脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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DC-ST-2【対話】

「───敵の指揮官はたった今!この俺ジャスパー・ランフォードが討ち取った!さあ反撃の時は今だ!前線を押し返せ!」

 

「「おおおおおおおおおお!!!!」」

 

 

 戦場で猛威を振るっていた敵将、レティシアがジャスパーによって撃ち倒された。その情報はこの戦場に即座に知れ渡り、味方の士気を上げ、敵には混乱をもたらした。

 

 我々を滅ぼさんとした業火は潰え、代わりに我らを導く雷神がやってきたのだ。

 

 瞬く間に感染者たちの統制は乱れ、先ほどまでの勢いは見られない。彼女を取り戻そうとするものもいたが、指揮系統が崩れ連携を失った彼らを倒すのは驚くほど簡単なことだった。

 

 結果、レティシアが率いていた感染者の大隊は撤退を余儀なくされジャスパー達都市防衛軍は全線の押し上げに成功したのだった。

 

 

「はぁーなぁーせぇーー!!」

「このっ!少しはじっとできねぇのか!」

「うるせぇこのクソジジィ!!オールバックするならちゃんとしやがれ!ピョンって触角みたいでダセーんだよ!!」

「はぁ!?テメェ!ここが良いんだろーが!若いやつにゃわからんだろうがな!!」

「物知りぶってんじゃねぇよジジイ!」

「うるせぇクソガキ!」

 

 

 拘束に成功した敵の幹部格であるリーベリの少女、レティシアは現在手足を縛られながらもビチンビチンと陸に上げられた魚の如く暴れる事をやめない。

 

 ジャスパーの指示の下、こうして拷問を行わず対話で情報を引き出そうとしてかれこれ数十分が経ったが未だそれらしいものが彼女の口から吐き出されることはなかった。代わりに出るのは罵詈雑言。そしてそれに乗ってしまったジャスパーとの口論がこうして繰り広げられていた。

 

 

「……ガキの喧嘩か?これは」

 

 

 ジャスパー・ランフォード。

 元ウルサス軍人にして今現在は貴族としての地位につく彼は、このウルサスには珍しい感染者にも良心を見せる“善人”と呼べる人物だ。

 

 だが今は状況が状況。

 

 早急にこの現状の突破口を探る必要があるというのに、こうして口論ばかりしているのでは、不満を持つものが出てくるのも事実。

 

 それにこの感染者の少女は人を殺しすぎた。

 感染者というだけでも嫌悪の対象となるにも関わらず、さらに多くの同胞を殺した彼女を恨む者は多い。

 

 にも関わらずその不満を表に出さず、こうして誰もが彼の指示に従い続けているのはひとえに彼の人望のおかげだろう。

 

 

「隊長、いつまでそうしているつもりですか?そろそろ他の方法を考えた方がいい。子供だから、なんて言い訳は通じない状況ですよ」

「うるせぇ。そもそも俺は前から気に入らなかったんだ。こんな子供が感染者だから、なんてくだらない理由で苦しまないといけない今のウルサスがよ」

 

 

 現皇帝への不信とも取れる言動。

 元とは言え軍人である彼の言葉から出ていいものではない。だが、それに意を唱えるものはいなかった。何故なら彼らは軍人。国を守る、それ以前に子供や女性、戦う力を持たない無力な人間を守るために志願した者たちだ。

 

 彼らもまた少なからずその差別に疑問を抱いていたのだから。

 

 

「だが時間がないのも事実だろ。敵の増援がいつくるかわかったもんじゃねぇ」

「客人か……さっきのは助かった。おかげで楽にこいつを捕まえることができた。だがこれはうちの問題だ。俺らの問題には俺らのやり方で対処する。口を出さないで貰えるか?」

「頭が硬いな英雄。今はそんなことしてる場合じゃ……テキサス?」

 

 

 このままでは平行線だ。

 ジャスパーは己の意志を貫き、理性的な意見であろうと通さない。頑固親父め。エンペラーは誰にも聞こえないよう呟いた。

 

