脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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DC-6【防衛戦】戦闘前

 

「例の物はまだか!早くもってこい!お嬢は非感染者供の早急なる完璧な殲滅がお望みだ!」

 

 

 艦橋は既に敵の手に堕ち、友人達は凶刃の前に散っていった。

 燃えさかる平穏と、漂い溢れる硝煙の匂い。美しき街並みは血に染まり、ウルサスの栄光(国旗)は地に落ちた。

 

 積み上がる死体に湧き上がる殺意。

 

 怒りが恨みを。

 恨みが悲しみを。

 悲しみが怒りを。

 

 あらゆる負の連鎖の終着点が、そこにはあった。

 

 

「あった!情報通りだ!マジであいつら(軍警ども)保管庫にこんなもん隠してやがった!」

 

 

 キュラキュラと音を立てて武装した群衆の中を進み出る戦車。ウルサス駐屯軍の保有していた旧式の、現代の戦争では既に使われていない骨董品。しかしその威力だけはウルサスの長い戦争の歴史が保障している代物だ。

 

 ソレの砲身が向くのは向いの大きな鉄城門。

 非感染者どもが立て籠る最後の砦。

 

 非感染者達にとっては最後の希望。そして彼らにとっては極上の餌場であるエルド区内の貴族街を仕切る扉だ。

 

 しかしそれもあの巨大な鉄門あってこそのもの。ソレさえ破られて仕舞えば血に飢えた感染者達は一気にエルド区へ雪崩れ込み、全てくらい尽くすだろう。

 

 

「くそっ!何で俺らがこんな目に!」

「なんであんな豚どものお守りなんかで死ななきゃならねぇ!」

 

 

 故に兵士たちは震える手足を抑え、必死に武器を構える。防衛線の向こうに見える夥しい量の獣に怯えながら。

 

 しかし感染者達に彼らの思いは関係ない。戦車は容赦なくその門を突破すべく準備を進めてゆく。

 

 

「装填急げー!」

「早くしねーとお嬢に焼かれるぞ!」

 

 

 正面から覗いた銃口は真っ暗で、その暗闇の奥で詰められた砲弾がその存在を主張していた。

 

 

「砲撃よーい!」

「下がれ下がれ!鼓膜破壊されたくなけりゃ耳押さえろ!」

 

 

 そして砲弾が発射される──その瞬間であった。

 

 破壊すべき鉄門が自らその身を退けたのは。

 

 

『あ、あー…親愛なる帝国臣民諸君。たった今、エルド区駐在軍の指揮権は汚職に塗れた豚どもからこの私に移った。』

 

 「あ?なんだ?」

 

 

 開いた鉄門の奥から出てきたのは大柄な、しかし片腕を欠損した男の姿。右手にはメガフォンを、背中には男の背丈ほどある戦斧を背負っている。

 

 

『この私が指揮するからには諸君の勝利は確定したようなものである。私についてこい。共に帝国にあだなす反逆者どもを共に打ち倒そうぞ。』

 

「何だあのジジイ。戦車隊!あいつをぶっ飛ばしてやれ!」

「いや待て、あいつ、どこかで……」

 

 

 砲身がその男に定められる。

 無機質な殺意が牙を剥こうとしている。

 

 そんな中、男は緊張感をかけらも感じさせない手付きでメガフォンを投げ捨て、戦斧を手に握る。

 

 

「さて、口上はこの辺りでいいか。あとは、行動で示してやろうかね」

 

「砲撃用意!打て!!」

「っ!待て!戦車隊下がれ!!」

 

 

 轟音と共に放たれた鋼鉄の砲弾は風切り音を立てて男に迫る。それはその勢いそのまま男の体に命中し、肉を引きちぎりその風圧で四肢を中心から引きちぎり、体は破裂する─────はずだった。

 

 しかし砲弾が発射されると共に回転するように振り上げた戦斧は、勢いをつけて迫り来る砲弾に触れ、そしてソレをそのまま地面に叩きつけた。

 

 砲弾は射出された勢いのまま地面を少し抉るも、完全にその動きを止めたのであった。

 

 

「は、はぁ!?」

「あいつ、止め……っ!?」

「戦車隊下がれ!やつは、奴はフェイスレス様が言ってた……」

 

 

「貴様らにはちゃーんと理解してもらわないといけないな。」

 

