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転生。それは不可解で非現実的なもの。
魂が前世の記憶を持ったまま新たな肉体と共に生まれ変わる。
そんな現象。
魂は一つ。
ですが人格は?
前世の自我がはっきりと現れる前に存在した人格は、一体どうなるのでしょう。
私の前世は人間ではなかった。
生物学上は人間という枠組みに区分されるのだろう。
それでも、私は人間ではなく道具として育てられた。
幼い頃、私に自由というものはありませんでした。
家族が苦労せず生きていけるように働く。
クルビア出身で、シラクーザにおける一大勢力の一つ。
家族に幸せと娯楽を提供する人形として。
テキサス一家。その一人息子。
みんなに笑顔を届ける道具として。
多くの権力を持ちながらも、私に自由はなかった。
後継として家を継ぐため。
強者であるため。
ファミリーを守るため。
本来、自分の未来を切り開くために修める学問は、将来より良い職に就き『家族』が働かずとも、楽に生きていけるだけのお金を作り出すため。
『お前は男として生きろ』
学校生活を豊かにするための友人は、性格や相性ではなく、『家族』によって指示されたままに、優秀なものや権力や金銭を多く保有しているものに限られた。
性別を矯正され。
生きてゆく中で、生活を豊かにするはずの趣味や思考は全て制限され、不要なものと『家族』に判断されたものは切り捨てられた。
『お前にこんなものは必要ない』
洗脳の域に達するであろう扱いに、私が疑問を持つことはなかった。
一般的な家庭であれば思い浮かぶであろう他の家との違いも、そういうものだとして納得していた。
趣味嗜好を制限され。
虐待や洗脳などと言った『家族』にとって不利になる様な言葉は出てくることすらなかった。
私にとってそれは当たり前、つまりは考えるに値しないこととなっていたからだ。
『それはお前には不要なものだ』
『なんで、なんでだよ!俺ら友達じゃなかったのかよ!!』
友人をこの手で撃ち殺した。
私は───
『お前は私たちの─────
人形だった。
成長し、社会人と呼ばれる様になった私に、未だ自由は訪れなかった。
会社、社長、上司、同僚、後輩。
ただ、私を“使用”する主人が増えただけだった。
でも、それでもよかった。
暗闇を照らすわずかな光。
私は不自由の中に、幸せを見出していた。
私は『家族』にとっての都合の良い道具であると同時に、社会にとって使い勝手の良い歯車であった。
『お兄ちゃん』
何重に、難解に。
私を拘束する枷はより強固なものへとなってゆく。それは決して逃げることのできない永遠の鳥籠。
妹だった。
どこまで行っても、私は奴隷のままだった。
『お兄ちゃん、何してるの?』
『折り紙ですよ。こうやって、紙を動物の形に...』
そこに自由意志はなく、自由になりたい、幸せになりたいと思うことすら、私はできなかった。
『え、すごい!私にも教えて!』
『いいですよ。ほら、こうやって...』
どこか満たされないという感情を抱きながら、満たす方法を知ることができなかった。
何が満ち足りていないのかさえ、知ることはできなかった。
混じり気のない純粋な瞳で、人形ではない、兄としての私を求めてくれた。
その瞬間だけ、私は血の通った人間でいることができた。
そんな小さな不足感は、日に日に大きくなっていく。
楽しかった。
家で、会社で、道端で、市場で、日常のふとした場面で。
幸せだった。
他人が幸せそうに笑い合っているのを笑っているのを見るたびに。
どれほど辛い目に遭っても、彼女さえいれば、“私”はそれでよかった。
それは無意識下のうちに膨れ上がっていった。
しかしそれは許されなかった。
“壊せ、壊せ”
頭の中に響く声。
見えない誰かが、自由を求めて叫んでいた。
幸せになりたいと叫んでいた。
両親が死んだ。
それは突然のことだった。
私だ。
交通事故だった。
誰にも予想できない出来事だった。
その“誰か”は私だった。
声も見た目も違う。しかしわかった。
これは紛れもない、自分自身なのだと。
私自身が自由を求め叫んでいるのだと。
私は、私を縛り付けていた枷があっさりと外れたことに驚きこそすれ、不思議と喜ぶことも、悲しむこともなかった。
”壊せ。全て壊せ。何もかも壊し尽くせ”
残ったのは不安だけだった。
時が経つに連れ、声は大きくなるばかり。
私はこれからどうすれば良いのだ。
歩んできたレールが、ある日突然途切れてしまったのだ。
『お兄ちゃん大丈夫?』
『え、ええ。大丈夫ですよ』
明確に示され固定されていた道筋が、ある日突然途切れてしまったのだ。
どれほど私がこの声を拒もうと、それからは逃げられないのだとわかっていた。
私は『自由』を得たが、『幸せ』を得ることはなかった。
溢れ出る破壊欲求と自由への渇望。
『自由』と『幸せ』はイコールではなかった。
いつか必ず、私はこの手で幸せを壊してしまうのだと。
結局、このポッカリと空いた穴は満たされないままだった。
だから私は敬語を使った。
家族とも、妹とも距離を取った。
そうすれば”その時“に悲しまなくて済む。
だから私は目を閉じた。
どんな時でも、何も見えないように。
そうすれば辛いことも悲しいことも何も見なくて済むから。
生活は変わらなかった。