 そんな彼らが言い争ってる横で、テキサスは一人、縛られている少女に近づき、その横に座った。

 

 

「……教えてほしいことがある」

「お前らに話すことは何もない」

「兄さん……アルハイム兄さんのことを、教えてほしい」

「……は?」

 

 

 警戒心MAX、殺意が満々に込められた少女の瞳がその一瞬だけ困惑に支配された。

 

 

「にいさ…は?なんの冗談だ?そもそもなんであの方の名前を知ってんだよ。」

「本当のことだ。私は、チェリーニア・テキサス。アルハイム・テキサスの妹だ」

「テキサス?確かに似てるけど…彼の方の苗字がテキサスだってのは聞いたことが……」

 

 

 信じられない。というよりも『この女は気でも狂ったのか?』というような顔で見つめる少女に対してテキサスはこう言い放つ。

 

 

「兄さんはコーヒーが飲めない」

 

「……は?」

 

 

 兄さんは猫舌で熱いものが飲めない。

 兄さんはお酒に弱く、一口でも飲んだらすぐ倒れてしまう。

 兄さんの好物はチョコレートで、格好つけてタバコに見せかけるようにしてよく食べていた。

 兄さんは自分の胸の大きさにコンプレックスを抱いている。

 兄さんの銃の腕は父や祖父も匙を投げるほどだった。

 兄さんのタイプは黒髪ロング清楚クール系妹だ。

 

 次々と暴露されていくアルハイムの隠したいであろう秘密。本人のいない場で次々と明かされるそれにレティシアは目が点になった。そして同時に、自分の記憶と一致する特徴に驚愕を隠せなかった。

 

 

「まだ足りないか?」

「い、いや、もう十分だ。まだお前が彼の方の妹だっつーのは信じれないけど…‥知り合いだってことはわかった」

 

「けどな、俺は感染者で、テメーは非感染者。つまり敵だ。敵に俺らのリーダーのことを素直に教えるわけねーだろーが」

 

「……すまないエンペラー。少し出てくれ」

「おう、わかった」

「はぁ?流石に客人だろうがそれは許可できんぞ」

「おいおい。ガールズトークに大の大人が混ざる気か?それは野暮ってもんだぜ?」

 

 

 エンペラーはテキサスの言葉に素直に従い、納得できない様子のジャスパーや兵士たちを押し出しながら部屋の外に出る。

 

 これで部屋の中はテキサスとレティシアの二人だけになった。

 

 

「これで他に聞く者はいない」

「だからっていうわけねーだろ」

 

 

 当たり前である。

 敵であり、彼女にとっては何も知らない赤の他人。そして何より彼女たちが心の底から憎む非感染者。そんな彼女の願いを『リーダーの知り合いかもしれない』だなんて曖昧な理由で聞くわけがなかった。

 

 ……いや、例え目の前の彼女がリーダーの知り合いどころか妹だということが事実であったとしても、少女がその願いを素直に聞き入れることはないだろう。

 

 どこまで行っても感染者と非感染者は相容れない。そう、彼女は強く考えていたのだから。

 

 

「…頼む。どうか。」

 

 

 だが、同じようにテキサスもまた頑固だった。引くことのできない理由があったから。

 

 彼女は語る。

 

 兄は小さいころ、私の前から姿を消した。

 死んだと思った。

 納得のいく様な別れ方じゃなかった。

 

 あの頃の兄は優しい人だった。

 とてもこんなことをする様な人とは思えなかった。

 

 何が兄を変えたのか。

 

 それとも私が気づけなかっただけで初めからこうだったのか。

 私には分からない。近くにいたはずなのに、何もわからない。

 

 だから知りたい。

 

 兄のことを。兄さんの全てを。

 

 

「頼む。」

 

 

 地に頭をつけ、両手を地面に合わせる。

 

 傲慢で自分達を見下してくるはずのその非感染者は、感染者である少女に対して土下座という誠意を見せたのだった。

 

 

「わ、わかった!わかったから!いいから頭を上げてくれ!」

 