 

 そして男は振り下ろした戦斧をその勢いのまま地面を抉るようにもう一回転。足を一本前へ踏み込み───

 

 

「この俺、ジャスパー・ランフォードの力はまだ健在だってことを、な。」

 

 

 投げた。

 

 

「っ!退避ーーーーー!!!」

 

 

 雷光を纏った戦斧は雷を撒き散らしながら砲弾と同等の速さで戦車に迫り、そしてその装甲を抉り燃料に引火。

 

 戦車はその砲身を爆発と共に持ち上げ、黒煙を上げたままその動きを止めた。

 

 

「ば、ばかな…」

 

 

 絶望に包まれた移動都市クレアスノダール。

 しかし、いまだ人々の希望は潰えていなかった。

 

 暴徒達を次々と切り捨てる姿は鬼神の如く。

 前線を退いた今なお、その目に闘志は灯されていた。

 

 元ウルサス正規軍少尉、ジャスパー・ランフォード。

 

 かつての皇帝の元、多大なる功績を生み出し爵位を与えられた英雄。片腕を失い全盛期より力の衰えたはずの今でさえ、その剛腕は立ち塞がる全てを打ち砕く。

 

 

「くそっ!引け!引けえ!!」

 

 

 リーダー格と見られる叫び声の元、暴徒達は背を向け撤退を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「いてて……腰が…」

「大丈夫か爺さん」

「悪いな。やはり年には勝てん」

 

 

 冗談はよせ。

 そうエンペラーは心の中で呟きながら目の前の老人を見た。

 

 フェイスレスことアルベルトがあの場を去った後、エンペラー達は倉庫に敷設されていた通信設備を使用して生存者を探した。

 

 その殆どが雑音か、稀に笑い声や悲鳴が聞こえる程度。

 しかしその中でたった一つ。まともに返答が返ってきたのが、このエルド区駐屯地。その通信を頼りに、それなりの距離を移動し、なんとか生存者の元へ辿り着くことができたのだ。

 

 そしてそんな彼らを出迎えたのがこの目の前に座る白髪の英雄であった。

 

 名をジャスパー・ランフォード。

 筋肉質で身体中に古傷を持ち、左腕が半ばから欠けている巨大なウルサスの老人であり、ウルサス国外でも稀に名を聞く程度には有名人である。

 

 

「それで?リスタ小隊長の裏切りに、ベール副隊長の死と敵のリーダー、先導者フェイスレスとの会敵。そしてお主らを含む保護対象6名と、4名の部隊員を残して壊滅……と」

「は、はい!そうでしゅ!」

 

 

 プルプルと子鹿のように震え、戦場以上に恐怖心を感じているのではないかと思うほどに怯えながら元リスタ小隊の隊員、シェナは報告を行う。

 

 敵ではないとはいえ、あの縦に傷跡の入った鋭い目つきを向けられて漏らさないだけでも彼女は頑張っていると言えるだろう。

 

 

「はぁ……頭が痛いな」

「しゅ、しゅみましぇん!」

「いや、良い。お主らは良くやった。何せそのような状況で市民を守り抜き、4人も生還して退けたのだからな」

「あ、ありがとうございますぅぅ!!」

「…しかし、まいったな」

 

 

 ただでさえかつて類を見ないほどの暴動に、既に都市が落とされかけているこの現状。防衛のために存在するはずの駐屯軍や自治隊は役に立たず、多くの住民が殺されているこの状況。

 

 すでに手一杯だと言うのに、正規軍の中に裏切り者がいると言う可能性、いや事実まで存在するのだ。さらにそれは感染者という明確な区分けができないと来た。

 

 

「はぁ…ヴェスタ。もう一度、不審な動きをするものがいないか確かめてこい。今度は貴族どもだけじゃなく軍警と市民もだ」

「了解」

 

 

 廊下をかけていく部下を尻目にジャスパーは考える。

 

 今我々が立てこもっているこのエルド区は主に有権者や彼のような外部からの来客が集まるような、いわば高級住宅街と言える区画だ。

 

 そんなエルド区には万が一に備えての防衛設備や権力者達の私兵が存在する。また、他の区に比べ中央駐屯兵が駆けつけやすい構造になっていることも幸いして暴徒達の鎮圧、及び侵入を抑えることができた。

 

