オリジナルトリガー登場します。
読み難いので編集。
白い法衣をはためかせて、私の故郷のトリガーを起動させる。とはいっても、私がボーダーの設備を使って、持っていたトリガーを改造したものだけれどね。
私が持っている技術とこの世界の知識を融合させたトリガーである。試作品みたいなもので、量産型ではなく一品ものだ。A級の特権を私も享受しているのだ。どやっ。
手にした、槌、ガベルを手元で一回転させる。くるくるとガベルを回す。二つ持っていたガベルのうちに一方を腰に括り付ける。
「なんだぁ、ずいぶんと小せぇハンマーだなぁ。ガキの玩具じゃねえか」
「これは、ガベルっていってね。見たことない?裁判所なんかで、静粛にって言ってトントンと叩く、木の槌をモチーフにして作られているんだよ。とは言っても、君たちの国に裁判所があるかどうかなんて、私は知らないけど」
私の国のは異端審問だったけどね。
大きな音を立てて、コンコン、静粛に、ってなふうにね。もう片方の手のひらを軽く叩く。
「玩具か。ふふ。そう思ってくれるのなら嬉しいね」
そもそも、黒トリガー相手に時間稼ぎができている時点で儲けものだとは思うんだけどな。それほどまでに隔絶している。
でも相手の思考が、どこか、ちぐはぐな感じがする。遠征部隊に選ばれるほどなのか?
選抜試験では様々な素質を確認されるはず。
壊れたのか?
相手に悟られないよう、フリーのオペレーターさんに聞く。
オペレーターさん、この人が風間さんをやったんだよね。その時には、不可視の攻撃をトリオン体内部から食らった。
「はい、そうです」
ボーダー本部の臨時のオペレーターに情報を聞く。
どのくらいの距離で食らったとか分かる?
「すみません。風間隊長が接近した事、までしか分かりません」
残り二人は無傷だったんでしょ。まぁ、だいだい予想はつくけどね。それぐらい分かれば充分だよ、ありがとね。
黒トリガーは強いけれども、万能ではない。
それは一人の人間が運用しているものであるし、トリガーとの相性問題が発生する。
判断力や場面処理能力が普通のトリガー使いよりもとても優れているといったことはないし、あくまでも人間の領域にとどまっている。
まあ、トリガーの出力や総トリオン量は桁違いに多いし、トリガー能力も特異的なものばかりだけど、対策方法がないわけではない。
黒トリガーは相性問題が発生する。
たがら、相手の性格などでどんなトリガーが適応するか、ある程度のあたりをつけることができる。
目の前にいる敵はひねくれた性格である、陰湿な性格とも。だけども、どこか養殖の香りがする。まるで、後天的に性格が変わったような。本物のサイコパスの匂いはしない。
脳裏に浮かんだ過去の記憶を追い払う。歪んだ笑い声が、気持ち悪い弧をえがく、口。
あぁ、弱くなったな自分。
集中しないと。
恐らく搦め手系の黒トリガー。これまでの交戦の経験から適切な距離、間合いを把握すべし。不可視の攻撃は何らかの制約があるはずだ。
ボーダー内部には通気口から侵入してきたらしい。
転移系ではない。形状変化か。
つまり、持久戦に持ち込められれば、最高。手札を少しづつ明かしていければ上出来。口撃にも弱そうだ。
「ところで知ってるかい、不可視の攻撃は君だけの専売特許じゃないんだよ」
ガベルを振る。
ボーダー基地内部はプルプル黒トリガーのせいで、至る所に亀裂が走っている。その亀裂から、黒トリガーの攻撃が発生している。
周りには密かに避難している職員の姿があるから、できる限り注意をそらし続けないと。
「おいおい、何も起きないじゃねぇか。楽しめさせろ猿が。なら、こっちからいくぜ」
トリガーを換装して、トリオン体を構築しなおしたことから、警戒していたのだろう。それが緩んだ。
「ここっ」
重なり合わせるように、ガベルを振る。二つの振動が重なり合い合成される干渉波。その威力はかなりのものだ。
敵の体半分が吹き飛んだ。
「何ッ」
初めて有効的な攻撃ができたのではないか。硬質的な部位も見つけられた。
「うん、とくに液体だと、振動も伝わりやすい」
散らばった液体はそれぞれがうごめいて、まとまりあって一つのトリオン体を形成していく。初めて、敵が怒りの感情を見せた気がする。