 

 ──ありがとう。

 彼女は感染者である少女に例を述べた。

 

 

 

 

 

 

1080/9/13 クレアスノダール地下施設某所

 

 

「おいお前ら何真っ昼間から酒なんて飲んでんだよ!」

 

「あぁ?まーたお前か。いいじゃねーかすこしくらいよぉ…」

「ダメだ!アルハイム様に言いつけるぞ!」

「あ!それは反則だろ!ほら、レティとアイン。お前らにも分けてやるから、な?」

「え!良いのか!?」

「……あ、姉さん、後ろ。」

 

「何を分けてくれると言うのですか?」

 

「そりゃさ……け……アルさん!?」

「はぁ……子供に酒を飲ませていいと思っているのですか?」

 

 

 ──没収です。

 

 太陽の光さえ差し込むことがない薄暗い地下空間。地上の人々から忘れられたこの地は肌寒く、暗闇を照らすカンデラの小さな光以外何もない。

 

 そんなもの寂しい空間は都市という社会システムから排斥された俺たちのような感染者の行き着く先であり、今やそこには小さな集落が形成されるに至っていた。

 

 此処には時折上層部から流れてくるゴミや、アルハイム様が代表する上層部への調達隊が持ってきてくれる資源以外何もない。

 

 冷たく、とてもまともな人間が生きていける場所ではない。

 

 だが、それでも俺たちはそこで今日も息をしていた。

 

 

「アルハイム様!」

「……アルハイム様。おかえり」

「はいただいまです。それと言ったじゃないですか。私のことはアルでいいと」

「そんなこと……!」

「がははは!だから言ったじゃねーか!アルちゃんは堅苦しいのが嫌いだってよ!」

「胸は硬いのにな!」

「ちゃん付けは勘弁してほしいんですがね………あとそれセクハラですよ」

「無礼な!アルハイム様の胸はちゃんと柔らかさを感じられる程度にはあった!!」

「そりゃパットじゃねーのか?」

「…良い加減にしてくれませんかね。人の胸を弄るのがそんなに楽しいのですか?」

「あだだだだだ!?」

 

 

 アルハイム様は笑顔を浮かべながらも確かな怒りを持って目の前のバカの頭を鷲掴みにして力を込める。

 

 ……こんな無礼な態度をとる馬鹿どもだが、コイツらを含めて此処にいるみんながみんなこの方に感謝しているのを俺は知っている。多分、この方がいなかったらきっと俺たちは今頃路地裏に転がっている源石の一欠片になっていただろうから。

 

 そんな死にかけの俺たちを拾い上げ、治療し、居場所まで作ってくれた。

 

 俺の燃やすしか脳のないようなアーツとは違う、蔦のように絡みつき離れようとしなかったあの忌々しい源石から解き放ってくれた、あの奇跡のようなアーツで皆を救ってくれたんだ。

 

 俺は神様なんてもの信じたことはないが……例え実在するのだとしたら、それはアルハイム様のことを指すのだろう。

 

 

「大丈夫かアルハイム」

「ええ。問題ありません。地下の“清掃”も、先1週間は行われないでしょう」

 

 

 げ、嫌なやつが来た。

 

 この妙にアルハイム様に馴れ馴れしい女はリュドミラ。“クラウンスレイヤー”なんて名前で名の知れた傭兵?だったらしいんだが…正直気に食わない。

 

 歳も近いはずなのに先に拾われたからって上から目線だし、俺を差し置いてアルハイム様から此処の副リーダーを任されてる生意気なやつだ。

 

 

「ん?なんだ。また懲りもせずに来たのか?」

 

 

 小馬鹿にする様に笑うあいつを見るとさらに腹が立つ。

 

 調子に乗りやがって。

 少しナイフの扱いがうまいだけで、霧しか出せない雑魚アーツのくせに。俺のアーツの方が絶対強いのに。

 

 

「今日こそ勝ってやる!!!」

 

「おーおーがんばれ!俺はクラウンに200!」

「じゃあ俺はクラウンに300!!」

「賭けになんねーじゃねーか!」

 

「お前ら覚えてろよ!!!!」

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 ……負けた。

 

 

「はい、お疲れ様。ホットミルクですよ。」

「あ、アルハイム様ぁ…」

 

 

 地面に突っ伏して動けない俺の隣に腰掛け、恐れ多くもホットミルクまでくださった。……汗臭くないかな。髪とかも乱れて汚くなってない?