 しかし暴徒の侵入を抑えることができようとも、襲撃の合間合間にやってくる避難民が減る事はない。

 

 いくら難攻不落の城塞が如き防御力を誇ろうとも、予定以上の民衆を受け入れるだけの物資は存在しない。

 

 避難民が増えれば養うための食料が減り、受け入れるための部屋が減り、手当のために行動可能な人員が減る。

 

 いちいち身元の確認を行う時間もないため、リスタ小隊のように不審人物がいても気付くことができない。

 

 さらには増えすぎた民衆は不安を大きくし、パニックを引き起こす。

 

 元々富裕層のみの避難船を目的に作られたエルド区は、これほどの民衆を受け入れられるようにはできていないのだ。

 

 

「ジャスパー!貴様いい加減にしろ!これ以上貧民どもを受け入れたら我々まで共倒れするぞ!」

 

「おい!高潔なる生まれながらのお貴族さん共は特別なスウィートルーム(牢屋)にお連れしろって言ったよなぁ!?誰か連れてってやれ!」

「なっ!?はなせ貴様!」

 

 

 何をすることもないくせに口だけはよく回る。

 権力者はいつだってそうだった。

 

 

「…クレス、脱出の用意は」

「たった今工兵達が行っていますが、中央制御区からの妨害で、全て手動で行うしかありません。ので、少なくともあと2時間はかかるかと」

「2時間か…」

 

 

 耐え切れるだろうか。

 たしかに貴族クズどもの言うように、民衆を切り捨て、早々に脱出の準備を行なっていればもっと早い段階に逃げることができたかもしれない。

 

 しかし、かつて民衆を守るべき立場であったジャスパーにはその選択はできなかった。

 

 その結果、救済の箱舟を破滅の泥舟に変えることとなろうとも。

 

 

「はぁ……くそ」

「……お前ほどの男でもどうにもならねぇのか?」

「あ?お前、俺のこと知ってるのか?」

「しらねぇ方がおかしいだろ。雷獣ジャスパー・ランフォード。かつてのウルサスカジミエーシュ戦役において一都市をたった一中隊で守り切った英雄」

「かかか!あまり褒めるな!何もやらんぞ!」

「そんな英雄が()()()()()()に手こずってんのか?」

「……」

 

 

 男の顔が少し曇る。

 

 

「奴さんの幹部格になかなか骨のある奴がいてな。そいつが出てきてからはなかなか……」

「だがお前が倒せないような奴じゃない。そうだろ?」

「……」

「はっ!図星か?顔に『自分は隠し事しています』って描いてあんぞ?」

「……あーくそ。図星だよ図星」

 

 

 悪い顔をしながら笑うエンペラーにジャスパーは頭を手で押さえ、降参というように両手を掲げた。

 

 

「そうだよ。別に俺はその気になりゃあそいつに勝てる。他の有象無象含めて全てにな」

「で?」

「……そいつはガキなんだ。子供。それも…俺の娘にとびっきりにてやがるガキだ」

「お前の娘ってのは……」

「……死んだ。今でも思い出す。戦争から帰った俺を迎えたあの光景を。腹から血を流す愛しの妻と、彼女が抱えるもう動かなくなった俺の娘。そしてその奥で家を散らかす知らない男。戦争とは関係ない場所で、戦争とは関係のない“強盗”なんてくだらない理由で。俺の妻と子は死んだ」

「……」

「俺は…もうあの娘の死に顔なんて見たくねぇ」

 

 

 部屋は沈黙に支配された。

 自分たちよりも遥かに大きかったはずの韋駄天は、とても小さく見えた。

 

 

「なら捕まえちまおうぜ」

「…あ?」

「殺せねぇんだろ?なら捕獲しちまえばいい。それに幹部格ってならある程度情報も持ってるだろ。そのための捕獲ってことにすればテメェの部下も納得するはずだろ?」

「…それができるならとっくにやってるさ。俺が殺すことができないってのはあるが、それ抜きにしてもアイツはそこらの兵士じゃ手に負えないぐらいの実力はある」

「だからこその俺らだろ?俺たち、ペンギン急便に依頼してみないか?そのガキの捕獲ってやつをよ」

「…お前が?」

「いや?俺の部下が」

「ん」

 

 

 自信満々にフッサフサの胸を張るエンペラーをジャスパーは怪訝な目で見る。

 

