10/24/2:24 クレアスノダール艦橋
燃え盛る市街。
地上の光が闇夜を照らし出す。
蜂起を開始してからほとんど変わらないこの光景。
非感染者への復讐に、喜びを露わにするのはいいでしょう。
弱者が強者を圧倒する瞬間は実に素晴らしい物です。
絶頂すら感じてしまうことでしょう。
私にもよくわかります。
ほとんどの犠牲者を出さず中央を含む4区画を制圧。取り逃しも少々ありましたが多くの小隊を殲滅。市長を含むこの都市の稼働に必要不可欠な人員の捕縛は完了している。
後の取引に使うための人質、英雄の捕獲は失敗しましたが他は完璧と言っていい。
順調です。
そう、順調すぎるのです。
ああ、それだけでこの一大イベントを終わらすのは、あまりにも惜しすぎる。
そうは思いませんか?
ですので、少しばかりテコ入れを入れましょう。
初めに言ったでしょう?
ワンサイドゲームはつまらないと。
「フェイスレスッ!!」
「おや、クラウンスレイヤー。どうしたのですか?そんなにも息を切らして」
「ふざけるな!」
「ふざけてなどいませんよ。何があったのか、一から説明してもらっても?」
「っ!貴様.....!見てわからないのか!同胞たちが次々と異形へと姿を変えていっている!ありえないほどの成長を遂げた源石に飲まれてな!あんな急成長、天災被災地でさえ見たことがない。それに、あんな風に源石が意志を持った様に動き出すなんて聞いたこともない.........
源石を操り、源石融合率や活性化さえも自由自在。そんな奇跡を起こせる人間をお前以外に俺は知らない」
「なるほど......それで?この事態の原因が私だと」
「.....信じたくはないがな」
「................」
「あっはははははははははは」
あー面白い。
「あー.....さすがですねリュドミラ。こんなにも早く気づいてしまうとは....」
「.......!!」
流石。
そういえばこの都市に来て初めに出会ったのが彼女でしたね。
思えば約四年の付き合いですか。
気づかれるのも仕方ないでしょう。
初めはあんなにも小さく可愛らしかった少女が今ではこんなにもおきくなって。
「....どういうつもりだアルベルト!なぜ、同胞たちをあんな姿にした!彼らはお前を信じていたんだぞ!それに、お前もあいつらのことを家族同然の存在だと.......!」
「だからどうしたというのです?」
「つ!貴様ァ!!!!」
「っ....」
首を締められながら床に叩きつけられてしまいました。む、口を切ってしまったようですね。少し血の味がします。
しかしなぜ彼女は怒っているのでしょうか。
信じていたから?家族だから?
わからない。理解できない。
「お前ぇ!!仲間を殺して!なんとも思っていないのか!」
「げほっ......たしかに、私は彼らのことを家族だと思っています。大切な家族だと。もちろん貴方のことも。ですが、だからなんだという話です。私は貴方たちに言ったはずです。自分達には自由に生きる権利があると。幸せを追求する権利があると。だから私は全てを壊した。これが私の自由で、幸せだから」
「何をっ!?」
「わかっていただかなくて結構。そもそも、自由の前に理由など必要ないでしょう?」
「な…これだけのことをして…ただの気まぐれだと?」
「ええ。まあ、有るとすればそれはあなた達と私の違い。そこからくる潜在的な嫌悪感、でしょうね」
「は....?」
「あー、アレです。人間、自分と違うものを見ると気持ち悪いでしょう?差別したくなるでしょう?
「っ!貴様ぁ!!!」
「っ!」
仲間など、家族などくだらない。
貴方にはわからないでしょう。
“家族”に鞭を打たれる痛みも
“家族”に殴られる痛みも
“家族”に犯される痛みも
“家族”に物として扱われる痛みも
“家族”に全てを奪われる痛みも
趣味も、性格も、自我さえも。
全てを奪われ囚われてきた人形の気持ちは。
鳥籠に囚われた鳥の気持ちは。
不幸自慢をするつもりはありません。
ですが、それは私には関係のないことです。
私は家族が嫌いだ。
私は笑顔が嫌いだ。
私を縛るものが嫌いだ。
初めに貴方達に関わったきっかけは、世界に縛られ、幸せを知らぬまま朽ちてゆく貴方達に共感と哀れみを持った、というのもありました。
ですが、貴方達は次第に笑顔を取り戻していった。
自分の幸せを見つけ、不自由の中に楽しみを見出した。
“アルベルト様!”