トリオン体を維持しているコアを破壊しないと、倒すことはできないか。
「猿が、何しやがった」
「君と私のトリガーとの相性がかなりいいみたいだよ」
相手から寄せられる液体の刃や個体の刃、それらを振動を使って、その威力を拡散させていく。
「この、くそガキがぁ」
敵の攻撃が止んだ。一瞬、間隙が生まれた。
大技が来るな。
あちらこちらから振動を感じる。
敵の刃が四方から襲い掛かってくる。前後上下、どちらかを対処しようとすると、どれかが死角となる位置に刃が置かれてる。
しかも、その上、緩急まで意識されている。さすが、アフトクラトルの精鋭。やっぱり、一人じゃ限界が来るか。
こちらも、トリオン残量を気にせずに、大技を使う。全方位に衝撃波を放ち、敵の攻撃を遅延させる。振動波が敵の攻撃の一角を崩壊させる。
そして、攻撃の手が鈍った方面に、退散する。
このままだとこの場所が持たないかもしれない。
「ずいぶんと、サル?に苦戦しているんだね。鏡を見てみるのはどうだろうか?」
彼は私の言葉に反応して少し顔を歪めた。その後、始めて私のことを見た、そんな気がした。
そうした、表情はすぐに消えさって、敵はニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「てめえのトリガー、それで衝撃波を出してるのか、確かに時間稼ぎにはなるかもしれないなぁ、よく考えたなぁ、
でどうやって、俺を倒すんだ?」
相手の様子が変化した。首を大きく一回転させた。
「そういえばここは、お前らの基地だったなぁ。うじゃうじゃと猿どもがいたなあ」
「あぁ、そういえば。すぐそばに手負いの猿がいるなあ」
そう言って、黒トリガーは逃げている職員を手で指さした。
こいつ、逃げ遅れている人を狙うのか。
「さあ、お前はどうすんだ」
ならば守るしかないじゃないか。
「そうだよなあ、そうするしかないよなぁ。でも、残念。それは、不正解だ」
咄嗟に職員を遠くに投げ飛ばす。
黒刃がせまる。
しくじった。
アステロイドが敵に打ち込まれる。
「おうおう、大丈夫か。助太刀にきたぜ」
「諏訪隊!トリオンキューブから無事に復活できたんだ。助かったよ」
こんな短期間でキューブを解除できたんだ。さすがは、我らがボーダーの技術力。ホントにありがたい。
アタッカーの子が最後の職員を避難させてくれた。
「ばちばち、やってるとこ悪いんだが、一つ秘策がある。指示に従ってくれねえか」
「どんな?」
敵に聞かれないために、声を出さずにやり取りをする。
「仮想訓練室か。なるほどね、よく思いついたね」
「この前、新人の研修見てたんだよ」
「ああ、あの外壁ぶち抜きのこと」
「いや、そっちじゃないほうだ」
「あぁ、白髪の少年でしょ。それはともなく、なら私が黒トリガーを誘導するから、援護よろしく。煽り耐性が低いから、すぐについてきてくれると思うよ」
「おぉ。そうなのか」
「あ、あと、腐っても黒トリだから。油断するとすぐ狩られるから。注意してね」
「あぁ、同じヘマはしねぇ」
「うん、その調子。下手に気負ってなくて安心した。じゃあ。からかってくるよ」
諏訪隊がやってきたからか、警戒している黒トリをおびき寄せるために、挑発してみる。
「ねぇ、そこのプルプルさん、質問いいかな」
「どうして、そんなに認めたがってもらおうとしているの?」
彼の顔が今までにないほどに、ゆがんだ気がした。
「てめぇは何をぬかしてやがる」
「わざわざ、私たちの基地に攻撃を仕掛けてきたのはなぜだろうと思ってさ。普通はそんな焦る必要はないし」
「上にとっても黒トリガーは大切だ。敵基地に単独行動なんて、普通はさせないはずだ。そうでしょう。例え、空間系トリガーで回収できたとしても」
「どんな理由があるのかなって。特別扱いかな?それとも、きみ、仲間に信頼されてるのかな?お猿さん、自分のことすらわからない、単細胞さん」
「てめえ、さっきから、うだうだと言いやがって」
ほら釣れた。
あと、かまをかけてみたけど、やっぱり空間系のトリガーが存在するのか。
前にうちの国も似たようなことをやられたからなぁ。それに、ゲートを開くトリオン兵もいたみたいだし。
一応注意はしておこうか。どうしようもない気もするけど。