 

 

「…レティシア。」

「は、はい!なんでしょう!?」

 

「なぜ、貴方はそうまでして強くなろうとするのですか?」

 

 

 そ、それは────

 

 

「……勿論、俺を救ってくださった貴方に報いるためです。この恩を、いつか必ず返すために」

「なるほど」

 

 

 咄嗟に出た言葉を聞いて彼女は優しく笑う。

 ……きっと、バレてるんだろうな、と思う。

 

 俺がこの方に報いたいのは本当だ。俺はこの方のためだったらなんでもするし命だって捧げたい。

 

 ……でも、それだけじゃないのは俺自身が一番よくわかっている。

 

 ──捨てられたくない。

 

 自分は貴方の役に立てるのだと、利用価値があるのだと証明したい。

 

 情けない話だけど、俺の根底にあるのはこの思いだ。わかっている。この人は役に立たないからって捨てるような屑じゃない。

 

 この人は母さんとは違う。

 

 でも、それでも……

 

 

『貴方なんて産まなきゃよかった。』

 

 

 母が“私”を捨てた時に放った言葉が脳裏に染み付いて離れない。ずっと頭の中でこだましている。ソレが、無性の愛など存在しないのだと叫び続けるのだ。

 

 口調を変えても、一人称を変えても。私はずっとあの日から時が止まったかのように変わらない。変われない。あの言葉が私の時計の針を抑え続けている。

 

 また一人になってしまうのではないかと怖くてたまらないんだ。

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

 暖かい。

 

 ずっとこのままでいれたら良いのにと思ってしまうような温もりが、いつの間にか全身を包んでいた。

 

 

「っ!あ!す、すみません!ぶ、無礼なことを…!」

「ふふ、無礼だなんて」

 

 

 またやってしまった。

 

 

「言ったじゃないですか。私たちは“家族”であると。一心同体。命を共にする者同士、辛いことがあったら遠慮なく頼ってくれて良いのです。私の胸ならいつでも空いてますから」

 

 

 心地よさは保証しませんけどね。そう言ってアルハイム様は笑ってくれた。

 

 

「ありがとう、ございます……っ」

 

 

 ……だけど、だめだ。

 アルハイム様に甘えてばかりじゃダメなんだ。家族なんだから、逆に俺の胸を貸せるくらいにならないと。

 

 ……筋肉質なほうがいいだろうか。やはり無難に柔らかいほうが?

 

 その時、ふと気になった。

 

 

「そういえば...アルベルト様の家族ってどんな方だったんですか?」

 

 

 言葉を言い終わってから“あっ”となった。忘れがちだが彼女だって私たちと同じ感染者なんだ。きっと辛い過去があったに違いない。誰だって人に話したくないに決まってる。俺だってそうなのになぜ言う前に気付くことができなかったのだろう。

 

 

「すみません!」

「……いや、いいんです。別に今更家族に対してどうこう思っているわけではないので」

 

 

 まあ確かにクズ親と言えばクズ親でしたがと付け加えた彼女の顔はどこか遠くを見ているような気がした。

 

 

「まあ、もう()()()()()問題ですしね」

「?」

「……ただ、少し気になっていることはあります」

「それは…?」

 

 

 

「……妹、です。私にそう呼ぶ資格があるかどうかはわかりませんが、一人残してきてしまった。生きているかどうかもわかりません。ですが……彼女のような存在を心残りと言うのでしょうね。」

 

 

 そう呟いて暗闇を見つめる彼女が何を考えているのか。それは俺には想像もつかなかった。

 

 

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