脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

13 / 60
DC-6【防衛線】戦闘後

 この世は不平等だ。

 

 神は平等にあらず。

 

 与えられるのは一握りの人間だけで、

 弱者は奪われ続け、強者は奪い続ける。

 この差はいつまで経っても縮まることはない。

 

 生まれ落ちたあの日から、炭疽になるその日まで。

 

 弱者は弱者のまま、その不条理に飲まれ死んでゆくのだ。

 

 

 それは俺だって例外じゃない。

 有り余る金を使った“父”と呼ぶべき男の遊びの結果、感染者である母に宿り、そして産み落とされた俺は生まれた頃から感染者であり、“弱者”であった。

 

 いかに強力なアーツが使えようと、どれほど優れた血統を持っていようと意味はない。俺が感染者で、憎むべき父の遊びの産物であった以上、俺が強者になることはできない。

 

 子と親という関係を利用し成り上がろうとした母も、俺の利用価値のなさに気づいてからは俺を居ないものとして扱いだし、遂には捨てた。もちろんもう一人の親である父は自分のことなど気にかけることなどなかったし、その頃の俺は父の顔すら見たことがなかった。

 

 こうして全てを失った俺は、しかし愚かにも諦めることができなかった。この理不尽な現実を受け止めることができなかったんだ。

 

 

 だから俺は願ってしまった。実にくだらない、些細な願い。

 

 

『あのお菓子が食べたい』

 

 

 路地裏から見えた、あの雲のような美味しそうなお菓子を食べたいと。わかっていなかったんだ。あの時の俺は、自分がどんな存在かすらわかっていなかった。だから、他の子供達が数枚の紙切れとそれを交換しているのを見て、自分もそうすれば買えると思ってしまった。

 

 結果?それはもうわかりきったことだろう。

 殴られた。何度も何度も執拗に。

 俺にはその理由が理解できなかったよ。でも、たった一つ分かったことがある。いや、わからされたというべきか。

 

 俺が弱者だということを。

 

 

 いくら手を伸ばそうとも、光には届かず。

 目の前に広がる“普通”に近づくことさえできない。

 自由を得ることはない。

 幸せを味わうこともない。

 

 ならばもう諦めてしまってもいいだろう。初めからこんな人生に希望なんてなかったんだと、幼いながらに悟ってしまった俺は毎日そう考えるようになった。

 

 

 嗚呼でも、本当に愚かなことに俺はその時まだ諦めきることができていなかった。希望なんて何もないと分かっていたはずなのに。生きることを諦められなかった。心のどこかで死にたくないと思ってしまっていた。

 

 

 

 力をつけた。

 弱者である感染者を守ってくれる者などいないから。

 

 一人称を“俺”に変えた。

 法もないスラムでは舐められたらおしまいだから。

 

 他人からあらゆる物を奪った。

 いけないとわかっていても自分が生きるためには、そしていつの日か自由になるには必要なことだったから。

 

 俺は必死に生きた。

 今思えばあまりにも愚かだった。

 あの時諦めて仕舞えば、もっと楽だっただろうとは思う。

 

 でもその選択は正しかった。

 

 正しかったのだと証明された。

 

 

『生きたいですか?』

 

 

 嫌だ嫌だと、争い続けた俺の前に現れた光が証明してくれた。

 

 その姿はまさに聖女の如く、源石に塗れた俺の手を迷うことなく掴み取ってくれた。

 

 そして俺は奇跡を見た。

 

 その女性が体に触れた瞬間、俺の体を蝕んでいた源石が次々と剥がれ落ちてゆく。視界が明確になり身体中から痛みが消えた。

 

 俺を捕らえて離さなかった鎖は、あっけなく崩れ落ちてしまった。

 

 俺は自由を手に入れた。

 

 そして同時にかけがえのない、“本物”の家族達を手に入れ、義弟を手に入れ、そして(先導者)を手に入れた。

 

 俺は先導者に忠誠を誓った。

 この意味のない人生に道を開いてくれた。

 光を灯してくれた。

 だから自分の全てを持って彼女に報いようと。

 己の全てを持って守り通そうと。

 

 どれほど血に濡れた道を進むことになろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔だ!!!」

 

 

 剣を振るう。

 

 剣の纏う業火が敵を焼き尽くしその命を刈り取ってゆく。しかしまだ足りない。敵はまだいる。まだ立ち上がる。火力が足りないのだ。

 

 蜂起を開始して既に約9時間。

 他の中央を含む4つの区画は既に我々の手に堕ちた。

 しかし自分が担当しているこのエルド区は未だ健在。

 

 質は劣るも、数は優勢。

 時間をかけて持久戦に持ち込めば簡単に攻め落とせると考えた。

 考えていたのだ。だというのに…

 

 

「防御陣形を組め!奴のアーツが如何に強大だろうと限界はある!耐えるんだ!!」

 

 

 未だ奴らに倒れる気配は感じられず、

 それどころか時間をかけるにつれ、こちらの被害は大きくなってゆくばかり。

 

 “悔しいが奴らの方が戦力は上。虚をついて短期決戦で終わらせるべきだ”

 

 これではクラウンスレイヤー(クソババア)の言った通りだ。

 

 

「レティシア様!」

「なんの用!!??」

「奴が!ジャスパーが来ました!」

 

 未だこの都市で担当した区域を落とせていないのは俺だけ。他の奴らはもう終わっている。

 自分だけが、先導者の期待に応えられていない。

 

 その事実に対して怒りと焦りばかりが積もってゆく。

 