「オペレーターさん、聞いていた?すでに知ってるかもだけど、空間系のトリガーがあっちにあるかも」
諏訪隊諸君が珍しいものを見たような眼をしてこちらをおそるおそる見ている。煽り文句にびっくりしたのかな。
まぁ、私だって怒っているわけだよ、こんなに意味がないことをさせられるのは、嫌いなんだ。
ほんとに、人の命をなんだと思っているんだろう。
すごく、不快。
通路を通り抜けて目的地に向かう。ある程度の距離があくと、敵のトリオン体を構成している物質を操作できなくなるみたいだ。
彼は一時の怒りの表情を抑えて、ニヤニヤとした笑顔の仮面を浮かべながら、こちらの後を追ってきている。
そこは、仮想訓練室。
黒トリガーの攻撃を受けても、そのダメージが反映されることはない。ほんと、よく考えてる。
それと、ここにはすでに先客がいる。時間は稼げた。後は、フラグを回収するだけ。
彼が、黒トリガーがこの部屋に入ってくると、真っ先に私を狙って刃を飛ばしてきた。ガベルを振り、振動を与えて上手くコントロールできないように、攻撃を揺らして散らす。
散らした刃の中から、硬い泥の剣がこちらへ一直線に向かってきた。手に持っているガベルでその剣を叩く。一瞬の均衡のあと、私は後ろに吹き飛ばされた。
くるっと一回転したあと、あちこちにガベルを振るう。
「どこへ、飛ばしているんだ。お前のそれは、一直線上にしか出せないんだろう」
「ばれてたか」
まぁだからといって、できることはたくさんあるんだけどね。
私の合図に合わせた諏訪隊が銃を乱射する。するとアステロイドは振動している空間を通るとき、不規則に揺れる。
それは、敵のトリオン体を確かに貫いた。けれど、何ともないように攻撃を続けてくる。
諏訪隊が避けきれず傷を負った。けれど、ここは仮想訓練室。部屋の機能が破壊されない限り、傷は直ちに復元される。
やっぱり、トリオン体の中枢機能を担っているコアを貫かないとだめか。
しかも、ダミーコアみたいなのを、作られているっぽい。トリオン体の中に固体の振動が複数感じられる。どうしよう。
カメレオンで隠れている風間隊隊員に相談する。もちろん。敵に聞かれないよう声には出さずに。
「ねぇ、菊地原くん。その耳を貸してくれない。たくさんあるダミーの中の本物が知りたい。振動を与えるからどれだか教えてくれないかな?」
「ねぇ、きみ。さっきからすごくうるさいんだけど」
「それは、ほんとにごめん。できるだけ抑えるから。そうだ、後で焼肉おごるよ」
「わかった、あれ疲れるんだよ。あと別に、焼肉が欲しいわけじゃない。ただ、あいつが調子に乗るのが気に食わない」
「じゃあ、作戦通りによろしく」
やっぱ、風間さんのことを悪く言われて怒っているんだろうな。若いなあ。
手に持ったガベルで、また同じように衝撃波を作り出す。
起こすべきは敵が状況判断を誤らさせること。
残トリオン量を顧みずに、手数で圧倒する。
「猿がちまちまと、うぜぇんだよ」
敵の体が膨れ上がり、幾つもの棘がこちらにはしってくる。
今がチャンスかな。
さっきばらまいていた、ゆっくりとした振動波、に合わせる形で大きな干渉波を相手にぶつける。
それと同時に諏訪隊に援護射撃をしてもらった。
相手の体が大きく歪む。
菊地原くん、歌川くん。あとは任せた。
透明になることができるトリガー。カメレオンを解除すると、彼らは息の合った連携で敵のトリオン体内部にスコーピオンを差し込んだ。
しかし、敵のトリガーの攻撃は激しくて、すぐに距離をつけられてしまう。
「おいおい、いくら攻撃したところで無駄なんだよ」
「ねぇ、私が持っていて使っているガベルは一つだけなんて、いつ言ったっけ」
スコーピオンに結わえ付けられていたガベルが爆発した。敵の輪郭が崩れた。
「菊地原くん」
大きな声を出した。
「させるか、サルどもめ」
敵はトリガーでこちらに向かって攻撃をしてきた。
そう、今初めて大きな隙が生まれた。
でも、本命は私たちじゃあないんだよな。
カメレオンで伏せていた諏訪隊の攻撃手が最後にとどめをさした。
「くそ雑魚がぁあ」
コアは切り裂かれて、敵のトリオン体は崩壊した。
7対1での撃破。
「だから、相性がいいって言ったでしょ」
法衣が風に乗って大きく翻った。