

 

 歌を歌った。かつて、お母さんが歌ってくれた歌。幼いころの記憶、曖昧な思い出の中からおぼろげな歌詞を拾う。英雄を讃えるための詩。そんな、ヒーローになりたかった。若くして離別した、煙のような記憶を拾う。今にも枯れそうなともしび。

 

 遠征艇は玄界に到着した。

 

 崩れ落ちるように遠征艇の外に出た。夜の香りがした。不思議な夜空だ。

 

 人がいる空気を感じた。崩壊している街並み、少なくない血痕、そして玄界のトリガー使い。この場所での惨劇を物語る。

 

 だけれども、今はただ人が恋しくて、人に出会えて嬉しくて、たまらなくて、涙が止まらない。

 

 対峙した彼の眼は、私を見た一瞬、ほんのひと時だけ喜びの表情を確かに浮かべた。その後に後悔の表情を浮かべた。まるで、喜んでしまった自分を戒めるように。

そして、彼は言った。

「ぼんち揚げ食う?」

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