『レティ、貴方に任せるのはエルド区の制圧及びジャスパー・ランフォードをはじめとする貴族達の捕縛です。特に、ウルサス国民からの人気度の高い彼、ジャスパーさえ捕らえることができれば政府に対する交渉材料にもなり計画の成功は確かなものとなります。しかし、ソレが失敗に終われば……難しいかも知れません。ええ、ええ、貴方を信頼している故の頼みです。任せましたよ?』

 

 せっかくフェイスレス様から任された大役が。あの人からの信頼が。それもこの計画の要となる大役が果たせないなんてことがあってたまるか。

 

 

「おうおう!また随分暴れてるなあ?」

「…!クソジジィ!」

「くかか!元気だねぇ!」

 

 

 金色の髪と無精髭を生やした筋肉隆々とした大男。名をジャスパー・ランフォード。

 

 本来やつが出てくるのはもう少し後。エルド区の制圧がほぼ完了するまでは出てこないはずだった。

 

 それまではこちら側についた一部のクレアスノダールの貴族どもが足止めを行う手筈だったからだ。

 

 だというのに奴がきたっつーことは奴らが裏切ったのか、はたまたしくじったのか………どっちにしろ貴族どもは当てにしてなかったんだ。あんなクソどもに噂に聞く英雄様の足止めが務まるとも思えなかったしな。

 

 だからこいつは俺が倒す。

 さっさと倒す。

 ぶっ潰す。

 

 元ウルサス軍少尉だか雷獣だか英雄だかしらねぇが……

 

 

「さっさとくたばれぇぇぇ!!!」

 

 

 振りかぶった大剣にアーツを纏わせ、力一杯振り下ろす。技なんてない。ただの力任せ。だが俺にはソレで十分だった。

 

 リーベリであるにも関わらず力自慢なウルサスの血が流れている故か一振りで相手の鎧ごと叩き潰すことのできるこの力と、全てを焼き尽くすことのできるこのアーツがあれば俺に敵はいない。そのはずだった。

 

 

「っ!てめぇ!!」

「相変わらずガキにしちゃあ良い一撃出すなぁ?おい!」

「くそっ!」

 

 

 だがこいつにはソレが通じねぇ。

 こいつは片腕がないはずなのに。

 もう軍人でもなんでもないはずなのに。

 ソレなのに平然と俺の一撃を受け止めやがる。

 

 一度じゃない。何度も何度も何度もだ。

 

 

「行くぞ!レティがあの化け物を抑えてるうちに!」

「行かせねーよ?」

「っ!やめろ!!」

「な!?雷─────ぐわあああ!?!?」

 

 

 しかも、こうして俺からの攻撃を防ぎながら他の奴らにアーツを放つ余裕すらある。そのせいでこいつが出てからは俺の隊は損害が広がるばかりだ。

 

 しかも、しかもムカつくことに───

 

 

「なぜ!なぜ反撃しない!テメェの相手は俺だ!」

 

 

 こいつは俺に対して攻撃らしいけ攻撃を一度もしてこない。少なくとも、“雷獣”という英雄を相手取っている俺が命の危険を一度も感じたことがないように。

 

 

「クソガキの躾で本気で殴りつける奴がいると思うか?」

「─────」

 

 

 ────ふざけるな。

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな、ふざけるな!!!!!

 

 

「舐めてんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ぐっ!?」

 

 

 剣を持つ手に力が入り、さらなる業火が身を包む。

 ムカつく。ああ、ほんとムカつく。

 

 

「ふざけるのも大概にしろ!俺は!テメェの敵だ!敵足り得る存在のはずだ!」

「っ!これは、なかなか!」

「なのになぜ俺を見ない!俺はガキじゃない!俺は!俺はもう大人だ!フェイスレス様に認められたCiRFの幹部!」

「くっ!」

「俺はもう虐げられるだけのガキじゃねぇ!!!」

 

 

 連撃。

 何度も何度も打ち付ける。

 周りなど気にしない。

 この舐め腐ったクソジジイを打ち倒すことだけを考える。

 

 ああ、だからこそ──

 

 

「いんや?俺はちゃんとお前のことを見てるぜ?そしてよく理解してる。昔、お前さんによく似た生意気なガキがいたからな」

「───あ?」

「だからこそわかるのさ。お前みたいな子供はすぐ頭に血が上りやすいってな」

「…………っ!まさか!!」

 

 

 だからこそ気づけなかったのだろう。

 

 

「剣雨」

 

 

 突如背中を襲った衝撃。

 体を突き抜ける剣状のアーツと、そこから広がるように身体中を流れる電流。一瞬のうちに体は制御が不能になった。

 

 動かない。

 

 脳から送られた電気信号は届くことなく、指一本さえ動かせない。

 

 何が起こった?

 どこから撃たれた?

 誰の仕業だ?

 

 考える暇はない。

 今すぐにここから逃げなければならない。

 奴の、ジャスパーの手が視界いっぱいに迫ってくる。

 

 部下たちが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 

 悲鳴が聞こえる。

 

 怒声が聞こえる。

 

 助けを呼ぶ声が聞こえる。

 

 動かなくてはならない。

 彼らには俺が必要なんだ。

 俺はまだやることがあるんだ。

 やらないといけないことがあるんだ。

 

 動け、動け、動け。

 

 まだ彼の方に報いていない。

 もう何も失いたくない。

 だから動け。動くんだ。

 

 くそ!やめろ、やめろ、やめろ!

 

 近づいてくるな!

 

 俺はまだ戦える。俺はまだ立てる。

 

 

 俺は、俺は

 

 

 死にたくない。

 やっと掴めたのに。やっと手に入れたのに。

 こんなところで、嫌だ。

 

 誰か、誰か。

 

 

 ………アイン─────

 




幹部即堕ちRTA更新
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。