『ほら見てお兄ちゃん!私もできたよ!』
『......っ.....これは、綺麗なツルが折れましたね。すごいですよ』
『!やった!』
会社は変わらず私を酷使続け、行き場のない資産は、使用されることもなく溜まり続けた。
それでもだめだった。
都合の良い道具であると同時にそれなりに使い勝手の良かった私は、『家族』の願った様に高い権力を手に入れた。
『■■■■....』
周りに合わせる様に貼り付けた人当たりのいい笑顔は優しい上司としての印象を作り上げた。
私には耐えられない。
頼れる先輩としての私に惹かれたのか、はたまたこの有り余る資産と権力に惹かれたのか、女性との出会いにも恵まれた。
『お兄ちゃん?』
世間一般的に言える『幸せ』を手に入れた私は、しかしこの大穴が埋まることはなく、むしろ広がり続け、いつかは自分がこの大穴に飲み込まれてしまうのではないかと錯覚した。
全てを壊した先に何がある。
自由と幸せはイコールではないんだ。
それにこの幸せを壊すなど、私には耐えられない。
私は、この幸せを守りたい。
この笑顔を守りたい。
“壊せ”
しかし、ある日それは思いもよらぬ出来事で満たされることとなる。
嫌だ
同僚が不正をした。
会社の金銭を着服したのだ。
理由はなんだったか。詳しくは覚えていないが借金返済だとか、生活費が足りなくなったとかだったと思う。
“壊せ”
私はそれを上に報告した。
やめてくれ
それが、私の仕事だったからだ。
”壊せ“
結果、彼は責任を取り退職することとなった。多額の慰謝料を背負って。
.....お願いします。
彼には家族がいた。
私も会ったことがある。
心優しい妻に、可愛らしい娘。
貧しいながらも温かみに包まれた幸せな家庭。
私の『家族』などとは違う、真の家族だ。
『ボス!?やめてくれ!俺たちはファミリーだろ!?』
私に比べ彼はあらゆる面で劣っていたはずだった。
誰か....
にも関わらず、彼は私には無いものを持っていた。
『■■■■...なぜこのようなことを...』
毎日のように彼は心の底から笑顔を浮かべていた。
誰か私を止めてくれ...
そして、私はその幸せを、この手で握りつぶした。
その笑顔を、絶望で塗りつぶした。
........どうか
驚愕、絶望、失望
彼は様々な顔で私を見た。
私のことを”心優しい人“だと信じ、自分を売る様なことはしないと信じていたためだろう。
友人だと、思っていたのだろう。
彼は言った。
『人殺し』
『裏切り者』
『人でなし』
目に並々と涙を浮かべ、憎しみに顔を歪めて、そう言った。
それを見て、私の心に何かがポタリと垂らされた。
『■.....■■』
唖然と私の名前を呼ぶ声が。
私を見つめる見開かれた瞳が。
そして何より、その時の彼の表情が。
その全てが愛おしかった。
悦楽、愉悦、喜悦。つまり喜び。
私は思った。
幸せを壊すことは、『家族』を壊すことは、こうも『楽しい』ものなのか、と。
この瞬間を私は生涯、いや、死んだとしても忘れることはないだろう。
この瞬間こそ、私が本当の意味で『幸せ』を、『生きる意味』を見つけた瞬間だったのだから。
そして何より、何者にもなれなかった『人形』が『私』になった瞬間だったのだから。
私は幸せを知った。
この心にできた大穴を埋める方法を知った。
この灰色の人生を彩る方法を知った。
しかし、それを実行に移すことはできなかった。
気づいたら私は別人になっていた。
初めは記憶も人格も一致せず、身に覚えのない記憶が断片的に流れ込んできることに疑問を覚えるだけだった。
ただ、再びこの様な家庭に生まれたのは、なんともまあ皮肉なものだと思ったのは覚えていえる。
人格も、見た目も、性別も、何もかも。
私は再び枷に繋がれることになった。
私は『家族』の意思に従い、道具であることに徹した。
しかし同じ道を歩むことはなかった。
私の思考までは道具に染まることはなかった。
自由を求めた。
幸せを求めた。
楽しみを求めた。
私は幸せを得る方法を知っていた。
私は楽しくなる方法を知っていた。
壊したい。
今すぐ、この枷を破り、壊し尽くしたい。
この鳥籠は私には狭すぎる。
でも、それはまだだ。
まだその時では無い。
壊すのなら、幸せが絶頂に至った時だ。
それまでは道具に徹してやろう。
痛みは、苦痛は絶望は生きているということの唯一の証明だ。
生命というものを最も実感できる瞬間でもある。
私は道具ではないと教えてくれる。
だからこの鞭も、その拳も、何もかも。
今は耐え忍ぼう。
だが、いつの日か。
その時が来たのなら。
見せてくれ。
人形である私に。
私に人間とは何かを教えてくれ。
私に生きる意味を与えてくれ。
『■■■■■....なぜこのようなことを...』
ナイフ越しに伝わる感触は、実に素晴らしいものだった。
私を縛り付けていた”家族“というものは一瞬にして崩壊した。
変わらないこの高揚感。
顔が思わず紅潮してしまう。
私は決めた。
この人生は天の与えてくれたチャンス。
故にとことん楽しむと。
何もかも破壊し、何もかも楽しみ尽くす。
この生を、全身全霊で堪能しようと。
そして劇的な
さあ、次は何をしようか。
私を殺してくれ
人格は溶け出し混ざり合い、歪んでゆく。
彼と彼女。どちらも貴方だ。貴方は悦楽を求め、失うのを恐れた。結果、歪みあった人格は矛盾を生み出し、狂人を作り上げた。