 

「…おい、シェナとか言うの」

「ひゃ、ひゃい!?」

「こいつらの実力は?」

「も、問題ないかと思われます!ここまでの道のり、何度か彼らに助けてもらったので!」

「…そうか。その件はあとで説教だな」

「ひ、ひぃぃぃ!!??」

 

 

 涙目になりながらも敬礼を続けるシェナを尻目にジャスパーはエンペラー達に向き直る。

 

 

「……報酬は?」

「テキサス」

「……にいさ…フェイスレスの情報」

「それでいいのか?」

「ああ、いいらしいぜ」

「そうか。なら依頼しよう。お前らに、あのガキの捕獲を」

 

 

 無骨なジャスパーの手を、エンペラーの手が掴み握手を交わした。

 

 

「ほら。これがアイツの情報だ」

「あ?ルクス上等兵?1083年?誰だ?」

「……兄さんだ!」

「よ、よくわかったな」

「……別にお前らとアイツの関係性は探りはしないが、そいつは俺のかつての部下。ルクスの資料だ。そこに描いてある通りすでに戦死扱いだが、お前らもその顔には見覚えがあるだろ?」

 

 

 その資料には一枚の写真と、複数の情報が記入されていた。

 

 

「アイツこんな場所で何してたんだ?」

「兄さん……」

 

 

 ルクス上等兵

 種族ループス

 出身地ウルサス メウム村

 性別女性。

 ウルサス正規軍特別奇襲隊ジャスパー小隊所属

 カジミエーシュ辺境地区侵攻戦にて1083年戦死。

 

 写真に映る女性は橙色の髪の女性だが、よく見ると彼女、アルハイムの特徴が見て取れた。よく彼女を知っているものなら一目でそれが彼女であるとわかる程度には。

 

 

 その時だった。

 

 

「ジャスパー少尉!」

「今は少尉じゃねえって何度言ったらわかるんだ!」

「申し訳ありません!ですが…!!」

 

 

 襲撃だ。

 感染者どもがやってきた。

 

 何度も耐えた。幾度もなく守り続けてきた。希望の見えぬまま、人々を守るために。

 

 だが今回はそれだけじゃない。

 もう守るだけじゃ足りない。

 

 

「さて、テキサス。仕事の時間だ。アルハイムに会いにいく前に一発ぶちかましてやろうぜ」

「ああ…!」

 

 

 反撃の狼煙を上げる時だ。

 

 

 

 

 

 

『アイン君、聞こえますか?』

「!....はい」

 

 

 通信機越しに聞こえてくる声はノイズがかかり、判断のしにくいものだったが、たしかに彼にはわかった。

 

 彼らにとって母同然の女にして自分達を導いてくれる“先導者”。

 あの人の声だ。

 聞き間違えるはずがない。

 

 

『気分はどうですか?母親を、貴方自身の手で殺めさせることになってしまいましたが……』

「だ、大丈夫です!寧ろこの手でけじめを付けれたことでスッキリしています!」

『そうですか。それならよかった』

 

 

 ああ、やはり先導者は慈愛に満ち溢れている。

 

 

『レティシアはまだエルド区攻略に手間取っているようですね』

「っ!す、すみません!」

『あなたが謝ることではありません。それに奴らにはかの英雄がついています。私も彼の強さは知っています。彼女とてまだ子供。少々荷が重いのでしょう』

「……」

『このままあなたがレティシアの元へ参戦したとしても、簡単に落とすことはできないでしょう。いくら力があったとしても貴方もまた子供ですからね』

「っ……」

『それに、このままでは都市に備わった分離機能で区画ごと逃げられてしまいます』

「なっ……!?」

『なので貴方は地下通路を使って機関部分の破壊に向かってください。そうすれば万が一の事態を防ぐことができますからね』

「……わかりました」

 

 

 それともしもの時は、わかっていますね?

 

 その言葉を最後に、ノイズ音だけが通信機器から漏れている。

 

 アインは懐から小さな飴玉を一粒の取り出した。

 それが何かはわからない。

 

 だが一つだけ確かなことは赤黒いそれは先導者から渡された切り札、すべてをひっくり返すジョーカーだと言うこと。

 

 貴方の判断で使いなさいと言われたそれを、大切に握りしめた。

 




アイン&レティシア=メフィファウ枠
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