個人的には①との違いはほぼない。
羽沢珈琲店でのデートはもはや定番となりつつある今日このごろ、窓際の席で注文を終えてふと向かいにいる妖精の如き透明感を持つ彼女に視線を向ける。
──なにやら窓の外を見上げて、ぼーっとしている彼女に声を掛けるが二度は無視をされてしまう。
「おーい、ましろ?」
「え──あ、ご、ごめん」
「ううん、いつものことだし、どうかした?」
「そ、それはそれでどうかと思う」
唇を尖らせたましろだけど、すぐに気を取り直したらしくまた窓の外に視線を向ける。
つられて同じように窓の外に目線を送ると、遠くに桜の木が少しずつではあるがピンク色で街を彩ろうとしていた。
春限定のその美しさに、きっと彼女の内に眠る世界が反応したのだろう、ましろはややうっとりしていた。
「もう、春なんだね」
「これからもっとあったかくなってくだろうね」
「うん、桜といえば──やっぱりお花見だね」
ちょっとだけ身を乗り出すかのように、そして何かを期待するかのように、ましろは大きな青色の瞳を輝かせた。
確かにまぁ、桜といえばお花見、デートの際に特定のスポットなどに頭を悩まなくていいのはとてつもなく素敵な提案ではあると思う。そして幸いにしてこの周囲は花見をできるスポットが幾つか存在するのもまた、ひとつのアドバンテージといえるだろう。
「お花見したい?」
「うん、デートで、散歩してみるだけでもすごく素敵だなぁって」
「それを写真に撮ってね」
「そうそう、ピクニックにしてみてもいいなぁって思って」
「じゃあ満開頃で予定空けとこうか」
「やった」
はしゃぐましろはかわいらしくて、まるで年下の妹を相手にしている感覚もあるけど、その表情に浮かぶ「好き」という感情は紛れもなく身内に向けるものじゃなくて。そういう少女と女性の同居みたいな透明感と危うさに、恋をしたのかもしれない。
そのタイミングで、つくしがやってきて紅茶とオレンジジュース、そしてケーキが
「まーたイチャイチャしてる!」
「いいじゃん、制服でもないもん」
「不純なことしてるわけじゃないし」
「ちゅーもしてないし触れてもないよ?」
「二人で攻撃してこないで、もうっ!」
プンプンと怒りながら去っていってしまったせいでなんでケーキが四つあるのかわからないままになってしまった。つくしのことだからもしかしたら注文をミスっている可能性がないわけじゃないから触れられずにいると、またやってきてこれが常連客用の試作品であることが伝えられた。
「んっ、おいしい!」
「確かにこれは、いい甘さだ」
「ね、でも二つかぁ……食べ切れるかな」
そんなことを言ってフォークの先端を咥えながら食べかけの試作品のケーキと手のつけてない注文したケーキの二つを見比べる。とか言ってましろは割と食欲も旺盛なげっ歯類系なのがかわいいんだけどね。頬袋に溜め込みつつも身体の割に食べてる気がするんだよなと頬杖をついて指摘すると、ましろの顔はみるみるうちに真っ赤になっていった。
「ば──ばかっ! 私、そんな食いしん坊じゃないもん」
「好きなものはたくさん食べるタイプ」
「ち、違うもん……!」
「まぁ、食べきれなかったら食べてやるから」
「む……それって、キミが食べたがりの食いしん坊さんなんじゃないかなっ」
違います。そもそも健全な男子高校生の胃袋と小柄な女子高生の胃袋が同じ要領なわけがない。これで食いしん坊扱いされるなら男子高校生はピンもキリもなく食いしん坊だよ。いやまぁそうなのか。
だからデートの時にお弁当を作るなら多めにしないと足らないからな。
「作ってあげるとは言ってないもん」
「なに、作ってくんないの?」
「ママが作る」
「おいおい」
「だって私、包丁持たせてもらえてないもん……」
斜め下に表情を落としながらのむくれっ面、そして倉田家の過保護と、普段のましろを見てそれが過保護と言えるのかどうかが悩ましくてちょっと哀れんでしまった。
そんな女子力皆無なましろははっと何かを思いついたようで、話題を急転換させようと試み始める。
「夜桜とかどう? ライトアップとかしてて、すごくキレイだと思う!」
「確かに、でも門限は?」
「せ、説得する……」
「手伝うよ」
「お、お願い……します」
それで話がまとまり、ましろと二人でまた夜桜のスポットなんかを話し合いながらケーキを消費していく。
──結局、なんだかんだ言いながらましろは二つのケーキをペロリとたいらげてつくしと味についての感想で盛り上がっており、そんな友達とはしゃいで笑うましろを見ながら頬杖をついて暖かい日差しを感じるのも、幸せだなと思うのだった。
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