“ありがとうございます!”
そこで私は気づいた。
彼らと私は違うのだと。
私には何もない。空っぽだ。
どれほど自由になろうとも、どれほど幸せと呼べるものを得ようとも、私は空っぽのまま。
バケツに穴が開いていたらいつまで経っても水が貯まらないように、いつまで経っても私の心は満たされないままだった。
いつまで経っても人形のままだった。
何も得ることができなかった。
何者にもなることができなかった。
私は、いつまで経っても心から笑うことができなかった。
だから、壊す。
私を縛る縛る全てを。不愉快な笑みを浮かべる全てを。
これが私が唯一知っている、“幸せになる方法”だから。
「狂人が!人の命をなんだと思っている!」
「けほっ…それ、貴方達が言いますか?というかそもそも命ってそこまで大事なものなのですかね。確かに死んだら終わりですが、言って仕舞えばそれだけじゃないですか。万物にはいつか必ず終わりが訪れる。何を恐れているのです?」
「恐れてなど....!?」
恐れているでしょう。
その証拠に私を締め付ける腕の力が弱まっている。
これじゃあいけない。
これじゃあ私は死ねませんよ。
「ほら、もっとしっかり力を入れなさい。殺したいんでしょう?“家族”を殺した私を。この命を奪いたいのでしょう?いいですよ?私は抵抗しません。数秒間力を込め続けるだけで私という人間はこの世からいなくなります。ああ、もしくはそのナイフを使いますか?そちらの方が疲れないでしょう」
「っ!?」
呼吸が荒くなっているのがわかります。
なぜ、そこで躊躇するのでしょうか。
貴方がほんの少し動くだけで私は死ぬというのに。
私は仲間達の仇なのでしょう?
私は貴方にとって不愉快な物なのでしょう?
なのになぜ…そんな顔をするのですか?
「信じていたのに」
「......そうですか」
小さくなってゆく彼女の背中。
ああ、そうか。
◆
「あはは.....」
未だ炎上都市クレアスノダールの夜は開けない。
感染者と非感染者。一方的な蹂躙で始まったこの解放戦争は、第三勢力の発生によってさらなる混乱と絶望を極めていた。
体内から成長するように現れた源石によって異形へと姿を変えてゆく仲間達。
それはまるでゾンビ映画のように、そばにいたものに次々と感染し、未だ人の定義から外れていない者に狙いを定めて手を血に染めてゆく。
赤黒く光り輝く源石が乱立する中、それはまるで
「やめろ!俺だ!わからないのか!やめてくれ!」
「お、おい、助けてくれよ...なんで...おかしいんだ....身体が熱くて仕方ないんだ」
リスタは死亡。レティシア及びアインは生死不明。クラウンスレイヤーは数名の部下を連れて姿を消した。
彼らに指示を出す幹部を失った今、軍のような統率力もない彼らはなすすべもなく死を待つのみ。
哀れな同胞たちは必死に逃げまどっていた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ.......?とまった?」
しかし異形たちは突然その動きを止める。
ギシリギシリと、完全にではないが抑え込んでいるようだった。
『私はCiRFリーダーfaceless。たった今、私のアーツを用いて彼らの動きを止めました』
鳴り響く放送。
一瞬呆気に取られた彼らだったが、すぐに歓声を上げることとなる。
奇跡が我々を救ったのだと。
彼らは笑顔を取り戻す。
『皆さん、幹部アイン及びレティシア率いる部隊の活躍によってエルド区の機関部を破壊し、非感染者らの逃走を防ぐことに成功しました』
『しかし、追い詰められた敵は卑劣な手段を取りました。源石兵器です。ガス状のそれはあっという間に広まり、体内に潜む源石を急成長させ、凶暴化させる作用があるようです』
『ですが、敵もまたその兵器によって半壊状態。故に、短期決戦を望むでしょう。逃げ道を失った彼らに残された手札は一枚だけ。我々が混乱している隙をつき、少数精鋭で艦橋を落としにくることでしょう』
『......敵は英雄ジャスパー・ランフォード。幹部レティシア及びアインの命を奪った憎き仇。』
『貴方たちに命令を下します。総員、艦橋へ集まり、“家族”の仇を討ち取れ!』
『感染者の自由と幸福のために!』
「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
さあ、最終ウェーブを始めよう。